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【ボイス:7月22日】大井健太郎選手の声


2011年、ベルマーレの舞台であるJ2リーグは、3月から12月の最終節まで、38試合を戦う。1年でJ1への復帰を狙うベルマーレとしては、どの試合も勝ち点3にこだわる思いが強い。
しかし、上位対決と注目を集めた6月12日開催の15節VS栃木SCに2対0で敗れて以降、浮上のきっかけが掴めず、まさかの5連敗を喫した。救われるのは、折り返しの節を迎えてはいるけれど、延期になった試合が多く、余裕があるわけではないが、それでもまだ取り返すチャンスがあること。
その後、足元を見つめ直して臨んだファジアーノ岡山戦は引き分け、より強い気持ちを持ってホームに迎えたジェフユナイテッド市原・千葉戦は、アウェイでの借りをきっちりと返す形で勝利を挙げた。
今回のボイスは、今季移籍してきた選手にもかかわらず、アウェイの千葉戦からキャプテンに指名されるほど信頼を得ている大井健太郎選手に注目。移籍にかけた思いや現在のチームについて、語ってもらった。

J1復帰を1年で果たしたい!
高い理想と熱意に動かされてJ2へ

 17名の選手が加入した今季。シーズンの初め、その選手たちをたとえて反町監督は、「試合に飢えた選手が集まった」と語った。ジュビロ磐田から移籍してきた大井選手も、そのひとりだ。

「去年はジュビロで15試合しか出られなかったし、年齢が年齢だからベンチスタートというのはもうイヤだった。そういうことを考えているなかでベルマーレの大倉さん(強化部長)から声をかけてもらいました。反町監督や大倉さんの『チームを良くしよう』という熱意や気持ちを感じ、そのなかで自分が必要だと言ってくれた。選手としたら、そういう思いや言葉はうれしいし、燃えるところで気持ちよくプレーしたい。それでオファーをもらって、話を聞いてからはすぐ、ここでがんばろうと思いました」

 磐田でレギュラーを掴みきれなかったとはいえ、ユース年代から代表に選出されてきた選手。磐田では、なかなかコンスタントに力を発揮できなかったが、持っているポテンシャルは、折り紙つきだ。

「ジュビロは、大好きなクラブだから、どこでも良いから移籍をしたいと思っていたわけじゃない。自分を最初にプロにさせてくれたクラブだし、ずっと育ててくれたクラブだから、すごく愛着がある。だけど、ベルマーレは、J2に落ちてしまったけど、絶対に1年でJ1に上がりたいとか、こういうサッカーがしたいとか、めざす理想があるクラブなので、そういうクラブに入ることで自分も成長できるんじゃないかと思いました」

 最も早い時期にオファーが来たのが、ベルマーレだったと言う。自分への期待の大きさを感じたあとは、他チームからのオファーを待つことなく、下のリーグへの移籍を決意した。

「目指しているところはJ1です。例えば湘南がJ2に落ちて、もう一回じっくり力を溜めてと言っているのであれば、多分来なかった。そうじゃなくて、1年で帰るために、という話だった。やっぱり高いレベルでやりたいと思いますから。目指しているものをしっかり聞いて、判断しました」

 実際に湘南で選手生活を送って実感できたのは、チームとクラブが持つ、可能性。

「施設とか、そういう面で劣るところはありますけど、そういう部分を感じさせないくらい、監督、コーチ、スタッフをはじめ、マネージャーだったり、スカウティング部門だったり、強化の人たちだったり、いろんな人がグラウンドに来て、選手のことをいろいろ考えてやってくれるので、本当に良いクラブだなと。選手だけじゃなくて、クラブとしてすごく良い。それと、選手のレベルという面では、すごくレベルの高い選手がそろっていると思うし、力のある若手もいる。そういう選手がたくさんいるとは思わなかったので、これからすごくいいチームになっていくんじゃないかなという期待は、ありますね」

 そんなベルマーレで大井選手が今季、立てた目標は

「個人だったら、全試合フルに出て、いっぱい活躍して、来季は良い年棒にしてもらうことが目標です(笑)。
 もちろんお金とかじゃなくて本当に、せっかくこうして必要としてもらって、獲得してもらったわけだから、ベルマーレにはすごく恩を感じてます。恩返しはね、優勝してチームをJ2からJ1に上げること。そのために頑張りたい」

 選手にとって試合に出ることが、何よりのよろこび。ピッチを駆ける大井選手からは、そのよろこびと幸せが伝わってくる。

勝ちたい気持ちを全員がプレーに表せた試合
ホームの千葉戦で、キャプテン初勝利!

