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【ボイス:4月21日】古林 将太選手の声

 開幕して約2ヶ月、フレッシュな顔ぶれが名を連ねるスターティングイレブンや、リーグでも群を抜いて若い平均年齢にも慣れてきた今、8試合の戦いぶりから、今シーズン、チームがめざす方向性も具体的に見えてきた。
 「守備も攻撃もできる限り相手陣内で行なう」というコンセプトは、すべてのポジションにハードワークを要求する。中でもサイドハーフは、攻守両面において湘南スタイルの鍵を握るポジション。1年の期限付き移籍を経験してベルマーレに戻った古林将太選手が右サイドを担う。
 武器は、ダイナミックな攻め上がりと果敢なドリブル突破。サイドを得意のエリアとする古林選手は、再び立ったベルマーレのピッチで何をめざしているのだろうか。切磋琢磨の日々を過ごしている。

キャンプから積んできたものが自信に
チームに浸透する意思統一

 攻撃へ、守備へ。スイッチは一瞬にして切り替わる。誰もが自分のタスクを理解しているから動き出しに迷いはない。一人の動きに連動して、次へのアプローチが滑り出す。
 どのポジションも攻守に渡って広いエリアをカバーする今季のベルマーレ。タッチライン際をテリトリーとする古林選手は、攻守に渡って繊細なバランスを保ちながら、最終ラインから最前線まで走りぬく。

「最終ラインまで戻って守備をして、攻撃のときはフォワードがいる一番前まで行かなきゃいけない。薫くん(高山)と僕のところは、そういうポジション。だからこそ、僕と薫くんは活きてくるし、やりがいがある」

 持ち味は、「前に出る力と戻る力」と自ら語る古林選手。ハードワークを課せられたポジションについても、大変さよりもやりがいの言葉を強調する。

「気持ちの問題だと思うんだけど、『そこら辺を走って来い』って言うのはあんまり得意じゃない。運動量はそんなにないんです。でもやっぱり練習や試合だとサッカーが楽しいですし、走ろうと思う」

 曺監督が今シーズン志向するサッカーは、ユースで指導を受けた経験のある選手にとっては馴染み深いスタイル。採用するフォーメーションに変化はあっても曺監督がめざすところは、ユースで指導していた当時から一貫している。

「僕はJr.ユースから見てもらっているけど、曺さんのサッカーは昔から変わらない。どんどん前から行く、やりがいのあるサッカー。翔雅くん(鎌田)とかガリくん(猪狩)もそうですけど、僕とか大介(菊池)は、結構慣れてます。相手陣内からプレスをかけて前から行く。ずっとこういう感じです」

 コンセプトは、攻撃も守備もできるだけ相手陣内で仕掛けるというシンプルなもの。しかし、それを実現させるためには統一された意識、約束事を誠実に実行する互いの信頼と一人ひとりの運動量が絶対的に必要だ。

「キャンプから積み重ねてきた自分たちのサッカーを見せられているし、それで勝っているから自信にもなっている。みんなそれぞれプレスをかけるポイントとか約束事はいろいろあるけど、このサッカーに対する意思統一はできている。それが今の結果に繋がっていると思います」

 8試合を終えて7勝1分。首位を走る。

「シーズンは長いし、42試合もあるから、負けることもあると思う。その負けをいかに少なくできるか。負けたときにどう修正していくか、そこが鍵かなって思う。チームとして、その経験がないことが少し怖いところでもある。でも、勢いだけでここまで勝てるチームはない。引き分けが1回あって、その時は危なかったけど、自信になっているもののほうが大きいです」

 試合ごとに成長が感じられるチーム。どんなときも全員で。未体験のシチュエーションを迎えるときが来ても、全員が前を向いて進み続ける、そんな姿が想像できる。

もっとクロスを上げたい
その気持ちが走る力に

 どのポジションも責任の重さに差はないが、サイドハーフの実行力は湘南スタイルを実現するための肝。守備に攻撃に常に関わり続ける。

「集中力が切れたら終わっちゃいますね、絶対。頭も身体も常に動いています。
 あのポジションは、得点とかアシストを意識しすぎると空回りしちゃう。守備に戻れなくなったりするんで、攻守の切り替えとバランスは難しいです。薫くんとも『あんまり得点にどん欲になりすぎてもダメだな』って話すんですけど。そこは曺さんも、『お前らのポジションは点に絡めるけど、すごく難しい。影の立役者だとわかってるから』って言ってくれるので」

