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【ボイス:8月20日】菊池大介選手の声


期限付き移籍からの復帰を含め、17名の選手が新しく加入した今季のベルマーレ。ぐっと下がった平均年齢からは、チーム作りの指針のひとつに若返りというキーワードがあることが分かる。実際、リーグ戦を戦うスターティングイレブンを見ても、フレッシュな顔ぶれが並ぶ。
今回のボイスは、若返りを図るチームの象徴ともいえる選手に注目。下部組織出身で、その年わずか1試合の出場とはいえ高校1年生でリーグ戦デビュー、昨年はザスパ草津へ期限付きで移籍し、20歳ながらプロ3シーズン目を迎えた菊池大介選手に話を聞いた。

準備が導く結果の違い
それをひたすら意識して

 今季、攻撃的な選手の中で全試合に出場しているのが唯一菊池選手。初ゴールを決めるまでには思ったより時間がかかったが、それでもどの試合でも誰よりもシュートを数多く打ち、意識高くゴールを狙ってきた。

「そこは、去年意識し始めました。草津でやった1年は、4得点だったんですけど、1対1だったり、チャンスがすごくあった。終わってみて考えると、チャンスの数からいったら、10得点以上は取れていたと思う。そのたくさんあったチャンスをつぶしてしまった。シュートは打たなきゃ入らないということを意識しました。そこからシュートにこだわって、去年の終盤から今も、シュート練習などいろいろ見てもらいながらやっています」

 プロ2年目になるとはいえ、高校を卒業し、サッカー一筋で集中できるようなった最初の年であり、チームはJ1の舞台を戦うことになっていた昨年に、ザスパ草津へ移籍したのは意外だった。

「自分もJ1でやりたいという気持ちは強かったんですけど、2009年はあまり試合に出られていなかったということもあったし、気持ちやプレーの部分、また人間的な部分で、自分に甘さがあるということを感じていました。話を聞いた時、自分の気持ちはすぐに『行こう』と決まりました」

 18歳の選手が向き合った、「自分の甘さ」がどんなものかというと

「菅野さんが監督のときによく『リバウンドメンタリティ』と言っていましたけど、落ちた時にまた這い上がっていく気持ちだったり、自分が試合に出られなくてうまくいかない時の練習に対する意欲だったり、姿勢だったり。あとはサッカー以外のところでの人間関係だったり、そういう部分の甘さです。草津は、知っている人が誰もいなかったから、そういうところに身を置けば成長できるんじゃないかという考えはありました」

 サッカースタイルにも影響を受けた。縦に速いサッカーを標榜していた2009年のベルマーレと比べ、草津は、ポゼッションを大切にするスタイルだ。

「自分は、ポゼッション能力がすごく低い。ザスパは、そういうところを長所にしているチームだったので、最初はすごく戸惑ったし、パスの練習からチームの練習についていくのに必死だったんですけど、そういう部分をすごく鍛えてもらった。自分の苦手な部分をちょっとでも伸ばしていこうという思いがあったので、そこが少し伸びたのは大きいと思います。ザスパで過ごした1年は、自分にとってすごく大事な1年になったし行ってよかったと感じています」

 感性だけに頼っていては、結局プロの世界では生き残っては行けない。サッカースタイルへの行き詰まり感も移籍の理由のひとつだった。

「それまでは自分のプレースタイル的に勢いとか、自分のアイデアとか、そういうことを大事にやってきたので、チームのバランスだったり、パスの重要性というのがまだ分かっていなかった。それで反町さんに代わった1年目では試合にまったく…、6試合くらいしか出られなかったので。
 湘南に戻ってくる時には、自分が成長した姿を見せたいと思っていました。反町さんに自分の印象を変えてほしいというか、自分が変わったところとか、成長した自分を見てもらいたいという気持ちもありました。だから今はなおさら結果を出さないと、という気持ちが強いですね」

 今、大切にしているのは、“準備”。単純な言葉だが、その意味は深く広い。実際に“準備”を意識するようになって、試合の中で得られる結果の違いを感じているという。例えば、得点にはならなかったが、熊本戦で佐々木選手がヘディングシュートを放ったクロスは、タイミングも距離もぴたりとあった。

