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【ボイス:6月1日】鎌田 翔雅選手の声

コンパクトフィールドを実現するために、3バックが高い位置にラインを設定する今季のベルマーレ。その右サイドを主戦場に、ほぼ全試合に出場している鎌田翔雅選手。172cmの身長は、最終ラインを守るディフェンダーとしては、少し頼りない印象だが、試合が始まると、カバーリングのうまさや1対1で強さを発揮し、光るプレーを見せる。目に見えてたくましさを増した成長ぶりには、自分を変えようとする、強い意志があった。

選手一人ひとりの持ち味を活かす戦術で
チームが一致団結

「1試合1試合、勝ち点3にこだわる」と監督が目標を掲げたシーズンに、9試合負け知らずの後、2連敗を喫し、その後5試合引き分けが続いている。この結果を、どう捉えるか?

「開幕してからずっとサポーターの方々の声援が、本当に今のチームの力になっている。2回しか負けていないというのは、サポーターの声のおかげで追いついたり、試合をひっくり返したという結果。そういう応援をずっと続けてもらえるように、気持ちの入ったプレーをしていきたい」

 引き分け続きとはいえ選手たちは、この5試合の中で確かな手応えも感じている。足りない何かにもどかしさを覚えながらも、オフ明けから積んできた身体の準備と心の葛藤を振り返れば、この躓きも未来への糧といえそうだ。

「シーズン前の練習試合では、メンバーも戦い方も少し変わったこともあって、不安なこともあった。メンバーも固定されなかったので、連携の部分とかも心配はしていたし。前評判もあまり良くなくて、『見返してやろう』っていう気持ちはあったけど、だからと言って開幕から8勝1分というような結果が出るとは思わなかった。開幕前は、自分たちがどれくらいできるかというのもあって、楽しみであり、不安でもあった。どちらかと言うとちょっと不安でした(笑)」

 下馬評を覆して拮抗した試合を展開した開幕戦、アディショナルタイムの勝ち越し点は、チームに勇気と勢いをもたらした。

「あの試合で勝てたことがチームに勢いをつけたと思います。
 京都(サンガF.C.)には、去年3回やって3回負けている。僕としては絶対負けたくない相手。相手が京都ということと、開幕戦ということもあって、気持ちの部分は、すごく高ぶっていた。そういう気持ちがチーム全体として良い流れに持っていけたんじゃないかと思います」

 監督が代わり、湘南スタイルにいっそうのアグレッシブさが求められる今シーズン。曺監督は、全員が戦力と語り、シーズンを3分の1消化した今も、誰彼区別なくさまざまな組み合わせで練習が行われている。こうした練習の中で選手を固定しないことのメリットもある。

「曺監督は、僕の良さをすごくわかっている監督だから、持ち味をうまく出してくれている戦術だと思う。チーム一人ひとり、みんなの良さも出てきていると思うし、良さがわかるようにもなった。練習はすごくきついけど、信じてやっていけばきっとうまくいくと思う」

 今シーズン、練習のきつさは、選手の誰もが口にするところ。しかし、その練習を積んでいることこそが、状況に左右されずに前を向ける理由ともいえる。

「今までは、フィジカルトレーニングというとボールを使わないで走るというのが多かったけど、今年はコートをすごく狭くして、人数も減らしたゲームをやる。それを休む時間を短くして何回も連続して行ったりというメニューがすごく多い。
 長い距離が走れるというより、試合に必要なものが全部入った練習で、常に試合よりきついんじゃないかって思いながら練習している。そういうことも試合に反映されていると思う。
 ホント、サボる選手がいないんです。一生懸命に取り組んで、集中力もある。みんながサッカーに対してまじめだから、さらにチームとして団結してやれている感じ。本当に良い練習ができているし、これからも続けていかなきゃと思っています」

 積み重ねた練習への自信が自分を信じる気持ちをより強くする。切磋琢磨する仲間への信頼も厚さを増して当然だ。

攻撃大好き!
前線へ上がる時は仲間を信じて気持ち良く

 今シーズン、ほとんどの試合で3バックの一角を担っている。

「持ち味を出せているんじゃないかなと思います。今でいうと、スペースがすごく多いので、そういうところのカバーだったり、1対1は自信を持っているところです。後はスピードでうまくカバーしたり、前に出ていくタイミングというのは、自信を持ってやれていると思います」

