ボイス
【ボイス:8月27日】遠藤航選手の声
J1で迎えたシーズンの約2/3を消化した。
平均年齢23歳という若いチームは苦戦を強いられ、順位も厳しい位置にいる。
特にシーズン前半は、内容は良くても勝ち点が奪えない、そんなジレンマを散々に味わった。
しかし、東アジアカップ開催による中断後は、勝ち点3を取れる試合も増え、浮上の兆しも感じられる。
そんな光明とともにピッチに帰ってきた遠藤航選手。
J1昇格を果たした昨年、10代ながら多くの試合でゲームキャプテンを務めてチームに貢献した頼もしい存在だ。
心に秘めた高い目標をかなえるためにも、反撃の先頭に立つ。
喜びを倍増させたサポーターの声援に包まれ
ホームのピッチで復帰!
「ホームで戻れたというのは、大きかった。『おかえり!』っていう声や自分の応援歌を歌ってくれたのがうれしかったし。ホームの声援、サポーターのみんなの声援が後押しになったのは、間違いないと思います」
7月10日に開催された第15節vs柏レイソル戦で、今シーズン初出場を果たした遠藤選手。開幕から4カ月、誰もが待っていた復帰戦を振り返る時には、笑顔が浮かんだ。
離脱したのは2月。キャンプ先のタイで行われた練習試合で負傷したためだ。その回復に予想以上の時間がかかったことと、2012年シーズンは最後の3節をU-19代表の試合で不在にしたことを合わせると、この試合はベルマーレのユニフォームを着て臨む、約9ヶ月ぶりの公式戦だった。
「去年、J2最後の3試合を抜ける前までに経験していたホームで試合をする緊張感っていうのを久しぶりに思い出しながらプレーした感じ。『帰ってきたな』『ああ、こういう感じだったな』という感覚がよみがえってきて、単純にうれしかったです」
当初発表された復帰予定は6週間だった。ところが、あともう一歩というところで再発をしてしまう。結果、J1の舞台に上がったシーズンの最初の4カ月を怪我の治療とリハビリにあてることとなった。それでも焦らないのが遠藤選手らしいところ。
「最初に再発したときはちょっと落ち込んだりしましたけど、でもその日くらいですね。サッカー選手としてプレーをしている以上、怪我はつきものなので割り切ってやるしかない。次の日からは、『しょうがないか』くらいの気持ち(笑)。僕としては、自分自身の課題と向き合う良いチャンスだと思って、決してネガティブにならずに、ポジティブにポジティブにやっていこうという気持ちでいました。
取り組んだのは、基本的に上半身の筋トレや体幹。あとはやっぱり柔軟性。筋肉や股関節、足首だとかの可動域を上げるように。
シーズン中は、常に試合のことを考えているし、そのための体調管理もやっていかなければいけない。そうするとチームの練習の他に筋肉を増やしたり、体幹を鍛えたりっていうこと、全部が全部できるわけではない。リハビリ期間中は、そういうことに集中できたので、良かったなと思います」
この期間は、公式戦をスタンドから観るときもさまざまなことを意識した。J1リーグは、2種登録選手として試合に出ていた2010年シーズンに6試合とはいえ経験しているが、3年ぶりのステージ。そのうえ、開幕戦から試合に出場しているチームメイトがJ1のサッカーの質を肌で直接感じながら危機感を抱いてトレーニングに励んでいることを目の当たりにしていたからだ。
「試合を観るときは毎試合自分ならJ1でどう戦うかをイメージして、リハビリ明けの練習でも、練習試合も含めて常にJ1のことを意識しながらやってきました」
リハビリを終えてチームに合流し、公式戦のピッチに立つまでの期間は思った以上に短かった。その点については曺監督も、「チームに合流してトップフォームに持ってくるまでの期間が短いのは、意識が高いからこそ」と感心している。
「サポーターや観戦している人たちも、『いきなり試合に出て大丈夫なのかな?』っていう心配は絶対にあるだろうなっていう思いが自分の中にあって、そう思われないようにしたかった。
