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【ボイス:9月17日】永木亮太選手の声
J1に定着することを目標に掲げたシーズンも、リーグ戦の残りの試合数はひと桁となった。
現在の結果は黒星が先行しているが、選手一人ひとりの戦う姿勢は常にモチベーション高く、アグレッシブだ。
また、曺監督が指揮する「湘南スタイル」も、さまざまなオプションを加え、さらなる進化を遂げている。
今シーズンの進化を促しているのは、“一体感”という湘南スタイルのもうひとつのコンセプト。
キャプテン・永木亮太選手は、持ち味である攻守に渡ってチームに貢献するプレーをもって、チームの一体感を司る。
“チームのために”が
湘南スタイルの真骨頂
平均年齢約23歳でスタートした今シーズンのベルマーレ。若いチームだけにJ1リーグを経験している選手は少ないが、永木選手は2010年シーズンの大学在籍時に特別指定選手として、その年の5月の半ばに追加登録され、J1のステージで11試合を戦っている。再びのJ1を、どんな思いをもって戦っているのだろうか。
「J1はレベルは変わってないと思うんですけど、自分の置かれている立場が違うし、あの年に比べたら身体も大きくなったし、心も技術も成長したと思ってます。あの時は、チームのことはあんまり考えずに、むしろしがみつく感じで試合に出させてもらって、がむしゃらにやっていた。自分のことばっかり考えていたっていう印象ですけど、今は第一にチームのことをしっかり考えて、その次に自分のプレーなので、2010年とは違いますね」
プロ生活3年目を迎えて、今やチームの中心選手のひとりとなった。何より大きく変わったのは、今シーズンはキャプテンを務めていること。
「キャプテンは初めてで、それなりに覚悟をしていたけど、ここまで重圧っていうのがあるんだなって、自分でもびっくりしてるんです。
自分はどちらかというと楽観的だし、ひとつのことを気にするタイプじゃないんだけど、なかなか勝てない時期とか、今もそうですけど、特にシーズンの最初の頃は悩んじゃったり、考え込んだりっていうのは正直あった。見えないプレッシャーっていうか。考えすぎるのはあんまり良くないと思うんだけど。だから本当にここを乗り越えたら、自分自身、すごく成長できると思う。本当にこの1年は、良い経験をさせてもらっているなっていう気持ちでやっています」
とはいえ、先頭に立って声を出してチームを盛り上げていく、そんな一般的でイメージ通りのキャプテン像を演じる個性は持ち合わせてはいない。それもまた、永木選手“らしさ”。
「自分は試合中にたくさん指示を出してプレーするタイプじゃないので、“チームのために”っていう気持ちはプレーで表さなきゃいけないって常に思っている。しっかりポジションに帰ることだったり、攻撃に上がっていったらしっかり戻ってくることだったり、1対1のところは絶対に負けないっていう姿勢だったり。そういう小さいところで見せていければ良いかなっていうふうに思ってます」
攻守に渡るさまざまな場面でアイデアあふれるプレーを見せる。今シーズンは3トップの一角のシャドーや、守備の要となるアンカーも経験し、中盤のポジションはどこでもこなす。そういった経験を踏まえてなお、自分の“らしさ”がもっとも発揮でき、好きなポジションはボランチだと言う。
「ボールをたくさん触れるから、やっぱりボランチが一番ですね。速攻でリズムを作らないと自分の良さは出ないと思いますし。それと、がっつり守備できるっていうのもある。シャドーだと守備をし過ぎちゃうと攻撃に行けなくなっちゃうし、そういうのを考え過ぎちゃうところもある。守備も攻撃もがっつりできるところがボランチの良いところだし、自分の良いところでもあると思ってる。それが勝ち点3に繋がると思うし」
曺監督が指揮する「湘南スタイル」は、フォーメーションや攻守の約束事はあっても、選手の裁量に任されている部分も大きい。永木選手もボランチに配されても、シャドーの位置でも、その時々でバランスを取りながら最終ラインから最前線まで運動量豊富に顔を出す。しかも、その動きがアグレッシブな時ほど、試合は期待感に満ちてくる。どのポジションをとっても攻守に渡ってチームに貢献し、プレーで引っぱるのが永木選手の持ち味でもあり、強みでもある。
「うちのチームは、スタイル的にそういうサッカーなので、そこはあんまり違和感なくできてるんですけど」
さらっと言って笑うが、“チームのためにプレーする”ことが「湘南スタイル」の真骨頂というわけだ。だからこそ、誰が出てもそれぞれの個性を発揮しながら常に変わらないアグレッシブなサッカーが展開できる。今シーズンのキャプテンは、そんな湘南スタイルを象徴する選手でもある。
仙台戦で原点回帰
プロとしての今がある理由