「あれはトラップが完璧だったから。
 試合の中なら例えば、シュートになる前のトラップやそこに至るまでのプレー、居るポジションというのは、すごく大事。シュートの前のそういうプレーを大事にしています。
 シュートも、プレーとしてはただの1本のシュートかもしれないけど、練習の中で1つひとつ意識していかないと、試合ではやっぱり点にはならないと感じている。だから練習中の流れの中のシュートだったり、練習の後のシュート練習だったり、すべてを大事にやろうということは心がけています。意識するだけで、だいぶ違いますね」

 やることすべてが、得点を取り、勝利するための準備。チームの一員として勝利にこだわり、攻撃的な選手としては得点とアシストにこだわり、今、小さな準備を積み重ねる毎日を送っている。

自分の力がチームの力
感じるのは結果に対する自分の役割

 プロとしては3年目を迎えた菊池選手。年齢的なものもあるだろうが、感受性が豊かな分、いろいろ考えることも多い。

「プロ1年目やその前の2種登録の頃は、もう勢いだけ。何も考えないで突っ走っていたというか。そういう部分はありました。去年は、結構いろいろ意識しながらやったんですけど。
 逆にいうと、最近はそういう気持ちが足りないのかなとも思う。ちょっと考えすぎてしまったり、いろいろ意識しすぎてしまったり。それが良いのか悪いのか、結論としては難しすぎて出せないですけど、そういう前まで出せていた勢いのある自分っていうのは、今も続けなきゃいけないのかなと思います」

 みんなに見てほしい、自分の特長とは、

「前で勢い良く仕掛けて攻撃を作っていくところや自分がボールをもらえなくても、良い動きをすることで味方にそこのスペースを使ってもらうという動き。そこで攻撃が生まれるというプレーが、自分の持ち味。
 動き出しなどまだまだのところもありますけど、今年、いろいろ意識してプレーをしていて、自分の中で手応えはあります」

 手応えという部分で、今季、一番と思えた試合はホームで迎えたジェフユナイテッド市原・千葉戦。

「すごく身体が動いたというのもありますけど、攻撃のところでダイナミックな動きができた。攻撃にかかる回数も、自分の中では多かったし、何より試合をやっていて楽しかったですね。自分がすごく楽しいと疲れも感じない。そういうところで印象に残っています」

 ただし、今年は、まったく逆の思いを感じた試合も経験した。

「アウェイの大分戦ですね。多分、プロになってからの試合で一番良くない試合でした。
 立ち上がりにミスが起こって、それを取り返そうという気持ちでやっていたんだけど、その気持ちが強すぎて空回りした。いつもならそこを抑えて次のプレーをしっかりやろうという気持ちになれるんですけど、あの試合は、なぜかわからないですけど、頭の中が混乱してしまって、どうしようもなかった、気持ち的にも立て直せなかった。
 結局、最後、交代するまで、同じリズムになってしまってどうしようもなかったです。すごく反省しました」

 サッカーはチームスポーツ。結果の責任は全員のものだが、それでも自分の気持ちが招いたような試合の内容は、よりいっそう意識を高くしなければならないことを感じさせた。

「あの試合が終わったあと、こういう試合はもう絶対にしたくないと思いました。だから次の熊本戦は、試合に至るまでの期間、準備をすごく大事にして試合に入りました。
 その結果、勝てたので良かったけど、勝てたからこそ、その次こそが大事だとあらためて思った。大分戦も、今季一番だと思った千葉戦の後の試合だったのに、自分は心を混乱させてしまって、負けてしまった。やっぱり良かったあとの試合こそ、大事な試合になる。特にホームの大分戦は、チームにとっても大事だけど、自分にとっては真価が問われる試合だなと思った」

 現在は、延期された影響によって、1試合を挟んですぐに同じチームと対戦するなど、イレギュラーなスケジュールが組まれている。気持ちの切替も、いつものシーズンと同じというわけにはいかない。最悪の試合をしてしまった相手を、たった2週間後にホームで迎えなければならなかったのだから。
 気持ちの整理を付けて戦ったロアッソ熊本戦に勝利、その結果を携え、大分戦に臨んだ。この試合、真価を問いかけたのは、自分自身。