復帰した最初のレイソル戦は、思った以上に試合にはすんなり入れました。試合に出ていなかったから試合勘とか、自分のプレーができるのかっていう心配はありましたけど、自分の描いていたイメージと、実際プレーしてみた感覚に変わりはなく、試合は負けてしまいましたけど、ある程度良いプレーができたというのは自信になりました」
これからは、自分に向き合ってきた4カ月の成果をピッチで見せてくれるはず。エンジン全開で溜まったうっぷんを晴らしていく。
チームの命運を決するピッチに立ち
欲しい結果を必ず自らの手で掴む
遠藤選手はベルマーレというクラブに留まらず、将来は日本を担う選手としても大きな期待が寄せられている。そのプロセスとして2012年シーズンの終盤に、10代ながら副キャプテンとして1年間貢献したクラブチームから代表に舞台を移し、U-19日本代表のキャプテンとしてアジアでの戦いに挑んだ。
「去年、試合にはコンスタントに出させてもらってはいましたけど、やっぱり最後の昇格…、昇格を経験していないわけじゃないけど、その場に居なかったのは、『僕としては、結果を残せたのかな?』と思ってしまうというか。僕が残り3試合に出ていたら昇格できたのかなとか、僕が居なかったから結果が出たのかなとか、そういうことも考えてしまった。やっぱり、その場に居たかったっていう思いがある」
チームメイトを信じ、自分のやるべきことに向かったその選択に後悔はなくても、昇格を決めたピッチに立っていなかったという現実は、心を揺らすのに充分な重要性を持っている。だから次こそ、“そのピッチに立って、自分で結果をつかむ”ことを心に決めている。
「今年は、開幕前はACL出場を狙っていて、そこに向けて次は絶対クラブの試合でそういう目標を達成する場に居たいと思っていた。怪我をしてしまったので、そういうことを言える立場ではないかもしれないけど、今は、下のほうの順位にいるのでまずはしっかりJ1に残っていくことが目標になる。そのためには、これから1試合1試合厳しい戦いになると思う。もしかしたら、最終節が残留できるかどうかというのが決まる試合になるかもしれない。僕はその場に立っていたいし、僕が試合に出て、そこでしっかり残留という結果を残したい。そう思っています」
J1の舞台に必ず残るという思いは強い。だからこそ、このあと続いていくであろう、クラブの命運を決する試合のピッチには、必ず立っていたい。それがまた、自分自身の夢の扉を開く力になると信じている。
「個人的な目標は、ベストイレブンに入りたいということと、この間、東アジアカップがあったので、そこに限らずですが、今年一度はA代表に入りたいという目標は立てていました。怪我で4カ月抜けちゃったので、今は厳しいなと思ってますけど」
まだ次のオリンピックを目指す年代だが、実力のある選手には年齢を問わず招集の声がかかる。また、国は違ってもチームメイトのハン グギョン選手がその夢を実現しつつあることも、刺激になっている。
「本当に自分の中でもA代表というのが身近になってきた感覚はあります。今回の東アジアカップは、特にJリーグに出ている選手が選ばれて行った大会でもあるし、そこで結果を残して帰ってきたということにすごく刺激を受けました。Jリーグでしっかり活躍すればそういう舞台に立てるチャンスもあるということを示してくれた大会でもあったし。
プロサッカー選手である以上、日本の一番レベルの高いメンバーに入りたいと思うのが当然だと思うし、A代表は絶対に目指していいものだと思っている。プロのキャリアをスタートしたときから意識しています」
J1リーグには、日本代表に限らず、さまざまな国の代表選手が在籍している。そういう選手とのマッチアップもまたJ1に居てこそできる経験だ。
「自分がどれだけ通用するかみたいな力試しのようなところもあるんですけど、そういう選手を抑えていくことが今度は自分が代表に呼ばれるチャンスに繋がると思う。もちろん代表に入っている選手ばかりを意識するわけじゃないですけど。やっぱり常にチームで結果を残すのが自分のレベルアップにも繋がるし、代表とかオリンピック代表に入っていくチャンスに繋がっていく。本当に常にチームの試合で100%やること、勝つためにやり切ることが大事だと思います」
