ボイス
【ボイス:2019年3月1日】坂 圭祐選手
ルヴァン杯優勝も通過点、
昨シーズンの経験を糧にピッチ内外でチームの力に!
今シーズンのチームスローガン「acceleration~加速~」。
この言葉こそ、これまでの積み上げがあるから言えるもの。
ルヴァン杯初タイトルも、最終節で決まったJ1残留も、劇的だった昨年を超えるシーズンを目指す。
このシーズンをチームの中心として引っ張ることが期待される選手の一人が坂圭祐選手。
昨シーズンは、ルーキーイヤーながら守備の要として信頼の厚かった外国籍選手からポジションを奪う活躍を見せた。
劇的なシーズンを振り返り、今シーズンへ、つなぐ思いを語る。
アンドレ バイア選手のすべてに感謝
だからと言って、プロになってすぐに試合に出られる選手は、ほんの一握り。プロの世界も甘くはない。昨シーズンに加入し、ルーキーイヤーを過ごした坂選手も、戦力となるための壁にもがいた一人だ。「やっぱりリーグ戦の開幕からスタメンで出たいなという気持ちは持っていて。けど、出られなくて。壁は厚いぞっていう感じでした。大学のサッカーとプロのサッカーで多少の違いもあるし、周りとの共通理解を高めなきゃ守備をするのは難しいなというのも加入してすぐに感じました」
大学とプロのサッカーの違いを最も感じたのは、攻防の激しい位置。大学時代は中盤の潰し合いにより攻防の激しさを感じていたが、プロは攻撃を完結させようとする意志がより強いのか、ゴール前が最も激しいという印象を受けた。そこはまさに自身の主戦場だ。加えて、ポジション争いのレベルも高い。
坂選手が加入を決めた2017シーズン、ベルマーレはJ2を戦っていた。ここまでのシーズン、坂選手がもっとも希望するポジションを担っていたのは、アンドレ バイア選手。2015シーズンからほぼ全試合に出場している。その存在感は、誰もが認めるところ。坂選手自身も、アンドレ バイア選手からポジションを奪うのは、時間がかかるだろうと感じていた。
「ベルマーレに加入を決めたときは、同じポジションを争うのが外国人のセンターバックやから、なかなか無理なんやろうなとは思いました。自分自身は、真ん中がやりやすいというのはあったけど、試合に出られるとしたらその両脇かな、と。特に最初の頃は、真ん中は無理だろうなと思ってましたね」
加入後、初めて掴んだチャンスは、ルヴァンカップのグループステージ、ホームで迎えた第1節のサガン鳥栖戦で初めて公式戦のピッチに立った。そのときの思いは、「チャンスをもらったところで全力でやっていくしかない」ということ。ところが、デビュー3戦目にして今も忘れられないプレーを経験する。
「ぶっ飛ばされたシーン。いや、もう絶対ファウルでしょって最初は思いましたけど。けど、審判は取らなかった。『ファウルじゃないんだ』と思って。『マジか』みたいな。で、そのままスーパーシュートで失点するし。申し訳ないというのもあったし、結構落ち込みました」
それは、ルヴァンカップグループステージ、ホームで迎えたヴィッセル神戸戦。かつてベルマーレにも在籍したウェリントン選手とボールを追いかけながらの競り合いで弾き飛ばされたプレーだ。フリーになったウェリントン選手は、そのままドリブルでゴール前に持ち込み、ゴールを決めている。
この試合を坂選手は「ぶっ飛ばされた」と振り返る。が、試合の中では冷静さを心がけるタイプ。審判のジャッジが自分の判断と違ってもそこで審判に怒りが向くことはなかった。ただ、最終ラインを守る選手として失点に絡むプレーが悔やまれた。
「あのときは、ぶっ飛ばされて失点してしまった申し訳なさに結構感情的になりました。それに、言ったら恥をかいたっていうこと。あとあとになってからですけど曺(貴裁監督)さんも、恥をかかせたほうがいいと思ったから、あのとき審判にファウルをアピールしなかったようなことを言ってましたし。まさにその通り、恥をかいたっていう感じでした。試合のハーフタイムでも結構怒られて。『ナメられてるぞ』みたいな。確かにそうやな、と思いました」
