ボイス
【ボイス:10月15日】馬場賢治選手の声
厳しい状況は続いているがチームもチームをサポートする誰も、J1という最高に楽しく厳しい戦いの舞台を、この悔しい結果のまま引き下がるつもりはない。だからこそ選手達は、日々の練習で変わらず切磋琢磨し、自分たちの道は自分たちで切り開こうと、そしてたくさんの人の期待に応えようと努力している。そういった気持ちを端的に表すのが試合出場のメンバー。選手にとっては、毎日の練習だけがアピールの場なのだ。
そんなチーム内の競争をくぐり抜け、第24節のモンテディオ山形戦、25節のFC東京戦でスタメン出場を果たしたのが馬場賢治選手。試合では、中盤から得点を演出するイメージを覆し、ゴール前にポジションを取る果敢なプレーを見せて、新しい可能性を感じさせてくれた。
今回は、期限付き移籍で加入したベルマーレへの思いと、目論み通りとはいかなかった自身の活躍と成長について、今感じていることを語ってもらった。
ポジションに応じてスタイルを変えても、
みんなで連動してゴールを奪うプレーが好き。
チーム作りの手法として、自分の戦術に選手を当てはめていくやり方と、選手の個性を活かしてチームを作る方法と、監督によって選ぶ手法は異なるが、反町監督は後者。常に今居る選手ができることを見極め、その可能性を探り、最大限に力を発揮できるポジションに配して試合に臨む。そうして適正を見極める中で、選手自身も意外なポジションを得ることがあるが、馬場選手のフォワード、しかも3トップの頂点での起用は、第24節・山形戦の驚きでもあった。
「2回練習試合でやってみて、山形戦で使ってもらったんですけど、最初に試された時に、自分が何を望まれているのか理解できました。ヘディングでパンと勝てるわけではないし、相手ディフェンダーを背負ってそんなにキープができるわけでもないし、パワーがあるわけでもない。自分がやることを考えたらまずリズムを作ること。ワンタッチで周りにはたいたりしながら連動して動くことによって攻撃を作っていく。そういう形だったら絶対に自分を活かせると思いました。
実際、この間のFC東京戦でも向こうには韓国と日本のA代表の選手がセンターバックにいたけど、何もさせてもらえなかったということはなかったし。自分としてはすごくプラスに捉えてやれていると思います」
神戸時代もフォワード登録で試合に出場しているが、実質は1.5列目といったところ。ベルマーレでも今までは、4-3-3のフォワードのサイドや攻撃的な中盤での起用が多く、直接ゴールを狙うというより、攻撃を組み立てる側のイメージが定着している。
「4-3-3のシステムの頂点だと、背が高かったり、ちょっとパワーのある選手を真ん中に置くっていうイメージがみんなもあると思うんですけど、やってみると意外にできた。周りがすごく自分をサポートしてくれる分、自分もあまり考えずに周りと動きながら判断早くできているのかなと思います」
ポジションを変えて『プレーがシンプルになった』というのが監督の評価。ひとりでボールを持ちすぎることもなくなり、周りをうまく使って攻撃を展開し、今までにないリズムの活性をチームにもたらした。
「今、フォワードをやる時は、全部の動きをシュートのためにしている。味方から『ここで空いていたよ』と言われても、シュートのタイミングだって自分が思ったらシュートを打つし。
ホントの本心から言ったら、スルーパスにはこだわりを持っているけど、狙いすぎてボールを取られたりすることもあった。だから、好きは好きなんだけど、ポジションやひとつのプレーにこだわり過ぎずに自分の意識を変えていかないとプレーヤーとして難しい時期が来るとも思っていた。そこでこのポジションをやることになって、スタイルを変えて使い分けて、自分でも意外なほどこだわりなくやれている。
フォワードとかミッドフィルダーというより、みんなで連動してゴールに迫っていくプレーが好きなんですね」