 反町監督が指揮を執って3シーズン目。今シーズンも途中までは過去2シーズンと同じように、キャプテンは試合ごとの持ち回りだった。ところが、6月29日(水)に開催された、延期されていた第2節のジェフユナイテッド市原・千葉戦から大井選手がキャプテンに固定された。

「紘司さん(坂本)と、洋平さん(西部)と、俺が呼ばれました。キャプテンといったから、紘司さんがやるんだろうなって思って、俺は副キャプテンかなと思った。高校もそうだし、ジュビロでも副キャプテンの経験があったから。だからキャプテンというのは、ちょっと驚きました。でも、フィールドの一番後ろのとこで試合に出ているし、監督もそれに期待してくれているんだろうと思って、ありがたくやらせてもらうことにしました」

 大井選手は、「ありがたく」と言ったが、タイミングとしては3連敗後のこと。状況としてはあまり良いものではなく、責任の重さも問われる時期のはずだった。が、

「キャプテンじゃなくても、チームをどうにかしたいという気持ちはもともとあったから。でもより責任感を持ってやらなければいけないというのは、思います」

 今シーズンは、まったく新しいチームと言って良いほど、選手が入れ替わり、戦術もまったく変わっている。
 そんななかで開幕戦こそ5得点を挙げて順調なスタートをきったが、中断期間をはさんでなお、選手同士の理解も、戦術の浸透度も、実はまだ浅く、その結果として、悪い部分が出る時はもろさが際だつこととなった。

「どんな競技でもそうだと思うけど、メンタルというのは非常に大きい部分。そこをセルフコントロールして、戦える状況に持っていくのは大切なこと。勝っている時は、そういうことが自然とできて試合が楽しみで、常に100%の力を楽しく出せるけど、これが負けて、しかも続くと、今日は大丈夫かなとか、シュートを打てる場面でも、いつもなら打つのに、もっと大事に行こうとパスをしてしまったり。そういう一つひとつのプレーの選択は、やっぱり気持ちの部分にかかってくるのではないかと思う。
 それでも、ピッチの中でプレーできるのは選手だけだし、選手たちはみんなプロだから結果はちゃんと受けとめて、結果として出てしまった5連敗もちゃんと受けとめて、次に勝って結果でサポーターや、応援してくれる人たちに応えたいと思っている。年齢が上の自分たちが強い気持ちを持ってプレーすることで、若手にもそういうことを感じてもらえればいいかなと思います」

 大井選手の特長の中でも、声の大きさ、かける言葉の豊富さは、ディフェンスリーダーとして、最も頼りになるところ。スタジアムでは、息つく間もなくサポーターが応援の声をかけ続けているため、なかなか聞こえることはないが、それでも声援の間を縫って、時おり、大井選手の声が聞こえてくる。

「仕事ですからね、それは。後ろから見てれば分かることもあるし。合っているかどうかは分からないけど、それでも後ろから声をかければみんなのプレーも少しはラクになると思うし、そこは大事にしていきたいなと思っています。
 声は、意識して出してます。以前は、集中力を欠くことがあって、そういう時は声を出せって言われていたので。声を出すことによって自分も集中できる」

 積み重ねてきた経験が、今のベルマーレのディフェスラインを支えている。

「ホント、今の力は、過去にどれだけやってきたかによる。急にはうまくならないですからね。だから、苦しい時期があっても、10試合後にはすごく良くなってるかもしれないし。連敗もしてしまったけど、ここからまた連勝していけば問題ないと思うから。ただ、連敗はもちろん、負けることは悔しいから、ホントは全部、勝ちたいですけどね」

 5連敗のあと、引き分けを挟み、一歩一歩前進して掴んだ7試合ぶりの勝利。この試合で、キャプテンとしての初勝利をもぎ取った。「すごく良くなった」かどうかを判断するには、まだ早いが、それでも一つトンネルを抜けた。

