SHODAN -湘談-
「文化になるべき」 クラブを支援する先に思い描くJリーグの未来
湘南対談企画「SHODAN-湘談-」第11回目のゲストは、胸スポンサーとしてクラブを幅広く支援している株式会社リップルコミュニティ代表取締役の山口龍佑さん。ベルマーレとの出会いに触れつつ、支援に対する想いや30周年記念事業に携わる意義、複数のクラブをサポートする真意とJリーグに抱く考え、さらには坂本紘司副社長GMとともに、クラブと日本のサッカーの今後を展望する対談となりました。 以下敬称略
――はじめに、リップルコミュニティはどんなお仕事をされている会社なのか教えてください。
山口 僕もきちんと把握してないです(笑)。というのは冗談ですが、それぐらい色々やっている会社です。コンセプトとしては、「営業支援」と「コンサルティング」。この2軸に関わる仕事であれば、どんなジャンルでなにをやってもOKと考えています。
営業支援で言えば、たとえば東京オリンピックが挙げられます。新型コロナウイルスの影響で、開催できるかどうかも分からない状況のなかで、どこの会社がなにを受け持つのか決まっておらず、きちんとしたマニュアルも存在していなかったんですね。そこで弊社が入ってマニュアルを作成し、会場単位で運営を受ける形にしました。
国としては、新型コロナの感染も抑えなければならない。でも誰も経験していないのでどう対策すればいいのか分からない。そこで、こうすれば感染リスクが収まるのではないかというマニュアルを弊社で作成し、東京都、埼玉県、千葉県のコールセンターや療養施設を運営させていただきました。
そのような形で、企業や自治体になにか困ったことがあれば、商品の売り方も含めてアイデアを提案し、業務全体を代行しています。なので、大きな括りとしては広告代理店さんに近いと思いますが、広告代理店さんだと四次受けぐらいまで存在するお仕事を弊社はワンストップですべて行ないますよ、というのが大枠になります。また、それに付随したサービスとして、アパレルブランドやゴルフスタジオも運営している。ベルマーレさんとはグッズの制作や販売、そこに携わるコンサルティングなどを行なっています。
坂本 会社のお話だけでページが埋まりそうですね(笑)。
山口 詳細まで話していくとほんとにたくさんあるんですよね(笑)。うちは技術や商品というよりアイデアや頭脳で勝負しているので、うまくいってない仕事がどうやったらうまくいくかを提案し、ご納得いただければトータルで請け負うという形をとっています。
――山口さんはサッカーに思い入れがあるのですか?
山口 もともと僕は中2ぐらいまでサッカーをやっていたんですね。中学に上がってトレセンのメンバーに選ばれて、いちおう山梨県代表のGKでした。なぜGKだったかって、母が川口能活さんの顔が好きで、「GKがカッコいい」という、その洗脳でやっていたんですけど(笑)。
坂本 そうなんですね(笑)。
山口 でもフィールドもやっていました。4-0で勝った試合で、1得点3アシストしたこともあります。GK登録で(笑)。あとは多くの人と同じように日本代表の試合を観たり、また海外に行ったときには、たとえばパリならパリ・サンジェルマンの試合というように現地で観戦したりしていました。現地で観ると違いがすごく分かりますよね。
坂本 というと?
