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【ボイス:5月28日】中村祐也選手の声

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 開幕して2ヶ月半。総当たりで3順巡るJ2リーグの、まずは第1クールが終わった。 第1クールは、対チームという観点からすると対戦しながら相手チームの戦術や選手の力量など互いの手の内を探り合う時期という印象だが、チーム個々や選手個人からの視点に立つと1つの勝ち星によって自信を深めたり、引き分けや敗戦に学ぶものが大きい大切な時期であることが見逃せない。特にこの期間に積み重ねられた自信と勝ち点は、あとあと効いてくると思っていて間違いはない。
 そんな大切な第1クールの闘いのなか、キーとなる試合で決勝点を挙げているのが中村祐也選手。そのゴールは、チームに勝ち点をもたらすとともに、勝者のメンタリティを育むのに一役買っている。
 そこで第2回目のボイスは、中村祐也選手にスポットを当て、現在の状況やサッカーへの思いを聞いた。

voice_090528_02「敵を欺きたい」
落ち着きはセルフプロデュースの賜物。

 中村選手というと、絶妙なポジショニングもさることながら、何よりもゴール前の落ち着いたプレーが印象的。もっとも記憶に新しい得点といえば、第1クール最後の闘い、ホームで迎えた富山戦の2ゴールだが、強烈なインパクトを残したのは、劇的な時間帯に驚くほどの落ち着きを見せて初めてのゴールを挙げた、3月25日に開催された第4節札幌戦ではないだろうか?

 この日は、平日ながら札幌ドームには1万人を超えるサポーターが足を運び、コンサドーレ札幌を後押ししていた。その声援に応えるように札幌の選手が攻め込むが、ベルマーレも粘り強い守備で応戦し、互いに譲らぬ闘いが繰り広げられた。

 そんなこう着状態のなか、中村選手がピッチに送り出されたのは後半38分。残された時間は、アディショナルタイムを入れても10分というところ。まさにそのアディショナルタイムに、するりと相手ディフェンダーの裏に抜け出し、アジエル選手からのパスを受け、ゴールキーパーとの1対1にも動じることなく落ち着いてボールをゴールに流し込み、決勝点を挙げたのだ。

「ロスタイムという時間で、決勝点のゴール。自分の初得点というより、勝てる、そういう得点だったのでうれしかった。守備ががんばってくれて耐えて耐えての1点、ディフェンスをホッとさせてあげられた、勝ちをつかめた、それが良かった」

 開幕から札幌戦までの3試合は、勝利を重ねてはいたがすべて1点差。それでも勝ち星を挙げることによって自分たちの方向性が間違っていないことを確かめ、一歩ずつ自信を積み上げているような繊細な時期だった。それだけにこの試合で連勝を4に伸ばすのか、3で止めてしまうのかでは得る自信のレベルが違う。そんな息詰まる試合でゴールキーパーとの1対1を制し、冷静に得点を決めたのだ。しかも、そんな初得点の感想が、チームの勝利の喜びと守備陣への気遣いの言葉。先輩選手からも『ベテラン』と呼ばれてしまう理由もわかる。

「1対1になる場面の練習はあるので、それが積み重なって冷静さを出せる、というのもひとつだと思います」

 1位2位の直接対決となったセレッソ戦で挙げた決勝点も同じようにゴールキーパーとの1対1を制した難しいゴール。動揺することのない冷静なプレーについての質問への答えがこれだった。では、冷静なのはもともとの性格かと問えば、

「少しはあると思います」

 と自己分析をした。そして年齢よりも落ち着いて見えるという言葉には、

「よく言われます」

 と、笑った。
 23歳とは思えない落ち着いた物腰。こんなやり取りのなかで、フォワードの選手でも外すことの多いゴールキーパーとの1対1について、中村選手自身はちょっと違うことを考えていることを教えてくれた。

「やっぱりゴールキーパーとの1対1というのは難しいもの。簡単には決められないです。意識しているのは、周りを見ること。1対1になっても相手をみたり、普通のサッカーの流れのなかでも周りを見たり。そういうことがキーパーとの1対1のなかでも活かされるのかなとと思います。

 それに、冷静でいようと思ったことはないです。落ち着いているようにみせているというか。そういう瞬間にオドオドしていたら相手が『これは止められるぞ!』となる。そういう気持ちにさせたくないので、相手に隙を見せない、むしろ欺いてやるくらいの気持ちで常にいる」

 落ち着きの奥に垣間見えたのは、激しい闘志。だからこそ、決勝点は逃さないのだ。

 そんな中村選手に、現在のチームの状況とこれからを尋ねると、

「今いいところにいると思うんですけど、まだ始まったばかりなので。順位がどうこうではなく、チームがどこに向かって練習に取り組んでいくかというのが、先に繋がるんじゃないかと思います。

 『まだまだ』を通した方がいいと思うんです。『まだまだ』で12月まで。そういう気持ちでそこまでいった方がいいと思います」

 やはり冷静。だがこの謙虚さのなかに感じられるのは、必ずJ1へ上がるのだという強い思い。J1へ、その決勝点も決めてくれるに違いない。

voice_090528_03痛いところを突かれた昨シーズン、
今年はより攻撃的なポジションで長所を活かす。

 今年は、開幕からベンチ入りし、短いながらも開幕戦以外全試合に出場、アジエル選手の出場停止をきっかけにスタメンにも名を連ねている。しかし、昨年を振り返ると、シーズン序盤から中旬まで試合に絡んだが、後半はなかなかチャンスをつかむことができなかった。

