ボイス

【ボイス:2017年10月14日】山根視来選手

昇格を全力で喜ぶためにも
チームに貢献する選手が目標
 大学を卒業する前に怪我を負い、ルーキーイヤーは、松葉杖をついて始まった。キャンプに行っても話を聞くことしかできず、チームの一員になった自覚は薄かった。

「加入が決まってからは、開幕戦に出たいとか、キャンプの最初からアピールして、と思っていたのに怪我をしてしまった。でも、プロの世界を知らないから、焦りはあっても、さほど深刻には思わなかった。長期離脱したのも初めてだったし、どうすれば怪我が治るとか、治ったときにどういう感覚が鈍るのかとかもそのときはわからなかった。だから多分、今、怪我をした方が焦ります」

 離脱したのは、3ヶ月。とはいえ、今季のスタメン争いの凄まじさを経験すると、プロの厳しさを知らなかったことで必要以上に気持ちを追い詰めずに済んだ、とも言える。

「キャンプをやってない分、フィジカルも全然ついていけないし。走れるようなるまで半年かかって。当時は早くやりたいと焦っていたんですけど、今思うと本気では考えてなかったな、と。
 今は試合に出て、なかの競争の激しさもわかる。ホントに1日やらないだけで同じポジションの選手に1日分差をつけられるんじゃないかと、今なら思う」

 復帰したのは、4月20日にホームで開催されたルヴァンカップ第4節ジュビロ磐田戦。

「多分相当ひどくて。60何分かで交代したんですけど、前半、10回プレーしたら9回ミス、というような。気合は入っていたんですけど空回りしてしまって。怪我が治ってすぐだったと思うんですけど、『こんなにできないんだ』という壁にぶち当たって、自分のなかですごいショックだった。
 自分のなかではサイドでのドリブルとか、シュートをイメージしていたんですけど、感覚が鈍っているのか、何をしてもうまくいかない、全部取られる、そういう感じ。本当にJ1のレベルというか、同じ土俵に乗っているのに一つも二つも違って何も通用しなかった。それも悔しかったんですけど、そこから自分のなかで自信がどんどんなくなって、『このプレーで合っているのかな?』というような感じになってしまいました」

 プロデビュー戦は、散々な思い出しかない。公式戦2試合目は約1ヶ月半が空き、6月6日に開催されたルヴァンカップ第7節ヴィッセル神戸戦となった。

「少し期間が空いたのが良かったのか、最初の方で良いプレーが出せて『これで行けるぞ』みたいなものがあった。磐田戦ではファーストプレーでボールを取られたことを引きずってしまったので、そこが大事だと思って試合に入りました。ここでダメだったらもう終わりくらいに思っていたので、最初に良いプレーができて試合に入れたことで、その試合は自信を持ってできました」

 フル出場を果たした、最初の試合となった。ところが今度は、90分間出場したことでフィジカルの弱さを痛感した。

「70分くらいで足がつって、もう全然ダメで、本当に90分保たなかった。そこからは、若手練(習)をやるようになりました」

 90分走り切ることはこのチームにいる以上最低限できなければいけないことと、若手を対象にした午後に行われる練習のメンバーに指名された。そこで取り組んだのは、ピッチを縦に「行って帰って行って、くらいにならなきゃいけない」という負荷の高いメニュー。午前中に紅白戦を行ったあとの午後に行われた時は、そのきつさはさらに上がっていた。

「紅白戦のゲームを3本やって、それだけでもきついんですけど、その状態からもっときつい練習を、という。ただ本当にきついんですけど、選手よりも多い人数のコーチで見てくれているんです。しばらくそれを続けていたら、ふとゲームに出たときに90分間保つようになっていて、あれはありがたかったです。試合中でも、あの練習の方がきつかったとか、たまに思えるし、本当に走れるようになりました」

 その後は天皇杯の2回戦と3回戦で出場機会を得たが、それ以上公式戦に出場するチャンスは掴めなかった。しかし、試合に出られなかったからこそ、今年への思いをより募らせる経験もあった。

「降格が決まった試合、僕はベンチ外でしたけど、選手は全員見に行っていたんです。降格が決まって、みんな悔しくて涙を流しているんだけど、僕はそれを見て……。
 試合に出てないし、チームを助けられてない。泣く資格がない、そう思いました。試合に出られない悔しさはあっても、それは自分の責任。試合中はもちろん勝ってほしいから応援してますし、負けたくない、降格したくないと思ってますけど、やっぱり試合に出ていた選手たちほどのレベルまで悔しいとは思えていなかった。それが自分でも情けなかったんです。
 だから今年は、最初からスタートダッシュできるように、シーズンが始まる前から結構身体も動かして、絶対に試合に出たいと思ってました。今年はJ2なんでやっぱり昇格したい。そして昇格が決まったときに本気で喜べるようにしたい、そうなりたいと思って。その意気込みでやってきました」

 今シーズン、初めてキャンプに参加して、その大切さも身にしみた。

「今年初めてキャンプをやって、キャンプを経験してない去年1年、もったいなかったなと思いました。『そりゃ差が出るな』と。
 キャンプはやっぱりきついんですけど、新しく来る選手もいるし、シーズン最初だから今年の湘南はどうやっていくとか、アプローチはここまで行くとか、チームでボールを奪ってゴールを決めるためにどうしなきゃいけないか、というような約束事を確認するミーティングがあるんです。去年もミーティングは参加していたんですけど、怪我をしてグラウンドに立てないから、頭の整理ができなくて。そのシチュエーションを体験できない差は大きい。きついキャンプを乗り切ったっていうメンタル的な自信にも違いがあると思う。
 今年はそれを一から一緒にやって、その差は大きいなと思いました」

 キャンプからチームの一員である実感を得た初めてのシーズンで、自分自身に誓った通りに試合出場を重ねている。もちろん試合に出れば新たな課題は増えていき、そこで悩むことも多い。だがそれも試合に出ればこそのこと。試合を重ねるごとに手にする課題と責任感が、ピッチ上でチームに貢献しようとする山根選手をこれからも強くしていく。



取材・文 小西尚美
協力 森朝美