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【ボイス:2月18日】フットサルクラブ – 久光重貴選手の声


 現在、サッカーはオフシーズン。そこで今回のボイスは、湘南ベルマーレスポーツクラブの競技であり、サッカーと縁の深いフットサルに注目。チームのキャプテンである久光重貴選手を取材した。

 まずは、フットサルとの出会いから現在のこと、その話にちなんでサッカー好きにもフットサル観戦を楽しんでもらうためにルールの違いによる見所ポイントなどを指南。さらには自身について、ベルマーレというチームへの期待、そしてFリーグに託す夢まで、フットサルの可能性にかける思いを聞いた。

真剣に取り組む気持ちに刺激を受けて
いつしか自分が中心選手に。

 高校までサッカーをやっていた久光選手。“本気”の思いをサッカーに賭けていたが、その思いは実ることなく高校卒業後はごく普通に働き、ごく普通の社会人生活を送っていた。そんな風に迎えた社会人3年目のある日、友人から久しぶりにボールを蹴ろうと誘われ、新しくできたばかりのフットサルコートへ出かけた。ちょうどフットサルという競技に注目が集まりはじめた頃のこと。
 そこにいたのは、フットサルに本格的に取り組んでいた選手たち。国際大会にも出場するようなメンバーが集まっていた。

「この出会いがきっかけで。その時に『練習に来てみなよ』と誘われて、練習に行ってみたら、この人たちは真剣にフットサルに取り組んでいるんだなっていうのに気づかされて。僕も練習に行くと決めた以上、後に引けなくなってしまい(笑)。そこでフットサルって楽しいなって思った。
 その頃は、練習場所も1カ所ではなく、いろんなところに出かけてやっていた。だから練習に合わせた時間で働けるように、それまでの仕事は辞めました」

 同好会のような形のチームがたくさん生まれてリーグが整備され、関東リーグの大会が行われていた。出会ったのは、この関東リーグに出場するカスカヴェウの選手たち。このチームのフットサルが魅力的だった。

「パスで繋いでいくチームで、完全に自分たちのリズムでシュートまで行ける。自分たちが思い描いた通りにプレーできる。フットサルは戦術的な部分がすごく大きく影響するし、そういうフットサルをやるチームが少なかったということもあって、ものすごく魅力的だった。
 でも自分がそこまで行くのには1年くらいかかりました。最初は、サッカーと同じ感覚で始めるしかなかったんだけど、そこでサッカーをやろうとしても、まわりはフットサルに取り組んでいる選手ばかりだったので、ボールも触れなかった。ただ単に走り回っているだけ。それでも高校ではサッカーをバリバリやっていたんで、みんなからの『お前は頑張ればできるよ』っていう励ましの中、やり続けました」

 似ているようでフットサルとサッカーはまったく違うスポーツ。サッカー感覚でやろうとした最初の頃はボールすら触れなかったという。それでも止める、蹴るという共通のスキルの基本を支えに、フットサルに取り組んでいった。久光選手がこのスポーツの虜になったのは、あっという間。楽しくて楽しくて仕方がないという気持ちは今も変わらず、そしてまた今も大切に思う原点だ。

「フットサルは人数が少ない分、一人ひとりの動きがすごく大事になってくる。一人が動くことによってスペースができるから、じゃあ次はこう動くとか、基本的なセオリーがあって、一番初めはそのセオリーを覚えるのが大変。ひとつのボールに対して、敵も味方も近い距離をとるから攻撃の時のサポートの角度までが展開に大きく影響する。でもそこにも楽しみを感じた。どんどん覚えていくにつれて、『こういうプレーをサッカーをやっていた頃知っていたら、俺たぶん変わってたな』と思いました」

 関東リーグからFリーグへと組織がいっそう整備され、プロ契約ではないが選手としての地位も向上した。21歳のスタートを振り返る29歳の自分。あの頃には想像もつかなかった今にいる。

コミュニケーションとコンビネーションが大切
ゲームはエキサイティングなシーン満載。

 サッカーとフットサル、それは似て非なるもの。そこで、現在の久光選手の活躍と絡めながらフットサルの見所やポイントについて教えてもらった。ルールについては、こちらで簡単に紹介したので、参照を。

 久光選手のポジションは、ピヴォ。サッカーでいえばフォワードのような役割で、前線で身体を張ってボールを受け、キープし、味方の上がりを待つ、あるいは反転してゴールを狙うのが仕事。実は、このポジションになったのは、昨シーズン。もともとはフィクソと呼ばれる、サッカーでいえばディフェンスのポジションを得意としていた。それを昨年監督を務めた、奥村敬人現コーチがコンバートした。