目的はゴールを決めること。そのために自分の特長を今いるポジションでどう活かすか、それが考えられる選手のひとりだ。加えて、このポジションは、もうひとつ役割を担っている。
「ファーストディフェンダーとして、ボールを追える力というのを評価してもらって出してもらっていると思います。機動力を活かして、やっていきたいなと思います」
全員守備もベルマーレの特徴。フォワードと言えども、守備のタスクがある。攻撃だけに体力を使えないのがつらいところだが、このポジションを得てから守備の場面を含め、以前より運動量が増えているように思える。
「何を変えたというわけではないし、よく聞く言葉かもしれないんですけど、試合に出られない時に出られない選手の気持ちがわかった。出られていないメンバーと、みんなで声を出し合って頑張ってきて、今自分が出られているというのがある。今、試合に出ている選手の中にはそうやって自分といっしょに頑張ってきた選手もいるし、まだ出られていない選手もいる。そういう選手の気持ちがすごくわかるから、試合に出る責任感というのをすごく感じる。だから体力的にすごく変化があったわけではなくて、『もう無理だろ』って思っていたのも、それが後ろの守りやすいディフェンスに繋がるならもう1回走ってというのが苦にならなくなった。試合に出られる喜びと、だからこそチーム全員の代表として出る責任感を持つことがすごく大事だと思って、今プレーしている」
この2試合でスタメンに起用されたことによって、チームメイトは最大のライバルであると同時に、最良の仲間であることを実感した。
「僕がいざ山形戦に出るってなったとき、メンバーに入ってない選手やポジションが近い選手も『頑張って来いよ』って声をかけてくれた。プロとして良いかどうかはわからないけど、僕はそういうのはすごく大事だと思うし、素直にうれしかった。もっともっとチームのために責任感を持ってやっていかないと、と今回すごく感じました」
だからこそ、試合を戦う11人は、チーム全員の気持ちを背負ってピッチに立つ。
一サポーターとして、いつも気にかけていた。
ベルマーレの力になりたいという思いが実った移籍。
「このチームに溶け込めない選手は多分いないと思います。みんなすごくあたたかく迎えてくれて、声をかけてくれた。ベテランの選手がしっかりしているからだと思います。
落ち着いてますよね、ここの30歳以上の選手。紘司さん(坂本)とかテラさん(寺川)とかも。ベテランっていったら怒りますね(笑)。逆に若い選手も先輩だからって気を遣っているわけでもないし。生意気な対応してくるヤツもいるけど僕はそういう方がラクだし、ワイワイしている選手が多くて、すごく良いチームだなと思っています」
中学2年の夏までベルマーレの下部組織で過ごしたが、中村俊輔選手(横浜Fマリノス)が出た高校選手権を観たのをきっかけに、中村選手が在籍した桐光学園への進学を希望。通っていた中学のサッカー部が強かったこともあり、下部組織は辞めた。以降は、自分のサッカー人生が忙しく、ベルマーレを気にすることもなかったが、大学生になって関西に移り住んでから再び、ベルマーレのことが気になるようになった。
「やっぱり地元だから。関西でやる試合は、一サポーターとして観に行ってました。それで去年長居でやったセレッソ戦、4対3の入れて入れられて入れてという試合も観に行っていて、そこで初めて反町監督のサッカーを観ました。すごくアグレッシブでおもしろいサッカーをしていると思った。そこから選手としてベルマーレに魅力を感じていたけど、さすがにオファーはないだろうと思ったら、そういう話があるよと。
J1に戻ってきた年で、平塚もすごく盛り上がっているって話だったし、自分が興味を持った年にオファーが来た。これは行くしかないだろうというタイミングでした。
