PARTNERパートナーとの取り組み

SHODAN -湘談-

平塚に工場を持つパイロットコーポレーションが、
ベルマーレとともに歩んでいくうえで大切にしていきたい想いとは。

株式会社パイロットコーポレーション ×湘南ベルマーレ

「COPA BELLMARE」に代表される、地域の子どもたちへの支援を積極的に行なっている株式会社パイロットコーポレーション。湘南対談企画「SHODAN-湘談-」第4回は、そのキーマンのひとりである執行役員の小平岳志さんをお迎えし、水谷尚人・湘南ベルマーレ代表取締役社長とともに歩みをひもとき、さらにパートナーシップ関係の未来に想いを馳せました。 以下敬称略

――パイロットとベルマーレのパートナーシップ関係は、クラブがJリーグに昇格した当時にさかのぼります。その後、約20年のブランクを経て、2014シーズンからふたたび関係が再開されました。一連の経緯を教えていただけますか?

小平 当社はJリーグ発足当時にベルマーレ平塚さんをご支援させていただいていたのですが、その後業務の見直し等もあり、一時期、会社としてなかなか継続的なサポートができない期間がありました。そこから時間をおいて工場の状況も安定してきたタイミングで、すでに湘南ベルマーレとなっておられましたが、当時の社長の大倉(智)さんと営業の雲出(哲也)さんがいらした。その時私は工場の責任者だったのですが、ベルマーレさんの事はずっと気になっていたこともあり、また地元に貢献したいという想いをずっと抱いていたので、それならきちんと予算をとってスポンサードしましょうと、当時の役員に話を通しました。そこからとんとん拍子に話が進みましたね。

――20年越しの営業にはクラブの熱意も窺えます。

小平 たぶんどこのパートナー企業さんも同じように感じていると思いますね。雲出さんの押しに負けたという(笑)。いまはコロナ禍で対面が難しいので、その押しが発揮できていないのではないかと逆に心配してしまいますけど(笑)。

水谷 たしかにそうですね(笑)。でも我々としては、またお付き合いを再開させていただいてほんとうにありがたいです。雲出とも何回も話していますけど、企業は生き物なので、いいときがあれば悪いときもある。一度離れたからさよならではなく、自然に戻っていただけるクラブでありたいなと思っています。

小平 思い返すと、当社とベルマーレさんの最初の関わりは競技場のベンチですね。当時Jリーグ仕様のベンチをつくらなければいけないということで、何かの因果で当社にオーダーをいただき、製作しました。大倉さんと雲出さんがいらした際、いまはそのベンチを馬入の人工芝に移して使っているという話を聞かせていただいたんですよね。「ああ、懐かしいなあ」と思ったことを覚えています。ちなみに、ベンチの横に貼ってあるパイロットのロゴは、当時の担当が「どこかに会社の証を残したい」と密かに忍ばせたもの。目立ちますけどね(笑)。

水谷 あのベンチは全部オーダーメイドだから大変ですよね。いまはコロナ禍で密を避けなければいけないので、競技場で通常使っているベンチの横に、そのパイロット製のベンチを白いカバーをかけてもう一度使わせていただいています。約30年が経ちますが、まだまだ現役です。

――そうして2014年から平塚市の小学校体育巡回授業をスポンサードされることになるわけですね。宣伝という視点で言えば、トップチームを支援するほうが効果は高いと思いますが、小学校巡回授業に協賛したのはなぜですか?

小平 ひとつは、地域のひとたちと一緒に歩んでいきたいということです。単純に売り上げや業績に結び付くことを考えれば、広告宣伝費の使い方はほかにあると思いますが、なにより地域に密着していたい。もうひとつは、将来を担う子どもたちをいろんな形でできるかぎり支援したいという想いがあります。そういったところから小学校体育巡回授業をやらせていただき、その後の「COPA BELLMARE」に繋がりました。残念ながら去年はコロナ禍で開催できませんでしたし、今年も地域のチームだけになりましたけど、名前を知っている海外のチームの子どもたちと接点を持てるのはすごくいいことだと思うので、今後も惜しみなくスポンサードできればと思いますね。

水谷 ありがとうございます。子どもたちにとってほんとうに貴重な体験だと思います。

――とくに子どもたちを支援する想いを聞かせてください。

小平 地域に対してどういう貢献ができるか考えたときに、当社は筆記具を中心に扱っていますけれど、なかなか子どもたちに対してアプローチできていなかったところがある。将来当社の商品を使っていただくことも含めて、子どもに注力していきたいという想いがより強くなったということですね。

