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「One Nation Cup2011」湘南ベルマーレ(湘南選抜/女子U-15)出場レポート
5月31日から6月4日までドイツのブレーメンで行われた「One Nation Cup2011」に女子U-15湘南選抜の選手が「湘南ベルマーレ」として出場しました。
「One Nation Cup2011」は中国、ラトビア、トルコ、南アフリカ、ドイツ、ニュージーランド、ボスニア、ポーランド、アメリカ、イスラエル、スイス、オランダ、イングランド、ナイジェリア、日本から出場チームが集う国際大会です。
今回、湘南地域で活動する女子チームである茅ヶ崎のONCEと秦野市の秦野レイヤの2チームでセレクションを行い、選抜チームを発足。湘南代表のチームということで「湘南ベルマーレ」としてベルマーレのユニフォームを身に纏い、この国際大会に出場しました。
ベルマーレフットボールアカデミーの江橋桂コーチがチームに帯同しましたので、現地でのレポートをお届けします。
【One Nation Cup2011レポート】
One Nation Cup主催者について
ブレーメン市には、ブンデスリーガーで4度の優勝経験を持ち、UEFAチャンピオンズリーグにも参加するプロチーム、ヴェルダーブレーメンがある。ヴェルダーブレーメンはWesers stadionという素晴らしいスタジアムを保有しているものの、2006年のワールドカップドイツ大会では、スタジアムの規模が小さいため、試合が開催できなかった。そこで、ブレーメンでも国際大会をと立ち上がったのが、マルコ・ボーデ(元ドイツ代表選手:写真左)とウリ・バーデ(写真右)。それが、この育成年代を対象にした「One Nation Cup」の始まりである。育成年代を対象としているのは、未来ある子どもたちにより良い経験をさせたいという理由からで、3回目となる今回は初めて女子大会が開催された。
ちなみにマルコ・ボーデは2002年、32歳にして初めてワールドカップに出場。ワールドカップ日韓大会の決勝戦が彼の現役最後の試合となった。なお、13年間どこへも移籍せず、ヴェルダーブレーメンに在籍していたことでも有名である。
◇5月29日(日)
5:00
チャーターバスで平塚を出発。茅ヶ崎を経由して成田へ向かった。全員体調は万全である。入国審査を済ませ、スイスインターナショナルエアラインズでハンブルクへ。朝早かったせいもあり、飛行機の中ではよく睡眠をとっていた。
15:40(以下、現地時間)
予定通りチューリヒ空港(スイス)に到着。電車で次のターミナルへ移動し、無事乗り継ぎ完了。
19:30
ハンブルク空港へ到着。そこから迎えに来てくれていた車に乗り換え、1時間をかけブレーメンに移動。さすがに選手たちも移動疲れした様子で、車の中ではみんな寝ていた。
21:00
ホテル到着。すでに到着していたイングランドやスイス、オランダの選手に出迎えられた。この時間でも昼間のように外は明るい。機内食を食べていたので、ホテルでは軽く軽食を食べてすぐに就寝。
◇5月30日(月)
朝食はバイキング形式で、パンやチーズ、ハムなど色々な種類が並べられていた。試合は31日からなので、今日は10:30からトレーニングを軽く行い、試合に備える。
各チームに専属のガイドが付く。私たちのガイドの女性は建築の仕事をしていて、以前京都に半年間住んでいたことがあると話していた。ドイツ人だが、英語も日本語も非常に堪能で様々な面で助けてもらった。
昼食をSportgardenという施設でとる。Sportgardenはフットサルやバスケットボール、スケートボード、トランポリンなどがこの一角ですべてできるスポーツ施設。男女問わず、すべてのチームが毎日ここで昼食を食べる。
15:00
ヴェルダーブレーメンのホームスタジアム、Wesers stadionにて、集合写真を撮影。
18:00
