ボイス

【ボイス:2022年10月11日】山田直輝選手


確立されたスタイルが強み、1試合1試合を地に足つけて戦い抜く

シーズン終盤、
来シーズンもトップリーグで戦う権利をかけて、
緊張感に満ちた試合が続く。
そんな状況にあって、90分間フル出場しなくても、
大きな存在感を放つ選手がいる。
その山田直輝選手が信じるのは、
ここまで積み重ねてきたチームの強み。
1つでも上を目指して、最後まで戦い抜く。

サポーターに背中を押されて。
激流を乗りこなす途中出場
 1点を争う試合は、途中から交代で出場する選手が勝敗の鍵を握ることが多い。状況は試合ごとに違っても、ほとんどの場合で得点を託されるからだ。加えて、試合終盤に向けてギアを上げるスイッチとしての役割も担う。今シーズン、途中出場が多い山田直輝選手もまた、かかる期待の大きさを理解している。

「スタメンで出るときはチームの勢いをつけられるようにってことを考えて。サブで出るときは、その試合を見る時間があるので、いろいろなことを考えながら試合に入っています。流れ、相手のフォーメーション、立ち位置、得点差とかですね。そのあたりを考えて見ています」

 選手としては90分を通して出場することこそが本望。しかし、山口智監督は最前線と2列目の選手は、スタメンの組み合わせも試合ごとに入れ替え、広がった交代枠もこの2つのポジションに費やすことが多い。攻撃力を落とさず試合を進める狙いがありそうだ。インサイドハーフのポジションを主戦場にする山田選手もまた、指揮官の意図を汲んでピッチに立つ。

「あのポジションで90分間出る選手はなかなかいないので、みんな同じポジションのライバルでありながら、信頼しあっているというのはすごく感じています。組み合わせが変わるのも、僕はおもしろいし、やりがいがあります。みんなそれぞれ特徴があって、特徴に合わせたポジショニングだったりプレーだったりを選択しながらやっている。組み合わせのバランスだったりは、僕らベテランが考えればいいと思っているので、若い子たちには思いっきりプレーしてもらいたいと思っています」

 選手交代のタイミングは、状況が膠着しているときや、得点が欲しい「ここぞ」という勝負どころ。

「途中から出場するのは、得意な方だとは思います。みんな疲れているので、そこで自分が入ってチームのギアを上げられれば相手への圧力になるし、自分たちが押せ押せムードになれるっていうのは、感じてますし。僕が声を出すとみんなが反応してくれるので、入るときは絶対に声を出して勢いづけようということは考えて入ってます」

 スタートから出場している選手は、疲労が出てくる頃。それでもベテラン選手が、鼓舞する言葉を掛ければ、応えないわけにはいかない。

「やっぱりみんな疲れているので、『俺が前から行くからもう1個ギア上げていくぞ』というような声をかけると、『よし、じゃあ行こう』みたいな反応をしてくれる。相手の方が疲れていることが多いので、…もしかしたら本当は同じくらい疲れているのかもしれないけど、でも、さらに気持ちを奮い立たせるために『相手の方が疲れてるから、気持ちで負けなければ絶対勝てるから』とか、そういうメンタルを上げるようなことをたくさん言います」

 途中出場の選手の役割は、ピッチの中を活性化し、ゲームの流れを引き寄せること。山田選手が交代のためにピッチ脇に立ったとき、一際大きく響く拍手がその力への信頼を証明する。

「それは僕に対する拍手なのか、交代した選手へのお疲れさんの拍手なのかはわからないですけど、温かくピッチへ送り出してくれているのは、すごく感じて、『背中を押されているな』『やらなきゃな』って思えます。僕、すごくネガティブというか、メンタルが弱いんで、試合に入るとき、めちゃくちゃ不安なんですよ、いつも。めちゃくちゃネガティブなことを考えちゃってるんですけど、拍手だったりに僕が鼓舞されて、それを選手たちに伝えているっていうのが本当のところですね」

 メンタルが弱いというのは謙遜だろうが、途中出場の選手に託されるタスクの重みを思えば、ネガティブになる心理は理解できる。

「最初に、『自分が出てミスして失点して負けちゃったらどうしよう』って思うんです。そう思った瞬間に、『いやいや、自分が出て点を決めて勝ったらどんな気持ちになる?』って、自分に言い聞かせる。そうするとちょっとポジティブな方に動くというか。葛藤してます、いつも」

 葛藤する気持ちを抱えながらも、サポーターに背中を押されてピッチに入れば、もう前を向くしかない状況があるだけ。

「シンプルに、激流に急に飛び込むみたいな。それに乗れるか取り残されるかっていうのが、途中出場の選手。さらに、激流に乗ったあとに何を変化がつけられるかっていうのが、求められるところだと思うので、そこが難しいところですね。でも、戦況を見ることは嫌いじゃないので、自分がどうしたらいいというイメージはできますし、そういう面では途中から出場するのは得意な方ではあると思います。けど、考えたことがうまくいくかなという不安はあるし、怖かったりもします」

 とはいえ、この話題の締めくくりは、やっぱり謙虚で前向きな言葉。

「ここまではうまくいっていたとしても、次はどうなるかわからないから、常に良い方にいくように努力しています」

 次の試合もやはり、山田選手への期待が大きくなりそうだ。

>もらった思いを若手へ渡す、その思いが放つ存在感