ボイス
【ボイス:4月23日】小林竜樹選手の声
J2リーグ3位の成績での昇格は、まさにJ1リーグ18チーム中18位といわれても仕方のないところ。でも、周囲の評価とは関係なく、11年ぶりのJ1の舞台に馳せる思いは、期待と希望。難しい戦いが続いても、簡単なリーグでないことは最初からわかっていたこと、いっそうやる気に火がついてくる!そんな思いで応援している人がたくさんいることだろう。
リーグ戦6試合とナビスコカップ1試合を終えて、チームから感じられるのはどんな状況からでも学ぼうとするたくましさ。そんな選手の中でも、第3節の広島戦に途中出場した小林竜樹選手は、気持ちをストレートにプレーで表現する元気さが魅力の選手。ピッチ中をところ狭しと駆け回ってチームに新鮮な力を与え、なかなか勝ち点という結果のでないリーグ戦ではあったが、勝利への道のりがそう遠くはないことを予感させてくれた。
今回は、広島戦でJ1デビューを飾り、ナビスコカップではスタメンで出場してチームを牽引した小林選手に話を聞き、今年にかける思いと、昨年のザスパ草津での経験についても語ってもらった。
経験が糧になった新潟戦。
今、一人ひとりが考えるのは、勝つことだけ。
小林選手にとってベルマーレの選手として、またJ1リーグでのデビュー戦となったのが、3月20日の対広島戦。3点のリードを許したチームの攻撃の活性化を託されて64分に途中出場を果たした。
「もうガンガン前から行って点を取るしかない、0-3で負けていたので、そう割り切っていける状況だった。指示としては、僕自身の特徴である運動量を、前線でもディフェンスでもしっかり出してくれというものでした」
小林選手というととびきりの笑顔がトレードマーク。たいがい真剣な表情の写真が多いガイドブックや選手名鑑などにも、ひとり笑顔の写真が掲載されている。広島戦に途中出場したときも、自分に課せられたタスクの重さを感じながらも、表情は試合に出られるよろこびにあふれていたのが印象的だ。
「サポーターが応援してくれている試合は、サポーターのために勝つ、そういうプレッシャーが大きいけれど、そのプレッシャーがあるからこその楽しさもあるっていうのが今、僕がやっていて思うこと。プレッシャーの中で良いプレーができた時の楽しさ、とか。広島戦は、ゲームに出られた楽しさと負けた悔しさがある、何とも言えない気持ちでした。
気持ちとしてのJ1のプレッシャーというものはなかったですね。要はサッカーは一緒だっていうのもありますし。相手がうまいのはわかっていることなんで、そこは全然気にしないで。それに、去年ザスパ(草津)でFC東京と公式戦をやっているので、J1でも中盤は、さほどプレッシャーはないっていうのをある程度予測していたので。J1だから特別に意識する、というのはなかったですね」
出場時間は、それほど長くはなかったが、それでも同時に投入された三平和司選手とチームに活力を与え、決定的なチャンスをつかみ、シュートも放っている。惜しくも枠を捉えることはなかったが…
「もう、みんなに言われたんですけど、『力抜いて打て』って(苦笑)。変に力が入っちゃったんですよね、完全に。そこをしっかり決めるかどうかでチームとして勝つかどうか、かかってくる。
ああいうチャンスでしっかり点を取り切ることが、今のチームでやっていかなければいけないところ。今のところ、他の選手も決めきれないことが多い。そこがうちのチームが勝てない要因なのかなって思います」
力の差を感じる試合でも、必ずチャンスは作り出せている。ただ、少ないチャンスをモノにできていないのが現実。このチャンスを活かすために、足りないすべてを補うことを、コーチングスタッフが、選手たちが、日々のトレーニングの中で常に意識している。
「去年とは違う雰囲気がやっぱりあります。今はみんな、どうしたら勝てるのかっていうのを、一人ひとりが考えてやってるなと感じます。楽観視はできないですけど、悲観的に考えることもないっていうのが今のチームの考え。僕自身は、ソリさん(反町監督)のサッカーを信じてやっているっていうのはありますね」
その結果つかんだのが第4節新潟戦の勝利。小林選手は出場機会はなかったが、控えの選手の意識の高さこそがチームの底力。みんなが同じ方向を目指してつかんだ勝利は、わずかな前進ではあるけれど、すべての経験を糧にすれば必ず結果を引き寄せられると実感できた、意味ある一勝となった。
自分の個性をチームの力に!
