ボイス

【ボイス:1月5日】坂本紘司選手の声

voice_110105_01

 3勝7分24敗、得点31失点82、チーム成績18位。これが2010年シーズン、ベルマーレがJ1リーグで残した記録だ。
 数字が物語る厳しい結果。しかし、この結果に至るまで選手たちは1秒1秒刻まれる時間の中で経験を重ね、気持ちを傾け、全力で戦ってきた。つまりは残った数字があらわす通り、これがいまのベルマーレが持っている力の全てなのだ。まず、それを認めなければ今シーズンの経験を来シーズンに活かすことはできない。
 そんなシーズンを振り返るのは、今季もチームの中心として走り続けた坂本紘司選手。ベルマーレで迎えた初めてのJ1の舞台で感じたプレッシャーと反省、そして傷だらけのシーズンの中にそれでも見つけた新たな希望が語られた。

voice_110105_02成長した自分で、もう一度!
いるべき場所は、やっぱりJ1。

 ベルマーレが11年ぶりのJ1リーグを戦った2010年は、W杯開催年だったため、5月中旬から7月中旬まで中断期間を挟む変則的な日程でリーグ戦が組まれた。その中でチームは、前半の11試合で2勝3分6敗、やや負けが混んだものの中断期間で戦術の見直しを行なって巻き返しを狙い、中断期間が明けた2試合目で3勝目をものにした。
 しかし、この後は何試合か引き分けに持ち込んだ試合はあったが、勝利することはできず、1シーズンで再びJ2を戦いの舞台とすることとなった。

「終わってみて振り返ると、特に中断明け以降は勝てずに、自分たちでは感じてないと思っていても、結果的にすごくプレッシャーを感じながら、ある意味でぴりぴりとした悲壮感があって、そういうのを乗り越えたり、払拭したりっていうことができなかったという感じ。
 1点食らったら、すべて俺の責任だとか。みんなまじめに受けとめてそれが重圧になっていたのかなと思います。そんなの全然関係なく、1点取られたら2点取りましょうっていう雰囲気を作ることも大事だったのかな、と思う。監督もいつも言うけど、サッカーはミスのスポーツなんだから、1つミスしたら2つ取り返しましょうっていう雰囲気。実際は逆で、ミスなくパーフェクトにやりましょうっていう雰囲気になっていたかなと。まぁ、これは終わってみて振り返っている今だから言えることで、その過中にいた時は、その時に自分ができるベストのことを選んでやろうとしていたので、そのことに関しては後悔はないけれど」

 インタビューを行ったのは、シーズンが終了して数日が経ち、今シーズンの自分を少し冷静に振り返る時間を持ったあとの12月中旬。メンタル的な弱さすら正直に話せるようになったのは、やはり少し時間が経っているからだろう。

「勝てなくても良いゲームだったねっていうのがあって良くなりかけても次のゲームで良さが出せない、順位の近いチームとは互角に戦える時間帯があっても、次のゲームで上位と当たるとまた何もできない、その繰り返し。そういう意味では、安定した力というのはなかった、J1で戦う上でのベースはまだまだ足りなかったなと、そういうふうに思いますね」

 J2リーグ3位の成績は、J1の最下位。結局、そこから抜け出すことはできなかった。残留争いの主役を演じながら、ぎりぎりのところですり抜けていったヴィッセル神戸や大宮アルディージャなどとの違いをまざまざ感じた。

「ずっとJ1で戦っているチームというのは、例えば残留争いをいっしょにやっていても、毎年そういうプレッシャーの中で戦って乗り越える力、底力がある。そういうチームと、長くJ2でやってきたチームでは、経験値の差っていうのは少なからずあったと僕自身はすごく感じた。残留した大宮や、神戸などはあとがないというところから残り試合、かなり勝った。僕らは終盤になってもなかなか勝てなかった。メンタル面を含めたチームの底力が及ばなかったと思う」

voice_110105_05 チーム力という意味では、アウェイのスタジアムの雰囲気にもJ2とは格段の違いを感じた。シーズン初のアウェイの試合、第2節で戦った、2002年のW杯決勝の舞台であった日産スタジアムをホームにする横浜F・マリノス戦が最初の洗礼だった。

「アウェイに行った時のスタジアムの雰囲気、日産での中村(俊輔)選手の凱旋試合という時、僕たちのチームは正直浮き足立っていたと思うし、埼スタ(第5節:対浦和レッズ)でもそうだった。シーズンの最初に相手チームや個人の名前に少し腰が引けたんじゃないか、というのが悔やまれる」

 過去にモンテディオ山形が昇格したばかりのシーズンで残留を果たしたように、今シーズンでいえばベガルタ仙台やセレッソ大阪が序盤の戦いでひるむことなく向かっていって勝つことによって自信をつけたように早い段階で自分たちのサッカーで思う存分戦って自信を勝ち取りたかったというのが本音。手応えを得るよりも先に、去年培った自信をむしり取られるような体験が重なった。