水谷 コンテンツは異なりますが、地域や子どもたちのために貢献したいという想いは、我々もまったく同じです。そう、「COPA BELLMARE」を初めて開催したときに、ブラジルのチームの子どもたちが、書いた文字を消せるパイロットさんの「フリクション」を見て、「わあ!」って感動していましたよね。すごく記憶に残っています。でもブラジルでも展開されているんですよね。

小平 はい。サンパウロに販売会社と工場を持って現地でも生産しています。現地で作っているマーカーは、ブラジルでシェアNO.1商品ですね。

水谷 子どもたちがペンをもらってものすごく喜んでいたのが強く印象に残っています。大会に参加した子どもたちは平塚工場の見学もさせていただきましたね。

小平 サッカーだけではない、そういった体験は一生の思い出になると思いますし、地元に帰ってからも、「あ、これパイロットのペンだ」と気付いて使ってもらえるとすごくうれしいですよね。もちろんそれは最初から狙っていたことではなくて、ただ、なにか子どもたちのためにできればいいなという想いがあり、ベルマーレさんからもご提案いただいたなかで、「COPA BELLMARE」が実現した。うちも平塚をはじめ、本社にもベルマーレのファンがたくさんいますので、すぐに話が進みました(笑)。

――平塚駅からレモンガススタジアム平塚へ向かう通称「パイロット通り」にアウェイサポーターを迎える言葉が掲げられたり、スペシャルデーではアウェイチームのカラーをあしらったボールペンを配ったり、アイデアはどこから生まれるのですか?

小平 お祭りイベント好きの社員から生まれましたね(笑)。

水谷 (笑)ボールペンのアイデアは素晴らしいです。非常に喜ばれます。

小平 「これをやってはダメ」という風潮がうちは案外ないんですよね。店頭でもイベントをやっていますし、とくに平塚工場で働いている社員にとってベルマーレは身近な存在なので、みんな楽しんでやっていますね。

――「COPA BELLMARE」を開催して印象に残っている出来事はほかにありますか?

小平 大会の最後の表彰式が終わったときかな、子どもたちがバーッとグラウンドに集まって、優勝したパルメイラスの選手と言葉が通じないのに肩を抱き合ったりハグしたりしていたんです。あの光景を見たときに、「ああ、やってよかったな」と思いました。

水谷 ほんとに、あれは思い出深いシーンですね。

小平 はい。あのときはウルっときました。

水谷 子どもたちのパワーはすごいです。変な遠慮なく、「やったね」と讃え合ったり、一緒に写真を撮ったりして。ひょっとしたら、その子が5年後10年後にプロになっている可能性もある。今年はコロナ禍で大会は1日だけど、通常は2日に分けて行なうので、1日目の夜は懇親会をやるんですよね。うちのコーチも頑張って、いろんな言語のあいさつを子どもたちに教えたりして。そうして一緒にボールを蹴るとぐっと距離が縮まる。やはりスポーツはユニバーサルランゲージだなと感じます。

小平 たったボールひとつで、ほんとにフットボールって素晴らしいスポーツだなと感じますよね。だから「COPA BELLMARE」のような大会はすごくいいなと思うし、パンデミックによって去年は開催できず残念でしたけど、コロナが収束したらまた海外からも招聘してもらいたいなと思います。

水谷 はい。またぜひやりたいですね。

――ベルマーレ平塚時代を知る小平さんから見て、クラブの変化は感じますか?

小平 フジタの頃は企業チームという感覚で、正直、地元のクラブという印象はなかったですね。それからベルマーレ平塚になり、競技場がすぐ目の前ですので、我々社員は観戦にもよく行ってました。フジタさんが撤退されて少し寂しい時代を過ごしましたけど、でもコアな社員はずっとファンを続けているんですよね。いまはホームタウンのお店に行けば選手のサインがたくさん飾ってあるし、ベルマーレを話題に見ず知らずのひとと盛り上がることもある。犬の散歩をしている選手の姿を見かけることも(笑)。そうやって時をかけて、ベルマーレはより身近な存在になったのかなと思います。私はいま東京本社に通っていますが、カバンにベルマーレグッズを付けているひとを通勤途中に見かけると、つい声をかけたくなる衝動に駆られます、「こんなところに同志がいた」って(笑)。

水谷 (笑)ほんとうにありがたく思いますね。

――成績は関係ないのですね。

小平 J1にいないとダメだという話では決してないと思いますね。もちろん頑張ってほしいけど、やっぱり「地元のおらがチーム」という気持ちが強いのかなと思います。

水谷 その想いに甘えないように頑張ります。対して我々としては、「そこに落ちているゴミを拾える選手になろう」とアカデミーで言い続けていることをクラブとしてしっかり体現しなければいけないと思っています。いま小平さんに言っていただいたように、地域の皆さんの想いを受け止め、この地域を構成する一員として選手が毎日をきちんと過ごすその先にサッカーが上手くなっていくように、アカデミーから取り組まなければいけないと強く思います。