その思いが開いた、試合出場への道。
広島戦で寺川選手と代わって入った小林選手の登録はミッドフィルダー。反町監督が採用している4-3-3システムの要である中盤の中でも、攻撃的なサイドハーフの役割を期待されている。
「あそこは本当に運動量の多いポジションで、たぶん、ソリさんには、僕が前線にもディファンスにも顔を出せるというイメージがあるんだと思います」
もともとは、フォワード。ポジションにこだわりを持たなくなったのは最近のことだという。
「僕自身は、ここをやれっていわれたらそこをやる。
本当は、一時は、フォワードが良いと考えた時期もあったんですけど。今は、チームが勝つには僕自身はどうすれば良いのかを考えるようになったので。監督は、このシステムなら今使われているポジションが僕自身も活きるし、チームのためにもなると考えているんだと思う。僕自身も、そこで自分の良さを出してチームの一員として戦えた方がいいと考えています」
サッカーはチームスポーツ。一人ひとりが個を輝かせながら、11人が集まった以上の力がチーム力となるのが魅力。それができないと、チームスポーツとしての魅力は半減するし、何より、J1での経験で劣るベルマーレがトップリーグで互角に戦っていくのは難しい。
小林選手は、今シーズンの始め、その原点に立ち返る経験をしている。
「大学時代から人のために走れってよく言われていて、それをやり続けていたんだけど、一時、点を取れていたこともあって、点を取ることを意識しすぎた。それが今シーズンの始め、キャンプの時にもありました。そこでソリさんに、『そこも良いところだけど、お前の特徴はなんだ?』って1回言われました。大倉さん(強化部長)にも、『お前の良さは、チームのために走れるところだろう?お前のそういうところが好きで、俺は採った』と言ってもらったり。
そこで、自分自身でも考えるようになって、もう1回、チームのために走ってみようって思えるようになってから、ポジションにこだわらなくなりました」
反町監督は、最近の小林選手に対して『大人のプレーをするようになった』と評価している。解き明かせば、指揮官の教えを素直に自分の糧にしているからこその成長だったことがわかる。
「チームのために走れるのが良いところだと、そこをすごく買ってもらっているんだったらやっぱりまずそこを出さなくちゃなって。それと、ソリさんが言いたいのは、そういうアドバイスをされる前の僕のプレーは、チームのためというより僕個人のためというところが強かった。それが勝利に繋がっていれば良かったけど、繋がっていない部分もあったから。チームのために今、どう動いたら良いかと考えることができるようになったから、“大人のプレー”って言ってくれたのかもしれません。
それに、監督に自分の特徴のことを言われて、自分中心な考えにはっとした部分もあった。そう感じたなら受け入れなきゃ、自分の成長にも繋がらないと思ったし、そういうところでしっかり受け入れられる器を持っておきたいというのも、大学の時の教えにあった。言われたことを受け入れようって思いました」
小林選手が理解したのは、選手の個性をチーム力として活かすこと、イコール選手自身が自分を活かすこと。
「練習には絶対意図があって、その意図を考えながら練習の枠の中で僕自身をどう、チームの中で活かせるかということは常に考えていますね。僕に望まれていることはもちろん、どういうプレーをしたら相手がどう思うのかっていうことも意識しながらやっています。
やっぱり、僕自身が体格的に小さい方なので、それを補うためには相手がイヤなところでボールをもらって相手がイヤがるプレーをしない限り潰されるわけだから。そこをどう対応すべきか。練習の時から意識している。
例えば、広島戦は、途中出場だったこともあってディフェンスラインとフォワードの間が間延びして、スペースがあったのでスタートから入ったようなきつさはなかった。それにストヤノフ選手だってたぶん相手が小さい方がイヤだと思ったんですよ。だからそういうところで僕が仕掛けていければと思った。そういう部分をもっと出せれば良かったんですけど」
