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【ボイス:6月17日】永木亮太選手の声


リーグが再開して約1ヶ月半、現在のところベルマーレは、白星が先行し着実に勝ち点を積み重ねている。その戦いぶりに派手さはなく、勝った試合も負けた試合もすべてプレーの一つひとつを成長の糧とし、ゆっくりと、でも確実に足元を固めている、そんな印象だ。“J1で通用するチームを作る”、昨年学んだこの命題にじっくり取り組んでいることが伝わってくる。この目標達成の鍵を握るのは、選手たちの成長だ。
そんなシーズンを象徴するような選手が中盤の要を担う若手の二人。今回は、新人ながら今やチームに欠かせない存在となった永木亮太選手に注目。現在戦うJ2リーグの手応えと、成長著しいその理由を解き明かしてもらった。

縦パス1本が持つ可能性
最良の選択をする楽しみ

 高い技術と、チームのために惜しみなく走り回る、その運動量で目を引く永木選手。ハン・グギョン選手とともにチームの心臓ともいえるボランチの役割を担っている。今季の新加入選手のひとりだが、昨年すでに特別指定の選手として大学生ながら11試合に出場し、J1の舞台も経験。能力の高さは、証明済みだ。
が、今シーズンの最初から良いスタートが切れたわけではない。ソツはないが、どこからしさが消えていた。

「自分の得意なプレーを見失いがちな時期があって、その時にソリさん(反町康治監督)や曺さん(曺貴裁コーチ)に指摘されました」

 得意としているのは、前へ前へと向かうプレー。攻撃の起点となり、アクセントをつけて、チーム全体が前へ向かう原動力となる。

「例えば、前にフリーの選手がいるのに横にパスを出しちゃったり、後ろに出しちゃったり。前への意識が全然なくなってしまった。そうした自分で気づけなかったところをコーチングスタッフがわかりやすく説明してくれたり、プレーをビデオにまとめてくれたり、すごく適切なアドバイスを言って、気づかせてくれた」

 中断期間中に課題に取り組み、リーグが再開してからは実践で前への意識を高めることを心がけた。その結果が再開して5試合目となった第12節の鳥栖戦(5月15日実施)で挙げた初得点だ。

「試合ごとに調子の良い悪いは多少ありますけど、試合でも意識してやっているし、自分的にもだんだん質も上がってきてると思うし、まずまず良いパフォーマンスができていると思う。それから今、チーム全体としても言われているけど、シュートの意識がすごく高くなった。前はパスを出すところを探していたんですけど、もっとシュートを打たなきゃダメだということに気づいて、それをすごく意識してやっている。その部分に関しては、得点にも繋がっているから、試合でできているということなのですごく良い」

 初得点を決めた時(第12節鳥栖戦)は、普段の落ち着きからは想像もできないほど、喜びに弾けとんだ。

「あの時は、薫(高山)が良い起点になってアジエルに渡して、その時に左サイドに大介(菊池)がフリーでいた。俺、行こうか一瞬迷ったんですけど、とりあえず行ってみようと思ってダッシュしたら、足元に良いパスが来て、トラップしたらファーストタッチがすごく良くて、2タッチ目にはシュートを打てるところに置けたんです。
 上がるタイミングが良かったと思う。アジエルのパスも速いボールが足元に入ってきて。
 ゴールは、相当うれしかったですね。鳥栖も守備をしっかりしてくるチームで、なかなか点が取れないなと思っていたので、あのタイミングで取れたことも、初得点だったことも、全部含めてうれしかったです」

 鳥栖戦以後、永木選手とハン選手のダブルボランチについての評価は表立って高まり、何より反町監督が『足が止まらないダブルボランチ。我々の生命線であることは間違いない』と褒める声も聞こえるようになった。

「チームが勝つために自分がやらなければいけないプレーが明確になってきてる。それは、自分にとってもチームにとって良いこと。例えば、縦パス1本にしても、少しでも前の選手を見つけた方がチャンスが広がるということを言われて、試合で実践してみて、ホントだなって実感があった。試合をやるごとに自分の中で分かってきている。
 とにかく今はそれに気づいて、もっと良い選択肢、一番良い選択肢を使わなきゃという感じでプレーしているので、今はすごく楽しいですね」

