ボイス
【ボイス:9月29日】古橋達弥選手の声
「勝ち点3に、こだわる」。
この言葉を道しるべに、開幕前からぶれることなく、
戦い続けてきたリーグ戦も残すところ7試合となった。
新しい指揮官が志向するスタイルも浸透し、
若さと勢いばかりが目に付いた開幕当初とは見違えるほど。
選手一人ひとりの成長もまた、著しい。
そのチームの成長を支えたのは、ここぞと見込まれたベテランたち。
今季加わった古橋達弥選手もそのひとりだ。
得点に絡むのが自分の仕事
どんな時でもゴールにこだわる
開幕前、大倉強化部長は古橋選手を獲得した理由として、「ゴール前の落ち着きは、若手の手本になる」という要素を挙げた。もちろんそれは、たくさんの理由の中の小さなひとつにすぎない。しかし、才能に恵まれた若手選手たちの多くは、ゴール前まで行くプレーのアイディアは豊富でも、いざシュートの時に力んだり、あわてたりして、結果的にシュートを外すことが多いのも事実。そういった若手たちに、見て学ばせようという狙いだ。
「シュートは、まず自分が狙ったところにしっかり蹴る技術がないとだめなので。どんなにバランスが崩れたとしても、そこに持っていける力が必要。あとは、ちょっとした余裕がないと。余裕と思いっきりの良さ、そんな感じですね」
古橋選手自身、やはり“余裕”を意識していた。気持ちの余裕が結果として得点を生んでいる。それに加えて、もうひとつ。
「観る側は、ボールが行ったところをずっと観てると思いますけど、選手は、ボールのないところでいろいろ動いているし、駆け引きもしている。得点をよく取る選手は、そういう駆け引きがうまいですね。J1でいえば佐藤寿人選手とか。ゴール前での駆け引きがすごく上手いから、あれだけ点が取れてるんだ思う。ディフェンスからしたら多分、そうとう捉まえづらいんですよね」
どこにポジションを取ろうと、攻撃の要の選手として、得点という結果にこだわり続けてきた。
「自分の良さはゴール前に入っていくことだと思っているし、そういう場所でアシストとかシュートとか、点を取る、絡む、そういうのが僕の仕事。それプラス、自分がベテランとしてやるべきことがあると思う」
今シーズンからの加入だが、走りきるアグレッシブなサッカーと相まって、若さが印象的な今季のベルマーレにおいて、要所要所を締める役割を担って、今やその存在は欠かせない。
「曺さんのサッカーは、考え方がすごく攻撃的ですよね。高い位置からプレスをして相手のボールに仕掛けていく。ボールを奪ってショートカウンターだったり、カウンターをしたり。自分には、結構向いてると思うし、やりやすいですね」
曺監督が最も神経を使って組み合わせとその効果を計算する、3-4-3の、前の「3」が定位置。誰と組んでも人を活かし、自分も活きるプレーを信条としている。
「前線でうまく起点になってタメを作ったり、相手にとって危険なところへ顔を出したりしていくのが仕事だと思います。それと、このチームではディフェンスもしっかり求められるんで、前から守備をしてコースを限定することですね。
大事にしているのは、ポジショニング。トップの選手やサイドハーフ、ボランチと良い距離感を持つことで、ボールをうまく動かしたり、攻撃ができて、ワンツーだったり、3人目の動きで飛び出したりっていう動きができると思ってるので、距離感や動き出すタイミングはすごく大事にしてます」
監督から求められているところと自分のプレースタイルが一致しているのも、やりやすいと感じている大切な要素のひとつらしい。
「得意なところは、相手が見てない時に動き出して裏に飛び出してボールをもらうようなプレー。相手の裏をかいて、それによって攻撃にアクセントをつけることができれば良いと思う。
実際には、もっと危険なところ、例えばシュートやラストパスを出すような、相手のゴールに近い位置や、空いているスペースにどんどん入っていくということをもっともっとやっていかなければと思います」
また、プレーエリアは広く、時に中盤まで下がってチームにリズムをもたらすのも古橋選手らしさ。
「基本的には前で仕事をした方が良いんですけど、リズムを作りたい時は、ちょっと下がってボールを触ることはあります。チームのためだったり、自分のためだったり。それに、パスを出すところがない時は、パスコースを作ってあげるのが大事だと思うんで、ちょっと下がったりしますね」
アグレッシブな勢いが、時に余って前がかりになりがちなチームの中で、バランスを取るプレーが光る。そのプレーを支えるのは“感覚”だという。
「視野は狭いほうなので、あんまり周りは見えてないです(笑)。視野というより、大事な時に大事な場所が見られるという感覚が必要ですね。周りのことは、別に必要ない時は見なくていいわけで。味方が動き出しているのにそこが見えてないと、チームとしてマイナスになってしまう。
まだまだ見えてないほうだと思いますけど、実際には、見てもらうほうだと思います」
使われる側としてのプレースタイルを強調するが、セレッソ大阪時代はミッドフィルダーとして登録され、実際にゲームメイクを担っていたこともある。
「両方できるのが一番良いですね。でも、どこをやっても自分は攻撃的な選手だから、求められるところは、やっぱりゴールしたり、アシストしたりという、結果に結びつくようなところだと思います」
現在、35試合中、31試合に出場中。大事な試合の時ほど頼りになるのは証明済みだ。
うまくなりたい
その気持ちが支え
古橋選手といえば、サッカー選手としてのスタートがプロではなく、JFL所属のHonda FC出身であることも有名な話。ある意味、サッカー界のサクセスストーリーの持ち主でもある。