カップ戦のグループステージは、リーグ戦に比べると注目度は低いが、それでもホーム開催の試合に熱心なサポーターが多く集まっていた。曺監督ならずとも、このシーンを見た多くの人がこの経験は坂選手が成長するうえで、大きな糧となるのではないかと思ったはずだ。しかし、本人は少し違う感想を持っている。
「『あれがあったから去年のプレーがあったんじゃない?』とか、言われるんですけど、自分としてはわからないです。あれで特別良くなったとかそんな感じは、わからなかったですね、自分は」
この試合から約10日後、次はリーグ戦でチャンスが回ってくる。これには、坂選手自身も驚いた。
「(サンフレッチェ)広島戦が週末にある週に、『今週、行くかも』みたいなことを言われて。あの失点をした次の次の試合。『このタイミングなんや』みたいな。ここであかんならもう終わりやぐらいに思ってました。広島にもウェリントン選手に似たタイプのパトリック選手がいるし、これでやられたら終わりやなって。背水の陣じゃないけど、自分が出せることを全部やるしかないっていう感じはありました」
試合の結果は、敗戦。しかし、自分の強みを出せた手応えは感じられた。
「初めて3バックの真ん中をやって。ルヴァンでは、右をやっていて、ちょっと慣れない感じがあった。大学のときもずっとセンターバックをやってきて、真ん中の方がやりやすいので元の感覚でやれたっていう感じがありました」
ここからアンドレ バイア選手とのポジション争いが本格的に始まった。その後、併用されるときは坂選手が3バックの右を担い、アンドレ バイア選手が中央を務めた。また、交互に出場機会を掴むこともあった。
「最初の頃は、出たり出なかったりという感じだったので、ポジションを掴んだっていう感覚はなかったし、対戦相手によってはバイアの方がいいときもあるという感じだった。やっぱりバイアはずっと試合に出ていて信頼もあるし、めちゃくちゃストロングなところがある。そこでは敵わないし、バイアのストロングで僕が勝負をしようと思っても絶対無理だったので、もちろんそこに近づく努力はしなきゃいけないけど、そこだけで勝負していたら超えるのは無理な壁だと感じていました。だから、僕は出たときに自分らしく頑張ろうというふうに思ってました」
坂選手は、ディフェンダーとしては小柄だが、その分機動力が高い。また、ラインのコントロールも日本語で細かく指示ができる。強みを活かして、ラインの高い、よりアグレッシブなディフェンスラインを形成することでアンドレ バイア選手とポジションを争った。
「リーグ戦の後半に、天皇杯の(川崎)フロンターレ戦を挟んだんですけど、この試合に出て、次はバイアかなと思ったけど、その後の試合も使ってもらえた。この頃から、いいプレーを続けられたら完全にポジションを掴めるかなというのは多少思いながら。でも、楽観的な感覚は全くなくて、とにかくやっていくしかないと思っていました」
ルヴァンカップの神戸戦の経験がどう糧になったかがわかるのは、多分もっと先になるだろう。しかし、少なくともポジションをつかんでシーズンを終えられたきっかけになったことは間違いない。
そして今シーズンは、背番号4を背負う。
「去年は、本当にバイアの人間性に助けられたから。こんな若造にポジションを譲って、それでも文句一つ言わずに練習から100%、120%で取り組んで。僕に対しても冷たくするとかじゃなくて、むしろあったかくて、普通に笑いあって、なんでも言い合える関係だった。ほんとうにのびのびやらせてもらえた。普通、そんな態度を取れますか? 自分が同じ状況になって同じことをしろって言われても無理じゃないかなって本当に思う。ホント、普通の人じゃないです、マジで。素晴らしい人間でした。感謝しかないです」
今年もまた新たに日本人、外国籍選手ともに新たな選手が加入し、ポジションを争っている。しかし、昨年のことを思えば、難しいことなどないに等しい。挑む覚悟は、できている。