「『前でボールを収める選手が欲しい、前の方のポジションでやってくれ』ということで、僕がやることになったんですけど。ピヴォの選手はどこのチームでも少なくて、すごい難しいというか。僕を指名した一番の理由はたぶん身体が強いということ。しっかりとボールをキープして、後から走り込んでくる選手に対してシュートが打ちやすいパスを出してあげる。
 僕がフィクソをやっていた頃は、ボラがピヴォをやっていたんだけど、そうするとどうしてもボラが後ろ向きでボールを受けるから、サイドで仕掛けたりだとか前を向いて勝負することができなくなっていた。でもボラの特長として、前を向いてゴールに向かっていく方が相手にとって怖い。じゃあ誰が前で張るか?ってなった時に僕になったんです」

 リーグで得点王を争うボラ選手の現在のポジションはアラ。ピヴォである久光選手がキープしたボールを前を向いてスペースで受け、得意のドリブルでの仕掛けを含めて、アイデアあふれる攻撃を繰り出す。ボラ選手に限らずベルマーレには、ドリブルが得意な選手も多く、攻撃の見所のひとつとなっている。
 また、メンバー交代が頻繁に行なわれるのもフットサルの特徴。そういった中でスターティングメンバーが持つ役割については、

「やっぱりゲームの入りは、その時のチームの中で調子のいい選手、練習の中でより監督の信頼を得ている選手が選ばれると思います。入りでゲームを崩しちゃうと、ずるずる流れちゃうんで。
 交代は、自由です。チームごとに戦術もあるけど、だいたい4人いっぺんに替わる場合と、2人ずつ替わるパターンがあるんですよね。2人ずつ替わる場合は、練習からそのふたりがペア、常にどのセットに入っても良い。うまくいく時っていうのは、だいたい2人のコンビネーションでシュートまで行けちゃうんで。『俺はドリブルするからこのスペースを空けてくれ』っていうのがわかっていれば、そこを空ける動きができるから。そういう面でもコンビネーションが大切。それとコミュニケーション、味方との距離も近いけど、相手との距離も近いので、より精度が必要だから」

 狭いフィールドに4人のフィールドプレーヤー。相手を合わせれば8人の選手がスペースを作り、スペースをつぶし、攻撃に守備にと、めまぐるしく入れ替わる。こうしたフットサルの戦術は選手同士の密なコンビネーションとコミュニケーションの上に成り立っている。だからこそ、交代のたびに監督から細かい指示が出るわけではない。『こういうプレーをしてくれ』、『このタイミングで出た時はこういうことをしてくれ』ということを、毎日の練習で身体にたたき込まれる。交代を告げられた選手は、試合の流れを見て、自分に何が望まれているのかを判断し、試合に入っていく。

「僕が入るのは、点が欲しいときもそうですけど、4人のバランスが崩れたとき。フットサルは距離を近くとってサポートする分、前線に人がいなくなる時があって、そういうバランスが崩れ気味の時に前でボールをキープすることによって、相手のディフェンスラインが下がるから、そこで味方がボールを前に進められる。そういう時に出ることも多い」

 交代時の試合状況と入ってきた選手の特徴を観れば、戦術や監督の意図することがわかるというわけだ。他にも、チームファウルが前後半で各5つ累積すると6つめ以降は第2PKとなるルールを利用して、5ファウルが適用されるとドリブラーの選手を多く入れて相手のファウルを誘うなど、ルールを逆手に取った戦術が仕掛けられることもある。また、オフサイドがないこともフットサル特有の動きが出てくるシーンのひとつ。

「あのスピードの中でオフサイドがあったら観る方もそうとうややこしいと思うので、気楽に待ち伏せOKということで観てもらってもいいけど、フィールドの選手としては自分がいる場所によって相手のゴレイロを惑わせる位置取りもできるので、戦術的にも利用できるルール。そういう見方をするのもおもしろいですよ」

 Fリーグが開幕した当初は、ボディコンタクトが禁止されていたが、2010年にルールが変更になってスライディングタックルが認められた。これによってボール扱いのスキルに加え、身体の使い方がうまい選手がより光るスポーツになって、試合の中でエキサイティングなシーンがいっそう増えた。そのおもしろさはぜひ、ホーム小田原のアリーナで体感してほしい。

チームの方向性が見えて来た。
ベルマーレの新しい伝統を築いていきたい。

「フットサルというゲームは、攻撃の正解はゴールを決めること、守備の正解はゴールを守ること。その正解に行くまでの過程は無限にある。味方が近い分、敵も近くて局面局面で考える時間が限りなく少ないので、常に正解に近い状況判断をしないと、ミスとなって失点に繋がってしまう。うまくいく時は本当に自分たちが思い描いた通りに得点できる感覚があって、すごく楽しいけど、相手があるゲームだからうまくいくばかりではないし、そこまで行けなかった時に次どう判断するか、そういうのが大事になってくる。経験も大切で、たくさん失敗していると危機察知能力も上がるし、ミスをミスで終わらせないで、もう一回やり直せる判断ができるようになる」