控え選手を含め、試合出場のチャンスを得ている選手は、チームのためにプレーすることを心から理解している選手たち。小林選手も、まずはスタートラインにつく資格を得たというわけだ。とはいえ、こういう選手がいかにたくさんいるか、またどこまで伸びていくかがチームとしての成長の鍵となるもの。小林選手のこれからの成長には、大いに期待がかかっている。
試合に出なければ分からないことを学んだ4ヶ月間、
経験を糧にめざすはスタメン定着。
昨シーズンは、夏の終わりからザスパ草津に期限付き移籍も経験した。草津では、移籍後数試合でチャンスをつかみ、出場2試合目にしてベルマーレが昇格を争っていたヴァンフォーレ甲府を相手に得点を挙げるなど、草津にはもちろん、送り出した側にも鮮烈な印象を残した。
「大卒の選手は、即戦力って考えてもらってると思って入団しますから、2年目も試合に絡めなくて、どうしたら良いんだろう?って本当に常に焦っていました。何が足りなくて、何が人より優れているのかということも分らなくなった時期もありましたし。
僕が1年目の時は、菅野さんが監督だったんですけど、菅野さんにもいろんなことを教わって、自分はまだ伸び代があるんじゃないかと期待を持てたんです。で、ソリさんが監督になって、ある程度僕自身が通用する部分が見えてきた。結局は、それをやり続けるしかないと思っていたんですけど、試合に絡めないので1年目も2年目も常に焦りはあった。
それに、同期といえば亮太(永田)とシマ(島村)で、ちょいちょい試合に出るようになっていたんで、負けられないって思ってましたし…」
何とかチャンスをつかみたい、そんな思いが募っていたとき、草津からオファーが舞い込んだ。
「話を聞いた時は、『行ってみたい』と思ったのが最初の印象でした。ただやっぱり湘南で試合に出たいという気持ちもあった。それでも、このまま何もしないで終わるのもイヤだという葛藤もあって、悩んでいろんな人に相談して、いろんなアドバイスをもらって、結果、最初の考えを貫いてみよう、やってみるしかないという気持ちになりました。
正直、残っていたら来年の契約はないかなと思っていたこともあった。何かしらチャレンジしないとダメだろうって。戻れるかどうかさえ分らないけど、最終的には行かなければ選手として生き残れないと思って、行きました」
移籍が発表されて、約3週間後の9月13日に行われた第39節VSヴェルディ戦でデビューを飾った。
「行ってすぐ感じたのは、出られそうな雰囲気ないなぁって。これは失敗したかな?と。でも草津はちょっと波のあるチームで、良い時は素晴らしいんだけど、ちょっと悪くなるとディフェンスラインとフォワードとの連携がとれなくなるところがありました。そして、大量失点したあとの試合にベンチに入るチャンスが来ました」
その試合で高田保則選手が負傷したこともあり、次の甲府戦はスタメン出場。初ゴールを決めた。
「ヤスさんの怪我などがあってチャンスがつかめた。それで、とっくん(都倉賢選手)とツートップを組んで練習して。
このツートップは、やりやすかったですね、とっくんにマークが行くので、僕がアイツの周りをウロチョロして。アイツも僕をちょっと使ったり、自分で行ったり。僕もうまい具合に動けばフリーになるチャンスが多かったので、そういう動きも学べました」
草津からもミッドフィルダーの選手としてオファーをもらっていたのだが、選手の怪我などが重なったチームの台所事情から、フォワードで出場することとなった。
「点を取った時は、『この気持ち良さを知ったら、フォワードは辞められないな!』と思いました。ホントに(笑)。
今のうちのチームは、誰が点を取るっていうのがないくらいみんな流動的に動いてやるサッカーなので、僕自身も得点を狙うチャンスもあるから、今は全然こだわってないですけど」
