PARTNERパートナーとの取り組み

SHODAN -湘談-

鈴廣かまぼこと濱田精麦の両社に共通するチャレンジャー精神から紐解く。食というキーワードでベルマーレと新たな歩みを進める想いとは。

株式会社鈴廣蒲鉾本店・濱田精麦株式会社 ×湘南ベルマーレ

オフィシャルクラブパートナーとして、またフードサプライヤーとして、多方面からベルマーレを支える株式会社鈴廣蒲鉾本店と濱田精麦株式会社。湘南対談企画「SHODAN-湘談-」第5回は、若くして取締役を担う鈴木智博さんと濱田翔大さんをお迎えし、チャレンジ精神の背景にある切実な想いやベルマーレとともに歩む未来について、水谷尚人・湘南ベルマーレ代表取締役社長と対話を重ねました。 以下敬称略

――オフィシャルクラブパートナーとしてベルマーレを支えている両社ですが、クラブをスポンサードすることになった経緯を教えてください。

鈴木 ベルマーレ平塚から湘南ベルマーレになった2000年に弊社の社長がベルマーレの取締役となり、それ以来支援させていただいています。またスポンサーとして関わるだけでなく、かまぼこを選手に食べていただき、食の面でもサポートさせていただくようになりました。2000年当時、私は小学5年生。それまでは野球をやっていたので、父に連れられて巨人戦をよく観に行っていましたが、スポンサーになってからはベルマーレの試合に連れて行ってもらうようになり、自分もサッカーを始めました(笑)。会社としても、私の原体験としても、ベルマーレはそこから身近な存在になっています。

濱田 ベルマーレ平塚が大神にグラウンドをつくるときに、弊社があのあたりの地主だったことがきっかけで、クラブハウスの食堂にお米を卸すようになったことがご縁の始まりだと、社長である母親から聞いています。ベルマーレ平塚がJリーグに昇格した当時、私は小学1年生で、父親に連れられて横浜マリノスとのホーム開幕戦に行ったことをよく覚えています。また地元の「伊勢原観光道灌まつり」に選手が来てトークショーを行なった際に、なぜか私が子どもの代表で中田英寿さんに質問したそうなんですね。緊張しすぎて覚えてないんですけど(笑)、ただ地元にプロサッカーチームがある幸せを小学生ながらに感じられたことは大きかったと思います。弊社としてはその後、2014年にサポートコーポレーションをやらせていただき、2016年にパートナーとなりました。

―ベルマーレとの関わりのなかで印象に残っている出来事はありますか?

鈴木 鈴廣かまぼこの平塚ラスカ店はとくにサポーターのお客さまに支えられていて、試合後に必ず寄ってくださる方がいらしたり、スタジアムに行けない方もテレビ観戦のお供にかまぼこを買ってくださったり、ほんとうにありがたいなあと常々思っています。また昨年コロナ禍のなかで行なった「#こんなときこそたのしめてるか」プロジェクトも印象深いですね。「ベルマーレプリかま」を販売し、売り上げの半分をチームの強化支援に充てるという企画でしたが、ベルマーレはもちろん、他のクラブのサポーターの方々からも応援の声をいただきました。スポーツを通した絆を感じることができ、勝ち負けや売り上げ以上の貴重な機会となりました。

濱田 昨年「ベルマーレごはん」を共同開発したことはとくに印象深いですね。私自身ずっとスポーツに関わって生きてきたので、プロサッカーチームとコラボできるなんて夢のような出来事でした。
ボールスタンドのスポンサーになった最初の試合(第23節柏レイソル戦)で劇的な勝利を収めたこと、また今年フリーデンさんとコラボスペシャルデー(第6節名古屋グランパス戦)をやらせていただいたこともすごく心に残っています。弊社がスペシャルデーに関われるとは思っていなかったし、ほぼすべての社員を連れて、会社として一大イベントができました。先ほどお話しした「伊勢原観光道灌まつり」もそうですが、地元にプロサッカーチームがある幸せをあらためて思います。

―コラボ商品を新たに開発するなど、おふたりにはチャレンジ精神を感じます。

鈴木 率直に言えば、チャレンジというより、生き残るためだと私は考えています。たとえば先々代は、型染めという手法でパッケージのデザインを統一し、鈴廣かまぼこをブランディングして、戦略としておせち市場で差別化をはかりました。
もうひとつは観光です。もともと小田原と箱根のあいだは田んぼばかりでなにもなかったけど、これからは自動車の社会が来ると予見し、工場を移転して、小田原箱根の観光バスやお土産の需要を取りにいった。自らマーケットを広げたんですね。ただし今後は、震災やコロナの影響により、また人口も減っていくなかで、おせちも観光もシュリンク(縮小)してしまうマーケットです。じゃあどうやって生き残るかと考えたときに、かまぼこには1本に魚約7匹分のたんぱく質が入っていると。私の父である社長は学生時代にボートを、私はサッカーをやってきて、たんぱく質とスポーツの関わりが深いことを知っているので、それならベルマーレの選手に食べていただいて、「たんぱく質=かまぼこ」というマーケットをつくれるのではないかと考えました。そのためにいろんなチャレンジをしているところです。

