ボイス

【ボイス:2022年4月13日】米本拓司選手

チームを勝たせる選手になれるのか?
自分への問いを実践するために
 名古屋との契約を残すなかで移籍を決めた理由は、技術的な成長だけを目標にしたものだけではない。もう一つ、選手としての在り方についての成長を目指した。

「プラスアルファ、自分が『チームを勝たせられる選手なのか?』というのを意識しながら。今までは正直、勝たせてもらっていた。ルヴァン杯だったり天皇杯だったりのタイトルを取りましたけど、周りにいる選手がいい選手で、年上の選手が引っ張ってくれて、勝たせてもらっていた。そういう印象が強い。今度は自分が勝利に導きたいなという思いで移籍しました」

 米本選手が外からベルマーレを見ていた印象を考えると、プラスアルファの部分が最も大きなチャレンジかもしれない。

「若い選手が多くて走れるチームだと思います。でも、若くて勢いがあっていいチームだと思ってましたけど、最後の詰めというか、ゲームの終わらせ方だったりというのが、まだまだ足りない部分なのかなというのは、対戦したときにも感じていました」

 昨シーズンも引き分けが多く、これらの試合のいくつかでも勝ちに結びつけられていれば、という思いは選手に限らず誰もが持っているだろう。米本選手は、外から見た状況を踏まえた上で、自分自身のチャレンジを重ね合わせて決断した。

「移籍は自分のサッカー人生の中でも大きな決断だと思うし、チャレンジは自分の経験にもなる。その経験を若い選手たちに伝えたいというのもあるので、…なんて言うんですかね、覚悟を持ってきたという感じですかね」

 外から見ていた印象は、懐に飛び込んで共に戦う立場に立つことで、より具体的な考えに形を変えてきている。

「ゴール前でもうちょっと楽しんだほうがいいのかなと思います。攻撃においても守備においても。僕はあまり攻撃がうまくないので守備のことをいいますけど、押し込まれていても、ドキドキ感というのを楽しめたら、と思う。ボールを持たれて回されていたとしても『回させてあげてるよ』みたいな気持ちの持ち方をする。『回させてあげてるんだ』『どこからでも攻めてこいよ』という心構えがあれば、もっともっと余裕が生まれて最後まで守り切れるんじゃないかな、とか。ちょっと焦りもあると思うので。これが正解、不正解というのではなく、そういうこともやってみるのが大事かなと思います」

 米本選手には、ベルマーレの多くの選手が、自分のタスクに懸命になるあまり、周りを見る余裕を失っているように見える。その結果、サッカーの醍醐味であるゴール付近でのプレーも焦ってしまうのではないかと感じる。がむしゃらにプレーすることも大切だが、それで自分自身の気持ちを追い詰めているのであれば、本末転倒といえそうだ。「僕もどっちかというとがむしゃらにやるタイプだったんですけど」と若い頃の自分を振り返りながら、先輩たちに導かれて今に至る、その経験を語る。

「僕の言っていることが合ってるかは、わからないです。でも心の余裕は大事だなと私生活でも思うので、いかに試合で平常心でいられるかは大事かなと思います。それに、勝たせてくれた選手は、そういう選手だったかなと思ったりするので」

 平常心でピッチに立ち、攻守にわたって楽しむ空気をピッチに作り出すには、より密な関係性も必要だ。米本選手は、チームとして戦うために、声を掛け合うことも大切だと考えている。

「みんな仲が良くて練習前に話す選手は多いと思う。でも、試合中に声を出す選手があまりいないイメージがある。試合中にもっともっと自分からポジティブな声かけをして、いろんな選手がもっともっと声を出すようになれば、繋がって、変わっていけるんじゃないかなと個人的には思います。やっぱりチームスポーツなので、助け合うことが大事ですから。若い選手だから声を出さないじゃなくて、若い選手だからこそ僕らに声をかければ、みんなが繋がって同じ方向を向いていけると思う」

 チームのためのタスクのはずが、個人の課題になっている、そんな状況だろうか?

「自分の世界に入っている感じはしますね。でもそれだと周りのことを考えたり、例えば誰かがミスったときに助けてあげたいという気持ちにはならないと思う。自分だけすべてのプレーが良くてもチームは勝てないので。1人の世界に入らせないことも大事だし、ミスをしても『お前のせいじゃない、みんなのせいだよ』という雰囲気になればミスを恐れずプレーできると思う。これは僕個人の意見ですけど、そういうチームにしていきたいなと思うし、そうやって繋がっていれば、うれしいときはサポーターも含めてみんな一緒に喜べるし、悔しい思いもサポーターやチームのみんなと共有できると思う。それがチームが一つになるということかなと思う」

 コロナ禍で声を出した応援が制限される中、試合中は選手たちの声が聞こえる。米本選手の鼓舞する声は、チームが劣勢のときほど大きく響く。

「言葉選びを意識したことはないんですけど、やっぱり下を向いている選手がいたら手を差し伸べたくなるし、差し伸べないとダメだと思うんです、チームなので。それが1人じゃなくて2人、3人となれば、気持ちも和らぐと思う。自分がミスしたときでも『ああ、助けてくれるんだ』と思えば和らぐというか。スポーツはなんでもメンタルだと思うし、やっぱりチームあってのサッカー。僕はそういう選手なので、支え合いが大事だと思うし、きれいごとと言われるかもしれないけど、ミスした選手の気持ちが少しでも和らぐほうが大切だと思うし。個人的には、僕もたくさんミスをするので。ミスを助けてよっていう意味じゃないですけど(笑)、そうやって繋がっていくのは大事かなと思います」

 チームを勝たせる選手として、自分が今、果たすべき役割、それは声を出し、チームのみんなを繋ぐことだと感じている。

「僕は普段みんなとわちゃわちゃするタイプではないんですけど、試合になるとけっこう大きな声を出すタイプ。やっぱり勝っているときやこのチーム、強いなと感じたときには、そういう選手がいたと思う。でも、これが正解かどうかはわからないし、それをみんなでできたときにどうなるかもわからない。でも違ったらまた違うことを探してチャレンジするだけです」

 米本選手が思い描くチームは、確かにそれを見て見たいと思わせる理想の1つ。米本選手がどんな声がけでチームの結束を高めていくか、スタジアムでならその過程も楽しめるはずだ。

>1年後の自分を楽しみに サポーターに見て欲しい変化