ブレーメンのマルクト広場にある市庁舎で開会式を行う。この市庁舎はドイツの世界遺産である。歴史を感じる素晴らしい建物だった。男女全チームの選手が集まっての開会式。中も素晴らしい造りになっていた。各国に付くサポートスクールの学生によるパフォーマンスも行われ、日本チームにはFreie Hamsestadt Bremen Gymnasium an Hamburger StraBeという学校が日本語で「世界に1つだけの花」を歌って歓迎してくれた。彼らは、とても日本に興味があり日本語を専攻している。パフォーマンスが終わると立食パーティーで色々な国の選手とコミュニケーションがとれる場となっていた。日本の選手も歓迎してくれた生徒たちと積極的に話をしていた。
この学校で日本語の先生をされているBergmannさんと野島悦子さんご夫妻は、以前も日本のチームのお世話をして、とても楽しかったとおっしゃっていた。おふたりはとても明るく、ドイツにまつわるお話をたくさん聞かせてくださり、色々なところに連れて行っていただいた。
◇5月31日(火)
11:30
予選リーグ 日本 0 – 1 アメリカ
初戦ということで、立ち上がりは緊張している様子だったが、すぐに雰囲気にも慣れ自分たちのサッカーが徐々にできるようになる。
蹴ってくるアメリカに対して、しっかりと判断をして味方につなぐという部分はある程度できていたと思う。後半は、サイドにつられ中がフリーになったところを押し込まれ失点した。
結果は負けてしまったが、アメリカ相手に全く戦えなかったということはない。内容的にはしっかりと判断をした中でのプレーができていたので、次につながる試合になったと思う。
15:00
昼食後、試合会場から5分くらい歩いたところにあるスタジアムに隣接されたヴェルダーブレーメン博物館へ。
広い館内には、ヴェルダーブレーメンが獲得してきたトロフィーの数々をはじめ、歴代ユニフォームやスパイクなども展示されていて100年の歴史を感じられた。
ブレーメンらしく、ブレーメンの音楽隊がチームカラーである緑と白に塗られていたり、車も装飾されておしゃれだった。
博物館見学の流れで、スタジアムの中を案内していただけることになった。このスタジアムは4万3千人収容のスタジアムで、ドイツの中では小さいスタジアムである。
VIPルームは年間1千万円で借りることができる。主にスポンサー企業が借りるとのことで、スポンサーの看板が飾ってあり、中にはシステムキッチンなどしっかりした設備も完備されていた。中にはレストランや休憩できるような場所も多くあった。
ドイツと日本の大きな違いとして、ドイツはほとんどのチームがスタジアムを所有していて、場所もお金も自由に使うことができるという。ブレーメンでは育成に年間7億円を投資しており、他クラブから良い選手を買うのではなく、自分たちで育ててトップに送り出す。技術と共にブレーメンへの愛も一緒に育てて、現役が終わっても戻ってくるように育てているということだった。
今、ブレーメンで働いている人たちは、かつてブレーメンに携わった人たちなのである。
17:00
サポートスクールの学生に歓迎会をしていただいた。普段からよく勉強していて、日本の都道府県はほぼ全部の県が読めていた。積極的に「これはどう書くの?どう読むの?」など本当に勉強熱心で、みんな日本に行きたいと話していた。
◇6月1日(水)
9:30
予選リーグ 日本 1 – 0 ドイツ
体格はそれほど変わらず、むしろ日本の選手の方が多少大きかった。ドイツは全員U-13の選手のチームとのこと。ドイツもアメリカ同様、蹴ってくるが、まだ小さいということもあり、パワーがなく裏に走られることもなかったが、やはりボールに対しては厳しくプレッシャーをかけてくる。そのプレッシャーでパスミスをする場面も多く、うまくいかない時間帯も多かった。それでも高橋優希が1人で3人を抜き、ゴールを決めた。
最後まで集中し、勝ちきれたことは良かったと思う。
17:00