山口 たとえばバルセロナで、「この街でいちばんの自慢は何ですか?」と尋ねたら、たぶん多くの人がFCバルセロナと答えると思うんですよ。ドイツもイングランドもイタリアもきっと同じだと思います。Jリーグもいまや60チームに増え、ほとんどの都道府県にクラブが存在しているなかで、海外のように各クラブがそれぞれの地域の自慢の存在になってほしい。そうなればJリーグはかなり盛り上がるし、ビジネスとしてももっと魅力あるコンテンツになるはず。それが文化だと思うんですよ。30周年ともなれば、もう文化になるべきだと僕は思うし、コンサルティングを行なっている弊社としては、クラブや協会をサポートさせていただき、業界全体を盛り上げていきたいと考えています。
坂本 先ほどもおっしゃっていたように、企業や自治体が困っている部分をよくしたいという考えが山口さんの根本にあって、いまベルマーレをご支援いただいていますけど、その先にサッカーや、さらにはスポーツの地位の向上をしっかりと思い描かれていますよね。その点、我々のクラブももっともっとサッカー界で影響を持っていきたいというフェーズに入っているので、すごく心強く思います。
山口 1チームだけが強くなったり、1チームだけを改善したりしても、業界全体がよくはならないと思うんですね。全60チームとは言わないまでも、相当数のクラブがそういう意識改革をしていかないと、Jリーグとして今後盛り上がっていかないと思う。日本では依然プロ野球の人気が高いですが、どちらが上とか下とかではなく、同じ国でやっているスポーツとして、プロ野球はこのチームを応援し、Jリーグはこのチームを応援しているという国民が増えれば変わってくるのではないかなと思います。
――ベルマーレに対する支援の一方で、町田ゼルビアとも今季パートナー契約を結ばれたのも、そうした考えが背景にあるのでしょうか。
山口 はい。まず弊社が昨年ベルマーレさんとスポンサー契約を交わす際に、複数のチームをスポンサードすることは可能なのかというお話を前社長の水谷(尚人)さんにしていました。というのも、いまお話ししたように僕はJリーグや日本のサッカーの地位向上を念頭に置いているので、仮にほかのチームから同様の話があったときに、検討して可能であれば支援したいと考えていた。すると、水谷さんとしてはOKだし、Jリーグの理事を経験されている立場からも、リーグ全体を盛り上げてくれたほうがありがたいというお話がありました。そういう前提があったなかで、たまたま別件で行った展示会にゼルビアさんのブースが出ていて、名刺交換をした。そこからは早かったですね。昨年末からゼルビアの社長を兼任されているサイバーエージェントの藤田(晋)社長は、高校サッカー界で長年活躍された黒田(剛)監督を招聘し、チームの編成も前年から大きく変えました。とても興味深い取り組みだし、弊社の企業理念である「楽しむ。」にも合致している。なので支援を申し出て、そのなかでなにかできることがあれば一緒に取り組んでいきましょうという話をさせていただいています。これはもちろんベルマーレに対する金額を落とすのではなく、あくまでプラスでゼルビアさんも支援するという話です。
坂本 Jリーグ全体の地位の向上については、我々も意識はあっても、なかなか具体的に考えが及んでいないというのが現実なので、そういうマインドに僕らも追いついていくことが必要だし、力をお借りしながら一緒に取り組んでいけるパートナーになっていきたい。自分たちのホームタウンについても、エリア全体が盛り上がるように目を向けていかなければいけないと感じているので、すごくヒントをいただいたと思います。
山口 ベルマーレさんもJリーグ加盟30周年ということで、うちの会社は創業からまだ5年経ったばかりなので、僕からすれば30年続いているのはすごいことなんですよ。さらに存続危機やJ2に低迷した苦しい時代もあったなかで、コロナ禍で行なったクラウドファンディングではJリーグで最もお金が集まったクラブです。これは多くの方々から愛されている証だと思うんですね。だからこそほかのスポンサー企業さまと一緒にサポーターの皆さんが喜ぶことをもっと行なって、ファン・サポーターの数を増やしていく活動は必要かなと思います。
坂本 ベルマーレを応援してくださる方々は、愛情とともに、心配してくださっているところもあると思います。それは存続危機などクラブの歴史がそうさせていると思うんですけど、いつまでも皆さんの想いに甘えてはいけないし、これからは心配しなくても大丈夫だと思ってもらえるクラブにしていかなければならない。フットボールの楽しさや勝利を届けたり、地域とともに行なう取り組みだったりを通して、ベルマーレを支えてくださっている皆さんに返していかなければいけない時期に来ていると思っています。
――そもそも、リップルコミュニティはなぜベルマーレを支援されることになったのですか?