水谷 チャレンジ精神は社風としてもともとあるのですね。

鈴木 「老舗にあって老舗にあらず」という社是にもあるように、守るべきものは守り、時代に合わせて変革しなければいけないものはイノベーションを起こしていこうという企業理念なので、チャレンジには寛容な社風だと思います。

濱田 なるほど、そうなんですね。

鈴木 とはいえ、そうも言っていられないぐらい社内には危機感があります。いまの若いひとはおせちを食べないし、なかにはかまぼこがなにからできているか分からない方もいる。私がコラボ商品をたくさん考案しているのも、あの手この手で働きかけないと、今までの商売の仕方では、世の中に訴求しきれないと思っています。かっこよく言えば社風なんですけど、根底にあるのは危機感だと思います。

水谷 「たんぱく質=かまぼこ」というアプローチは、消費者にとっても新たな気付きを与えてくれますね。

鈴木 まさにそうですね。いま日本代表の長友佑都さんと一緒にやらせていただいている「魚肉たんぱく同盟」もその一環です。トップアスリートのコンディショニングと絡めて、かまぼこの有用性を発信することで、お客さまからいろんな写真が送られてくるようになりました。小田原でサッカーをやっている子どもたちはみんなかまぼこを食べてますとか、魚嫌いが治りましたとか、新たなきっかけづくりができている。同様の取り組みをベルマーレさんとも継続的に行なっていきたいと思っています。

―チャレンジ精神について、濱田さんが意識するところはありますか?

濱田 弊社はもともと、いまある本社や札幌のほかに仙台や佐賀に工場、東京世田谷や豊橋に営業所があり、かつては日本全国にうちの麦ごはんが並んでいたらしいんですね。祖父である会長から夜行列車で九州まで営業に行っていたなど、武勇伝の様な当時の話を聞かせて貰いました。でも米の規制が緩くなるとともに麦ごはんの消費がどんどん減り、精麦メーカーとしての仕事はかなり落ち込んでしまった。父親は私が高校生の頃に亡くなりましたが、幼い頃には父親に連れられて仙台の工場に行った記憶もあるし、当時の会社の様子も小さいながらに覚えています。でも私が会社に入った当時は、メーカーとしてでは無く、原料を製造する委託工場に徹していて、弊社の名前が表に出る事がほとんど無かった。そんな中、懇意にしている同業者の社長様方に、「濱田精麦さんっていまなにをやっているの?」と聞かれたことも悔しかった。昔は伊勢原駅前に工場があった事から「いま濱田精麦さんはどこ行っちゃったの?工場はあるの?」と地元の方に聞かれる事もありました。それから会社の存在意義を考えるようになり、一生懸命働いてくれている社員が家族にも自分自身にも誇れるような、「濱田精麦といえばこれ」と言える商品をつくりたい、そういう取り組みにチャレンジしたいという想いが芽生えました。いま全商品に付けている「ハマダの元気な食卓」というブランドロゴは、まさにその想いを形にしたものです。この「ハマダの元気な食卓」というのは亡き父親が25年近く前に「元気な食卓」という想いを作り、そこをブランド名として踏襲したものです。当時の想いを母親である社長からも聞き、ブランド化を致しました。これから父親の想いも一緒に、このブランドをより育てていきたいです。

水谷 そういう経緯があったんですね。

濱田 ただ、当初はなかなか形にできませんでした。最初のきっかけは、妻が里帰り出産をした際に熊本地震の前震に巻き込まれたことでした。私もすぐに熊本へ飛び、身をもって本震を経験したなかで、地元の神奈川からは遠いけれど、別世界の出来事ではないと強く感じました。それで熊本の復興支援をしたいと思い、パッケージにくまモンをあしらったパックごはん(がまだせ熊本ごはん)をつくりました。そこからですね、自社で商品をつくり、会社のブランディングをしたいと考えるようになった。色々と乗り越えていかないといけない壁も多いですが、しっかりと向き合って乗り越えていきたい。常にどんな一歩でも前に踏み出していきたい。芯と軸をしっかり持って、アグレッシブに取り組んでいきたいと思います。

鈴木 うちもあの手この手で需要をつくっていかなければいけないですし、かまぼこ業界全体を盛り上げることも自分たちの責任だとつねに思っているので、いまのお話はすごく共感します。

―両社を筆頭に、ベルマーレは今年から「フードサプライヤー」という名称を新設しました。そこにあるクラブとしての想いを聞かせてください。

水谷 健康志向も相まって、世の中の食に対する関心は年々高まっていますし、鈴廣蒲鉾さんや濱田精麦さんの前向きな取り組みを広く皆さんに認知してもらうためにつくりました。そうしたことをきちんと伝えるのも我々の役割だと思っています。