昼食をとった後は、全チームでブレーメンの港へ向かった。港には、全大陸を体感できるBremerhavenという施設があり、色々な国の文化を学ぶことができる。1時間ほどで回るコースになっていて、北極に行ったり、南国に行ったりと選手たちもとても楽しんでいた。
18:00~22:00
Bremerhavenには、広いパーティー会場もあり、ここで他国の選手とコミュニケーションをとれる場になっていた。一緒に食事をしたり、ダンスを楽しむ。日本人はシャイだと言われているが、ダンスに誘われると楽しそうに踊っていた。
会場は終始盛り上がっていた。音楽がかかり始めると、ヨーロッパの選手は全員踊りだす。その光景にも文化の違いを感じた。
そして、主催者のウリ・バーデが終了の挨拶をする際、ベルマーレのユニフォームを着用してくれていた。彼はこの日だけではなく大会期間中ずっとこのユニフォームを着て運営してくれた。
◇6月2日(木)
9:30
予選リーグ 日本 0 – 1 オランダ
この試合の結果が引き分け以上ならば、決勝トーナメントへ進出できる。前半10分、ディフェンスラインの裏に出たボールに対応できず、GKが前に出るが失点。前半はDFとFWとの距離が遠くセカンドボールを拾えず、相手に押し込まれる場面がたくさんあった。ハーフタイムでもっとディフェンスラインを上げる様に伝え、再度やることを確認した。後半は惜しい場面も多くあったが、得点できず試合終了。
試合終了後、選手は悔しさから涙を流していた。その時に、対戦相手のオランダチーム全員と試合を観ていた観客達が来て選手達が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。
その光景を目の当たりにし、対戦相手をリスペクトする気持ち、人間対人間の温かい心を感じた。
ここにも文化の違いがあるのかもしれないが、もし逆の立場だったら日本の選手はオランダの選手と同じように相手をリスペクトできたのだろうかと感慨深いものがあった。
【予選試合結果】
アメリカ戦:0 – 1
ドイツ戦:1 – 0
オランダ戦:0 – 1
※決勝トーナメント進出ならず
13:30
Sportgardenにて昼食。
18:00
Sportgardenにてバーベキュー大会
バーベキューでも色々な国の選手と交流を図ったり、サポートスクールの生徒と共にバスケットボールなどをした。良いコミュニケーションがとれている様子。
◇6月3日(金)
10:30
予選敗退でこの日は試合がなかったため、午前中にドイツと練習試合(25分×2本)を行った。この試合は、しっかりと判断をしてプレーができていた。ボールを失わずに回しながら前線に運び、フィニッシュまでもっていくことができた。結果は4-0で勝利。
試合終了後、両チームの選手達が自ら肩を組み、円になりはじめた。そして踊りが始まる。この期間で選手たち同士が交流を深めていることを実感した。
14:00
サポートスクールの先生のご厚意で、ブレーメン市内へ買い物に連れて行っていただいた。選手と生徒は4グループに分かれ、生徒の案内で回る。スタッフは先生と一緒に買い物へ。ガイドをしてもらいながらブレーメンの町を歩いた。
古い建物が並び、非常に歴史を感じる街並である。世界遺産にも登録されているので、観光客もたくさん来ていた。
19:00
久しぶりにホテルにてゆっくり夕食を食べる。
◇6月4日(土)
11:00
ボスニアと練習試合を行う。ボスニアは技術はないが、今までで一番プレスの早いチームで、どんどんボールを奪いにくる。そのプレッシャーでパスミスをしてボールを失うことが多い。落ち着いて、よく見て判断を変える様に伝えたが、最後までペースを握られ、0-4で敗れる。まだまだ足りないところがはっきりした試合になった。
14:00
女子決勝 アメリカ 4 – 1 オランダ