 選手一人ひとりが持つ力を足すのではなく、掛け合わせて得る力がチーム力。しかし、今のところベルマーレはその力を効果的に発揮できていない。良い展開で試合を進めていても、ここぞというポイントで踏ん張りきれずに失点しては、そのままゲームの主導権を取り戻せず、ずるずると負けてしまうという試合が重なっている。しかし、結果はつらいところだけれど、久光選手はチームとして得ている手応えに別の感触を感じている。

「順位は厳しいですし、これ以上下がることのできない順位だと思うから不甲斐ない気持ちでいっぱいです。だけど、自分がベルマーレに来て3年目なんですけど、1年目の時はチームとして方向性が見えないところがあったチームが、3年目にして変わりつつあると思う。最初に来た時は、『このチームはどうしたら良いんだろう?どう変わっていくんだろう?』という何もわからない状態だったのが、この3年間はチームとしての方向性をブレずに同じことをやり続けて、ここ最近、負けは負けなんだけど、今までとは違う負け方になってきたとすごく感じている。
 今は自分たちが犯したミスで負けたり、大事なところでミスをしてしまっているけど、そこで踏ん張れれば勝つ試合に持っていけるかもしれない。そういう部分が見えてきた。そこが乗り越えられたら勝つ集団になれると思う」

 今年は、キャプテンも務めている。

「今までは人のことは考えてなくて、まず自分のことって思っていて、今日は今日でやりきろう、やるきることによって次に見えてくるものがあると思っていたけど、監督に求められているのも、常に100%でやるそういう部分だと思うんですね。だから今もやり続けている。そういうことが周りに良い影響として伝染させていければ良い。
 それに加えて、若い選手に声をかけるようにしています。自分も若い時は怒られていたけど、若い選手にはもっともっと欲を持ってやってほしい。代表も狙っていけると思うし、そういう部分で頑張れるように声をかけている。若手が伸びることによってベテランが刺激されて『もっとやらないと!』って思うし。そういう良い循環を作っていければと思って。
 目先の勝ち負けだけを見ると、『こんなんじゃダメだ』っていう悲観的なことしか出てこないんだけど、みんな常にモチベーション高く練習していて、そういう部分では絶対に来年以降に繋がって行くと思う」

 ベルマーレとして4シーズン目を迎えて、チームの方向性が見えて来たというところのようだ。今、久光選手が感じるベルマーレというチームの色というのは、どんなカラーなのだろうか?

「ベルマーレはロンドリーナという本当に実績のあるチームが前身で、中心だった阿久津(貴志ゴールキーパーコーチ)さんにしても奥村さんにしても、フットサルが出て来たばかりの頃からやっていて、すごく勉強しているし苦労もしている。そういう時を知っているスタッフから良い伝統は引き継ぎつつ、これからはもっともっと良くするために、新しいものを作っていく。神奈川県で唯一のFリーグのチームなので、フットサルをめざす若い選手が『ベルマーレに入りたい』と思ってくれるように、ベルマーレというチームの色を作っている段階なのかなと思う。『ベルマーレでやっていて良かったな』っていう若手が一人でも多く出てくれば、それが宝になると思うから」

 チームの基盤を造る基礎工事をやりながら、同時にリーグ戦でも魅力的な戦いができるチームを作っている現状。まだ手探りの部分が多いのは、やっと4シーズン目を迎えたばかりの、生まれたてのリーグでは仕方がないところもある。しかし、それでも試合の勝ち負けはやっぱり別もの。戦う以上は、負けたくないのが選手の気持ちだ。

「負けて良い試合なんてまったくないし、負けるために練習をしているわけではない。でも今シーズンは、アウェイの方が勝っていることが多いのは、サポーターのおかげ。ホームで勝てないのは、僕らの力不足。僕らが強くならないと。
 サポーターの存在は、ものすごく心強い。ベルマーレは、サポーターはすごいけど、チームは…って言われるのが一番悔しい。本当に日本一のサポーターと、日本一の選手になれるように、一気にぽーんと強くなることは難しいかもしれないけど、徐々に徐々に積み上げていければ選手としてもうれしい。今この現状を知っていてくれるからこそ、サポーターにもあきらめてほしくない。
 何年かかるかわからないけど、優勝の瞬間を一緒に喜んでもらえるように、自分たちの確固たる自信のあるプレーを造り上げていかなければと思う」

 すべての戦いを歴史として積み上げているところ。強いチームになる!サポーターと気持ちをひとつに進みたい。

Jのあるベルマーレだからこそ!
可能性を信じて夢を託す。

 Fリーグ唯一のプロチームは名古屋オーシャンズ。他のチームに所属する選手は、基本的にプロではない。久光選手もそう、平日の午後に馬入へ行けば、管理棟で管理の仕事をしている。