天皇杯2回戦を挟んだ1週間ぶりのリーグ戦は、第25節のアウェイvsサガン鳥栖戦。残念な敗戦を喫したが、選手たちの戦う姿勢にはJ1リーグへ残りたいという強い思いが感じられた。奥歯を噛み締めても足りない悔しさを胸に秘めながら永木選手も、全体を通して「90分を通してしっかりファイトできた、次に繋がる試合だったと思います」と振り返った。
現在、5勝5分15敗の16位。リーグ戦も終盤に入り、いよいよ後がない状況になってきた。それでも一つひとつの試合を丁寧に戦い、勝ち点を掴んでいくしかJ1リーグに定着する道はない。鳥栖戦を原点に戻って戦えたのは、8月のホーム最終戦が一つの転機となっている。
「ようやく勝ったなという。ホームでほとんど勝ててなかったので『ホームで勝ちたい』っていう気持ちもあったし、5試合勝ちなしっていう状況も打開したかった。このあとは残り10試合ですけど、これからの弾みになれば良いなと思っていたんで、良かったです」
アディショナルタイムが1.5倍増しの長さに感じた、第24節vsベガルタ仙台戦。このゲームは、先制しながら追いつかれ、再びのリードも終盤に1点差に詰め寄られる展開となった。アウェイながら仙台は、自分たちより順位が下のチームに勝ち点3を譲るわけにはいかないと、さらに攻撃へと重心を移し、前節の試合を分析した指揮官から授けられたプラン通りであろうサイド攻撃からの得点を狙い続けた。
一方のベルマーレは、身体を張った守りでなんとか凌ぐという図式。状況判断も、テクニカルなミスも許されず、わずかな油断も命取りという緊張感が続いた。息詰る状況から両チームの選手を解き放ったのは、タイムアップの笛の音。ピッチに倒れ込んだのは、猛攻が実らなかった仙台の選手のほうが多かった。
仙台戦の前々節にヴァンフォーレ甲府にホームで黒星を喫し、中3日で戦った前節、柏レイソルには5失点を浴びている。この2連敗は、湘南スタイルを遂行する原動力である“一体感”を揺るがした。そこで曺監督は、連敗で崩れたバランスの修正を図るため、原点回帰を諭したのだった。
「柏戦は、ボランチじゃなくてひとつ前のポジションをやったんです。それで少し攻撃意識が強すぎたっていうのもあったし、次の攻撃に備えてっていう気持ちもあって、守備に戻らなきゃいけないところを戻らなかった。そこから1点目をやられちゃったんですけど、曺さんは今までいつも『小さなことをおろそかにするな』って言っていて、その結果がこういう失点になることが自分でも分かったし、試合の次の日に曺さんにも『原点に戻らなきゃダメだよ』とも言われました。
自分のベースは、『90分間、常に動きながらのパスだったり、ボールを奪ったりするプレーにあるんだよ』って改めて言われたんです。『それを続けてきたから今、この場所にいるんだよ』と。同年代で自分よりうまい選手はたくさんいたんだけど、そういう選手でも今、プロにはなっていない。曺さんは昔から自分のことを知っていて、自分は、『そういう良いところを続けてきたから生き残っているんだよ』というふうに言われました。
それで改めて、少し忘れていたところを取り戻せたかなって。仙台戦に関しては、そういうところがよくできたかなと思います」
仙台戦で永木選手は、いつも以上に運動量と攻守に渡るチームへの貢献度の高さを発揮。90分を通して、勝ち点3にこだわる執念を見せつけた。
「曺さんは選手を本当によく見てるんです。その選手に今、何が足りないだとか、どんな言葉がけが必要なのかとか分かってるし、実行してくれる。
チームメイトについて理解できてないところがあっても、曺さんの指導を見て気がついたりする。その選手の精神状態が今どうで、だからどこが良くないのかとか。曺さんがかける言葉で気づかされることも多い。すごいなと思いますね」
リーグ戦も終盤に突入した今、思うような結果は得られていないが、選手たちはいつも自信を持ってピッチに立っている。それは、曺監督の選手への細やかな配慮の賜物だ。
「曺さんが一番ポジティブですよね、常に。負けが続いて勝てない時期でも、いろいろ考えてはいると思いますけど、選手の前ではいつもポジティブなんで、選手は本当に気持ちがラクになるっていうか、曺さんの言葉を信じられる。結果が出なくて一番つらいのは曺さんだと思うんですけど、練習中からそんな素振りは見せないですし、自分たちのスタイルは崩さない。そういうのを見ると、自分たちはそこまではプレッシャーがないんだから、もっとやらなきゃって思うんですけど。本当にすごいです」
結果が伴わないとき、まったくやり方を変えてみるのもひとつの方法だ。しかし、曺監督は変えない道を選び、選手たちはそこに信頼を置いている。
「チームが成長しているのは間違いないです。当初から比べるとチームとしてJ1らしくなってきましたし。でも勝てていないというのは、成長はしていても最後の部分の決定力の差だったり、一つひとつのプレーの質の差だったりという部分がまだ劣っていて、そういうところでゲームを落としている。そういう試合がいくつもあったし、成長している実感はあっても結果が出ていないので、本当に残り9試合ですけど結果というのを大事にしていきたいと思います」