より攻撃的なプレーの選択を意識し
ストロングポイントをいっそう進化させて
最終ラインを担いながら攻撃の起点ともなる、攻守に渡るセンスを感じさせるプレーが持ち味。今シーズンは、よりアグレッシブなスタイルへの進化を目指し、まだわずか数試合の出場にもかかわらず、攻撃への比重を高めたプレーをたびたび披露している。
「守備の部分でのポジショニングとかカバーリングといったところは、自分のストロングとして活かしてきたんですけど、前に出て行ってボールを奪うといったプレーの選択がなかなかできなかった。最悪下がれば守れるだろうという状況もあって、去年はアンパイにちょっと下がって守ろうとか、どうしてもそういう部分があったんです。でも、やっぱり自分のところで前に出てボールを奪って攻撃的に行ったほうが味方もラクになるし、点も取りやすくなるし、結果にも結びつく。
パスで起点になって攻撃のスイッチを入れるというのは、去年もある程度できていたと思うんですけど、自ら上がっていく、ボールを運んで行くというシーンはあまりなかったと思う。今は練習中からボールを奪って攻撃に繋げていくというのは意識しています。そこは自分の課題として今年意識して結果を求めてきたところでのプレーの選択。ずいぶん意識して、変わってきたところだと思います」
攻守両面で得点部分にこだわる遠藤選手。曺監督は、失点について1点は事故的な要素もありえるとし、むしろ2点以上の得点ができるチームを目指している。しかし、守備における結果として、
「僕はやっぱり1失点もしたくない。常に無失点で試合を終わらせたいし、曺さんも本当は無失点にこしたことはないと思っていると思う。あとはやっぱりセットプレーでもう少し得点を取りたいです」
攻守ともにゴールを意識してプレーしていく。また以前は、センターバックとしては身長が低いと指摘されたこともあってボランチも視野に入れていたが、今はポジションよりもアグレッシブに攻撃を仕掛けていくことにこだわりたいと語る。
「ポジションは監督が決めることですし、僕はまず毎試合毎試合に出場することに集中していくべき。だから、与えられたポジションでやっていくだけ。自分としても、今年はセンターバックで勝負しようという思いもあるし、3バックの右や左もやってみたい。あそこはおもしろいポジションで、より攻撃の起点になれると思っているんです。前にも出て行けるし。ポジションのことを言うのであれば、真ん中は真ん中で面白味はありますけど、もうひとつ自分が成長するために右とか左とかをやってみたいなと思います」
センターバックというと、まず身長の高さが最重要な要素に数えられる風潮にあるが、遠藤選手が背の高いフォワードの選手とマッチアップする中で競り負けることほとんどない。90分間途切れることのない集中力と細心の注意を払ってタイミング良く抑え込んでいくプレーは、その駆け引きだけを観ていても楽しめる。
「背が低いイコール高さがないみたいなイメージは持たないでほしい。海外で僕ぐらいの身長で活躍している選手はいっぱいいる。プジョル(カルラス・プジョル選手:178cm/FCバルセロナ所属のディフェンダー)やカンナバーロ(ファビオ・カンナヴァーロ氏:身長176cm/セリエAなどで活躍した元イタリア代表ディフェンダー、2011年に現役引退)とか。そういう選手のプレーは観たりします」
試合の結果は敗戦となったが、清水エスパルス戦で193cmの長身フォワード、ラドンチッチ選手とのマッチアップは見応えがあった。喫した失点は、高さというよりタイミングと精度の良いクロスに負けたというのが実際のところだろう。
「あれぐらい速いクロスをピンポイントであそこで合わせられると、ちょっとどうしようもできなかった。そこの前のところが大事でしたね。
