PARTNERパートナーとの取り組み

SHODAN -湘談-

ファン・サポーターとクラブの距離をテクノロジーで繋げて楽しい日常をつくり出す。KPMGコンサルティングとの新たな挑戦

KPMGコンサルティング株式会社 ×湘南ベルマーレ

今年1月、KPMGコンサルティング株式会社(以下、KPMG)と湘南ベルマーレはオフィシャルクラブパートナー契約の締結を発表しました。湘南対談企画「SHODAN-湘談-」第1回は、KPMGコンサルティング 執行役員の佐渡誠さんが登場。パートナーとしてのこれまでの取り組みや今後のビジョンについて、ベルマーレの水谷尚人社長と語り合いました。 以下敬称略

――まず、世界4大監査法人のひとつであるKPMGとベルマーレがオフィシャルクラブパートナー契約を結ぶことになった経緯を教えてください。

佐渡 我々KPMGは、コンサルティング業界においても「BIG4」と呼ばれ、グローバルでは20万人のメンバーがいますが、日本ではコンサルティング領域は未開拓の部分も多かった。そこで日本でもコンサルティングサービスをしっかり提供していこうと、2014年7月に日本法人を立ち上げました。当初は100名足らずから始まりましたが、四苦八苦しながらも泥臭くやってきて、いまは社員が1000名を超えました。そのようななか、当社にもうひとつ元気をつけたい、活力を与えたいという想いが私にはありました。と同時に社員の気持ちを結集するシンボリックなものもつくりたかったですし、新しい会社だからこそチャレンジもしたかった。ちょうどeスポーツに取り組んでいた繋がりもあり、ベルマーレ様と大きな座組でご一緒できないかと思ったのがきっかけでした。

――入り口はeスポーツだった。

佐渡 はい。私は、eスポーツは単なるゲーム技術ではなく、様々な可能性を秘めていると考えています。子どもたちを育てるものに繋がりますし、ひとの距離感を縮める効果もある。その点が実際のスポーツに近いと思っていましたので、eスポーツだけに取り組むのではなく、スポーツのなかで我々がなにをできるかを考えていこうと社内で話していました。また、個人的にも、ベルマーレ様の「たのしめてるか。」というフィロソフィーに強く共感しています。それは自分たちにも通じることで、チャレンジャーであり、一生懸命走り回り、それでも楽しんでいる会社にしたいという想いがあって、いまご一緒させていただいているという経緯です。

水谷 KPMGさんは世界的な企業ですし、うちのスポンサーをしてくださるかもしれないと営業から聞いたときは正直まったく信じなかったです(笑)。でも、いまのようなお話をいただくとすごくありがたいですね。2019年にeスポーツに参入した際にも言いましたが、これからデジタル教育が学校で始まるという時代に、スポーツチームである我々がeスポーツに取り組むことに意味があると考えています。

佐渡 そうですね。新型コロナウイルスの影響により、当初思い描いたことをそのとおりには進められていませんが、しかしお付き合いさせていただくなかで、ベルマーレ様を介して地域の子どもたちの教育に貢献できるチャンスはとても多いと感じています。KPMGはテクノロジーに強いので、テクノロジーを持ち込んで新しい取り組みができます。ベルマーレ様はそういった視点をお持ちですし、水谷様も折に触れ発信されるように、子どもたちの教育を後押しするような動きをつくれたらと思っています。

水谷 これはすごく重要な話で、デジタル教育やプログラム教育をいくら国が推進しても、現実的に難しいのであれば、ベルマーレになにかできるならぜひ我々を使ってくださいと思っています。

佐渡 そうですよね。ひと昔前は、たとえば自動車メーカーは自動車をつくっていればよかった。だがその当たり前のビジネスモデルが、いまはテクノロジーのおかげもあってガラッと変わっている。また、戦後の時代に築かれたビジネスモデルで業務を遂行してきたビジネスマンは、テクノロジーを使って考えるという発想が残念ながら育まれていません。これからを担う子どもたちには、テクノロジーを伝え、デジタルを使っていかにひとが繋がっていくか、いかに楽しみが増えるかを教えていかなければいけない。ベルマーレ様と組むことによって、子どもたちにそういったことを少しでも与えられたらと強く思うところです。

――それがまさに「デジタルイノベーションパートナー」の意味するところですね。ところで、このパートナーシップはKPMGにとってはどんなメリットがありますか?

佐渡 大きく言って2つあります。ひとつは、我々の持っているテクノロジーを使って企業を変える、そのチャレンジの場を与えていただいたことです。成功事例をもとに提案するのが旧来のコンサルタントですが、テクノロジーを使った新しい取り組みを始める際は、当然、参照できるような過去の実績はありません。そこで最近は今回のように、私たちのアイデアにチャレンジすることにご賛同してくださる企業と一緒につくっていくという手法をとっています。もうひとつは、さまざまなバックボーンを持つ1000人の社員をひとつのシンボリックなフィロソフィーで結び付けようと考えたときに、ベルマーレ様と組ませていただいていることには非常に大きな価値があるということ。この2点です。

水谷 いま佐渡さんがおっしゃったひとつめのお話は、言い方を変えると、いい意味で僕らを実験に使えるということだと思います。僕らもそれが自分たちの売りだとずっと思っている。いちばん分かりやすい例で言うとスパイク。スポーツチームは実験台になりやすい。地域でなにかしたいと考えているときにアドバイスをいただけるのはありがたいです。

――逆に、ベルマーレにとってKPMGと組むメリットは?