山口 弊社としてプロスポーツやサッカーに携わってなにか取り組みたいと考えていたときに、うちの社員が平塚で飲む機会があり、そのお店のオーナーさんにベルマーレを紹介していただいて、島村(毅)さんが来てくれたのが最初の出会いです。それからとんとん拍子に話が進み、パンツのユニフォームパートナーになったのが去年の6月のことでした。
――そして今年は胸のユニフォームパートナーとなりました。
山口 やるならガッツリ支援させていただきたいな、というのが本音です。そこをサポートさせていただくことがサポーターの皆さんに対する誠意として最も表れると思いました。もちろん単純に広告として胸は目立つので、ほかのチームのサポーターさんにも知ってもらえたらいいなというところもありますが、いちばんはベルマーレのサポーターさんに対する覚悟が大きいですね。
――社名の意味について、あらためて教えてください。
山口 リップルは「波紋」、コミュニティは「同志」や「仲間」を意味します。つまり弊社を最初の水滴として、その一滴が波紋のようにどんどん周りに広がり、交わっていく。どこが上とか下とかではなく、同じ方向を向いている同志としてどんどんその輪が広がっていけばみんな幸せだよね、という考えをコンセプトにしています。
ベルマーレさんとの関係で言うと、弊社だけでなく、ほかのスポンサー企業さまにも良いことがあり、サポーターの皆さんにも喜んでいただき、選手やスタッフの方々もベルマーレに所属してよかったと思えるグループでありたい。ベルマーレを支援されている企業とコラボしてグッズをつくっているのもそういう想いからです。
坂本 そうして波紋が広がっていくことで、コミュニティ自体も大きくなっていく。
山口 そうです。その一環として、ベルマーレの9市11町のホームタウンのなかでふるさと納税を受け入れている市町では、弊社がふるさと納税を行ない、一緒にクラブを盛り上げてほしいと依頼しています。たとえばホームタウンの全駅周辺に旗を立ててもらうだけでも、地域の意識はだいぶ変わると思うんですよね。まずは興味を持ってもらうところから始めて、それを全チームがやっていけばサッカーの地位は上がるはずなんです。
――先ほどからお話に出ている「文化になってほしい」という山口さんの想いは、サッカー愛から来ているのでしょうか。
山口 もったいないな、という気持ちとリスペクトだと思います。僕自身がまだ33年間しか生きていないので、物心ついた頃にはもうJリーグは存在していたし、開幕当初の盛り上がりは映像では見たことがあっても実際に経験はしていません。あのときの熱狂はブームだったけど、僕からすれば30年続いたものは文化になるべきなんですよ。
これはほかの業界を見てもそうです。たとえばポケモンは、出た当初はゲームがバズってアニメ化してブームになった。でもいまやポケモンというコンテンツは一つの文化として日本が誇るべき存在になっている。
ではなぜJリーグはいまだに世界のなかでマイナーリーグ扱いなのか。この地位の向上はできるはずなんです。ただ、そのためには国民にとってもっと身近な存在にならなければいけない。
坂本 そうですね。
山口 これはベルマーレだけが頑張っても解決しない話です。川崎フロンターレや浦和レッズは成功事例だと思いますが、60チームが同様にできれば、たぶんJリーグのレベルは上がっていきますし、海外のトップ選手の移籍先に選ばれる可能性だってある。そしてそれをバックアップできる企業は日本に存在しているんですよ。先進国と言われ、GDPもヨーロッパ諸国より上。できない理由はないんです。だから誰かがそのきっかけにならなければいけない。それができれば、ワールドカップの目標もベスト8ではなく、優勝と言える国になると思います。
坂本 クラブに長くいると、クラブ単体で物事を考えがちになっているなと感じますね。サッカー界全体が盛り上がり、その相乗効果で各クラブもよくなっていくという発想はなかなか持てなかったけど、山口さんの考え方はすごく共感できます。
――「リップルコミュニティスペシャルデー」となる9月の川崎フロンターレ戦は、ベルマーレの30周年記念事業の企画として国立競技場で開催されます。このスペシャルデーの意義について、またなにか計画していることがあれば教えてください。