未来を方向づける残りのリーグ戦
ベルマーレはもっと強くなる
プロ生活3年のうち、2年間をJ2リーグで戦ってきた。
「J1は本当に個人の技術のレベルの差っていうのをかなり感じます。戦術をしっかりやってくるっていうのはJ2も変わらないんですけど、やっぱり個人の技量の差が違う。フォワードだったら最後、きちっと点を決めることだったり、ディフェンスだったら競り合い、1対1は負けなかったりという部分。J1を戦って、それがJ1なんだなって感じはしました」
駆け上がったJ1のステージを思いっきり味わっている。だからこそ、自分たちの力量もよくわかる。“J1らしく”なってはきたが、まだ質実ともにJ1とは言い切れない。勝っていても余裕のある試合運びはまだなかなか実現できない。端的な例が仙台戦の終盤であり、自分たちのサッカーを表現しながら敗戦を喫した鳥栖戦だ。
「攻めきって勝てるレベルじゃないんですね、正直まだ。1点差、2点差で勝っている試合は、相手は最後、枚数をかけてパワープレーを仕掛けてくるんでやっぱり最後は守り切るしかないですね、今は。だから本当にリードっていうのが大事なんですけど。
でもこれから、今年J1に残れば来年、再来年ともっと強くなると思う。そうなれば攻め切って勝てるようになると思います。今年がかなり大事です」
成長している。強くなっている。その手応えはある。成長曲線はどこのチームより力強く上向きな線を描いている、その自覚が選手にあることが心強い。
「個人的には、ベルマーレは本当に今年にかかっていると思ってます。J2のレベルも上がっているし、J2の戦いも厳しい。だから、今年J1に残らないとまた1からということになるだろうから、ぎりぎりでも良いから残らないと。残れば、今の仙台のようにACLに出られるようなチームになっていくと思う。だからこそ、今年に懸ける思いっていうのは本当に強いです」
8月最後の試合を競り勝った仙台は、2009年シーズンに一緒にJ2からJ1へ昇格したチーム。堅実に力を蓄えて2012年シーズンはJ1リーグで2位という成績を収め、今シーズンはACLに出場も果たした。この実績には、たくさんのクラブが希望を見いだし、ACL出場は、J1に籍を置くすべてのチームが目標にするものとなった。
「この後の試合には、ベルマーレの未来がかかっていると自分では思っている。その中でやっぱり自分がチームの中心としてしっかり攻守に関わって、1試合1試合の勝ち点3に貢献したいと思っている。本当にチームは成長してきているので、これから残り試合で勝ち点3をどれだけ積み上げられるかっていうのが一番の問題だと思う。選手は全員、『J1に残る』っていう気持ちでひとつになっている。厳しい戦いが続くと思うけど、力を合わせて絶対残るっていう気持ちでやっていきたい」
仙台戦の勝ち星には、その前日に深められた選手同士の結束も大きく作用している。
「チーム的にレイソル戦、甲府戦と不甲斐ない戦い方をして負けてしまったんで、原点に返ろうっていう話をしたんです。特にレイソル戦は、自分勝手なプレーが出たり、みんなの気持ちがバラバラになってしまった試合だった。
賢治さん(馬場)が、『このままじゃ、ちょっとまずいんじゃない?』って、スタッフも抜きで選手だけで話し合う場を設けてくれたんです。そこでは、各自思っていることを言ったり、意見交換をしたり。それで一体感や仙台戦に懸ける意気込みが高まった。仙台戦は、そういうことがプレーによく表れていたんじゃないかと思います」
このミーティングは、馬場選手が取り仕切り、永木選手はチームのひとりとして今思っていることを話しただけだという。しかし、仙台戦のピッチでは永木選手のキャプテンシーがチームを引っぱっていた。
「自分の力だけじゃなかったですね、仙台戦は本当に。みんなの、試合に出ていないメンバーの気持ちもすごく考えながらプレーしてましたし。こういう試合を続けていれば、しぶとくJ1に残っていけると思うので、仙台戦のときの試合に対する気持ちを忘れないでいきたいですね」
選手だけのミーティングを呼びかけた馬場選手は、個人的には試合出場の機会が得られない状況が続いている。それでもチームが難しい状況に直面していることをに立ち上がり、自らチームの心をひとつにする役割を引き受けた。
「うちは人数も多いし、なかなか試合に出られないのは選手として気持ちの持ち方が難しいと思うんですけど、でもうちの良さは、そういうなかなか試合に絡めない選手もチームのためにっていう気持ちが強いこと。そういうところで他のチームに優っていかなきゃいけないっていう話もしました。本当に、みんなのまじめにサッカーに取り組む姿勢っていうのは、すごいと思います」
この揺るぎない団結力もぶれない指揮官のもとで培ったもの。残りのリーグ戦すべて、チーム一丸となって戦っていく。
取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行