馬入日記
【マラガ日記:最終回】「自分たちが大事にしてきたもの、今回学んだことを」
あらためて気付かされたことがあると、指揮官は言う。
「自分たちがボールを持っているとき、持ってないとき、切り替えという局面のなかで、我々は切り替えやボールを持ってないときにスイッチが入るチーム。そういうふうにしたつもりはないんだけど、選手たちの意識のなかでそれが最優先になっている」
相手ボールのとき、あるいは攻から守への切り替えの際のアクションは体に染み付いている。実際、前線に始まるプレッシャーの鋭さは昨季も相手から認められた。であればなお、その能動がマイボールの際も同様に発揮されたら、きっと異なる次元にチームとして踏み出せるに違いない。
2月7日はスペインキャンプ最後の対外試合が行なわれ、デンマーク2部のHBキューゲと中国1部の北京国安とそれぞれ対戦した。
HBキューゲとの1試合目、体格にまさり、熱を持って勝負に挑む相手に対し、湘南は開始間もなくミスから失点するなど後手を踏んだ。だが前半のうちに追いつくと、後半はスコアレスにまとめ、1-1で終えた。
曺貴裁監督は言う。
「1試合目のほうが選手に疲労があったように感じる。たしかにモビリティやダイナミズムは午後の試合のほうがあったと思います。でも1試合目も悪くなかったと思う」
続いてキックオフした北京国安戦は、ボールとゲームの両面において、このキャンプで最も支配したといえる内容だった。自陣から少ない手数でゴールを陥れる、あるいは敵陣で奪うやショートカウンターに転じ得点を奪うなど、鋭いアタックが目を引いた。PKで1点を失うも、3-1の勝利を収めた。
指揮官は続ける。
「ロコモティフ・モスクワやルビン・カザンとの試合は、ボールを取ったあとのクオリティの面で、係わる意識が足りなかった。でも今日は、ゲームの支配に対してボールを持ったときのクオリティが上がった。その意味でよかったと思う」
キャンプ中、5試合で2勝1敗2分の戦績を記した。結果はもとより、海外勢と肌を合わせ、毎試合異なる内容を経験したことは大きい。
「非常に有意義なキャンプになった」指揮官は振り返る。
「ゲームを支配して勝利に繋げていく手応えは、6年間でいちばんあるかもしれない。一人ひとりが90分ゲームをこの期間でやっているし、ゲーム体力の面でも相当上がってきたと思う。基本的なことをどれだけ習慣にできるか、習慣にできたところからどれだけ戦術的に幅を持たせられるかが我々に課せられた使命。いままでは切り替えや運動量、縦のスピードで勝負しようというところを、いい意味で包括的に全体を上げていくことにみんなでトライしていきたい。相手はもちろんありますが、自分たちが大事にしてきたもの、今回学んだことを開幕で出せればいい」
開幕まで2週間余り、突き詰める作業に終わりはない。J1を見据え、共走の日々は続く。
(TEXT:隈元大吾)