小平 先日は齊藤未月選手がロシアから帰ってきて、アカデミーの選手に話をされていましたよね。遠藤航選手もオフィシャルクラブパートナーになったり、すごくいいなと思います。

水谷 我々としてもものすごくうれしいことですね。

――筆記具の単一ブランドとして世界シェアNO.1を誇り、「書く、を支える。」というブランドメッセージもあるように、選手がサインを書く場面にも関係がありますよね。

小平 遠藤選手は以前、うちのマーカーがいちばん書きやすいと気に入って使ってくださっていたので、すごくうれしかったですね(笑)。いまや日本代表の中心選手ですからね。

水谷 ほんとにすごいですよね。サインの話で言うと、新卒で加入する選手が統一契約書に初めてプロになるサインをする機会がありますよね。これは雲出のアイデアなんですけど、その際に、たとえばベルマーレと本人の名前が入っている万年筆をクラブからプレゼントして、統一契約書に初めて書くサインはパイロット製の万年筆を使うことをクラブの伝統にできたらすごくいいなと。

小平 そうしていただけると非常にありがたいです(笑)。

水谷 大人になるというか、選手の人生の節目の場面でクラブの地元で作られたパイロットさんの万年筆を使わせていただくことはすごくふさわしいのではないかと思っています。

小平 選手にとってもきっと忘れられない出来事になると思いますし、そういった場面で使っていただけると当社としてもすごくうれしく思いますね。ちなみにうちはもともと万年筆のペン先やボールペンの途中のリングを加飾する技術を使って、結婚指輪もつくっているんです。他社にはない特徴を持った商品で、一時期はバスケットボール女子日本リーグのチャンピオンリングも提供していました。

水谷 あ、そうなんですね。

小平 なので、そういったところでも地道な貢献ができるかもしれません。

――パイロットとして今後ベルマーレに期待することはありますか?

小平 大倉さんと雲出さんがいらしたときにも話したと思いますが、たとえばユニフォームスポンサーといった大きなお金は出せないかもしれないけれど、継続することがいちばんの力だと思っているので、細くても長く支援したいと考えています。その意味では、これからも長く、1年でも長くスポンサードできるように、会社の業績を維持していきたいと思っています。どういう形で支援していくかは、今回のコロナのようにその時々の情勢を踏まえて支援できればと思います。例えば、地域や子どもたちへの貢献を大事にしている当社としては、「LEADS TO THE OCEAN」のような環境に対するプロジェクトをやれたらおもしろいかなと思っています。いまはまだ具体的なアイデアがないんですけど、ああいった活動はなかなかできないと思うので、これからもしいい企画ができれば支援したいですね。

水谷 環境の問題は世界的に待ったなしですし、ベルマーレはサッカーを生業としていますが、パイロットさんやご支援いただいている方々と一緒に取り組むことによって、地域のひとたちや子どもたちもまた環境問題に対して関心を持ってくれるきっかけになるかもしれない。そういうところにベルマーレは積極的に関わるべきだと思いますし、地域に生かされたクラブとしての我々にできることだと思っています。

小平 環境に関しては欧州がいま最も厳しく、当社としても積極的に対応していますが、日本でも今年からいろいろなプログラムを走らせています。今後さらに環境に対して積極的に取り組んでいきたいと考えていますので、なにかできればうれしいですね。

――まさしく、ベルマーレとともに、地域のために。

小平 はい、やりたいですね。当然当社だけではなく、スポンサードしている全企業が協賛すればかなりの力になるのではないかなと思いますよね。平塚はビーチバレーの聖地でもあるわけで、スポンサー企業が力を合わせれば、江の島から真鶴あたりまでの相模湾のビーチを綺麗にする大きな活動もできると思うし、そこで回収されたプラスチックごみを再生利用するとか、そんなことがプログラムになるといいかなと思います。そういったことをこれからもベルマーレさんと密に話しながらやっていけるといいですね。

水谷 ありがとうございます。地域や子どもたちに対する想いは我々もパイロットさんに学ばなければいけないですし、共感するところは多いです。先ほどの、通勤途中カバンにベルマーレグッズを付けている方を見かけたという小平さんのお話は、もちろんチームの成績も関係すると思うけど、背景には巡回授業やスクールなど、草の根の活動の幅を広げていったことも間違いなく理由のひとつにあると思うんですね。ですから、我々は地道な活動を変わらずに続けていきたいですし、これからもぜひよろしくお願いいたします。

(インタビュアー 隈元 大吾)