 フォワードに限らず、さまざまなポジションの選手が得点し、毎試合複数得点を挙げる攻撃力が魅力のチーム。ほぼ毎試合の失点は気になるが、負け知らずで経験が積めているのも、今シーズンのチームの強み。古林選手は、守備面では「連携もポイント」と言う。

「前から守備をして、抜かれたらこうとか、プレスを駆けるポイントもいくつかある。もちろん他のポジションもそうなんだけど、サイドバックともフォワードともボランチとも関係をとらなきゃいけないから、難しい。
 守備に戻るタイミングは、ほとんど感覚。相手を見て、顔が上がっているとかそういうところを見ながら。先にポジションをとっているときもあるし、わざと出させてその出所を狙うとか、いろいろ考えてます」 

 守備のタスクを優先しつつも個性はきっちり主張したい。得意なのは、攻撃のほうだ。

「前のポジションの選手を追い越してクロスを上げたり、追い越してシュートを打ったり。それが持ち味だし、それができていることが運動量に出ていると思う。
 でも、まだまだ出せてないところも多くて。上がったときにもっと仕掛けられるのに、判断が遅くて相手にとられちゃったり、ドリブルしていけば良いのにクロスを上げちゃったり。シュートももっと冷静に打てば良いとか。やっぱり運動量が必要なポジションだから、攻撃のときに疲れちゃっていることもある。
 ただ、そういうところは、経験や慣れがあるから。去年も前半は攻撃に全然参加できなかったのに、後半は攻撃ばっかり、相手を抜いたりとかもすごくできていたから、今のポジションも経験を積めば体力的にも慣れて判断力も上がってくると思う」

 現在1得点。第2節、昨年在籍したザスパ草津を相手にゴールを挙げている。目標は、去年の1得点5アシストの記録更新。

「賢治くん(馬場)が持ったら斜めに走って前に行く。得意な感じです、あの形は。得点は、恩返しの意味もあって、絶対決めてやろうって思ってました。
 攻撃は、クロスを上げるときも僕がボール持ったら薫くんを見たり、薫くんも出してくれるし、良い関係でやってます。去年の記録は、抜きたい」

 湘南スタイルの攻撃の仕掛けのひとつとして、両サイドハーフが同時に高いポジションをとるシチュエーションは多い。実際、古林選手が今季上げているクロスの本数は、リーグでも屈指だ。曺監督曰く「駆け引きでそこまで持っていく力がある」。ただし、「質を上げる」という課題もあるのだが…。
 もうひとつ、気になるのは、他のチームから研究され、さまざまな対策が講じられている点。

「長いボールを放り込まれるのが一番大変です、あのポジションは。放り込まれたら戻らなきゃいけないし、攻撃するためにはそれをまた裏返さなきゃいけないし。
 (ロアッソ)熊本は、バンバン蹴ってきたけど、ガイナーレ(鳥取)は、繋いできて、予想と違っていた。相手の出方が予想と違ったとき、試合の中で気づいて変えるって言うのは、選手としてやらなきゃいけないことだけど、すごく難しい。ガイナーレ戦は、曺さんも早く指示をしてくれたし、選手も気づいて対応できた。練習でもそういうのを考えながら、やっていければと思う」

 曺監督は、シーズン当初から選手の判断を大切にしている。それが試合中に状況に応じた戦い方を選手がチームとして選択するという結果に表れている。監督の意図ある仕掛けと試合で積む経験が選手の成長に相乗効果を生んでいる。

さらに成長するために帰ってきた
このポジションは譲らない

 ルーキーとして加入したのは2010年。この年、チームはJ1リーグに復帰を果たしたが、苦しい戦いを続けていた。そんな中、古林選手は、ルーキーとして別の次元で苦しい戦いを経験していた。