ちなみに都倉選手は小林選手の一つ下なのだが…
「アイツはホントふざけたヤツで、俺のことを竜樹呼ばわりなんですよ!俺がクン付けで呼んでるのに。何か間違ってるんですよ!」
と、ツートップのコンビネーションの良さの秘密を披露してくれた。
草津でもっとも影響を受けたのは、熊林親吾選手。意外な組合せという気もするが、公私ともに仲が良かったという。
「クマさんには、いろんなことを教わりました。ゲームでの戦い方とかボールのもらい方とか。草津での経験で一番大きかったのはやっぱりそこ。しょっちゅう一緒にいたっていうのもあるけど、クマさんにはすごく助けてもらいました。
本当に細かいことをすごく言われたんですよ、ゴール前での1対1の足の運び方から、どっちの足を先に出せば相手は触れないとか。ボールの受け方も、ただ僕がもらいに行っても、後ろに味方がいたら僕がただ邪魔になるだけだから、どう入るのが良いのか、とか。パス回し一つにしてもすごく言われました。
今、中盤をやっていて、曹さんに『ボールの置き方がうまくなった』って褒めてもらえるようになったんですけど、この経験があると思います。
今でも電話しますよ、『試合に出られない!』っていうと、『お前、腐らずにやれ』っていってくれます。
僕自身は、ベルマーレ時代のクマさんはわからないですけど、今は、将来指導者をめざしているみたいなので、そういうこともあるかもしれないですね」
もうひとり影響を受けたのは、高田選手。
「ヤスさんには、フォワードとしての考え方を教わりました。おかげでフォワードとして点を取るのには、何が必要かとかすごく考えるようになりました。
ベルマーレにいてもいろんな人が教えてくれるけど、試合に絡めたので、試合でしか分からないこと、そういうことを教えてもらえたのが本当に大きかったと思います」
実践でなければ分からないことがある。そんな貴重な経験が積めた期限付き移籍だった。
小林選手にとってサッカーの魅力は、
「ゴールもありますけど、相手の裏をとった時ですね、やっぱり。それも、ひとりでとってもおもしろいんですけど、ひとりじゃなくて、味方と一緒に裏をとった時。それがゴールに繋がった時は、『見たでしょ?』みたいな気持ち。俺がパスを出した人がポーンと決めてくれたら最高。そういうのが楽しい。
草津では逆で、クマさんからパスが出ることが多かったこともあって、クマさんから2点もらったんです。あれは試合前の練習の時にやっていた形で。クマさんは逆を見ていたんですけど、俺が走っているのを感じてくれていてノールックでパスを出してくれて。『やっぱり来たかー!クマさん見ててくれたー!』って思いながら、シュートは無心で打ちました」
ゴールの味も、味方と一緒に相手の裏をかく、そんなコンビネーションプレーのよろこびも知っている。だからこそ今度は、そんな会心のゴールをベルマーレで決めたい。
「パス、出す方でも、良いんで!」
狙うはやっぱりスタメン出場。でも、
「チームが勝つためにっていうのを考えたらどちらでも。僕が途中から出て流れを変えられるのであれば、途中から流れを変えるために動きますし、最初からガンガン行って、相手が疲れたところをベテラン選手がしっかりまとめてくれるというのもありだと思うし。
それでも目標はスタメン。お世話になった人を呼べるくらい、安定してスタメン出場できるようになりたいと思ってます。だから毎日、何が足りないのかしっかり考えて、しっかり練習をするしかないです」
ザスパ草津とザスパ草津に関わるすべての人への恩返しの意味も込めて、今年は必ず活躍したいところ。そんな思いにつき動かされたような躍動感あふれるプレーは、今のところ試合に長い時間、出られることは少なくても、見ている誰もの期待をかき立てる。
馬入グラウンドでも試合の時と同じテンションで練習に取り組む姿が見られるので、応援の声をかけてみてはいかがだろうか?
取材・文 小西なおみ
協力 森朝美、藤井聡行