「まだ、キャプテンを持ち回りにしていた時、キャプテンマークを着けた横浜FC戦でも負けていたので、キャプテンマークを着けてから本当に初めての勝利だった。これでみんなにキャプテンのせいで負けたって言われないので、良かったと思います(笑)」

 アウェイの借りはホームで返すと指揮官が言い続けた試合は、選手全員がアグレッシブに、そして球際を厳しく戦い、勝利を力強く引き寄せ、内容にも見応えがあった。

「各自がこのままじゃいけないという危機感があった。球際を強く行こうと言うのは、日頃から言われていますけど、千葉は上位のチームで、自然とみんな気持ちも入った。意識を変えなければ勝てなかったけれど、本当は常にこういうゲームをやらなければいけないし、それは最低限の仕事だと思う。これからも続けていこうと思います」

 反町監督が大井選手をキャプテンに指名した理由として挙げたのは、サッカーをよく知っているという選手としての面に加え、人間性を買ってのこと。移籍してきたばかりのチームの中で示す存在感が、指揮官が挙げた理由を裏付けている。

家族も感動!
初めての健太郎オリジナルコール

 選手にとって、なくてはならない存在がサポーター。特にゴール裏に集まる、コアなサポーターはキックオフ前から試合が終わったあとまで、選手とともに戦う、同志ともいえる存在。大井選手は、最近、そういったサポーターの存在をあらためて見直している。

「サポーターの印象は、びっくりするくらい、良いです。負けた栃木戦の試合後にブーイングがあって、最初はブーイングだったのに、頭を下げて挨拶をして、サポーターの席からバックスタンドに向かおうとしたら、すぐにベルマーレコールがあった。
 あの時は、上位対決って言われた試合だったのに、0対2で完敗だったのでブーイングされることは当然だと思っていました。それでもその後に、すぐに声援をくれたのは、すごいなと思いました。すごくあったかいサポーターだなって、涙が出そうになりました」

 サポーターの声の大きさがそのまま鼓舞する力となった、FC東京戦も忘れられない。

「アウェイのFC東京戦の時も、FC東京のサポーターよりも声が大きかった。本当に大きいかどうかは分からないけど、自分の中では大きく感じて、そういうのは、本当に『やってやろう』っていう気持ちにさせてくれますよね」

 また、意外なことも告白。

「『ケ・ン・タ・ロ・ウ』って、応援なんですけど、俺、そういう応援もらったことないんですよ。ジュビロの頃は常に、『オオイ、オオイ』というコールだったから。応援はどういう応援でもいいんですけど、普通に名字を呼ばれる応援以外が初めてだったから、それはうれしかったですね。
 俺以外でも、今年来たばかりの選手に作ってくれたり、かっこいい応援がいっぱいあるし。すごいですよね」

 選手の名字や名前を独特のリズムやメロディにのせる応援は、サポーターの期待の表れ。ダイレクトに伝わる思いは、選手たちも感じている。

「あと、いろんな歌、チャントっていうんですか? 種類がたくさんあって、すごいなって思います。選手一人ひとりに歌があるくらいじゃないですか。そういうのは聞いていても楽しいし、サポーター席以外に座っている人もそういう応援はいいなって思っていると思う。俺の家族もその応援にすごく感動してます」

 選手同士でも、選手個人の歌は話題だという。

「紘司さんのはカッコイイし、竜太(佐々木)の歌も好きだし、大介(菊池)の『キスしてほしい』は、ブルーハーツが好きだから、うらやましいけど。
 最初は、グギョン(ハン)のと、薫(高山)のは、歌詞がちょっと分からなかったんですよ。でもグギョンが分かっていて、本人が俺に説明してきました。
 薫のは難しいっすね。歌詞に頭って入っているんで、あいつも髪型どうしようか迷ってましたよ。切りたいんだけど、変えられないって。とりあえず、竜太とか亮太(永木)がうらやましいです(笑)。
 ホント、湘南サポーターはすごいと思う。それと、いつも遠くのアウェイまで来てくれているのに、勝利を届けられていないので、そこは、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 ホームで7試合ぶりの勝ち星を挙げた今は、弾みもついた。次節のアウェイ戦こそ、岐阜戦以来、遠くまで足を運ぶサポーターの期待に応える試合となるはず。気温以上に熱い試合を期待したい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行