ボイス
【ボイス:7月11日】山口貴弘選手の声
念願のJ1に舞台を移して、3ヶ月。ここまでは、トップリーグのレベルの高さに、J1を実感する戦いが続いている。
加えて、もうひとつチームが戦っているのが怪我人の多さ。特に、昨年から軸となってチームを引っ張ってきた選手や補強を目的に移籍してきた選手の戦線離脱が痛い。
とはいえシーズンはまだ前半戦。取り返す時間はたっぷりとある。それよりもこの時期をチーム全体の力を底上げするチャンスと捉えて、若手選手たちにはレギュラーに取って代わるくらいの気概を持って臨んでほしいもの。特に中堅世代の選手の頑張りにかかる期待は大きい。
そこで今回は、入団4年目の山口貴弘選手が登場。サッカー選手として自分を見つめ直した今年にかける思いを語ってもらった。
いつでも平常心でいるために、
毎日の時間の使い方から大切に。
満を持して臨んだJ1リーグ、山口選手の今シーズンはリザーブからスタートした。その後、3月27日に行われた第4節のアルビレックス新潟戦でスタメン出場を果たすが、この試合で負傷。5月5日に行われた第10節ヴィッセル神戸戦で復帰し、その後はナビスコカップの第6節までコンスタントに出場を記録している。
J1でのプレーは、最初の頃こそレベルの違いに戸惑うシーンも見られたが、試合を重ねるにつれ、高いレベルにも慣れつつあることが伺える戦いぶりを披露している。
「J1は、やっぱり個々の能力が高い選手がJ2に比べて多いということを一番感じます。ディフェンスとしては、個人で打開できる選手がいるので、その選手をいかにして抑えるか、ということ。
正直、今は勝てていないので、手応えも何も言えないんですけど。でも、ひとつ勉強になったのは、特に最初の2~3試合、結構やられたのは、ボールを持っている相手に向かってボールを取りに行くと、かわされるというプレー。J2の時はボールを取れたけど、J1だと取りに行ったらその逆を突かれる。
何回か経験して、『あ、取りに行っちゃダメだな』とわかった。ボールを持った相手には、基本通りに正対して、我慢して我慢して我慢して。ボールを取りに行っちゃって、その勢いの逆を突かれて失点にも絡んでいるので、そこは反省してますね」
一人ひとりがJ1仕様にレベルアップを図らなければならない今シーズン、試合に出ればいやでも自分の課題と向き合うことになる。が、そんな経験を繰り返す中でも、山口選手のプレーぶりには、去年とは違った落ち着きが漂う。
「個人的に今年は、本当に生活から改善し始めた。
去年、監督やスタッフから『ムラがある』と言われていて、自分ではそんなつもりはなかったから、悔しかったんですけど、そういう風に見られるなら、そう見えないように変えなきゃいけないと思った。で、どうすれば良いかなと思って考えたのは、普段の生活からいつも同じことをしていればムラがなくなって同じパフォーマンスができるかなということ。
それで基本的に毎日同じことをしようと自分の中で決めました。寝る時間だったり、起きる時間だったり、練習に来る時間や、アップの前にやることだったり。
例えば練習が10時からだったら3時間前に起きて1時間で朝飯とかちゃんと食べて、準備をして。練習場には1時間半前には来て、自分の足りない…一番はまず怪我のケアをして、あとは足りない体幹やバランスの軽いトレーニングをして、しっかりストレッチをして、練習に入っていく。
練習後は、肉離れをしたところが、しばらくは硬いので、そこのケアをまず第一にして、あとはPTの小川さんに体幹メニューを組んでもらっているので、それをやるか、疲れが出ている時は何もやらないで帰るとか」