「苦手意識を持たないように、いつも通りやろうと思って試合に入りました。
 ここでどうなるかでチームの状況も変わってくる。勢いの良いプレーが出せれば、どの試合でも自分たち優位で進められるし、やっぱりみんなで一番楽しめるし。そこは前の選手なので、意識してプレーしたいと思っています」

 結果、のどから手が出るほど欲しかった今季の初得点を挙げた。それは、自分自身で出した答え。同時に味わった引き分けという結果も直面せざるを得ない、答えの一つ。良くも悪くも、自分の力がチームの結果に繋がることを経験したことは、間違いない。

子どもの頃からサッカー第一
選択は、常にサッカー人生を見据えて

 15歳の頃から常に年代別の日本代表に選出されてきた選手。16歳でJ2リーグデビューを果たし、17歳で初得点。デビューからは4年が経ったがどちらもいまだにJ2の最年少記録を保持している。
 ベルマーレの下部組織に入ったのは、高校生になる年。小さな頃から有望な選手として注目を集め、高校生になる前には、サッカーの強豪校やJリーグの下部組織からオファーが届いた。

「高校とJの下部組織があって、いろいろ練習には参加させてもらいました。試合をする時、Jリーグの下部組織はすごいオーラがあった。そういうのもあって、やっぱりJリーグ、かっこいいなと思っていた。それでJクラブに対して憧れがあったので、Jクラブのどこかに進もうと思っていました」

 フランスのチームの練習に参加したこともある。

「長野の県選抜で一度フランス遠征に行って、その時に初めて外国に行ったんですけど、終わって帰ってきたらフランスの協会から電話があって、フランスのチームが興味を示してくれているから、ひとりで来ないかと言われて、1人で1ヶ月くらい行きました。最初は通訳もいたんだけど、2~3日で居なくなって、後はずっとひとり。言葉は全然分からないから、ジェスチャーと感覚で。それでも寂しいとか、イヤだなっていうのはなかったですね」

 ボールがあれば、怖いものなどないようだ。
 こういった国際的なものも含めて数あるオファーの中からベルマーレを選んだのは、

「自分の中でどういう気持ちだったかは覚えてないんですけど、一番しっくり来たというか、ここだったら良いな、楽しくサッカーできるんじゃないかなと思って決めました。J2とかJ1とかは、そこまでは気にならなかったですね」

 プロになることを意識したのは、小学校6年生の頃。それは、「なんとなく」の範囲を超えてなかったが、ユースに入る頃には強い思いに変わりはじめていた。

「でもまさか、高1でデビューできるとは思わなかったですね。こんなにとんとんと行くものなのかな?と思ったら、やっぱり壁に当たりましたけど」

 菊池選手がユースの所属だった2008年までは、現在トップチームのアシスタントコーチを務める曺コーチが監督として指揮を執っていた。

「小学校や中学の頃、長野や鳥取ではうまいといわれて、自分がエースでキャプテンで、本当に自由に、アイデアを持って楽しもうと思ってサッカーをしていました。その頃は、なんて言うんだろう、サッカーの深さというか、1本のパスの重要性だったり、一つひとつのプレーの重要性がわかっていなかった。そういうものを大事だと思ってなかったんですよ、自分の中で。
 そこでベルマーレに来て、曺さんだったり、いろんな人に出会って、すごく怒られながら、鍛えてもらいました」

 菊池選手について曺コーチに話を聞くと、奇しくも菊池選手自身が課題としている部分の成長ぶりが話題に上った。「自分のプレーを一つひとつ考えるようになってきた。彼は、結果を出すためのプロセスに理屈がなくて、結果が出るならプロセスは自分の好きなようにやって良いというところがある。例えば『ポジションが悪くてもボールを奪えれば良い』といったところ。結果はそうだけど、ポジションが悪ければ抜かれる確率も高くなるし、レベルが高くなればなおさら。そういうことを良い意味で考えるようになってきた。それは、彼の持っている野性的な良さと相反するところもあるから、指導する側としてはそういうプレーを小さく良い悪いで判断してはいけないと常々思っているけど、そういうことを良い意味で感じ取れるようになってきたんじゃないかと思う」と、評した。
 感じ取れてはきたけれど、実際にはできたり、できなかったりを繰り返している。それでも1度できれば、次は2度できる可能性が上がる。今日の課題が成長の糧というわけだ。

