ボイス

【ボイス:10月13日】永木亮太選手の声

開幕前、若手が大半を占めるチームへ寄せた期待は、
少し先の未来へのものだった。
ところが、シーズンの大詰めを迎えた今、5試合を残すベルマーレは、
暫定ながら自動昇格圏の2位にいて、昇格を争っている。
この状況は、選手一人ひとりの成長があればこそ。
プロ2年目のシーズンを迎えた永木亮太選手も、
今年の成長ぶりに注目が集まるひとり。
プレー面での充実ぶりもさることながら、
精神的にチームを引っぱるたくましさが光る。

ボランチのプレーの幅を広げる
シャドーの経験

 プロ1年目からボランチを定位置に試合経験を重ねてきた永木選手。2年目の今年も出場停止以外の全試合に出場し、攻守に渡って存在感を放っている。特に今シーズンは、自身の特徴である攻撃的なセンスをより生かせる前線でも起用され、プレーの幅を広げている。

「プレーしていて一番おもしろいのはボランチです。でもシャドーでプレーして、受け手の気持ちがわかった。もらいたいタイミングでボールが出てこないとストレスがかかっちゃう。『なんで出さないんだよ』って自分も思ったので、ボランチに戻った時には、今までつけなかったパスもつけるようにしています」

 最終ラインからビルドアップされる攻撃は、ボランチを経由して、意図がより明確になり、形作られていく。その時の意識が、パスの出し手として前線あるいはサイドの選手と絡んでいたところから、受け手の気持ちも理解した組み立てに変わった。

「普通は、使わないだろうっていう時も、あえてパスを出して使う。シャドーの選手がバイタルのところで良い角度を作って顔を出している時は、積極的にパスをつけるようにしている。
 こういうプレーは、以前は選択肢としてはあったけど、使ってなかったところ。そこを使ってもあんまり意味がないだろうって思った時は、ずっと自分でボールを保持していたんです。それが減りました」

 今までよりひとつパスを多く出すことによって生まれる効果は、受け手のストレス解消ばかりではない。相手ディフェンスも対応せざるを得ず、結果的に攻撃の駆け引きに変化が起こった。

「縦にパスを入れることによって、相手の守備の陣形が変わってくるので、変わった時にサイドの選手を使ったり、自分が飛び出したりっていうのができるようになった」

 ボールのある最前線での動きにバリエーションが増えている。一方、受け手側にポジションを移した時に意識していることは

「シャドーの時は、ボランチだったり、ディフェンスの選手からパスを引き出す場所がかなり重要だと思うので、ポジショニングを一番大事にしています。相手のバイタルエリアで引き出して、前を向いてパスを出したりっていうところを。
 守備の時は、前からしっかり追うと、ディフェンスの選手は取りやすくなるんでそういったところですね」

 元々は、長くボールを保持し、タッチ数を多くして自分とチームのリズムを作り出す、ポゼッションサッカーを好むところがあった永木選手。その点で少し趣の異なる湘南スタイルについては、どう思っているのだろうか?

「去年はソリさん(反町前監督・現松本山雅FC監督)がそういうスタイルだったから、バルセロナだったり、完全にポゼッションスタイルのチームのゲームをよく観せてくれていたんですけど、曺さんはドルトムントとか、ドイツの攻撃的なサッカーが好きなんで、そういう試合を観るようになった。そうしたら、そういうサッカーも魅力的だなって思うようになりました。
 自分はポゼッションが好きなんだと思い込んでいたけど、曺さんが『サッカーはこれだけじゃないから』って言って、戦術も変わった。実際に勝っているし、効果的な戦術なんじゃないかと思います」

 同じボランチのポジションにいても、昨年に比べるとボールへのタッチ数はあきらかに減っている。

「ボランチだったら特にディフェンスとディフェンスの間に出すことが一番効果的だと思うんで、そういうパスが通ってチャンスに繋がるのは、本当に楽しい。効果的なパスは、今年のほうが多いと思う」

 スタイルの話の締めは、「どっちのスタイルもおもしろいです」という言葉。その言葉が象徴するように、順応性高くどんなスタイルも自分のものにしていく。成長への意欲に、限界はない。

高山選手とは“あうんの呼吸”で
活かし活かされるプレーを

 大学4年生の2010年シーズン時に特別指定選手として11試合に出場し、J1の舞台で存在感を発揮した選手だけに、長く在籍しているような気がするが、まだプロ2年目。

「1年は短いですね。今シーズンも始まって、ここまできたのもあっという間だったし、プロに入って2年目も終わろうとしている。そう考えると本当に早い」

 今季は、チームのキャプテン・副キャプテンがキャプテンマークを腕に巻いているが、シーズンを通しての慣例を覆して、36節の熊本戦では永木選手がゲームキャプテンを務めた。

「曺さんからも『最近少し責任感が出てきて良くなっている』って言われていたので、少しは認められたっていうか、それがすごくうれしい。そのままで終わってしまうんじゃなくて、これを続けていくことが大事だなと思っているんで、1回マークを巻いたことに満足しないで、そういう気持ちを維持しつつ、プレーの質を上げていきたいですね」

 精神的な部分での成長には、あまり自覚がないという。しかし、若いチームの中での立場は理解している。

「今年はチームが去年よりも全然若くて、僕がもう真ん中くらい。試合に出ている11人だと、上から数えた方が早い時もあるんで、そういう時はやっぱり、精神的に引っぱっていくほうに変わってる。去年は、人任せというわけではなかったけど、引っぱってもらっているところがあった。
 それにプレーでは、去年より良くなったっていう“成長している感”があって、最近特にそれを感じます。
 メンタル的にも落ち着いてきたし、ボランチはしっかりプレーすることが一番大事。僕は、“しっかり”っていう言葉を使ってますけど、本当に“しっかり”プレーすることが大事だと思う。プレー面も、去年よりできていると思います」