 最終ラインからタイミング良く駆け上がる鎌田選手の“らしさ”を主張する姿は、スタジアムのボルテージを一気に上げる。

「攻撃は大好きですね。上がるタイミングがなかなかないと、試合の途中でうずうずします。だからチャンスがあったら、気持ち良く上がります。航(遠藤)、カズ(大野)、シマさん(島村)、ヤマさん(山口)は大丈夫だろうと、勝手な思い込みがあるので、行かせてもらっています。でもチームなので、守備をしっかりやることを頭に置きながら、チャンスがあれば攻撃にいくという感じです」

 今、こだわっているのはチームで結果を出すこと。

「今年の目標だった全試合出場はなくなったけど、1年を通して試合に出たことがないので、それにはすごくこだわっている。あとは、アシストだったり得点は常に意識してますね」

 特に得点については、並々ならぬ思いがある。

「プロに入ってから点を取ったことがないので、早いうちに取りたいなと思っています。今年はチャンスがあると思うので、今年とりたい。
 3バックのカズも航もシマさんも点を取っているので、ちょっとヤバいって思ってます」

 鎌田選手の攻撃参加は、最終ライン同士の結束があればこそだがもうひとつ、タテの関係の選手との信頼も必要だ。
 右サイドハーフといえば、主に古林選手が担うことが多い。このタテのコンビネーション、実は、開幕前に鎌田選手を悩ませた関係だった。

「僕としては将太を前に出したかったけど、将太は将太で、4バックのサイドバックのイメージがあったみたいで、守備に気を使ってちょっと引いてくる。将太は、サッカーに関してはすごくまじめで、僕が言わなくてもやってくれるんです。それで、将太を前に出すタイミングだとか、プレスに行かせるタイミング、後に戻すタイミングというのに、僕に迷いがあった。
 それで、思い切って後ろは全部自分がやって、前に出しちゃえば良いんじゃないかと思って、開幕前くらいから『どんどん出ていけ』って言ったら、ちょっと良くなって、今はもう、そんなに指示をしなくてもお互いにわかっている感じです。
 将太に出す指示は、自分がやりやすいようにやるためというのもある。僕としては、ラインをあまり下げたくないし、将太はすごく攻撃が良い選手だから、守備で体力を使うより、前で体力を使ってほしいので、できるだけ引き込まないで、後ろのスペースは全部自分でなんとかする、くらいの気持ちでプレーしています」

 古林選手のクロスの多さは、リーグでもトップクラス。その実績も鎌田選手のサポートがあってこそ。また、鎌田選手が上がるときは、必ずと言っていいほど、古林選手が守備に重きを置いたポジションをとる。ディフェンダーたちの攻撃参加は、互いの信頼があってこそのプレーだ。

守備の感性を磨いてより上をめざす
ヒントをもらった千葉時代

 広いエリアをカバーする鎌田選手の守備の感性は、ゲームの中で何度か驚きのプレーとなって表現される。例えば15節の栃木戦、同点に追いついた直後の79分、戻りきれない隙を突かれて決定的な場面を迎えたシーンで、高木選手の狙いすましたシュートをゴールキーパーの後ろでクリアした。

「すごく意識しています、そこは。かなり気を使ってるというか。常に試合前に危機察知ということを自分でしっかり意識して、次にどこに流れるとか、あそこに行かれるとマズイんじゃないかとか、常に考えながら、その先をイメージしながらやっています」

 鎌田選手の身体を動かす源のひとつは、コーチングスタッフから伝えられるスカウティング情報。そしてもうひとつ。

「なんて言ったらいいのか…、試合をやっている時に自然と『こうなったらヤバいんじゃないか』ということが、パッと浮かぶ時があるので、そこで勝手に自分が動いたりしています」

 つまりは、第六感。

「たまにそういうこともあります。でも、そういう時は、何事もなかったように済ませるんですけど、自分の中では『よっしゃー!』って思ってます(笑)」

 実はこの感性、意識して磨いたものだった。

「期限付き移籍で千葉(ジェフユナイテッド市原・千葉)に行っていた時に、マーク・ミリガン選手が危険なところに入っていくスピードが尋常じゃなかったんです。その時に、千葉のコーチと一緒に何度もビデオを観て、『これを身に付けられたら良いんじゃないか』って話して、そこからすごく意識するようになりました」

 試合の流れを変えるのは、攻撃面と思われがちだが、今シーズンのベルマーレは守備で流れを呼び込むシーンも数多く見受けられる。そういった質をめざしたプレーを意識している。

「自分がシュートを防げば、当たり前だけど失点することもないし、そこで流れが変わることもある。自分が守れるならどんな場合も、キーパーの後ろまで入ってカバーする。とにかく最後、ゴールを割らせなければいいんだから、そこを意識して、練習からやりました」