山口 30周年の目玉企画として国立開催を猪狩(佑貴)さんが発表したときに、いちばん会場が盛り上がったんですね。それがファン・サポーターの皆さんの答えだと思っていますし、喜んでもらえた企画にメインで携われるのはすごくうれしいです。
30周年の企画で言うと、JAM Projectとのコラボも今後楽しみですね。もともと僕がリーダーの影山ヒロノブさんと飲んでいたときにお願いしたら「いいよ」と言ってくれて、ほんとに曲をつくってくれたという経緯なんですけど(笑)。JAM Projectってほんとにすごいグループなんですよ。SNSを見ていたら、JAM Projectのファンの方がベルマーレの応援ソングの告知映像をリアルタイムで見るためだけに平塚まで来たというツイートもあったし、ドラゴンボールやワンピース、ポケモンなどヨーロッパで人気のアニメの主題歌を歌っているシンガーが集まっているから、海外でも知名度はものすごく高い。言うまでもなくヨーロッパはサッカーの本場なので、JAM Projectが湘南ベルマーレという日本のチームの応援ソングをつくったことは海外でも少なからず知られている。『キャプテン翼』を見てサッカーを始めた人がいるように、選手やスタッフにもアニメ好きはたくさんいるので、彼らがJAM Projectを通じて日本の取り組みを知れば、Jリーグの地位向上になると思いますし、日本の選手が海外に行きやすくなるかもしれないし、逆に海外の選手が日本に来るきっかけにもなる。そういうお手伝いを30周年という枠組みで弊社ができることはありがたいなと思っています。
――坂本さんはこのスペシャルデーをどんな日にしたいですか?
坂本 せっかくだから国立のピッチに立ちたいですね(笑)。
山口 それもおもしろいですよね。
坂本 クラブとしてもなにか企画したいですね。
山口 OB対アカデミーとかね。
坂本 おもしろい(笑)。これまでの歴史と未来を感じられて、夢がありますね。
山口 実現したらOBのなかに僕もスポンサー枠で入りたいですね。たぶん5分でバテると思うけど(笑)。
坂本 いずれにしても楽しみですね。社内のプロジェクトメンバーを中心に、国立でやりたいという話が上がってきたときは、僕の立場的にはどうしても心配のほうが先に来るんですけど、そういうチャレンジングな想いを持っている社員たちがいて良い会社だなと思ったし、プレッシャーはありますが、みんなで楽しみながら良いきっかけにできればいいなと思います。
山口 イベントなので、社員の方もサポーターさんも含めて、関わる全員に喜んでいただける企画を用意できればと思っています。
――最後に、今後の夢や展望についてお聞かせください。
山口 弊社としては、サポーターの皆さんをはじめ、ベルマーレに携わるできるだけ多くの方々に、リップルコミュニティの輪に入っていただき、ベルマーレのスローガン「たのしめてるか。」と弊社の企業理念「楽しむ。」を感じてもらえればうれしいです。それが湘南地域の一人ひとりに浸透し、さらにJリーグ全体へ波及することを目指していきたいなと思います。
坂本 オンリーワンのクラブだから我々だけが輝けばいいという考え方ではなく、もっと大きな視野を持ってサッカー界全体を盛り上げ、そのなかでほかと違うオンリーワンの部分を示していけばいい。そうして、「湘南みたいに」とほかのチームに思ってもらえるような、ロールモデルになるようなクラブを目指していきたい。大変な時期を乗り越え、繋いできたクラブだからこそ、強くなっていく過程も含めて、目標とされるようなクラブにしていきたいと強く思います。そのためにはサッカー界という広い視野のなかで取り組むことが大事だと、山口さんとお話しして感じたので、僕自身肝に銘じて、社員にも伝えながらやっていきたいですね。今回は良い機会をいただき、ありがとうございました。
山口 こちらこそありがとうございました。日本はアジアのトップとして、ACL優勝を目標に掲げるチームがたくさん出てくるべきだと思うし、いずれはクラブワールドカップ優勝を目指すチームが出てくればいいなと思います。
坂本 ほんとにその通りですね。