「高校を卒業する時は、プロになりたいという思いはありました。でも受からなくて。そのあと、本田に入ってからは、ここで頑張ろうという気持ちのほうが強かったですね。もちろんサッカーをやっていたんで、もっとうまくなりたいという気持ちはありましたけど、プロは『なれたら良いな』くらい。『何が何でも』っていう意識はなかったですね。だから、そういう話が来た時は、行くかどうかすごく迷いました。サラリーマンを辞めて行くわけなので、リスクもありましたし」
Honda FCに入団した翌年から4年連続で日本フットボールリーグベストイレブンに名を連ね、リーグ戦をフルに戦った最後の年の2003年には29試合で31得点を挙げ、得点王を獲得している。
「ずっとサッカーをやってきて、サッカーが好きだったし、高校もサッカーで入ったし、本田もサッカーで入った。高いレベルで勝負をしたいという気持ちもあって、人生一度だし、そういう良いオファーがあったら勝負するしかないなと思って自分で決めました。後悔はしてないし、今も試合に出させてもらっているんで、そういう意味で間違ってなかったかなと思います」
JFLからJ1のセレッソ大阪へ。アマチュアから一気にトップリーグへ駆け上がった。
「レベルが全然違いましたね、個人のレベルがまず違いました。レベルアップするために、本当に日々の練習から集中して、自分の良さをしっかり出しつつ、レベルアップできるように頑張って。というか、それぐらいしかできなかったですね」
J1リーグの大会方式が2ステージ制だった2004年、ステージの合間に移籍し、2nd ステージは出場停止の1試合をのぞいて全試合、ほぼフル出場を果たした。しかも、翌年にはJリーグベストイレブンにも選出されている。
「あの時も、味方の選手の助けがあって、うまく活かされたおかげで選ばれたと思います」
セレッソでも、その後移籍したモンテディオ山形でも、J1からJ2への降格も昇格も経験している。そして再びベルマーレでJ1を目指す。
「本当にサッカーは楽しいし、単純にうまくなりたい、そういう気持ちはずっと変わらないし、持ち続けることができてるからこそ、やっぱり続けられていると思うし、モチベーションも高く維持できていると思ってる」
年齢を重ねても変わらない向上心。いや、むしろ年齢を重ねてより理想が明確になって、向上心に磨きがかかっているのかもしれない。
日々レベルアップを目指して
1試合1試合に全力で
「サッカーは楽しいけど、うまくいかないプレーのほうが多いんです。自分のプレーが不甲斐なくて情けない気持ちになる時のほうが多いんですね。だから続けられているのかな、と思う。満足したら、終わりだから」
日々の努力の成果を観せる公式戦。それは、自分自身にもその成果を問う機会だ。
「基本、ミスは全部ダメなプレーです。パスミスもダメだし、ボールを取られてもダメ。積極的なミスは良いとか言いますけど、ボール取られたら悔しいし、結果的にパスミスになったらやっぱりダメだと思う。
それは、みんなそうだと思いますよ。ミスして『まあ、いいや」と思ってる選手はいないと思う。みんな悔しいから練習してるんだし、うまくなりたいと思ってる」
古橋選手が考える良いプレーとは、
「得点に絡むあたりは、結構良いプレーですね。得点はもちろんですけど、アシストしたり、得点を生み出すようなプレー。そういうプレーは、頭に残る」
90分間試合に出たとしても、選手がボールに触るのは多くても1~2分だという。残りの89分は、相手選手と攻防を繰り広げる中、意識は常にゴールに向けて、頭をフル回転させてボールに触れる瞬間に備え続ける。良いプレーと情けないプレーを分けるのは、その時の“判断力”だと古橋選手は語る。
「判断というのは、本当に一瞬。その判断がなかったら得点に至ってなかったとか。良いと思って選択してダメな時もあるし、結果的にうまくいったからそれはそれで素晴らしいプレーになるっていう時もあるし。そこは難しいんですけど、その判断を楽しむっていうのもすごく大事だと思うんです。
例えば何個も選択肢があれば、やっぱり迷うじゃないですか。『どこを選択しよう?』って。でもそれは、それだけ観ることができているっていうことだから、本当は良いこと。それができる選手にしか、その判断を楽しむことはできないし。自分の判断が良いか悪いかは、結果として出てくるし。判断は大事ですね」
曺監督は、「戦術を豊かにするのは選手たちの判断」と、常々語っている。オートマチックに動くべき決めごとを全うした上で、選手一人ひとりの戦術的な判断が加わると、そこにスタジアムを湧かせる“らしい”プレーが生まれる。チャレンジ精神と自分と向き合う向上心が成長の鍵を握っているのだ。
「ミスをしないっていうのはなかなか難しいんですけど、でもそのミスをちょっとずつ減らしていかないと、より高いレベルのサッカーには近づけない。逆にそれでミスを恐れて怯えててもしょうがない。そのバランスは難しいんだけど、チャレンジしていく中でできるだけミスを減らしていけるのが一番いいと思います。
実際、ミスは減らせると思いますよ、一人ひとりの意識で。練習中からそういうことしっかり意識してパスを出せるかどうかとか。何も考えずに適当にキックするのと、しっかり見て考えて出すのとは全然違いますから、意識の問題もあると思います。
今やってるサッカーでもっと高いレベルにできれば、相手にとってももっと脅威になると思うし、そこは追求したいですよね」
また、質にこだわったプレーを意識し、より高いレベルを追求しなければいけない、そんな覚悟をしないわけにはいかない順位にいる。
「今、すごく攻撃的なサッカーをやってるし、それをこれからもしっかりとレベルアップしつつ、レベルの高いものをみんなに観てもらえるように、選手が一人ひとり頑張っていかなきゃいけない。そういうサッカーを観てもらって、ちょっとでも勇気だったり、そういうものを感じてもらえたらすごく嬉しい。とにかく1試合1試合全力で戦う姿を見てもらいたいと思います」
取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行