 今、コンスタントに試合出場を重ねているのは、千葉での経験があればこそ。

「すごく良い経験ができたと思っています。人から盗むものってあるんだなって。うまい人から技術を盗むって言うのは普通にあることだけど、攻撃面とか、守備なら1対1の時の身体の使い方とかは見ていたけど、そういう危機察知という面もあるんだなと思いました。危機察知って、外から見ると『なんで、こいつがここにいるんだろ?』という感じだと思うんですけど、ミリガン選手を見ていたら、それを意識しているんじゃないかっていうプレーが何回もあって、『この人、違うな』と思った」

 足は速く、1対1にも自信はある。フィジカル面を補う身体の使い方とクレバーさも持ち合わせているが、それだけでは平均的なところから抜け出すのは、難しい。

「それができるようになったら、さらに上に行けるんじゃないかと思ったから。観ている人からしたら、ピンチを防げて良かったと思うだけかもしれないけど、僕からするとそれを防げることで、チームに貢献することになる。これからもやっていかなければいけないと思う」

 ところがこの第六感、発動する時となかなか目覚めない時があるそう。

「自分のコンディションがすごく良い時とか、試合にものすごく集中して入り込んでいる時は、ホントに相手がこの後どう動くっていうのがわかる時もあるし、イメージで『ここにボールがくるかもしれない』っていうのがわかって身体が勝手に動く。だけど、そこに到達できない時もあるし、なかなか入れない時もある。できるだけ早くスイッチを見つけて、常にオンの状態にできるようにしたいです」

“変わらなきゃいけない”
決意と行動に訪れた結果

 経験を自信に変えて、たくましさを増している。その成長がわかりやすく目に見える選手だ。試合出場を重ねている今年は特に力強い。そこには、自分で意識して変わろうとした努力があった。

「昇格した年(2009年シーズン)に、試合にあんまり絡めなかったから、自分を変えたい、変わらないといけないと思った。そこに千葉からオファーが来て、これはもう修行してくるしかない、と。新しいところで勝負をした方が自分のメンタル的に頑張れると思ったので、思い切って行きました。それと正直、千葉の方が試合に絡めるかもしれないというのもありました」

 J1に上がったチームに残ることもできたが、あえて別の環境を選んだ。

「結果的に、行ってすごく良かった。
 千葉の選手はみんなポゼッションがすごくうまくて、そういうところでプレーできたので、ビルドアップに関しては、今できているのは千葉のおかげだと思っています。
 僕が出会ったコーチは、毎日練習につきあってくれるような人だったので、反復練習というか、地味なことを毎日繰り返せた。それで今の自分がある」

 ジュニアの頃からのベルマーレ育ち。初めての移籍は、メンタルの成長も促した。

「人見知りなところも若干あったので、そういう中では頑張りました。サッカー以外のところでも成長できたと思います」

 千葉での経験が自分の中で消化され、身になったのがたぶん昨年の終わり頃。自分でも自分の変化がわかるようになってきた。

「千葉から帰ってきてから多少自信はついたんですけど、それより去年のシーズンの終わりくらいから、試合でも緊張とかもあまりしないで、焦ることもなくなった。
 それまではまだ、自分がミスしてピンチになったら『ヤバい』と思って、それで負けたりしたら『あー、やっちまったなー』と落ち込んでいたんです。でも今は、『俺を選んだのは監督だ』って開き直ってプレーできるようになりました(笑)。
 それに、海外のサッカーを観るようになって、『あの落ち着き、ハンパじゃないな』と思った。そんなに力のないチームでも、相手がバルセロナやどんな強豪でも、ビビってプレーしている選手なんていない。逆に相手を食ってやろうくらいの気持ちでやっているのを観て、なんかそこで悩んでいる自分がすごく小さいと思ったし、相手がすごいからって、自分はできないっていうより、ミスっても良いからとにかくがむしゃらに、自分ができることを信じてゲームに入っていく。そういうことを身に付けようと思ってから、余裕が出た。今は、やれるだろう、くらいの気持ちでいます」

 曺監督は、「人は変わらない」という。もし変化が訪れたとしたらそれは、変わったのではなく、眠っていたものが目覚めたのだろうというのが持論だ。そのロジックから言えば、鎌田選手が強さを発揮しているのも、目覚めの時を迎えたからだということになる。めざすところは

「一試合を通じて、変な緊張もなくプレーできるというのが前提で、そこはできるようになってきたので、もっとゲームを決定づけるプレーができるようになりたい」

 攻撃力もあわせ持つディフェンダーとして、眠っている可能性はまだまだある。まずは念願の得点シーンに期待したい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行