• 選手の成長を願う

    「ロッカールームの中にこそドラマがある」――そんな声を耳にして、昨年から試合時のロッカールームに小さなカメラをそっと置いている。もちろん監督や選手が承知の上でのことだが、そこに映し出されているのは、まさしく戦う男たちのドラマである。

    目の前の1試合に傾ける気持ち、自分自身と向き合う姿、歓喜、悔しさ。さまざまな喜怒哀楽が小さな部屋の中で渦巻いている。中でも心打たれるのは、曺貴裁監督が選手たちに発する言葉だ。試合前、ハーフタイム、そして試合後、選手たちに語りかけるその言葉には、情熱がほとばしっている。勝利した試合の後でもしかることがあり、負けた後で褒めることもある。チャレンジをしないプレーに大きな雷が落ちることもあれば、「自分の采配ミスだった。お前たちの成長に俺がついていけていない」と謝ることもある。

    選手たちに常に問いかけるのは、何のためのサッカーをやっているのか、何に支えられているのか、湘南ベルマーレでプレーすることの意味は何か。市民クラブとして戦うベルマーレは、ひとつの企業による大きな支えがあるわけではない。それでも、懸命に選手を育ててJ1での上位を目指している。

    重要なのは、結果だけでなく内容が伴うこと。見ていてワクワクする、“誰かに話したくなるような”サッカーで勝利する、つまり「内容と結果」の二兎を追っている。壮大な夢だと思う人がいるかもしれない。しかし、チームがその一歩一歩を間違いなく歩んでいることを強く感じることができるのが、ロッカールームの中なのだ。
    選手たちはよく「監督にはサッカーだけでなく、人生を教わっている」と口にするが、映像を見ているとまさしくそう感じる。この映像は「NON STOP FOOTBALLの真実」というタイトルでDVD化したが、サッカーと普段関わりのない、企業経営者や組織を率いる方々からも絶賛された。

    人の心を動かすのは難しい。伝えたい言葉を相手の心にしっかりと届けるために、監督は何を、どのタイミングで伝えるのか、監督は緻密に考えている。そして忘れてはならないのは、どんな時も選手への深い愛情があること。
    「選手を成長させたい」という誰も敵わないほどの愛情を伴うからこそ、その言葉がすっと心に入り、そしてずっと消えないほどに沁みこんでいくのだろう。
    東京新聞「ベルマーレだより」2015年9月8日掲載分