周囲の人から見た自分の評価と、自分の自身への認識がずれていることを指摘された山口選手。去年まではその指摘には反発ばかりを感じていたが、今シーズンは一念発起、人の目に映る自分を変える決意をした。その理由はというと、
「サッカーって、人から評価されるものじゃないですか。もちろん自分がこういうプレーがしたいなとか、こういうことをしたいなとかありますけど、結局評価するのは観ている人だし、選手を決めるのは監督だし。それならその評価を変えていこうと思いました」
毎年、年の始めに1年間『これをやりきろう』という目標を立てる。その目標が今年はいつも同じようにすることを心がけることだった。しかも効果のほどは、自分的に上々。
「試合に入った時、『いつも通りやろう』ということは去年よりできているのかなと。去年は、ちょっと硬くなりすぎていた部分があったかなと感じます。今年は、平常心でやれてるって感じはありますね」
サッカー選手はプレーに人間性が表れると語ったのは、反町監督。だからこそ選手には、毎日の生活を大切にしてほしいと願っている。その監督の思いが伝わったかのような山口選手のこの努力。簡単なようだが、毎日続けていくというのは、本当に大変なこと。この行動が今シーズンにどんな花を咲かせ、どんな果実を実らせるのか、期待したい。
前を向かないと残るのは、後悔。
どこのポジションにいても、気持ちは前へ。
山口選手は、守備の選手。本人はセンターバックを主張するが、実際の試合経験はサイドバックの方が多いのでは?と思えるほど入団当初からサイドバックでも起用されている。今シーズンの初出場もサイドバックだった。
それでも怪我からの復帰戦となった神戸戦は、前節に4失点して敗戦した上に、阪田選手が負傷したためにディフェンスラインに大きな修正が加えられたこともあって、怪我明け最初の試合だったにもかかわらず3バックのセンターに入り、90分間フル出場。その後は、4バックのセンターバックとしての出場が続いたが、怪我や体調不良などスクランブル常態が続いたディフェンスラインのやりくりの中で、ナビスコカップの第6節のモンテディオ山形戦では再びサイドバックでも起用されている。
「ポジションはやっぱりセンターバックが良いですね。真ん中の方が自分の力を発揮できると思う。やっていて楽しいし。勝ててないから、そういう意味では正直苦しいけど、J1ってこういうことか、センターバックで自分がJ1で生き残っていくには、こういうことをしないといけないんだなっていうのを試合に出て感じました」
サイドバックについて聞くといつも苦手だと語る攻撃への参加も、センターバックの位置からは積極的に攻め上がるシーンをたびたび見かける。この違いはなぜなのかを尋ねると
「センターバックは基本的に中で構えているから意外と後半の最後の方でも体力が残っている時がある。だから攻撃参加もできるので、機を見たら。特にインターセプトしてそのまま流れで上がっていくのは、大輔(村松)も結構やるし、監督にも『うちはひとりで打開できるような選手はいないから、人数をかけて攻める。だから、チャンスがあったらポジションに関係なく上がっていいよ』って言われているし。出し惜しみなく自分の力を出すためにも、体力・走力を出していこうという感じです。
サイドバックは、本当にずーっと上下運動して中に絞って、っていうことをやり続けていくから、常にへっとへとなんですよ。それに、やっぱり幸平さん(臼井)みたいに仕掛けられたら楽しいと思うけど、自分はそれができないので本当にイマイチな感じ」
ここまでの戦いの中で、ミスはあっても自分のやるべきことを理解し、やり切ろうという姿勢が見える。本人に自覚はあるのだろうか?
