ボイス

【ボイス:2020年12月29日】岡本拓也選手

自分にとっての湘南スタイルとは、ベルマーレの選手としての心構え。ピッチで体現することがキャプテンの仕事

浮嶋敏監督がシーズン当初から指揮を執り、本格的に指導する初年度、
キャプテンに指名されたのは岡本拓也選手。
予想もつかなかったコロナ禍の影響を受けながらも
チームと個人の成長のために
自分自身に問い続けたシーズンを振り返った。

湘南スタイルを体現することが
自分がキャプテンをやる意味

 なんとも難しいシーズンだった。そんな印象が残る2020年。その要因の一つがまず新型コロナウイルス感染症への対応。加えて今年は、浮嶋敏監督が本格的に独自色を打ち出して指導する初めてのシーズンでもあった。チームは、誰もが初めて経験する社会的な状況に対応しながら、変化していかなければならなかった。この難しいタイミングでキャプテンを務めたのが岡本拓也選手。キャプテンを務める選手の誰にとって楽なシーズンは存在しないだろうが、それでも稀な年にキャプテンとして過ごしたことは間違いない。

「まずシンプルに、ケガでもなくサッカーができないという状況は、みんなそうだと思うんですけど初めての経験でした。そのなかでいずれは必ず始まるJリーグに合わせてコンディションとメンタル的なところの準備をするというのは大変だったし、ちょっと難しさは感じましたね」

Jリーグは第1節とルヴァン杯のグループステージの1試合を開催しただけで中断となり、緊急事態宣言も発令されて、特に4~5月にかけてはステイホームが日常となった。そんななかでも選手たちは、再開のときに最大限のパフォーマンスが発揮できるよう、自分自身をコントロールする必要があった。岡本選手自身は一人でやれることには限りがあることを実感したという。

「家の外に出られなかったので、筋力トレーニングだったり体幹トレーニングだったり、柔軟性を高めるトレーニングといったことをやっていました。でも家にはトレーニングするための環境は整っていない。自分を見つめ直すいい機会にはなりましたけど、ケアも含めて一人ではなかなかうまくはできないんだなというのを改めて実感しました」

原則はステイホーム。となると、サッカーに必須である走力を維持することはなかなか難しい。

「できるなかで最大限をやったつもりではいますけど、サッカー的な体力っていうのは落ちたと思うし、戻すのにもそれなりに時間がかかりました。長く家に居て動けないとなると不安にもなってくるし。
リーグが再開したのがちょうど夏だったので暑さもプラスして、けっこうきつかった印象はありますね。自分のコンディション的にも、いずれは上がっていくだろうと思いましたけど、最初は耐えることの方が多かったかなと思います」

社会活動が再始動するとJリーグも再開の方針を打ち出し、チームもリーグ再開に向けて動き始める。当然の動きといえばそうだが、試合を再開するとなればその日には、個人の体力も技術も、チームの戦術の浸透もコンビネーションの成熟度も一定のレベルに達したプロのパフォーマンスを観せなければならない。特にチームで取り組む時間が限られているなかで戦術や連動性を高めるのは容易ではない。

「チームとしてやることも変わったし、新しい選手も半分入れ替わったなかで戦術的なところの練習をやる時間はやっぱり少なかった。何年も積み上げているチームだったら、やることが比較的明確だし、身体に染み込んでいると思うので、そこはそんなに難しくないと思うんですけど。監督は、コンディショニングと戦術面、両方を上げていく作業が大変だったんじゃないかなと思いますね」

チームはプレシーズンにベースを築き、公式戦とその間に行う日々の練習を重ねながら1シーズンをかけて作り上げていく。継続することで実になり、その後の進化も加速する。ところがコロナ禍は4カ月の中断を強いて、年初のプランをなかったものとした。しかも再開後は、2週間に一度は必ずミッドウィークに試合が開催されるタイトなスケジュールが延々と繰り返された。戦術の浸透、選手間での共有、そして何よりコンディションを保つこと、そのすべてがいつもの年とは違う難しい作業となった。

「自粛期間中は、なかなかみんなに会えなかったし、こういう社会的な状況に対して考えることもバラバラになりがちだったので、それをどう一つの方向に持っていくかっていうのは、すごく考えさせられたし、改めて難しさは感じました」

考えたのは、自分がキャプテンをやっている意味。

「いろんな人とコミュニケーションを取るようにしたり、選手だけでミーティングを開いたりしましたけど、そういうことよりも結局はピッチの中で自分がどう振る舞うか、どうプレーするかが一番大切なんじゃないかと感じました。
監督やクラブが、僕がここでキャプテンをやることでどうリーダーシップを発揮してほしいかなって考えたときに、やっぱり湘南スタイルを体現する、それを練習からしっかりピッチの上でやることだなと思いました。今までやってきたことを出すしかないって感じ。最終的には、それを見せ続けるっていうところになりました」

答えを聞いて改めて訊ねたのは、岡本選手にとって「湘南スタイル」とは何かということ。

「『湘南スタイル』ってすごく便利な言葉で、いろんなことが言えるんですけど、僕はやっぱりサッカーのスタイルというよりはベルマーレのプレーヤーとしてどういう心構えでプレーするか、どういう立ち居振る舞いをしなきゃいけないのかっていうことの方が大事だと思っているんです。それは普段の練習での一つひとつのプレーだったり、気持ちを込めてしっかりプレーするっていうことだったり。それがベルマーレにとって大事なのかなと思っています」

結果は思い描いたものとは違ったかもしれないが、感じたチームと自身の成長の手応えは決して小さなものはではなかった。自ら見つけた答えが間違っていなかった証だろう。

>あらためて自覚した勝つことの意味