チームのリズムの鍵を握る
ボランチとしての責任

 攻守に絡むボランチというボジション。そのタスクとして、攻撃の要であるアジエル選手のサポートも欠かせない。

「アジエルは、前を向きたがる選手。だから俺自身はもうちょいアジエルとパス交換したいんですけど、アジエルはホントに前を向けるし、前を向けたら自分より前の選手にパスを出す。ほとんど下げないイメージがあって、ポジション的には僕はアジエルの1列後ろだからアジエルからボールをもらうことは少ない。逆に、俺が出すパスは結構アジエルが多い。
 アジエルの技術はすごい。パスは、湘南で一番うまいと思う。タイミングも、外人独特のタイミングというか、日本人に出せないところに出せるし。ゴールに直結するパスですよね」

 アジエル選手が決定的な仕事ができるのも、ダブルボランチのフォローがあってこそ。直接得点に繋がるパスの出所となるアジエル選手には、何人もマークをつけてくるチームも多く、常にタイトに狙われている。そこでこぼれたボールを永木選手やハン選手が拾ってまわり、再び攻撃を組み立てている。

「グギョンとは、練習中も試合中もよく話してます。結構僕の方が上がる回数は多いと思うんですけど、そうなったらグギョンは絶対に上がらないでアンカーのポジションに居てくれる。アンカーとしてのプレーのレベルが高いと思うので安心して上がれる。あいつが居るから僕も今すごく上がれているし、その辺りは、信頼しあってできてると思う。すごくやりやすいです」

 ハン選手は加入2年目。彼もまた、チームのためにプレーするということを理解しはじめ、著しく成長しているひとりだ。

「性格もまじめ。普段から結構話すんですけど、サッカーに対する意識はすごく高いし、ボランチとしての責任感もすごくあると思う」

 “ボランチとしての責任感”、この言葉に永木選手のこだわりが見える。

「スルーパスというよりは、ゲームのリズムを作るパスだったり、1タッチ2タッチではたいてテンポを作ったりするパスが得意。得意っていうか、自分ではそう思っています。ゴールに繋がる1本を出せたら一番いいですけど、それより僕は、自分がそのアジエルにパスを出すタイプだと思っている。一発で流れを変えるパスじゃないけど、全体のリズムを良くできるようなパス。そこがアジエルとは違いますね」

 ポジションごとに役割は異なっても、ポジションによって責任の重さが違うわけではない。それでも全体のリズムを支配していることに責任と誇りを感じている。

「一番ボールを受ける回数が多いポジションでもあるし、守備も攻撃もするから、ボランチは責任感がないとできないポジションだと思います。だから責任感を持ってやってる。適当な軽いプレーは絶対しない!って」

 そうは言っても、時々抜けるプレーすることがあるということも告白した。経験があるからこその誓いでもある。もうひとつ感じる責任は、試合に出ているという現実に対して。

「今の自分があるのは、スタッフとか、チームの人とかみんなのおかげ。他のチームメイトにも、変なプレーをしたら悪いと思うし。去年の経験もあるから、意識的に今年はより責任を感じる。それとやっぱりチームの中心になってやらなきゃいけないなって思ってます」

 若手が高い意識を持ってこそ、チーム力が向上する。期待をくすぐる言葉がこぼれた。

熱いサポーターのためにも!
良いサッカーで楽しませたい

 今季、最初に掲げた目標は、開幕スタメン奪取。開幕前のポジション争いは熾烈で、昨年の経験があっても安易な希望は全く抱けなかった。だからこそ、開幕後すべての試合でスタメン出場を重ねていることに喜びと責任を感じている。チームの中心になるという意識もプロになってこそ、芽生えたもの。昨年も、その時精一杯の責任感を持っていたが、今振り返れば、

「ひとつのチームに身を置いていなかった。
 大学のときは、大学生なりの責任感はありましたけど、プロはやっぱり違う。勝つために、勝利のためにスタッフが寝る間も惜しんでスカウティングしてくれて、自分のプレーがよくなるようにいろいろアドバイスしてくれて、フロントのスタッフも、ベルマーレを強くするためにいろいろやってくれている。そういうのがわかったので、頑張らなくちゃなって感じです」

加入が発表されたのは、特別指定選手として試合に出場してからだが、加入を決めたのは、特別指定選手に登録される前。プロ入りを決めていたからこそ、4年間の集大成ともなる大学サッカーにも後ろ髪をひかれたのかもしれない。ベルマーレに決めた理由は、

「強化部のスタッフがすごく僕を評価してくれたことと、チームのカラーに合ってると熱心に誘ってくれたこと。前から知ってる曺さんもいたし。
 実際に、練習に来てもすぐになじめて、すごいやりやすかった。純粋に楽しかったっていうのがあって、ベルマーレでやっていこうって。本当に良かったと思ってます」

