馬入日記
【馬入日記:5月19日】充実
『充実感』という言葉は、わかりやすいようで実は抽象的。日々それを抱きながら過ごせているかの問いに、伊藤剛選手は「難しいですね」と考え込みます。
「例えば、自分が課題だと思っていたことを練習でうまくできた時はそういうものを感じられていると思います。だけど、そううまくいくのは毎日ではないですし、課題が残ってしまうことの方が多い。『もっとこうしなきゃ』ということを感じた日は、充実感とは違うかなと」
日々向き合う課題は「言い出したらキリがない」と苦笑いする伊藤選手。
「シュートストップ、飛び出すタイミング、試合の流れを感じる力。雰囲気を掴むことは飛び出しの判断にも繋がってきますし大事だと思います。あとはポゼッションにコーチング…。それでも動きは加入した頃より速くなってきたとは少しずつ言ってもらえるようになってきてはいます。倒れた後の起き上がりが早くなったとか、これまで跳んでいたボールを足を運んでキャッチできるようになってきたとか。前に比べれば一段ずつでも上がってきてはいるかなと思います」
毎日の練習でひとつずつ課題を克服しては、また次の課題へと向かっていく。その作業に終わりはありません。そう考えれば伊藤選手が言うよう、課題はあげればキリがないことは必然です。しかしその繰り返しを続けていくため、必要となるのは心の下支え。伊藤選手にとってそれは純粋な想いです。
「危機感というものもないわけではないですけれど、それ以上に純粋に試合に出たいとか、うまくなりたいという思いが強いです。だから練習でも他の選手から学ぶことがすごく多い。こういうポジションを取れば止められるんだとか、他の選手の練習中のプレーはよく見ています。うちのGKはタイプがそれぞれ違いますし、そういうのを吸収していければと思いますし、全員がそうして高め合えていると思います」
公式戦での出場機会を未だ掴めていない伊藤選手にとって、その想いをぶつけるのは週末の練習試合。そこに臨む心境も、加入当初とは変わりつつあります。
「2年前の加入したばかりの頃は、チャンスの場だから自分がシュートを止めてアピールしよう、というような想いが強かった。自分、自分という感じです。海外のセレクションもそういう感じだったので。今も練習試合がアピールの場であることは変わらないですけれど、でも昔と違って今はチームの中で自分がどういうプレーをしなければならないかを考えながらできていると思います。チームに対して自分が何をすれば良いのか、そういうことを考えられるようになってきています」
言い出したらキリのない課題と向き合いつつも、2年前からは確実に前進している自身の現在地。
日々の達成度に満足感こそ得られずとも、伊藤選手の毎日は確かに充実しているはずです。