それと、今思うと調子に乗っていたけど、ベルマーレのために自分も頑張りたいって思った。何か力になれればいいなって。現状は、あんまりチームを助けるような力にはなれてないんですけど、その時は本当に自分も、ベルマーレのJ1定着に向けて、何か力になれる、なりたいと思った。神戸は第二の故郷って思うくらい好きだし、クラブもサポーターも大切にしてくれたので、すごく迷ったけど、その気持ちの方が少し上回ったので、移籍を決めました」
移籍の目的は、ふたつ。昨年後半から減っていた出場機会を得ることと、試合で活躍してベルマーレのJ1定着の力になること。ところが、今のところ目論み通りとは言えないのが現実で、25節まで戦い終えて出場は9試合。それでも最近は試合に絡む機会が増えている。
「移籍して来るときは、自分としてはチームを引っ張るまではいかなくても、このチームの中で中心として戦っていかなきゃいけないっていう、気負いのようなものがあった。そういうのがあった分、試合に出られないときは、『なんで』と思う時期はありました。そういう時期に曺コーチと話をして、『もっとチームを信頼していいんじゃないか』って言われて。
J2からJ1に劇的に上がって、監督からの信頼は去年からいた選手の方が厚いんじゃないかって自分で勝手に考えて、勝手に勘違いして、もう一歩チームにとけ込めてなかった。曺さんにいわれて、自分自身がチームとか監督とか選手とかをもっと信頼することによって、周りからもっともっと信頼されるんじゃないかと思い直した。
ソリさんは、誰もが認める監督でもあるし、負けたときも、一番悔しいのはソリさんだと思うけど、記者会見とか堂々と、いつも同じ態度でやっているのは、やっぱり見習わなきゃいけない。ソリさんが前向いてやっているんだから、俺らも常に前向いてやらなきゃいけないと思うし。一番堪えていると思うから、すごく強い人だなと思う。すごく良い監督とコーチに巡り会えたと思います」
ベルマーレに来て見つけたのは、発展途上の自分。そういう意味では、成長を実感する要素はさまざまある。
「自分個人の結果も自分がイメージしていたよりまったくだし、チームとしても厳しい結果が続いて、移籍っていうのはそう簡単じゃないって実感した。どちらかというと苦しい思いの方がたくさん経験しているけど、移籍してきたことを後悔はしてないし、この移籍が間違っていたともまったく思ってない。精神的にちょっと大人になれたかな」
結果を残すチャンスは、まだ9試合も残っているのだから結論を出すのはまだまだ早い。サポーターも、そのチャンスを活かす姿こそが観たいはずだ。
試合前から感じたサポーターの気合い、
声援にもらったのは、勇気。
3失点で敗戦を喫したFC東京戦後、ゴール裏で応援するサポーターへの挨拶でどの選手よりも深々と、そして長い時間頭を下げていた姿が印象に残る。
「挨拶は、感謝の気持ちを伝えるものだから、いつもしっかりしたいと思っています。でもあの試合は、FC東京のホームだから人数はFC東京の方が多かったけど湘南のサポーターもたくさん来てくれていて、試合の前、アップのときから、気持ちのこもった応援をしてくれていたのは圧倒的にベルマーレの方だった。もちろん、いつもたくさん応援してくれているんですけど、なんだろ、『今日はめっちゃめちゃ気合いが入ってるな』っていうのを自分は感じた。だから今日は、このサポーターに喜んで帰ってもらわなきゃいけないという気持ちで戦った。でも結果は0対3で負けて、あんなに素晴らしい応援をしてくれたのに期待に応えられなかったっていう、すごく申し訳ない気持ちがあった。試合前から、すごい勇気をもらった応援だったのに」
J1の舞台に生き残りたいという気持ちは、サポーターも同じ。そんな気持ちをピッチの上でしっかりと感じた試合だが、振り返れば反省ばかりが募る。
「攻撃面でも連携していい攻撃ができたり、相手が良いメンバーを揃えている中でもうちのディフェンス陣が頑張ってその攻撃を抑えている時間もたくさんあった。湘南らしく、走って粘り強くサッカーできた面もありますけど、内容より結果が大事な時期に、セットプレーで先に触られたり、失点後のワンプレーでやられたりというのは、戦う上での賢さが、チーム全体で足りないのかなっていうのは改めて実感しました」