「壁は、あった方がおもしろいっていうか、そういうことがあるからいまの自分があると思います」

 菊池選手のサッカー人生に対する選択は大胆で、行動はまっしぐら。ベルマーレの下部組織に入ったのも、J1に上がったチームに未練を残さず期限付きで移籍したのも、そんな菊池選手らしさの表れ。サッカーと自分の気持ちに真っすぐ向き合い、正直に受けとめ、回り道も惜しまない。サッカーに対する真摯な気持ちが、何よりの強みだ。

みんながライバル
今はただ出た試合に全力を注ぐだけ

「今は、本当にいろいろと学ぶことが多いです。選手一人ひとりからも学ぶことがありますね。フォワードの選手だったら、竜さん(佐々木)のシュートのうまさだったり、薫くん(高山)の飛び出しのタイミングだったり、動き出しだったり」

 学ぶのは、指導者からばかりではないようだ。最近は、ベンチにベテラン選手が控えていることもあり、そういう面で自分ができることはなんなのか、振り返ることも多い。

「みんながライバルだし、誰が試合に出てもおかしくない状態。今はアジエルがベンチスタートになることが多いですけど、サポーターやスタッフの信頼が厚いアジエルがベンチに居るので、本当に自分は1試合1試合、後がない。だからといってアジエルと同じプレーはできないから、自分らしいプレーを出せばチームが勢いに乗れると思ってやっています。スタメンを守ろうとか、そういう気持ちはない。チームとしての今の状況は悔しいばかりだし、ここから目標に向かっていくしかない。だからホント、1試合1試合ただ全力でやろうという気持ちだけですね、今は」

 チームの大切さを教えたのは、先輩選手の存在だった。

「選手として影響を受けている身近な存在は、やっぱり紘司さん(坂本)。10年以上もひとつのチームでやってきたという部分だったり、30歳を越えているのにあれだけ走れること、チームのためにとか、チームが勝つためのプレーをまず第一に考えているところ。周りからの信頼の厚さとか、すべてにおいて、やっぱりちょっと違うなと感じます。それは、高校生の頃から見ていてそう思う。
 ああいう、周りからの信頼の厚い選手になりたいと思うし、ずっと一緒にやらせてもらっているのでそういう先輩の存在が近くにあるというのは、大きいですね」

 最近、同年代の選手が海外へ移籍するなど、活躍ぶりが取り上げられているが、そういったことにも刺激を感じている。

「目標は、海外でプレーすることなので、やっぱり海外で活躍していることはすごいなと感じますけど、宇佐美(貴史選手・現バイエルン・ミュンヘン)や宮市(亮選手・現アーセナル)とは一緒にプレーしているので、そういう選手に負けたくない。自分も彼らのようになる自信はあるし、なりたいという気持ちは強い。
 宇佐美や宮市は、前でドリブルを仕掛けたり、豊富なアイデアを活かしてやっていく選手なので、プレースタイルはちょっと違うかもしれないけど、考えていることが似ていて刺激になります。Jリーグだったら、原口(元気選手・現浦和レッドダイヤモンズ)もそうだと思います。
 でも、今を比べて焦っても仕方がないですし、自分には自分のサッカー人生があると思う。それぞれのペースがあると思うので、焦って気持ちを崩さないようにと考えています」 

 反町監督は、今季の始めに「紘司の存在を脅かす選手がたくさん現れてこそ、新生湘南と言える」と語っていた。菊池選手は、そんなチーム作りが成功するかどうかの鍵を握る選手のひとり。その菊池選手の口から坂本選手の名前が出てきたのは、偶然ではないだろう。海外での活躍を目標にするなら、なおさらだ。今季、どこまで進化を見せるか、今後の試合の結果とともに、菊池選手の成長ぶりにも期待したい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行