「今は守備も嫌いじゃないんだけど、1年目のときは守備が大っ嫌いで、『イヤだ、イヤだ』って思いながらやっていたせいもあって、やられる場面が結構あった。J1というレベルもあったと思うんですけど、本当にボールは取れないし、相手は抜けないし。チームでポジションも取れないし、年代別の代表に呼ばれてはいたけど、試合にはあんまり出てなかったし。悩みどころばっかりで悩んでました」

 ポジション争いのライバルは、臼井幸平選手(現栃木SC)だった。

「幸平さんは、見ていて尊敬するくらいうまくて、『この人を抜くのは無理だー』って思ったくらい。ベルマーレユース出身だし、憧れの選手で、すごく勉強させてもらった。落ち込んでいたときに声もかけてもらったし。でも、実際はライバルだし、ライバル意識もどこかにあった」

 悩み抜いたルーキーイヤーを経て、昨年は、ザスパ草津へ期限付きで移籍。与えられたチャンスをものにして試合での経験を積んで帰ってきた。オファーを受けたのは、もちろんライバルを抜くため。試合経験を積むことが成長への近道だと感じていた。だからこそ、「試合に出られるのなら、他のチームへ期限付き移籍したい」と強化部長へも直訴していた。

「草津は、大介も行っていたし、良い話だと思ったので行かせてもらった。小学校3年生の終わりにスクールに入って、4年生からジュニアに入って、それからずっとベルマーレだったから、他のチームに行ったのは初めて。少し怖かったけど、みんなすごく良い人ばかりで、やりやすい環境でした」

 開幕戦に途中交替で出場し、その試合で副島監督からの信頼を勝ち取ると、その後は警告の累積による出場停止とベルマーレ戦以外は全試合に出場。攻撃の要として右サイドバックのポジションをがっちりつかんだ。

「草津は、ポゼッションサッカーなんですけど、クマさん(熊林選手)や松下さんがポゼッションしている間に僕がどんどん上がって、そうすると良いボールを送ってくれるんで、そこからチャンスができた。副島さんも『ほとんどお前のところからチャンスになってる』って言ってくれて、使ってくれた。草津のスタッフの方から、『去年の試合のビデオを編集したら、お前しか出てこない』って言われました。うれしかった」

 磨かれたのは、攻撃面ばかりではない。嫌々やっていた守備についても、スキルのみならず、その奥深さに触れて、急速の進歩を遂げた。

「ディフェンス面は、めちゃめちゃ怒られて、残り錬とかもやって、すごく勉強させてもらった。それでディフェンスもおもしろいなって思えるようになって3年目の今、前に行ったり、後ろに下がったり、連続してできるようになった。そのおかげで今のポジションができてると思う。本当に感謝してます」

 1年間リーグ戦にほぼフル出場して成長を実感していただけに、ザスパ草津への思い入れは相当あった。それでも帰ってきたのには理由がある。

「やっぱりチャレンジ。成長したいから。何を選べば一番成長できるかを考えて、『ポジションを取れなかったチームに戻って、ポジションをとってやる』と思って帰ってきました」

 ベルマーレに戻ってきた今、憧れの選手がつけていた背番号を背負う。しかし、そこに気負いはない。

「すごい偉大な番号だけど、やってやろうっていう気持ちの方が大きかった。最初に『つけるか?』って聞かれたときも、悩んだのはちょっとだけ。すぐ『つける』って言いました。最初はすごく重かったけど、試合に出るにつれ、『5番は古林だ』って言われるなりたい気持ちが強くなってきてるので、積極的にいけてます。
 でも、たまに『あ、5番だ。もう5番つけてる!』って、驚くことがあります(笑)。あんなに憧れていた人が付けていた偉大な番号なのにって。栃木との試合が楽しみです」

 若返ったこのチームで、他の選手にポジションは譲れない。それでは、「上には行けない」から。どんなに成長しても今の自分に満足することはない古林選手。チームとともに、進化の行方が楽しみだ。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行