 サポーターにもすっかりなじんだ。ゴールを決めた鳥栖戦でマン・オブ・ザ・マッチを獲得し、インタビュー後にゴール裏に挨拶に走ったときは、サポーターの歌声に合わせて踊った。

「健太郎さん(大井)が最初に踊ってて、『お前やれよ、お前の応援歌なんだから、お前がやれよ』っていわれて。そうだなって思って(笑)。
 湘南のサポーター、熱いんで。アウェイにもたくさん足を運んでくれるし。その人たちのためにも良いサッカーして、良いサッカーを観せて楽しませたい。勝ち点3の試合をして、それでやっぱり今年、J1に行きたいですね」

 J1リーグでデビューした選手だけに、その舞台のしびれる魅力は知っている。だからこそ、やっぱりJ1で戦いたいと願っている。未来の中心選手がかわす、新しい約束だ。

尽きることのない課題
だからどこまでも成長する

 今季のJ2リーグの中でずば抜けた戦力を誇るのが、昨年はJ1リーグで対戦したFC東京。今のところ、足踏み状態が続いているが、それでも日本代表選手を抱えるクラブ。対戦した時も、他のチームとはひと味違う印象があった。

「連携面はどうか分からないけど、個人個人は、ミスもしないし、能力も高いなと思った。ずっとJ1でやっていたし、有名な選手がほとんどだし、やっぱりちょっと違うなと。実際強いし」

 FC東京と対戦したのは、5月22日に実施された第13節。ホームの利を活かして立ち上がりから果敢に攻めてきた勢いに押され、1分も立たないうちに失点を喫した。しかし、すぐにチームとしての体勢を立て直すと、徐々にゲームを支配し、終盤には同点に追いつき、もう少し時間があれば、という試合を展開した。

「自分たちのリズムでボールをまわせる時間もあったし、点に繋がったシュートもパスを16本くらいつないで最後、フィニッシュで終われた。ある程度できるという実感は持ちました。初得点できて、余裕も出てきたんじゃないかと思うし、余裕が出てきた分、落ち着いてプレーができるようになったと思います」

 昨年J1の舞台で対戦したときは、7月25日にホームで行なわれた第14節が1対3、10月3日にアウェイで行なわれた第25節は0対3とスコアを見ても完敗だった。永木選手は、どちらの試合も出場しているが、フル出場を果たしたホームでの試合がより印象に残っていると言う。

「ホントに、ほとんどFC東京にボールを支配されていて、中盤でも全然ボールを取れないし、好きなようにボールをまわされて3失点で負けたというイメージだった。でもこの間の試合はもう負けなかった。自分もチームも良かったので、またJ1でやりたいという思いがさらに強まったという感じ。結構ポゼッションしてサッカーができているし。自分的にはポゼッションするサッカーが好きなので、草津戦もボールを支配できて攻撃も良い形を作れていたので、そこに自分が絡めたら、すごく楽しいですね」

 FC東京戦後は、ホームでザスパ草津戦に快勝。アウェイ岐阜で迎えた誕生日は、親友の高山薫選手が決めた誕生日ゴールと、サポーターからのバースデーソングで祝ってもらった。

「目指している自分のサッカーにだんだん近づきて来たかなっていうのはありますね。それは、最近、いきなり意識が変わったとかではなくて、積み重ねてきたもの。
 その都度その都度試合ごとに課題は出てくると思うので、そのたびにその課題を克服して。1個の課題を克服したら、同じことはやらないようにして、新しい課題に取り組む。試合ごとにだんだんレベルが上がっていくようにしたいなと思っています。そうすればベースは、落ちないし、いまの自分が最低ラインって考えて、どんどん上がっていくことが、自分のためにもチームのためにもなると思う。それで試合に出続けること、そういう意識でいたいと思います」

 上り調子で迎えた上位対決、ホームで戦った栃木SC戦。ところがベルマーレは、相手の術中に陥り、やりたいことの半分もできなかった。永木選手は、試合終了の笛の音とともにピッチにうずくまり、なかなか立ち上がろうとしなかった。

「相手のディフェンスが集中していて、ダイレクトでパスを繋げなくて中盤でリズムを作れなかった。でもこういう相手でも勝っていかないと。最低、負けない試合をしたい」

 リズムを作るのが自分の仕事。そう言っていた永木選手がリズムを作れなかったと試合を振り返った。この悔しさは、忘れない。
 課題は、試合ごとにやってくる。そして難しい課題を突き付けられたあとの試合こそ、選手の意識と気持ちが見えてくる。次の試合、永木選手から目を離さずに確かめたい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行