「日本代表に選ばれているような選手と対戦して、なぜその選手が日本代表に選ばれたり、J1の第一線で活躍しているのかが感じ取れた。自信で満ちあふれているし、落ち着きがあるし、迫力がある。技術や戦術が優れているのも明らか。TVやスタンドから見るのとは全然違う、同じピッチで対峙して感じたものがすごく大きかった」

 降格したシーズンだ。反省や悔しい思いが並ぶのは当然のこと。しかし、これから大切なのはこの経験から何を学んだのかということ。そしてどう行動していくかということ。

「それでも試合毎に腰が引けていく感じが無くなっていったのは、自分的には大きかった。そういう意味では、最初からそういう気持ちで戦えていればと思う。たらればは言ってもしょうがないし、経験できたから良かったですませることはできないけれど、でもこれを感じなかったら選手としてもうワンランク成長するところには至らなかったと思うから、そういう意味ではすごく貴重な年だった。逆にいえばもったいない10年だったなというのも思いますけどね(笑)。
 代表の選手だって対戦したことがなければ、『俺の方が良いよ!』とかね、思うものなんですけど、長くJ1で試合にたくさん出ている選手にはそれなりに理由があると思いました。それがまたそういう違いを感じるっていうことは、自分はそういう選手と対等にやれるだけのメンタルであったりの準備がまだできていないということだというのもわかりました。J1の経験が少ないというのも事実で、それも全部含めてこの今ある結果が現時点の自分の力だと思います。
 だから、やるべきことが見つかって、『もっとやってやろう』っていう気持ちですよね。このままフェードアウトして、J2で終わっていくのだけはイヤだ、何が何でもっていう気持ちになっている、今この年で。32歳で、この間入団しましたよ、プロ2年目っていう感じ(笑)。
 自慢できる話でもなし、誇らしい話でもない、はっきり言って恥ずかしい話なのかもしれないけど、でも自分はそういう気持ちだし、そういう選手がいても良いかなって」

 高校卒業後3シーズンを過ごしたジュビロ磐田でリーグ戦に出場していない坂本選手にとっては新人選手と同じ新鮮さがあって当然かもしれない。では、そのJ1の舞台に初めて上った感想は、どんなものだったのだろうか?

「ゲームの結果以外のことでいえば、すごく刺激的で本当に最高の舞台であるというのは感じた。良い選手、良いチームと戦えるっていうことや、単純にいえば観客が多い中でプレーができること、あとはたくさんのメディアを含めていろんな人に見てもらえる舞台だっていう意味では、今までと全然違う、刺激的なリーグだと実感したシーズンだったと思います。
 最初の試合から今のような気持ちで臨んでいたら…と思うから、もう一回、成長した自分で、J1をもう一回戦いたいと思います」

 まずは来シーズンのJ2リーグをどう戦うか。そこで、この気持ちの本気度が量れるはずだ。

voice_110105_04J2にいてもJ1のレベルを追求する、
厳しい目で見てほしい。

 悔しいことばかりが重なったシーズン。ホーム平塚競技場で名古屋グランパスの優勝も見届けることになった。悔しさとうらやましさが混じったこの経験からも学ぶことは多かった。
 
「優勝したチームには、良いゴールキーパーがいて、得点王がいて、まとめる選手がいて。良いチームというのは、やっぱり良い選手が引っぱっている。得点王がいれば単純に勝つ可能性が高いわけで。必ず止めてくれるディフェンダー、必ず良いパスを出すミッドフィルダー。だから、そういうことだと思います。
 チーム力でとか、みんなで団結して頑張りますっていうのは、良いことのように聞こえるけど、選手としてはすごく無責任というか。うちは全員ハードワークが売りです、みんなでまとまっていきましょうというのは、それはひとつの良さだけど、それだけ言い続けていたら、名古屋はもちろん今年のJ1上位のチームには勝てない」

 特に感じるのは、自分がチームの中心であるからこその責任だ。

「パスを出すこと、ボールを取られないこと、相手を止めること。単純に言えばそれしかない。それがしっかりできる選手が何人いるかだと思います。
 みんなが、自分がこのチームの中心だと見ていてくれているけど、そういう意味ではその選手がそのレベルになければ、ベルマーレがJ1に定着するのは不可能だということ。僕が中心選手なのであれば、僕がJ1のクラブの中心選手に引けを取らない、同じレベルの選手にならないとJ1で戦うことは難しい。
 ベテランだからみんなをまとめましょうとか、そういう役割はあるにしても、それをやっているから自分の仕事は全うしてます、とは思えない。自分が率先して練習してチームを引っぱるのはもう今更なことだから」

