ホームタウン
「湘南オリーブ」とともに描く夢――ベルマーレが新たに取り組む持続可能な地域づくり
Jリーグが推進する社会連携活動「シャレン!」は、地域のひとや企業、団体、自治体、学校等とJリーグ・Jクラブが連携し、社会課題や共通のテーマに取り組む活動を指す。ベルマーレが昨年9月にスタートさせた教育プロジェクト「湘南まなべるまーれ」もそのひとつだ。地域の企業と手を組み、仕事に夢中になっている大人の姿を通して、自分がほんとうに夢中になれることはなにかを子どもたちに問いかけ、地元企業へ目を向けてもらう取り組みである。
そしてベルマーレはこのたび、新たな社会連携活動として、ホームタウンの二宮町が力を入れているブランド「湘南オリーブ」の振興に着手した。「湘南オリーブ」とは、オイルをはじめ、新漬けやお茶、羊羹など、二宮町を中心に収穫されたオリーブを用いた商品の総称だ。
今回はそんな「湘南オリーブ」の活動について紹介する。
二宮町がオリーブの栽培に取り組み始めたのは2011年にさかのぼる。「以前からオリーブを栽培していた地元の農家の方がある日の夕方、突然町長室を訪ねてきたんです」当時町長を務めていた坂本孝也さんが振り返る。
「『初めてオリーブオイルが取れました』と、綺麗なエメラルド色のオイルを届けてくれた。その頃はあまりオリーブに興味はなかったのですが、お話をしているなかで、オリーブの実が鳥獣被害に遭わないことを知った。それで私は興味を持ったんです」
二宮町では当時、収穫直前の畑をイノシシに荒らされる被害が頻発していた。坂本さんは話を受け、町で補助金を出し、二宮の農家に苗木を安く提供してオリーブを普及させるアイデアを思いついた。
坂本さんがオリーブの栽培に着目した背景にはもうひとつ、生まれ育った地元への想いがあった。
「二宮という町は産業がない。なんとかしてこの町を豊かにするためには、海と山に囲まれた自然を活かし、第一次産業をテコ入れして、名物をつくることが必要ではないか。そういう考えを以前から持っていました」
オリーブを町の新たな目玉にしようと考えた坂本さんの行動は素早い。二宮だけでは作付けが間に合わないからと、大井町や開成町、山北町、小田原市など近隣地域の首長に協力を呼びかけた。人脈を辿り、造園業を営む知り合いに「オリーブを町の事業として育てたいから苗を譲ってくれ」と飛び込みで頭を下げたこともあった。いまでは近隣地域も積極的にオリーブづくりに参画しているという。
当時から坂本さんのもとで働き、現在も二宮町商工会事務局長として「湘南オリーブ推進チーム」を支える渡邉康司さんが記憶をひもとく。
「坂本さんから『二宮ブランドを興そう』と提案され、私は即刻計画書を立てて、すぐに視察へ行きました。当時はオリーブの話をしたらいろんなひとが集まってきた。イタリア人が二宮でオリーブの講習会やオイルのテイスティングを行なうこともあった。2013年にはJR東日本横浜支社の『鉄道沿線からの森づくり』事業によって、二宮駅北口の駅前広場にオリーブの木を植えました」
一方、ベルマーレとオリーブも坂本さんとの縁で結びついた。2014シーズン開幕前のこと、チームが表敬訪問で二宮町を訪れた際に、坂本さんが眞壁潔会長にオリーブづくりを勧めた。ベルマーレ本体では畑を持つことが不可能で、農業はできない。そこで眞壁が代表取締役を務める湘南造園がオリーブを植え、さらにその数年後には農地を所有できる農業法人「ファームビレッジ湘南」を設立した。当初は100本だった木もいまでは約3500本に増え、オリーブ専門の会社として栽培と生産、またエクストラバージンオイルの製造を行なっている。
ベルマーレが今回立ち上げる社会連携活動は、二宮町商工会内湘南オリーブ推進チームとファームビレッジ湘南、NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブによる三位一体の取り組みだ。湘南オリーブ推進チームとファームビレッジ湘南は市場の情報を共有し、「湘南オリーブ」は発信力の高いベルマーレによって、より広く知られるようになる。またベルマーレスポーツクラブは、コーチやスタッフがファームビレッジ湘南の収穫等を手伝うことで売り上げの30%をスポーツ振興活動費に充てることができる。
この「シャレン!」を通じ、ホームタウンに散見される荒廃農地の解消も期待される。荒れた畑を抱えて困っているひとたちに対し、オリーブの栽培に興味があれば苗木を提供し、あわせて技術指導を行なって、収穫物を買い取るサイクルができれば、荒廃農地を減らすことに繋がるからだ。またオリーブオイル等の製品をホームタウン内の飲食店に還元することで地産地消も実現する。
坂本さんと渡邉さんが先頭に立って育んできた二宮町の新たな名物とともに、湘南地域の宝を掘り起こす。オリーブを通じ、ベルマーレは持続可能な地域づくりに取り組んでいる。
※湘南ベルマーレスポーツクラブでは「SDGs」実現に向けて、様々な活動を行っています。
http://www.bellmare.or.jp/club/sdgs/
文:隈元大吾