 気になるのは、どうしてもまだ、1年の長いシーズンの中で、不調の波に飲まれてしまう時期があること。今シーズンもチームの不調と同時に自身の不調を経験した。

「一時、連勝したあと、なかなか勝てなかった時期があって、その時は、自分自身の調子が今年で一番悪かった。そこからちょっとずつ良くなって、今はだいぶ良くなっていていると思います。
 悪い時はまったく身体が動かなくて足が止まってしまう。悪かった時は本当に歩いている時間が多かった。良い時と悪い時の動画を見比べると、本当に足の動きに差がある。自分はやっぱり動き回ってなんぼの選手だし。そういうのを教えてくれたのも曺さんですね。
 良い時は、身体が勝手に動く。『行かなきゃダメだ』と思っていく時と、自分から『行こう』って思う時とでは、疲れ方が全然違う。最近は、『行こう』と思ってプレーしている時が多いから、その後もしっかり戻れるし、ボールが来たらセンタリングで終わったり、パスやシュートで終わったりできる。気持ちひとつで全然違います」

 調子が良い時の目安となるのが、豊富な運動量とチームへの献身的な姿勢を象徴するプレー。

「90分間のうちに何回も行くのは大変ですけどタイミングを見計らって、薫(高山)を外から追い越していくと、敵を引き連れて薫のスペースを空けることもできるし、逆にオーバーラップしてボールをもらってセンタリングも上げられる。薫の選択肢も広がる。そういうプレーが好きですね」

 このプレーに限らず、高山選手と絡んだ時には特に、あうんの呼吸を感じさせる。

「長い間、一緒にやってるので。薫は、カットインしてシュートも打てるし、僕も使えるし。やりやすいですね。薫にボールが渡った時の、あの角度が一番回りやすいですね」

 お互いの良さを知り尽くしたプレーは、スタジアムを大きく湧かせるが、

「最近ちょっといろいろ研究されてきている。でもそれを越えていかないと」

 得意のプレーを抑え込まれるのは、警戒され、認められている証し。好調と語る今こそ、相手を上回る成長を期待したい。

“GET3”のために
目の前の試合だけに集中していく

 永木選手にとってスタイルよりも何よりも、こだわっていることがある。それは、勝つこと。

「やっぱり勝負事なので。それに自分も負けるのが本当に嫌いな性格だし。自分の出来が悪くても、勝てばうれしいし、逆に自分の出来が良くても、負ければ本当に悔しい。やっぱり勝つことが一番うれしい」

 特に今年は、17勝13分7敗と勝ち星が先行している。勝つことの楽しさと喜びを覚え、勝利を糧に成長してきたシーズンだ。それだけに3連敗はショックだった。

「3連敗は今シーズン初めての経験だったんで、試合が終わった直後は個人的にもチーム的にもちょっと下を向くところはあった。
 特に熊本戦は、ああいう形でやられるのが今シーズンは初めてだったし、流れ的にはうちに傾いていた。選手も逆転して終わろうっていう雰囲気があった中で、完全に崩されたわけじゃなくて、自分たちのミスからの失点してしまった。あの瞬間はですけど、さらに脱力感が大きかったですね。
 でも、いつもオフをはさんだ週のはじめの練習から、切り替えていこうっていう形でやっているんで」

 3連敗したが、特に直近の2試合は、内容が悪かったわけではない。むしろ主導権を握って押し気味にゲームを支配していた。ただ、決めるべきところで決められずに、ワンチャンスを拾われて敗戦を喫している。

「良い流れの時にやっぱり最後のフィニッシュの場面とか、パスの精度、シュートの決定力だったりとか。今、曺さんが一番言っていることですけど、そういうところが課題だと思うんです。そういう最後、得点に繋がる前のプレーだったり、フィニッシュだったりは、もっと質を上げていかないと。
 このままでは、仮にJ1に上がれたとしても、翌年にまた戻ってきちゃう可能性の方が大きいと思う。そういうところを突き詰めていかないと、この先、チームとしても成長できないと思います」

 常に上位に顔を出してきた今シーズンではあるが、選手たちは何位にいても、「今は順位は意識しない」と言い続けてきた。しかし、残すところ5試合となれば、意識せざるを得ないのが実際のところだ。

「やっぱり日本で一番高いレベルのリーグだし、当然だけどそこでやるのが一番の目標。そこでやっていることが一番楽しいと思いますし。その舞台で、自分がどれだけできるかを試したい。特別指定の時に少し出られましたけど、その時と今は違うから。
 J1は、スタジアムの雰囲気も全然違うし、その雰囲気の舞台で、今の自分がどれだけできるのか、チャレンジしたい」

 高みを目指す歩みは、一歩一歩。

「3連敗した時、自分の中にやっぱり少し、『今日負けたら、下との勝ち点差が縮んでしまう』という気持ちがあったと思う。そう思って負けているんで、今は他のチームのことは考えてもしょうがない。今までと同じように目の前の試合だけに集中して、“GET3”を信じて、戦っていけば結果がついてくると信じてます」

 天皇杯の3回戦では、一足早くJ1リーグのチームと対戦した。その相手は、昨季の王者、柏レイソル。ピッチに立った選手たちは、自分たちのスタイルで堂々と勝負を挑み、強い相手と戦う喜びを身体中で表現しながら戦っていた。アディショナルタイムに勝ち越し点を奪われ敗戦を喫したが、その戦いぶりには、来季へ繋がる可能性があふれていた。
 その可能性を現実にする最初の一歩、まずは甲府戦での“GET3”を成し遂げたい。

取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行