 選手として毎年レベルアップを目標にするのは当然のこと。しかし、今シーズンの経験をもとにして掲げた目標なら、半端なレベルであろうはずがない。

「J2を軽視するのではなく、単純にJ1基準のプレーができれば勝てるわけだし、その基準が身に付けばもう1回J1でプレーできると思うんですよ。だから来シーズンはJ2でやるけど、J2で点を取りました、今日は勝ちました、で終わりではなくて、今日のこのゲームは、フロンターレとやって勝てますか?そういう目で見てほしいし、僕も僕自身をそういう目で見る。単純に『1年で戻りましょう』って言っても簡単なことじゃない。だけどその基準を持っているか持っていないかはすごく大きな差になると思う。それにそうじゃないとJ1で戦った意味がない。
 本当に悔しいんです。だからこの経験を無駄にしたくない一心ですね。だからそういう物差しで見ながら、ゲームもそうですし、練習の質も上げていかないと、と思います。
 サポーターのみんな、やさしくて温かいから、ホントにその温かい人たちに甘えてしまうのは簡単だと思うけど、そういうことに甘えず、何より僕自身が自分に一番厳しくやりたい。それをまずやって、そうすればあとはもう結果は付いてくると思うから」

 振り返れば2009年シーズンは、そういう視点で試合を見たことはなかった。ただただ目の前の試合を勝つことだけを考えてきた。J2しか経験したことがない選手の方が多かったことを考えれば、当然だ。もちろんそういうシンプルな気持ちも大切だが、J1昇格ではなく、J1定着が目標なら、より高いレベルを自分に課し、この1年の経験を活かしたい。
 また、屈辱的なシーズンを取り返そうと続投を決めた反町監督への思いもある。

「すごい決断だと思います。J1に導いてくれた監督だし、その監督にすごく恥ずかしい思いをさせてしまったという気持ちが強い。そういう中での決断だから、相当な決意があると思う。だから、僕はその決意についていけるだけのしっかりした気持ちを持ってシーズンに臨まなければいけないと思う。本当に、僕ももう一回男になりたいし、監督にも男になってもらいたい」

 どうしてもかなえたい、たくさんの“もう一度”を必ず実現するために。来シーズンは、プレーも練習も選手としての在り方までも、J1レベルを物差しにして見守っていきたい。

voice_110105_06サッカーができるしあわせを感じて、
12シーズン目も突っ走る!

「今シーズンは、いろんな人が涙したシーズンなので、そういう意味ではそれも全部しっかり受けとめて、覚悟を持って来シーズン、試合を迎えたいなと思います」

 来シーズンの自分に課した大きな課題。その強い決意を支えるのは、ともに戦ってきた仲間を思う気持ち。田村雄三選手の引退は、坂本選手にとても大きな出来事だった。

「本人が一番悔しいと思う。彼もJ1に上がるのに力を尽くしてくれた選手なのに、そのJ1でベストなパフォーマンスを出せなかったと思う。そういう意味では、やりきったという満足な引退ではないと思う。残念としか言いようがない」

 また、契約が満了した選手も少なくない。特にプライベートでも仲が良かった選手が多かったこともあって思いは深い。

「テラさん(寺川)とか亮太(永田)とか、J1に上がる時に中盤を支えた、本当に機能していた中盤だったと思うし、それが僕一人になった。それもすごく責任のあることだと思いますね。
 自分よりも若くして辞めている選手もいる。別にその選手のために頑張るっていうことではないと思うけど、いろんな犠牲の上で、自分はベルマーレで12シーズン目を迎える。12シーズン在籍しているっていうことの意味をしっかり見せていかなければいけないと、年々思う。だからやっぱり他の選手と同じモチベーションではおかしい。サボりたいなと思うときもあるけど、そういう人たちのことを思うとできない。自分は、本当にいい加減なことはできないなと思います。やりたくてもやれない人もいるんだから、苦しい時期があっても、自分はこうやって好きなサッカーができるのは、どれだけしあわせなことなのかって思わされる。今年はまた、あらためて思いましたね」

 坂本選手もいつか、その時を迎える日が来ることはわかっている。でもやっぱり坂本選手らしく全うしようと決めている。

「雄三が言ってくれたのは、『紘司さんは、本当にボロボロになるまでやってください』と。きれいな引き際なんていらないと。『坂本、厳しいな』ってみんなから笑われるくらいまでやるのが責任。責任と言うか、自分のベルマーレでの仕事の全うの仕方っていうのかな。そういう話を雄三として、『そうなのかな』と思いましたけどね。だからもう本当にね、『坂本、いらないよ。もう厳しいよ』って言われるまで、自分はやらなきゃいけない。突っ走らなきゃ、と思ってます」

 2011年は、ベルマーレで迎える12シーズン目、プロ選手になって15シーズン目となる。しかし、J1を経験した今、気持ちはプロ2年目だと語った坂本選手。そのフレッシュな気持ちと豊かな経験を携えて、1年でのJ1復帰をめざして新シーズンに挑む。

取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行