「センターバックについては、もちろんチームの規律を守りつつ、自分はこうしよう、自分のこういうことを出していこうというのは整理されてますね。センターバックに関しては、チームとしてセンターバックはこうしようと言うのがある程度、自信を持ってできてきたかな?という感じ。そんなに器用なタイプじゃないから、器用さも大切に思えるサイドバックは自分がどうやっていけば良いのか、まだ整理されていない」
そう言ってはいたが、6月5日に開催されたナビスコカップの山形戦では、再びサイドバックとして出場機会が訪れた。が、この試合については、サイドバックとしてというより、低調な試合内容を披露したことも相まって、中堅選手としての反省の言葉の方が多くこぼれてきた。特に、中盤に初出場となる若手選手が起用されるなど、思い切ったスターティングイレブンで臨んだ試合だったこともあり、サポートしてくれる人たちへチームの挑戦する気持ちを伝えるのに格好のチャンスでもあっただけに後悔が残ったようだ。
「山形戦は最悪でした。若手が多かったけど、そういう若い選手の中で、自分は26歳と結構いい年だし、上の方なので、もっとプレーでがむしゃらにやれば良かったっていうか。相手が引いているのにボールを繋ごうとして、後ろでボールを回して、取られてカウンターみたいなのばかりになってしまった。ああいう時こそ割り切って、豊さん(田原)に入れて自分もそこでサポートして走っていくとか動かなければいけない。もっとがむしゃらにやれば良かったという反省です」
山形がどういう戦い方をしてくるかは、ミーティングでも戦術練習でも織り込み済みだった。にもかかわらず、それを踏まえた上での自分たちの戦い方ができなかった。
「雷は、落ちましたね、ハーフタイムに。恥ずかしいです。やるのは選手だし。自分もへたくそなのに、ちょっと繋ごうとか思ってしまった。やってる時はそれが悪いことだとは思ってなかったけど、本当に勝つためにどうしなきゃいけないのか、割り切るのも大事。前に当ててシュートを打つ。ゴールを決めてなんぼですから。
山形みたいなチームとは最近やってなかった。久しぶりに、なんか攻め手がないな、みたいな感じだった。ちょうど昨日(インタビューは6月7日実施)、オランダとガーナの試合を観たんですけど、オランダはすごくうまく攻めてるんですよ、守ってる相手にはフィールドを広く使ってクロスをどんどん上げて、そこのクロスに入っていくとか。そういう工夫も大事だし」
この試合のことを思うと、サイドバックとしての出場はもう2度とないだろうと言うが、もしチャンスがきたら、
「絶対にやり切りたい。とにかく消極的なことだけはしたくないですね。今も、ああしておけば良かったっていうのがずっと残っているんですよ。プロ1、2年目も結構サイドバックをやっていて、その時に、ちょっとミスを恐れて横パスしちゃったりとか、後ろに戻しちゃったりとかあって、それは後悔として残っている。そういう消極的なのって、やっぱり情けないですよね。
ホント、サッカーは前を見ないとダメ。サッカーも人生も多分。サッカーも人生も前に向かないと何も開かないと感じるから」
センターバックにこだわりはあっても、いざ試合となればポジションは関係ない。毎日の生活から自分を変えていこうという行動を起こし、ひとつ成長しつつある山口選手のこのがむしゃらな前向きさが自分自身に、そしてチームに、何をもたらすのか、期待は尽きない。
サッカーに集中できる環境をゲット!
パートナーの支えに感謝。
毎日を規則正しく過ごすという決めごとが今のところ順調に守られているのは、影の支えがあってこそ。昨年結婚したパートナーがいろいろ気遣ってくれているそうだ。
「安定した生活は送れてるかな。起きる時間とかも、俺がちょっと眠いなっていう気持ちになっても、起きなさいってなるし。
朝ご飯も、ご飯とみそ汁、納豆、目玉焼きとか酢の物、あとひじきとか。ちょっとさぼり気味の時もあるけど、パパッと出てくる。
得意料理は、冷やし中華とオムライス。冷やし中華とか、具をめっちゃ入れてくれるんです。わりと単純なものが好きなんで、そういうのが良いんですね」
精神的な支えとしても、欠かせない存在。特に家族として心を許せることでリラックスができているようだ。
「昔は、彼女だったからちょっと気を遣っていたけど、今は全然気を遣わないですね。それは良いか悪いかはわからないですけど。結婚して楽しいですよ。
ただ、今は負けが込んでいるので、そういう意味では精神的にちょっとしんどい。でもそういう点でも、ひとりの時より良いですね」
シングルだった昨年は、昇格のプレッシャーとひとり格闘していた。今は、パートナーの存在が心強い。
「今ある自分の力が最大限なのだから、それを100%出して、それで結果的にダメなら今はそれでしょうがないんだ、という割り切りができるようになった。そこをスタートにしてまた頑張る。そういうのは、本を読むのも結構好きで、本からも学んだ。まあ、本当に自分の力しか出せないし、そこで恐れていても何の得にもならない。去年は確かに、『明日の試合、良いプレーできるかな、大丈夫かな?』という不安が大きかった。今も不安はあるけど、その不安を良いプレーをするための、良い意味での緊張感にできている。バランスが良くなりましたね」
パートナーの存在に、責任感も大きくなって、精神的にも良いバランスに。サッカーにより集中できる環境は整った。
みんなで信じて、みんなで勝利をつかみ取る。
勝利のダンスでよろこびを分かち合いたい!