鈴木 ありがたいです。

濱田 そうですね。実際、はるみの「ベルマーレ応援米」をスペシャルデー限定で販売したところ、想像以上の反響をサポーターの方からいただきました。また、いまアカデミーを中心に「ベルマーレごはん」を年間5000パック納品させてもらっているので、そこからトップチームや日本代表に入る選手が育ってくれたらこれ以上の幸せはないですね。

―濱田精麦はアカデミーを、鈴廣かまぼこはFリーグ創設当時からフットサルチームをサポートしています。こちらの支援の理由も聞かせてください。

濱田 お米の消費が毎年数万トンという規模で減っているなかで、まずは子どもたちにお米を食べてもらいたいという気持ちがあります。はるみという神奈川県産のお米もでき、地元のものを地元の子どもたちに食べてもらいたい。そして彼らが大きくなったときに、湘南という地域に生まれ育ってよかった、ベルマーレに出会ってよかったと思ってもらえるような、子どもたちの未来のひとつになれたらいい。利益や収益ではなく、その想いが私としては強いですね。

鈴木 先ほど話した生き残り戦略とはまたべつに、スポーツを通して健康課題解決に取り組まなければならないと私は思っています。というのも、いま日本の肉食と魚食は逆転していて、魚が全然食べられていないんですね。その結果、油ばかり摂取して、たんぱく質がきちんと取られていない。魚からかまぼこをつくる技術やノウハウを蓄えてきた私たちとしては、この健康課題を魚肉で解決できるのではないかと考え、魚肉たんぱくの有用性を実証するためにトップアスリートたちにもご協力いただいている。子どもから大人まで、この取り組みが食に対する関心を持っていただくきっかけになればと思っています。

水谷 ありがたいお話です。おふたりが言われたように、子どもたちには明るく育ってほしいですし、この湘南エリアを好きになってほしいなと我々としても思います。


―今後の展望について思い描いていることはありますか?

鈴木 長友選手と立ち上げた魚肉たんぱく同盟の理念は長年ベルマーレと取り組んできたことでもありますし、これからもずっと続けていきたいと思っています。それは一社だけにとどまるものではなく、さらには魚肉だけに捉われず、健康課題を解決したいと考えているサプライヤーの皆さんを巻き込んで、食全体のプログラムをしっかり組みたい。トップチームのコンディショニングはもちろん、ユースやキッズまで対象を広げて、幼少期から食に関してサポートしていきたいと考えています。

濱田 まだチャレンジの途中ですが、先ほど話した「ベルマーレ応援米」のような第2のコラボ商品を確立していきたいと思っています。身近にプロサッカーチームがあるのはほんとうに幸せなことだと思うので、地域の盛り上げに少しでも貢献したいですね。とくに弊社のある伊勢原のパートナーはまだまだ少ないので、地元とベルマーレとの距離ももっと縮めたい。これはジャストアイデアですが、たとえば伊勢原の駅前に弊社の不動産があるのでベルマーレのフットサルコートをつくったり、フリーデンさんとふたたびコラボしてベルマーレカレーショップをつくったり、ベルマーレを身近に感じられる取り組みにも力を入れていけたらと思います。いまはサプライヤーとパートナーをやらせてもらっていますが、夢は大きく、いつかは伊勢原を代表するようなスポンサーになれたらうれしい。それはクラブのためでもあり、うちの社員のためでもありますし、弊社の存在意義をもっともっと高めて、地域の皆さんに元気な食卓を築いてもらえたらと思っています。

―同じフードサプライヤーとして両社でなにかできたら、それもまた素敵ですね。

鈴木 そうですね。とくに私はいま災害食に興味を持っています。非常時に、特に栄養バランスが崩れ、健康被害が蔓延することが多いのは、タンパク質不足だそうです。なので、ベルマーレの災害食として、新しい技術を使ってごはんに魚肉をコラボさせていただくような製品づくりができたらおもしろいですよね。

濱田 魚肉と一緒にパックごはんをつくれると思いますし、いまは技術があるので、食べやすい味付けにすることもできると思います。

水谷 革新的なおふたりだし、食というキーワードもある。おふたりに軸になっていただき、食に関わる企業の皆さんにも集まっていただいて、ベルマーレの縁で新しいチャレンジができたらうれしいですね。

濱田 弊社は小さな会社で、箱根街道の鈴廣さんのお店にいち顧客としてお邪魔していた立場なので、今回こういう場をいただけて私はすごくうれしく思っています。ビジネスになればもちろんいいですが、鈴木さんとは歳も近いですし、ベルマーレをきっかけにいただいたご縁を大切に育めたらうれしいなと思います。

鈴木 そうですね。私たちももともとビジネスありきではなく、スポーツを通じて社会に付加価値をもたらしたいと考えています。とくに健康課題を解決したいと思っているので、濱田さんをはじめ、同じ考えの仲間をベルマーレを通じてつくっていきたいですし、選手だけでなく子どもたちや周りの方々にもその輪を広げて、食育という文脈で地域を盛り上げていきたいですね。

水谷 クラブとしても非常にありがたく思います。今後ともよろしくお願いいたします。