「去年は守備に追われているということが多かった。今まではそんなに守備をやってきていなかったので、痛いところを突かれたというか。守備面ですごく勉強になった部分はたくさんあって、守備的な部分で強くなれた。今年は、攻撃的な部分で要求されることが結構あるので、守備の良くなったところを出しつつ、攻撃面で要求に応えられるように動いています」

 やはり好きなのは攻撃。反町監督は、中村選手を中盤とフォワードの両方で使っている。

「長所を出せるのでやりやすいです。やることは中盤をやっても、前の3枚をやっても、変わらない。サッカーであれば普通のこと。出したら動く、前に飛び出したり、相手のいやがるところに飛び出す、というところだから」

 むしろ、途中出場とスタメンの方が違うという。

「途中出場のときは、時間も限られたなかでやらないといけないので、ゴールに直結する動きだったり、そういうものがはっきりしていたと思います。スタメンで出たときも、そういうことを続けていかないといけないんですけど」

 スタメン出場について話が及んだときに、言葉が濁った。振り返れば、今季初のスタメン出場を果たしたセレッソ戦は、いい流れを引き寄せ、得点も決めた。その勢いのまま望んだ愛媛戦も問題はなかった。ところが第14節、大勝した水戸戦について反省の言葉が並んだのだ。

「長く出られた方がチャンスは作れるので長く出られた方がいい。でも今は、少し慣れてきて、ちょっと違う考えが出てきたり、考えすぎてしまったり、そういう場面が出てきてしまってあまりいい流れにはいってない。得点という結果が出ているところもあるけど、流れに乗り切れないときもあるし、味方とうまく連携できないときもある。そういうところをもっと、練習のなかでもコミュニケーションをとってしっかりやっていきたい」

 水戸戦で感じたのは戸惑い。それは今季初の感覚だ。

「場面場面で選択肢が増えた、そのなかで戸惑っているというか。それでハッキリした動きができていない。こういう試合を作ってはいけないと思うんですけど。今は切り替えてやろうと思っています」

 経験を積んでプレーの選択肢が増えるのは選手にとっては成長であり、よりサッカーが楽しめるチャンスともなる。ところが水戸戦は、増えた選択肢に戸惑い、決断に時間をかけてしまったり、良いと思ったプレーを味方との連携に繋げられなかったりと、諸刃の影響を受けてしまったのだ。客観的にみれば成長過程のなかでぶつかる壁のひとつというところだろう。
 とはいえ、どんな壁が目前に立ちはだかっていようと試合は待ってはくれない。インタビューは行ったのは5月17日に草津戦を控えた15日の金曜日。この話の間は今ひとつ冴えない表情だった中村選手だが、草津戦ではスタメン出場を果たし、再び得点を上げている。このときあった壁について自分なりに乗り越えた、ということだろう。

 真摯にサッカーと向き合い、自分とサッカーに正直で誠実。そんな印象だ。そうした態度の奥には、今年掲げた目標を達成したいという思いがあるからだ。目標は、

「悔いを残さないことです。毎年毎年、何かしら悔いを残して終わっている。でも毎年勝負の年だし、今年はもっとそういう気持ちを持って後悔しないように、もっとサッカーを中心とした生活を送れるようにしたかったので、そういう目標を立てました」

 今は、この目標を立てたときの気持ちのまま毎日を過ごせているという。この誠実さにどんな結果がついてくるのか、そんな先行きもともに楽しみたい。

voice_090528_04料理作り復活!
連戦のゴールデンウイークはさぼってました。

 埼玉生まれの埼玉育ち。中学時代から浦和レッズの下部組織でサッカーに親しみ、トップチームへの昇格も果たした。そこで3年間チャンスを模索したが、昨年ベルマーレへ完全移籍。平塚へと移り住んだ。

「やっぱり埼玉県人は、海を見るとちょっと興奮するというのがあるので。最初は行きました、『こんなに近くに海がある!』と」

 それも1年目だけ。もう海がそばにある生活も慣れて、わざわざ海に出かけることもなくなったという。一人暮らしにも慣れ、一部(?)では評判の料理の腕にも日々磨きをかけている…。と、日々の自炊生活の話を聞こうとすると、

「最近全然やってないんです!」

 と、衝撃の答えが。さすがにゴールデンウイークの連戦期間中は、疲れからなかなか料理をする気にもならなかった。さらにゴールデンウイークの後半からはスタメン出場もつかみ、精神的にも料理に気を回す余裕がなくなったのだという。

「やっぱりきつくて、さぼってました。疲れているというのを理由にしてはダメなんだと思うんですけど、はい。お惣菜を買って、ラクだな~と思っちゃいました」

 連戦が終わって、やっと日常生活もペースを戻しかけたところ、らしい。

「メニューはだいたいいつもご飯、みそ汁、サラダ、あとはもずくを食べるんです。もずくは作ってないですね(笑)。納豆とか食べて、あとはメインを何か」

 肉と魚料理を交互にメインにしているそう。得意なのは、中華料理。これではお嫁さんはいらないのでは?と尋ねると

「餃子も結構作るんだけど、焼くのが下手なんです。食べて中身はおいしいと思うんだけど、焼き加減で『あ、ちょっとまずい…』と思うので、それを焼いてくれるお嫁さんが欲しいです」

 ということで、餃子を焼くのが上手なお嫁さんを募集中です。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行