サッカーはチームスポーツ。一人ひとり豊かな個性を持つ選手同士の色が重なりあい、今度はそれがチームのカラーとなって紡ぎだされる。この関わりの中で選手個人は、いろいろな役割を担う。山口選手が自分自身を成長させようと試行錯誤を繰り返しているのは、そんな役割分担の中で、怒られ役・いじられ役を引き受けているところもひとつの要因となっている。
「言っても大丈夫なタイプって思われてるんですよね」
練習を見ていればわかるが、山口選手は練習中も積極的。フィジカルトレーニングなども田村選手とともに先頭を切る。そのふたりがチームに不可欠な役回りを担ってきたのだが、どうやら、帝京高校の先輩でもある田村選手が怒られ役・いじられ役を卒業したことによって、さらに砲火が集中しているようなのだ。
「昔は言われてまたね、雄三くんも。でも今は全然、ベルマーレの軸だから。
なるほど、そういうことか。軸になれば、もう言われない。追わなきゃいけないですか、同じ道を」
怒られ役の時も、一番心に響くのは、やっぱり反町監督の言葉。もちろんサッカー選手として、たくさんのことを監督から学んでいるという自覚もある。とにかく反町監督がここ2年の山口選手の公私両面の成長に多大な影響を与えていることは、間違いない。
「ソリさんに教わったことはたくさんあって、クロスの守備だったり、セットプレーの守備だったり、セットプレーの攻撃だったり。あの得点もソリさんに教わったもの。あれは練習通り。みんなで一生懸命練習した、それがそのまま出せたもの」
あの得点とは、復帰の神戸戦で決めたセットプレーによるもの。セットプレーに工夫を凝らす監督の意図を選手が実らせた得点は、チームの可能性を感じさせる。だからこそ、サポートする誰もが“次こそは”と期待を持つ。また穿った見方をすれば、監督の言葉をさまざまに考える山口選手が得点を決めたというのも今のチームらしくおもしろい。
ワールドカップによる中断期間は、短いながらもJ1で戦ってきた経験を選手一人ひとりが整理し、自分の成長の糧とする、大切な期間となるはず。
「まずは自分の仕事をしっかり責任を持ってやるのが一番。それに、今は負けていますけど、1年を通しての結果が重要なので、個人個人がレベルアップをしていくのが大事です。それに、怪我人が多くて、年齢的に上の人がいない状況なので、自分がみんなを鼓舞して、練習から声を出してやっていかなければいけない。
本当に、もうやるしかない。気持ちを入れてやらないと。山形戦は負け方も悪かった。負けるにしても、負け方も大事。負けてもやっぱり何かを残さないといけないから。
一勝するというのは、大変なこと。必ず勝てると信じてもらって、みんなの力をプラスαにして、みんなで勝ってよろこびを分かち合いたい」
選手だって、勝利のダンスを踊りたい。山口選手から伝わってきた、その真摯な気持ち。中断開けからは、アウェイの試合も多くなるが、みんなで勝利をつかみ取って、勝利のダンスをたくさん踊れるように、心をひとつにして戦おう。
取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行