“戦う上での賢さ”、とは。
「僕が一番気をつけているのは、始めの5分と終わりの5分、点を入れた5分、失点した5分。例えば、自分らが点を入れたあとの5分は、相手に畳み掛けるようにプレッシャーをかける。FC東京は僕らが失点したあと、勢い良くもう1点早くとりたいという気持ちで来た。そういう時はもう簡単にクリア、相手のボールになっても自分たちのゴールから遠い位置でプレッシャーをかけてやり直していく、そういう賢さがなかった。
京都戦もロスタイムに入れられたりとか。あの時もドリブルで行ってしまってとられてカウンターだったんだけど、そこはもう勝つためならコーナーキープでも良い。ずる賢さって絶対大事だと思うし、あと5分、観ている人からすれば醜くてもコーナーキープで5分を乗り切って勝てば、みんな喜んでくれるし。『あの時、コーナーキープしておもしろくなかったね』なんて言わずに『今日は勝った!』って喜んでくれると思う。
別に自分は、チーム内でサッカーをすごく良く知っているわけじゃないけど、この流れではこうした方が良いとか、勝つための手段を使ったりだとか、流れに沿ったサッカーができてない時間が結構多いのかなって思う」
誰もが痛いほどわかっていること。むしろJ2時代は、試合中の危険な時間帯を味方に付けてきたからこそ昇格があったと思えるほど得点を決めている。ところがJ1ではそれができないうえに、戦い方も正直だ。そういったところで、多くの選手にJ1という舞台での経験の少なさを感じるという。
「僕もたかが2年、しかもフルで出ているわけではないけど、実際にJ1でやってきて、特に試合になると感じる。みんなミスもするし、ボールもとられるけど、テラさんだったり阿部ちゃんだったり、J1の経験がある選手は、試合の要所要所でその経験が活きてるのかなって思います」
チームを俯瞰して見ることができる余裕。そういったメンタルも馬場選手の“らしさ”のひとつで、試合中に笑顔を見せることも多い。サッカーができる喜びと、トップリーグのピッチでの戦いを楽しんでいることが感じられる。
「おじいちゃんに『笑ってるな!』って怒られるんですけどね(笑)。でも別にへらへらしてるわけじゃない。味方が良いプレーした時とかに恐い顔でいるより、笑顔で『ナイス、ナイス!』って声かけた方が良いと思うし。まぁ、楽しくサッカーをしている喜びは味わってますけど。
結構自分は、負けていても試合中に『もう無理だ』って思ったことはなくって、『でもこれ1点入れればパァーッと入って逆転できるんじゃないの?』と思ってる。結果的には無理な試合が多かったから弱冠危機感が足りないとも言えますけど、試合しながら『ヤバい、ヤバい』って思うことはなくて、負けてるときも冷静に『どう戦おうかな』って考えてる。
負けてるときに怖い顔して周りが見えなくなると、相手もそこにつけ込んでくると思う。ちょっと余裕があるぞというメンタルじゃないと、逆転するのは難しいと思うから、余裕は大事だと思いますね」
こういう余裕をピッチ内で良い影響として与えるのも、馬場選手の役割のひとつかもしれない。そんな馬場選手がこれからの試合に望むことは、やっぱりひとつ。
「1年の終わりにさしかかって厳しい状況が続いているけど、でも何も決まったわけではないし、何も終わってない。誰ひとり、あきらめている選手はいない。サポーターからいつもいつもすごく声援をもらって、それが僕らの力になっているんで、残り試合、ベルマーレらしく、僕らもがむしゃらに必死に戦うので、サポーターもいっしょに戦ってほしい。僕らは、みんなでめざしている良い結果を残せるように最後まで頑張っていきます」
サポーターの声援は、選手達の勇気の源。その一歩を後押しする、声の力を次の試合も!
取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行