ボイス
【ボイス:8月19日】村松大輔選手の声
厳しい戦いが続くことは覚悟の上で臨んだJ1リーグ。ベルマーレは、シーズンの折り返しを、3勝3分11敗、17位の成績で迎えた。トップリーグの戦いは、厳しく、そして容赦がない。
気になるのは、なかなか結果に結びつかない状況の中で、中断期間以降、守備への意識を高めたにもかかわらず、失点が嵩んでいるところ。
そこで今回は、後半戦へ向けて、ディフェンスラインの要を担ってきた村松大輔選手に、J1での手応えと今の心境を語ってもらった。
1対1の強さプラス駆け引き。
求められる要素が多いJ1の戦い。
「6失点というのは、なかなかないです。子どもの頃もないかもしれない。ショックは大きかったです」
中断明け後、最大の失点数となった清水エスパルス戦を振り返って村松選手はこう語った。中でも、村松選手が何よりも悔やんでいるのは、自分がマークについていた岡崎慎司選手に一瞬の隙を与えてしまったこと。
「クロスを競り合って、ヨンセン選手と幸平さん(臼井)がゴチャゴチャってなって、で、ボールが見えなくて、気づいたら岡崎さんがシュートしてた感じですね。速いし、うまいです」
この試合後に行われた最初の練習では、清水戦を振り返ってディフェンスラインの見直しに時間が割かれた。フィジカルトレーニングのあとにボードを囲んでたっぷり20分間、反町監督から話を聞き、さらにゲーム形式でラインの高さや上げるタイミングまで監督が声をかけ、試合に出場している選手だけではなく、全員にあらためて約束事が徹底された。
「エスパルス戦ではラインが揃ってなくてそのギャップをうまく使われてしまった。それと流れた相手選手にボールが出てないのに付いて行ってギャップを開けすぎたり、攻めているときのリスクマネージメントができていないというところですね」
中断明け後は、4-3-3でアンカーを1枚置いたシステムから、ボランチを2枚に増やし、守備の意識を高めたシステムが多くなっている。この変化からは、なかなか勝ち点を上げられない前半の戦いを踏まえ、まずは失点をしないことをめざしたことが伺える。
「監督からは、夏場に入ってくるので、やっぱり前から追い回すとフォワードも攻撃の時に力が出ないから一旦引いてブロックを作って、という話をされました。その通りだなと思いますし、監督を信じてやるしかない。
戦い方を変えて初めての鹿島戦は、崩されての失点じゃないので、悔しかったです。けど、やっぱりミドルシュートを打たれているので、そこはもうちょっとセンターバックが寄せなきゃと思いました。鹿島は、試合運びがうまかった。1点取ってからの、ボールのキープだとか。
京都戦は、鹿島戦も守備はそんなに悪くなかったので、その継続で同じようにやれて失点を抑えられたのは大きいと思います」
波に乗るきっかけをつかんだかに思えた京都サンガ戦だったが、その後は再び、守備のバランスを崩してしまう。その原因は自分なりに分析している。
「相手の動きだしが速いので、自分ももっと駆け引きをうまくやらないといけないなと思う。ラインを上げたり下げたりのコントロールで駆け引きをしたい。自分が先手を取ってやらないといけないなっていうのは感じます。
実際は、やれているときもあるし、相手に先手を取られるときもあります」
攻撃のバリエーションが多く、精度が遥かに高いトップリーグの戦いは、思った以上に甘くない。J1レベルのディフェンダーへ。進化が求められている。
もっと練習してうまくなる!
神戸戦の監督の言葉に発奮。
J1のシーズン折り返しまでを振り返って、J1とJ2の差を具体的にはどんな風に感じているのだろうか?
「相手フォワードの質が高い。動きだしの質、シュートの質、そういうものがすごく高い。
組み立ての部分でもJ2は多くのチームがやみくもに蹴って、どうにかしようっていうサッカーだったけど、J1は繋いで、ポゼッション率もすごく上回られるときもあって、チームとしてもなかなかボールが取れない」
戦い方は変えても、めざすべきものに揺るぎはないのが反町監督。チーム全員で守り、全員で攻撃し、相手ゴールを最短距離で狙うために常にボールを前へ運ぶことを意識したサッカーを志向している。J1の高いレベルの中で思い通りにならないことも多いが、それでも根幹は変わらない。
昨年は、その特長が攻撃により表れていたが、今の状況では組織的な守備こそが求められる。そして、組織的に守備をしていくために村松選手が担うべき役割も格段に増えている。
「後ろから攻撃を組み立てていくというのも足りないですし、どんどん声を出して、周りを引っ張っていくというのも足りない。守備面でも1対1は絶対負けないとか、自分のところでは絶対やられないとか。そういう強さを身につけないといけないと思う」
反町監督は、どんな若手を抜擢した際も、『できると判断したから選んでいる』と語る。であれば、スタメンに名を連ねている以上、年齢を言い訳にはできない。また、昨年のJ2リーグ51試合中50試合フル出場、今シーズンもナビスコカップ緒戦以外、シーズン折り返しまでのすべての試合にフル出場していることを考えれば、経験も足りないとは言い難い。J1のクラブから移籍してきた選手をのぞけば、ベルマーレの選手の中で誰よりもJ1を経験している。
「都築さんからはよく、『前の選手にもっと言え』って言われます。自分では、去年より全然声を出すようにしているし、言ってる気持ちでいるんですけど。
でも、そう言われると自分が完全に引っ張ってはいないかなっていうのは感じます。ディフェンスラインには声をかけてるけど、前のボランチだったり、サイドハーフには、あまり声をかけてない。
相手フォワードの一瞬の動きだしが速いのでディフェンスラインを統率しなければいけないという気持ちで、まずディフェンスラインを固めようと思って。自分はまだ、そのことだけしか見てない感じ」
