ボイス

【ボイス:2019年1月24日】島村毅

ボイス島村
新たなステージへ
これからは現役時代以上に走り回る「営業乃虎」に。

サッカー選手として、現役で走り回れる期間は、
それほど長いものではない。
それでも、自分がやりきったと思えるまでできれば、それはそれで幸せだ。
昨シーズンの終わりに、スパイクを脱ぐ決意を発表した島村毅選手は、
多分幸せな選手の一人だろう。
そのサッカー人生を振り返りつつ、
プロサッカー選手としての11シーズンの支えとなった
サポーターへの思いをお届けする。

ゴールが取れなかったら…
200試合19ゴールで引退を決意
 背番号30、「湘南乃虎」のキャッチフレーズで親しまれた島村毅選手が、昨シーズンをもって現役を引退した。それは、突然なようで、気配だけはうっすらと存在していたような、そんな出来事だった。発表されたのは最終節まで続く残留争いに希望を灯した第33節の浦和レッズ戦に勝利した後、2018シーズンのホーム最終戦を締めくくる挨拶に続いて、本人からの「報告」という形で告げられた。

「引退セレモニーの後、ゴール裏に行ったら、すごい号泣している人がいて。それを見て自分がもらい泣きしちゃって(笑)。あんた、どんだけ泣いてるのと思って、すごくうれしかったです」

 それは馬入の練習グラウンドにも足繁く通ってくれるサポーターの一人。号泣するその人を目の前にして、引退を我が事のように受け止め、心を揺らしてくれる人がいる幸せをかみしめた。

「いろんな人の人生に関われたのは、サッカーだったりベルマーレだったりのおかげ。本当に感謝しています」

 2018シーズンは、Jリーグ通算200試合出場を達成した年でもあった。しかし、リーグ戦の出場は、記念となったその1試合にとどまる。何より湘南乃虎の代名詞であるゴールを取れなかった。

「199試合19ゴールってリーチがかかった状態で、シーズンの中で絶対に出場のチャンスは来ると、そこで一発かましてやろうというモチベーションでやってきた200試合目、その試合でボールに触れず、タイムアップしてしまうっていう。そこでちょっと来るものがありました」

 島村選手といえば、ここぞというときに必ずゴールを決めてくれる、そんな期待を抱かせる選手の一人。もちろんそれは、本人も自覚している。それだけにゴールが取れないときが辞めどきという思いがいつも胸にあった。しかも、ここ3シーズンくらいは、その思いに重なるように年齢的な影響を身体に感じ始めてもいたという。

「31歳くらい、3年前くらいから身体がちょっと落ちてきた、しんどいなって感じていたんです。それでもその時は、『あと3年はいけるな』って思った。で、2017シーズンの終わりにも『あと1年は絶対いける』と思って。で、2018年1年間やってきて、2019年は無理だなと思ったんで。家族にも毎年そう話しながらやってきたんで、ちょっと寂しそうでしたけど、すんなり受け入れてくれました」

 身体の変化を感じ始めた2016シーズンは、クラブとしても島村選手自身も3度目となったJ1で、2年目を迎えた年。白星を挙げられない戦いが続いた序盤、リーグ戦の間に挟まれたヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)グループリーグ初戦で島村選手が得点を決め、公式戦初勝利を引き寄せた。

「この年はリーグ戦では点が取れなかったんですけど、チームとしての初勝利に貢献できたのは僕の中で大きかった。でも結局は降格したし、リーグ戦では点が取れなかった悔しさがあった。翌年に3点取れたのは、その悔しさをぶつけたからだと思うんです。
 2017年の1点目は、初めて子どもを抱いて入場した大事な試合だったんです。2日前が子どもの誕生日で。そういう大事な試合で点が取れて、『やっぱ、俺、持ってるな』って自分で思ったんですよ。2点目は自分の誕生日のすぐ後、これで『まだまだいける』と思えた。その後に199試合19ゴールまでいったところで、J2優勝がかかった試合がちょうどきたんです。で、その週は嫁さんの誕生日もあったんで、『200試合目はこの試合だな』と思ったんですよ』

 メモリアルな試合になると不思議と出番が回ってくる。サポーターが期待するそんな巡り合わせもまた、島村選手自身も自覚するところだ。しかし、2017シーズンのその試合は、期待通りのメモリアルゲームとはならなかった。

「ここでゴールを決めて優勝も決めて、嫁さんの誕生日も祝って、と思っていた。ところが、そこでメンバーにも入らず、昇格も他の試合の結果で前日に決まって。この悔しさもまた『来年こそは』という思いにして2018年に繋いでいった。
 僕は、こうやって自分で目標を作ってモチベーションを高めて、自分を追い込んでいく、みたいな作業をずっと続けてきたし、それでうまく運も引き寄せられていたと思うんです。だけど2018年はそれがうまくいかなかった。頑張ってはいるけど……、という感じでしたね。
 それに、点が取れなくなったら辞めようと思っていたんで」

 島村選手が最終的に自ら選んだポジションはディフェンダーであり、ポジションへの誇りも持っている。それでも、島村選手にとって「得点力」は自分をプロの舞台まで連れてきてくれた大切なもの。だからこそ、点を取る以前に、ボールに触れることすらできなかったあの試合が引退の引き金となったのだ。

>最終ラインのフォワードとしてゴールこそがモチベーションの源