エスパルス戦は、高3の時に降格が決まった試合だったので、それほど意識はしてないつもりでしたけど、それでも正直『絶対に勝ちたい』という思いはありました。その時と比べて、プレー面でできることは増えていたので、少しは成長できたかなと自分で思えた試合ではありましたけど」
試合で得た経験は、すべてが成長の糧。次に活かさなければ意味がない。あの時の悔しさを知る選手の復帰は、これからのチームにとって大きな力になることは間違いない。
一人ひとりが意識を高く持って
個人の成長がチーム力を底上げする
22節まで消化して4勝5分13敗の成績で現在チームは16位に位置している。
「開幕からずっと戦ってきて、J1のレベルがそんなに遠いものではないと間近で観ていて感じていました。もちろん、J2に比べれば一人ひとりは巧いしレベルが高いというのは思いましたけど、湘南が何もできずに終わってしまう試合はなかったし、そこは自信を持ってやっています。
順位は良いとは言えないし、結果を求めていかなきゃいけない世界ではあると思うんですけど、自分たちが目指している湘南スタイルが自分たちの中で徐々に徐々に良くなっているのを感じています。本当に少しずつですけど内容も良くなっていると思う。J2だからレベルが低いとか、J1だからレベルが高いとか考えずに自分たちの力を出すことに集中して、僕個人としても自分のプレーを出すことに集中しています」
曺監督が貫く湘南スタイル。試合の結果に関係ない、一貫した姿勢が選手の気持ちを支えている。目指す方向が分かっていれば、あとは迷いなく進むだけだ。
「J1でも去年J2でできていたプレー、もしくはそれ以上のプレーをしていくというのが目標だったし、そこはシーズン前から意識していたこと。できるレベルは徐々に上がってきているし、湘南スタイルを出していけるようになってきていると思います。
結果がなかなかついてこないけど、内容に成長を感じられるのは自信になっている。あとはやっぱり決めるところを決める。守るところを守る。そこが上位に居るチームと下位に低迷しているチームとの差だと思う。もうひとつ個人個人がレベルアップしていくために、決める、守る、そういうことを意識していくだけだと思います」
最後のステップを上りきれないもどかしさは選手自身も感じているところ。遠藤選手は、今やるべきことを自分自身に言い聞かせるように語る。
「サッカーはやっぱりそんなに簡単に点が取れるスポーツじゃない。相手も必死で守っているし。J2のときよりも高さがあって、強さがあって、クレバーな選手が毎試合毎試合攻守にいる。去年は2~3点取って勝った試合が多かったけど、今年はなかなか2点以上取れない試合が続いている。それは僕らのレベルが落ちているわけじゃなくて、周りのレベルが高くてそこをなかなかこじ開けられずにいるから。勝てないところの差は分かっているし、誰も下を向いている選手はいない。個人の意識を高めて、極めていくだけです」
リーグ戦も残り約1/3。チームの順位が降格圏にあることは重々承知している。
「僕はまだ1/3あるっていう考え方でいます。勝ち点差がそんなに開いているわけではないし、まだまだやっぱりわからない。
毎試合毎試合厳しい戦いになるのは間違いない。今、僕らより下の順位にいるジュビロ(磐田)だって、力のないチームではないし。難しいことはいろいろあると思うけど、自分たちの力を発揮していくしかないし、自分たちの力を信じるしかない。全然あきらめてないから、残りの試合、自分たちが成長していきながら結果を求めていくだけ。今までは、内容は良かったけど…という試合が多かったけど、これからはそれで終わらないで勝ち点3を取るということにこだわっていかなければいけないと思います」
このあとのシーズンの鍵を握るのは、いかに成長の速度を上げていくか。ひとりの一歩がチームに与える影響の大きさを知っているからこそ、そう思う。タフな向上心を原動力に、シーズン終盤へ向けた巻き返しの戦いを引っぱっていく。
取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行