アメリカは初戦よりかなりコンディションを上げてきていた。中盤の10番を起点にしっかりとボールをつなぎ、サイドから攻撃してどんどんゴールに向かっていく。オランダは厳しい時間帯が続き、カウンターでしか攻め手がない。後半修正してきたが、試合終了。アメリカが優勝を果たした。
気持ちと気持ちがぶつかり合うとてもいい試合だった。試合終了後、オランダの選手たちはグラウンドに座り込んで泣いていたが、ドイツの選手たちが声をかけて回っていた。
そして、日本の選手も走ってグラウンドへ入り、オランダの選手を抱きしめていた。先日の試合でオランダの選手から相手をリスペクトする心を学んで、選手自ら考え、行動を起こした。日本ではなかなか見られない光景である。
17:00
表彰式
優勝:アメリカ、準優勝:オランダ、フェアプレー賞:日本
18:00
世界遺産のあるマルクト広場へ移動しファイナルセレモニー
選手たちは色々な歌を歌い、最後のセレモニーを楽しんでいた。オランダの女子コーチは日本のサッカーを高く評価してくれた。
◇6月5日(日)
6:00
ホテルから空港へ
帰国の準備をし、車に乗り込むためにロビーへ降りると、朝早い時間にもかかわらず、なんとオランダとドイツの選手たちが起きて待っていてくれた。オランダ、ドイツ、日本の選手全員が泣き、車に乗り込んでも抱き合い離れようとしなかった。8日間を共に過ごしたことで、話す言葉は違っても心は通い合ったようだ。
9:45
ハンブルク空港から日本へ
飛行機では疲れ切った様子で、みんなが熟睡。昨日の夜は遅くまで他国の選手達と話していたようである。本当に良い経験ができた。
◇6月6日(月)
8:00(以下、日本時間)
成田空港に到着。チャーターしたバスで平塚へ
12:00
解散
― One Nation Cup 2011を終えて ―
この大会は「サッカーが上手くなろう」ではなく、「サッカーを通じて人間性を高めよう」というコンセプトで行われていた。そのコンセプトの通り、サッカー以外のところでとても深い国際交流ができるようにプログラムされていた。サッカーが上手くなるだけでは、世界では通用しない。どこに行っても順応し、対応できるような人でなければ、サッカー選手としても人としても成長はない。
ドイツでは今、サッカーを通して若い年代にこういった経験を多くさせ、ライフスキルを伸ばすことで、世界に出ても通用する選手の育成に力を入れている。一時は低迷していたドイツサッカーもこういった活動を行っていることで復活し始めているという。
マルコ・ボーデはイングランドの現状を「人間性の教育をあまりせず、技術トレーニングに偏重しており、国内の育成を怠っているためにタレントが生まれ難い状況となっている。それが、代表チームの低迷につながっている」と分析していた。
マルコ・ボーデとウリ・バーデは「スケジュールがタイトな中でも他国とのコミュニケーションを積極的に図ろうとする日本はこれからもっと強くなれる。ただ、日本人は物怖じしてしまう人が多いため、国際的に活躍できる人が少ない。だから日本はもっとこういった大会に参加するべきだ。島国だから難しいが、克服しなければならない大きな問題だ」と話していた。
そして、「この大会にエリートは招待していない。代表クラスは招待しない。なぜなら代表にはお金がある。いくらでも海外経験を積むことができる。だから一般のサッカープレーヤーにそのチャンスを与えたい」と熱く語っていた。
今回この大会に参加させてもらって、サッカーを通して人と人の絆を肌で感じることができた。この年代にサッカーの技術だけを、勝敗だけを伝えることが本当に正しいことなのか、人と人のつながり、相手を思う気持ち、フェアプレーの精神を学ぶことが何よりも大切なベースであると感じた。オンザピッチ及びオフザピッチを通して人間性の向上ができるような経験を積み、選手としても人としても成長することが一番だと感じた。
こういった光景をこの大会で目の当たりにし、経験出来た事は自分自身本当に幸せだと感じ、感謝している。本当にありがとうございました。
ベルマーレフットボールアカデミー 江橋桂