「午前中に練習をして、昼食を食べて14時から21時まで馬入で働いています。でも昔の環境に比べたら全然いいですよ。僕らがフットサルを始めた当初は、仕事をしていても交通費もなくなることもあったから週末になると試合で遠征するのもみんなで車に乗り合わせたり。あの頃に比べれば、今は試合に行くバスがあるし、ユニフォームも練習着もある。練習場も用意されているし」

 完全なプロリーグではないがオフシーズンになれば移籍をする選手もいる。そうなると結局そこで得た仕事を辞めてチームを移る。しかし現在は、各クラブがフットサルスクールなどを開催し、そこでコーチをして報酬を得るなどフットサルと両立できるようさまざまに工夫している。まだまだ厳しいところはあるが、それでもFリーグができたことによって選手にも生活の基盤が保証されつつある。

「サッカーもそうじゃないですか。そういう段階を踏みながら、今のJリーグがある。Fリーグができたことによって、本当に環境が変わった。その境目を知ることができたのは、良い経験になっている。
 それと、お客さんがお金を払って観に来てくれるという環境になったというのは、またひとつ責任を持ってやらなければいけないということ。最近、すごく感じるのは、やっぱりお客さんあっての僕ら選手なんだなっていうのをもっと感じ取らないといけないなということ。これまでは試合の勝ち負けだけを気にして、自分たちのためだけに試合をこなしてきたけど、それではお客さんはついて来てはくれない。お客さんあっての選手なんだっていうことを考えていかないと。このままの観客動員では、Fリーグもなくなってしまうと思うので」

 ホームゲームの観客動員は毎試合1000人前後。これはベルマーレだけに限ったことではなく、どこのチームも厳しい状況であることに変わりはない。

「特に今シーズン、怪我をして3試合くらい試合に出られなかったんですけど、その時により強く感じた。自分自身がピッチに立った時はやっぱりその試合に勝とうと思って立ってるし、負けたら悔しい。でもそういう部分だけで振る舞ってはいけないのかなと思う。負けたからといって僕らが下を向いたら、応援してくれた子どもたちはどう思うのか?っていうのをすごく感じた。試合で負けたというのは、自分たちはいまの自分たちの実力を知らなければいけないということ。でも試合で負けても平常心で、試合の後は応援してくれたサポーターや子どもたちと触れ合ったりするのも大切じゃないかと思う。そうして子どもたちが試合を良い思い出にしてくれてまた来たいと思ってもらうことも大切にしたい」

 アリーナに足を運ぶサポーターたちはお金を払ってチケットを買ってくれている。サポーターたちは、そのプレーにお金を払っているのだ。

「プレーでお金がもらえるのがプロなのか、お金を払って観に来てくれる人がいるからプロなのか。それはわからないけど、やっぱり観てもらっている分、頑張らないと、勝たないと。プロじゃないからこそ、プロ以上の意識でモチベーションを高く持っていないと、プロには絶対になれない。意識が高ければプロになった時にもすんなり入っていけると思うけど、立場だけプロになって気持ちがついていかなかったら、立ち居振る舞いとか感謝する気持ちとか、そういうことができなくなってしまうと思う」

 Fリーグに託すのは、プロ選手になる夢。そしてこの夢を支えるのは、Jリーグのチームがあるベルマーレだからこそできるという確信だ。その確信は、第25節のホームゲームで裏付けられた。イベントが絡んだことも功を奏して2995人の観客動員を記録したのだ。まさにベルマーレの持つポテンシャルの高さを示した数字が記録された。

「フットサルの魅力をもっともっと伝えていきたい。今の中学生や高校生のなかで、『この競技をやりたい、このスポーツに打ち込みたい』と思う選手を増やしていきたい。そうじゃないとフットサルは発展していかない。そういう環境としてベルマーレは、すばらしいと思う。小学生のスーパークラスは、フットサルの練習をしているから、そういう子どもたちが少しずつ出てくるかもしれない。
 ボラだって、フットサルをやる前はずっとサッカーのプロ選手だった。でもサッカーで選手として契約がなくなっても、フットサルという選択ができた。去年、菅野哲也選手がFリーグにポンと入って来たけど、あいつは技術があるからフットサルも違和感なく入って来れた。そういう意味ではフットサルがプロだったら、彼はどちらも選択できる選手だと思うし。そういう意味で先に繋げていくためにも、ベルマーレというチームはすごく大きな可能性を持っていると思う」

 FとJのあるクラブ。それがベルマーレフットサルクラブの色として、良い形で実る日を楽しみに待ちたい。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行