ボイス
【ボイス:2023年5月11日】平岡大陽選手
苦しかった1年目も、2年目の失敗も、全部が今に繋がっている。
攻守の切り替えが速く、プレーのどこを切り取ってもアグレッシブ。
常に「全力」という言葉がその存在から放たれる。
今シーズンは、序盤から前線で躍動する姿で目を引いているのが平岡大陽選手だ。
高卒ルーキーとして加入して3年目、つまずいたり、凹んだり、
それでもその経験が今につながっていると胸を張る、その道のりを振り返る。
失敗の経験を糧に成長していく
「自分の性格なのかもしれないけど、『まだシーズンの序盤だから』という意識は、『戒め』として自分に問い続けているつもり。今、2点取れてること、公式戦で2アシストできてることはポジティブですけど、シーズン通してこのペースでやることが必要やし。例えばここから試合に出られなくなったり、パフォーマンスが落ちてしまったら本当に元も子もないんで。自分では、『うまくいってる』とかも思いたくない。すべてが終わったときに結果的にうまくいったというのは評価してもいいと思いますけど」
コンスタントに試合出場を重ねている事実こそ、監督からの評価の証。しかし、当の本人が慎重な姿勢を崩さない。それは、高卒ルーキーとして加入した1年目、2年目の経験とそこで感じた思いがあるから。
「1年目は、最初のキャンプから何も通用しなかったし、通用しないと必要以上に思い込んで、過小評価しすぎていたところもあった。そういう気持ちの時期が秋ぐらいまでずっと続いて。リーグ戦は最後の10試合に出られて、そこでちょっと『行けるな』って思えたところはあったけど、それまでは本当に苦しかったし、楽しくなかった。この程度で苦しいって言ったらあかんかもしれないけど。ちょっと戸惑っていましたね」
プロになるという夢は叶えたものの、ルーキーイヤーは特に周りの選手たちとの差を過剰に感じた。
「『プロ』っていうのを意識しすぎた。みんなプロやからうまいに決まってる、とか。自分は高校から入ってきて、何もなかったし、『自分なんて』と思っている部分が今以上にあったかなと思います」
謙虚な姿勢は、いつしかチームメイトへの過剰なリスペクトに変わり、自分自身を必要以上に過小評価することにつながった。また、シーズン終盤に試合出場の経験を重ねたことに見出した光明が、今度は2年目序盤の空回りを生んでしまう。
「10試合出られたから、2年目は『もっともっと』と思って。キャンプから頑張ったんですけど、うまくいかなくて。スタートダッシュが悪かったうえにすぐにケガをしてしまって」
試合経験を次の成長につなげたいのは当然。しかし、2年目のシーズンも開幕スタメンは掴んだものの、すぐに負傷し、3カ月の間、ピッチに立てなかった。ケガが癒えるとすぐに出場機会を掴んだが、そこから先もどこか納得がいかない経験が重なった。
「今思えば、1年目に10試合出られたのは、やっぱり自分の良さを前面に出せていたから。あの頃で言えば、アグレッシブさとか前へのアプローチとか。そういったハードワークを買われて試合に使ってもらっていたのに、2年目はもっとできることを増やさなあかんと考えてしまって。攻撃面のクオリティを上げるとか。もちろん成長はせなあかんけど、そっちに意識が行きすぎて、例えば攻撃面での特徴を疎かにしていたところが多少あった気がして。取り組み始めは何でもうまくいかないし、そのうえに認めてもらっていた特徴もなくなって。自分がどこで勝負するかを見失ったシーズンやった。振り返れば、うまくいかなかったのは必然かなと思います」
「うまくなりたい」「成長したい」という気持ちと、リーグ戦終盤にやっと得られた10試合の出場経験。そこに重ねた「今年こそ」という2年目の意気込み。思いばかりが先行した結果、本来持っていた平岡選手らしいプレーを見失ってしまう。しかし、それもまた糧となる経験だったと今なら思える。
「秋にホームで川崎(フロンターレ)と戦って(2022年9月3日開催第28節)、2対1で逆転した試合があるんですけど、その試合でスタメンで出させてもらったときに、もう1回自分のアグレッシブさやファーストプレスの強度といった良さを思い出せたというか。やっぱり自分にはこれが必要なんやなと再確認できた試合になった。その試合から比較的良くなっていったかなと思います」
試合でプレーする中、川崎のディフェンスラインが平岡選手の前へのアプローチに対して神経を尖らせていることが伝わってきた。
「前半、『あ、これ相手嫌がってるな』と感じて。それでボールを奪えたり、明らかに自分たちに優位に試合が運べたりできたので、やっぱりこれが俺の武器なんやって、試合を戦う中で気づけた感じです」
自分の特徴を認識して、そこを武器に相手と対峙することを思い出した。そのとき、自分の特徴を武器として信頼しているのといないのとでは、そのプレーを仕掛けるときの自分の気持ちの強さが違うことを理解した。自分を信じるメンタリティがプレーの結果を変えていく、という体験だった。
「川崎戦の前と後で技術的な面とか、身体能力値が飛躍的に上がったとかはないですし、そういったところもサッカー人生を通して伸ばしていく必要は絶対にあるけど、その前に今の自分で何ができるかというところ、『行けるぞ』『俺はできるぞ』っていうメンタリティは大事やなって思いました」
うまくいかないことに向き合い続けた2シーズン。自分が持っている武器に改めて気づいた。それが今につながっている。
「プロに入りたての右も左も分からないところからスタートして、1年目、2年目と何が正解で何が違うのか。どういったことをしたら自分のプレーが良くなるのか、シーズンを通して活躍できるかっていうのがわからないまま、目の前のことを試行錯誤していた、本当にどたばたした2年間だった。その日1日1日を生きてる感じで、でもそれは振り返ってみれば、それが今の自分を形成してると思う。毎日毎日がむしゃらにやってきたから今があると思います」
自分自身が成長を求め、試合に出るために求められることに向き合い続け、とにかく最善を尽くして取り組んできた。しかも伴わない結果を前に、自分自身を振り返らざるを得なかった。その結果、いろいろなことが整理され、糧となり、今に繋がっている。だからこそ調子が良いときこそ、「まだまだ」と油断しない。
「1年、2年やったからこその今年。少なからず積み上げはあるし、1年目から2年目に入ったときの失敗がある。そういったところを自分の中で整理できてきたからこそ今年のキャンプは、絶対に特徴を忘れたらあかんと自分に言い聞かせて。キャンプの練習でも練習試合でも、自分のファーストアプローチや球際の部分、そこは絶対負けたらあかんって意識したし、ブレなかった。だからプラスアルファで他のものがついてきたかなと思う。2年目の経験がなかったら今年もまたスタートダッシュでミスしていただろうし。どの経験も絶対意味があるなと思います」
積み上げていくためにはまず、土台が大切。そこに気づくための2シーズンだった。
「一つ自分の立ち返る場所、特徴を出すことが自分の戻るべき場所だと理解しておけば、多少他があかんかったとしてもそこへ立ち返ればいいということがわかったので、それは大きかったなと思います」
どんなに成長を願っていても、背伸びをしていては迷子になるばかり。これからは、「立ち返る場所」を忘れることなく武器を増やしていく。