水谷 KPMGさんが海外でサッカーチームと組んでいることは当然知っていましたから、同様に一緒にやれるならすごくうれしいというのが最初の感想です。eスポーツはこれからどう走らせるかという課題はあるんだけど、まず我々がいままでやりたくてもできていなかった顧客やマーケットを分析し、知見や提案をいただいている。これはほんとうにありがたい話です。

佐渡 ターンはありますが、我々は初めから、ファン・サポーターの方々とベルマーレ様の接点をテクノロジーで変えていくことにフォーカスすると決めました。まだ道なかばですが、スタジアムにいらした1万2~3千人のお客様とその瞬間だけ接するのではなく、試合のない平日もつねにベルマーレと接しているという状態は、テクノロジーを使って実現できるはずです。そこを変えていければと考えています。

――「つねに接している状態」とは?

佐渡 例を挙げると、PC画面上にバーチャルのロボットをつくり、AIで会話をさせることもできます。たとえば「山田直輝選手ロボット」をつくろうと思えばつくれるし、ファンの方が家でデバイスを立ち上げて自分の好きな選手と会話することもテクノロジーを使えば可能となります。

水谷 試合を観に来た子どもが家に帰ってパソコンを開いたら、直輝が「今日は来てくれてありがとう」と言ったら純粋にうれしいですよね。それができる時代なんですね。

佐渡 そうです。テクノロジーを使ってできることはたくさんあるので、ファン・サポーターとつねに繋がっている状態をつくっておくことは、今後スポーツの波及力を醸成していくうえでとても重要だと考えています。

水谷 一足飛びにはいきませんが、ファンの拡大は中期的に絶対に必要ですからね。

――佐渡さんご自身はなにかスポーツをされていたのですか?

佐渡 小さい頃は野球少年で、小中学生の頃にサッカーと出合い、いまは小学生のサッカーチームを教えています。

――想いの根底にスポーツの存在があるんですね。

佐渡 あります。私はスポーツの力を信じていますし、コンサルタントはプロフェッショナルとしてどこまでできるかという世界。コンサルティング業界に20年以上いる身としては、社員にスポーツから学んでほしいですし、スポーツ選手のようなプロ意識を持ってほしいと願っています。

――KPMGとベルマーレの取り組みのなかで印象に残っていることはありますか?

佐渡 まず、KPMGとしてまだ充分ご支援しきれていないというもどかしさがあるのですが、そのなかでも「One KANAGAWA Sports All-Star Cup 2020」の取り組みは印象的でした。当初、多くの方にスタジアムへ足を運んでもらうべく湘南地域のマーケット分析をしていた時に、コロナの問題が起こり、試合を行えない局面における支援は何だろうかと社内で議論して、eスポーツのイベントのアイデアをお話ししたら、「One KANAGAWA」のチャリティー企画がすぐに動き出した。意思決定が早く、やるべきだと思ったらすぐに動くフットワークの軽さと、かながわコロナ医療・福祉等応援基金に寄附するという社会的なアンテナの高さは、ベルマーレ様らしいと思いました。

水谷 横浜DeNAベイスターズの岡村信悟社長と昔一度お会いしたことがあって、ご連絡したら運営を含めてすぐに快諾してくださいました。イベントを通じて多くの方々にご協力いただき、ほんとうにありがたかったですね。

――最後に、今後のビジョンを教えてください。

佐渡 我々はシンプルに、ファン・サポーターとベルマーレ様の距離をテクノロジーで繋げて楽しい日常をつくり出したい。その想いに尽きます。自身はジュニアを教えているので、未来の子どもたちになにを残せるかを強く考える人間です。つまり、いまだけでなく、将来の地域の子どもたちも含めてファンエンゲージメントを高め、企業とのエコシステムを活性化し、物理的にもバーチャル的にもベルマーレ様の周辺が盛り上がっていくことが理想だと考えています。たとえばベルマーレの試合を観にBMWスタジアムに行ったとき、ハーフタイムにスマートキャッシュのような形で子どもたちが買い物を楽しむ姿を見たいですし、コンコースを清掃ロボットが走り回っている姿を見られれば楽しいと思う。そういうテクノロジーがあのスタジアムにはあるんだという新たな魅力が認知されるようになると、サッカーを超えた意義が生まれるでしょうし、ベルマーレ様を中心にそのような世界をつくれれば、とても楽しいだろうと思います。

水谷 ベルマーレがここで活動しているのは湘南地域が明るく元気になるためだとクラブのスタッフ全員分かっています。それを実現するためにはどうしなければいけないか、KPMGさんはいろいろな策やアドバイスを授けてくださるので、ほんとうに頼もしく思います。我々が抱いている想いが実現すればまた新たなベルマーレが見えてくるし、ひとりでも多くのひとたちと接する機会が生まれることが我々にとってすごく重要なので、今後もKPMGさんと一緒に歩んでいきたいと思っています。

(インタビュアー 隈元 大吾)