正直に言えば、自分では容量いっぱいやっているというのが本音だった。そんな切羽詰まった余裕のなさが伝わったのか、8月14日(土)に行われた第18節のヴィッセル神戸戦では、リーグ戦で初めて控えに回った。
この日、センターバックにはジャーン選手と山口選手が並び、システムも久しぶりに田村選手をアンカーに置いた4-3-3で臨んだ。
「監督や曺コーチからは、スタメンを外れたことについては何も言われてないです」
そうして振り返ったのが1節前の大宮アルディージャ戦。6失点の清水戦に続き、3失点を重ねたが、この時のディフェンスラインに反省が残る。
「ラインを高く設定しすぎて裏を狙われた。自分がラインを統率していたので、あれは自分が悪かったなと思います。
神戸戦のディフェンスラインは、ちょうど良い高さだったと思う。相当良かったと思います」
反町監督が試合後の会見で質問された際、『村松はちょっと後ろの整理がついていなかったので、一度外から見るのもいいかな』と答えていたリザーブスタート。その意図は、理解したようだ。
「神戸は都倉選手が居なかったので、大久保選手が要所要所を収めてましたけど、前でそんなには起点を作れてなかったというのはありますね。
途中出場は、今までなかったことなので、相当緊張しました。センターバックが途中から入る状況が0対0。絶対にバランスを崩しちゃいけないっていう緊張感。監督からは、『ラインをきっちり揃えていけ』って言われました。今までに味わったことがない、違う緊張感でした」
約20分の出場に終わった神戸戦の翌日は、控え組の選手たちと一緒に早朝の新幹線で平塚に戻り、午後から馬入で行われた練習試合にフル出場を果たした。
「ラインの設定が高くなりすぎないようにというのは意識しました。上げすぎて裏のスペースを大きくしちゃうとピンチを招くので」
練習試合は無失点に抑えた。しかし、一度手放したスタメンの座を取り戻すことは、簡単ではないだろうと考えている。
「試合後に監督が会見で言った内容は知っています。悔しいというか思うところはありました。夜、眠れなかったくらい考えちゃって(笑)。
もっと練習しなくちゃいけないって思った。実際、次の京都戦は中3日しかないし、前の試合はディフェンスがうまくいったから、なかなか自分にチャンスはないと思う。だからこそ僕は練習からアピールしていくしかない。
でも人生は長いのでこの経験もプラスに捉えてます。自分を見直して、しっかりやっていきます」
J1の高いレベルの戦いに勝てないことで近視眼的に焦るより、レベルの高いサッカーを戦う喜びを感じてほしいもの。全速力で駆け抜けて来た20歳に突然訪れたのは、立ち止まり、自分を見つめ直すのにちょうど良い時間だ。
キャプテンマークにしびれた川崎戦。
大きな舞台で戦いたい。
今季、一番印象に残っている試合は
「アウェイの浦和レッズ戦(第5節4月3日開催)。ボールをかなり支配されて、自分もPKを与えてしまって負けたけど、すごく印象に残ってます。あの大歓声の中でやれたのもすごく良かったですし。
アウェイは向こうのサポーターの数が多いので黙らせてやろうという気持ちはやっぱりある。それに、あの歓声の中で試合ができるのは、気持ちがいいですね。
選手はみんなそうだと思うけど、やっぱり大きな舞台ほど楽しいですし、モチベーションも上がります。だから常に大きな舞台でやりたいなと思います」
キャプテンを務めた5月1日開催の第9節川崎フロンターレ戦も
「しびれましたね。川崎は近いということもあってたくさんのサポーターが応援に来てくれてうれしかったし」
去年は重荷と語ったキャプテンマークもしびれるくらいの喜びに感じられるようになった今年。間違いなく成長していることがわかる。
「一番はメンタル面が成長したと思う。もともと弱くはないと思うけど、もっと強くなりました。何を言われてもあまり動じなくなりました。
前はちょっとこう、試合が終わったあとにコーチングスタッフからあのプレーのあそこでやられちゃいけないとか言われたり、試合の中で自分がミスしたときとかは、凹んだりしていたんですけど、最近は終わったものはしょうがないくらいの気持ちが持てるようになった。
もちろん反省はしてます。でも前は反省しすぎてかなり落ち込んじゃっていたから」
特にJ1の舞台で戦う今シーズンは苦戦が続いていることもあって、鍛えられているという。
こういった成長には、フル代表に呼ばれた経験も一役買っている。
「代表では、ほとんどやってないんで経験としては何とも言えないんですけど、代表の選手は、長友くん(佑都選手・ACチェゼーナ所属)であったり、川島さん(永嗣選手・リールスSK所属)であったり、寝る前に筋トレとかやっていたのを見て、私生活から意識の高さを感じました」
村松選手自身が元々、生活のすべてがサッカーのためにあるといっても過言ではないほど、サッカーへの思い入れが強い選手。その高みをめざす志に従って、実際に知った代表選手たちの意識の高さを自分の生活にも取り入れている。
「身体には、相当気を遣ってます。アスリートのための食事の本とかを参考に食事を作ってもらって、身体を作るものを意識して食べてるし、どんなに暑いときでも食事もきちんとします」
こういった部分では、昨年誰もがあっと驚いた19歳での結婚で得たパートナーにも協力してもらって、さらにサッカーに集中できる環境を整えている。
グラウンドにいるときはもちろん、プライベートな時間も含めて何よりもサッカーを優先し、大切にしている村松選手。躓きも悔しさもすべてを向上心を奮い立たせるエネルギー源としてしまうその情熱で、今このときの経験をどんな形で未来に実らせるのか、進化の課程も楽しみにしたい。
取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行