ボイス
【ボイス:2016年3月11日】曺貴裁監督
1日の終わりに1%の成長が感じられるように
今日は昨日の101%を100%にしてスタート
例年より1週間早く開幕戦を迎えた、2016シーズン。
今シーズンは、オフに長年在籍した選手の移籍やフロントの人事など、
大きな変化を経験して迎えることとなった。
この変化が問うのは、経験を成長に繋げていくクラブの力。
チームには、選手が移籍をしてもなお陰ることのない総合力を
継続することに加えて、新しいメンバーとの融合によって
さらなる深化と成長を湘南スタイルにもたらすことが要求されている。
この大きな課題に挑む曺貴裁監督。5年目のシーズンが始まった。
今季、5シーズン目の指揮を執る曺貴裁監督。昨シーズンは、J1を2年続けて戦う権利を勝ち取り、J1に定住するための第一歩を記した。この歩みは、2014シーズンにJ2で様々な記録を残した戦いぶりにさらに大きな結果を積み上げて進めることができたもの。その結果を受けてオフには、曺監督の手腕に期待するクラブの幾つかからチームを託すオファーが届いた。そうした要望を受け取った曺監督は、ここ数年で一番長い検討の時間をとった後、5年目の続投を選択した。
「僕は毎年、契約年数のあるなしを問わず、ユースの監督を引き受けるときも、トップのコーチをするときも、監督をするときも、自分なりに自分に何ができて、何をすることでクラブに力をもたらせるかということを常に考えてきた。今年もその法則に従って、このチームをさらに強くするとか、息遣いの伝わるサッカーをさせるとか、いつもと同じに考えただけ。
昨シーズンの終わりからストーブリーグにかけて、過去にベルマーレ平塚が湘南ベルマーレに変わった年以来にチームが変わる、選手や僕も含めて、みたいな話があったり、世の中的には社長や強化部長が代わって、すごくいろんなことが変わるというイメージを持たれたし、単純に例年よりもいろんなことがあるなかで考えたことは多かった。そのなかで僕が引き受けたことがすごくインパクトのあることのように捉えられているけれど、だから特にすごい決意をしたとか、モチベーションが違うとか、違うことをやろうとか、そういうことは全然ないです」
オフに、長くチームを引っ張ってきた選手の何人かが移籍した。また、クラブとしても大きな変化があった。それでもシーズンが始まればチームへは昨年以上の期待が寄せられる。変化が及ぼす影響は小さくなく、状況を考えれば身が引き締まる思いもある。ところが曺監督は、その状況へ挑戦できることすら楽しんでいるよう。その思いはまず、今季のテーマ「挑越」に込められた。
「テーマは、僕がオフの間ずっと考えて考えて出てくるものです。
我々は、去年J1でプレーをしたという結果は残りましたけれど、タイトルは取れていない。世の中に『湘南というチームとしては頑張ったよね』というインパクトを与えられたかもしれないけれど、でもそれがいっぱいいっぱいだったかというとそうも思ってない。そういう事実や思いがあるなかでの、新しく生まれ変わらなければならないという状況。生まれ変わるというより、今いる選手たちでもう1回新しいものを作っていかなければいけない。そういう意味では過去を振り返らず、未来に向かっていかなければいけない。今までは流れでできた部分をもう一度整理して、目の前にある、壁やハードルを人の力を借りないで越えていかなければならない。選手とスタッフが一緒になって、『そこに挑む』という気持ちが大事だなと思って、そういう言葉にしました」
今シーズン、湘南スタイルを体現する選手は、昨シーズンに引き続き自らベルマーレを選び残った選手と強い決意を持って新たに加わった選手たちを合わせた29人。4年間積み上げてきたスタイルに新しいエッセンスを加え、さらなる成長と深化を志す。
「新しいスタッフが来て、新しい選手が来て、俺も本当に新しいチームを率いたつもりでやろうと思った。ネガティブな目線で捉えると選手が抜けたという見られ方になるけれど、逆から見れば新しいものを作るチャンスなので。
今年の選手は、我々がやれる精一杯のことを絶対にやってやるんだという気持ちの点で、意識の差はほとんどない。みんなが同じことを考えて、みんなが同じことに向かう力は過去4年と比べても一番あります。責任感が一人ひとりによりついてきたということだと思います。神谷(優太)でも『僕は新人だから、1年目だからこのくらいでいいや』なんて思ってないし、一番上の慶介(坪井)も、彼は今年、キャプテンとか副キャプテンではないけれども、その責任を放棄しているわけではない。そういう意味で全員が勝利とかプレーする責任を負っている感じはします」
湘南スタイルはサッカーのプレーだけを指すのではない。試合に出てプレーをしたり、勝利を求めることに責任を持つことや、チームメイトと切磋琢磨しながら信頼を高めあう、そういった気持ちの面も着々と培われてきた。選手が入れ替わっても、これまで積み上げてきたものは土台として残る。それはサッカーのスタイルだけではなく、そういった気持ちの面も同じ。高校を卒業したばかりのルーキーもそうした空気の中で何かを学んでいるのだろう。こうしたチームを率いるにあたって曺監督は、今シーズンのチーム作りについて、今までとは違う視点を持って臨んでいる。
「俺の『新しい』というのは古いものを壊すことじゃないんだよね。家というのは、基礎を組んでその上に土台を作って建物を建てて、屋根をつけて窓をつけて、なんだけど、土台というのはこの数年間で選手に根付いたものがあるから、今年は土台を触るというより、サッカー的なものもチームとしての考え方もやらなきゃいけないもの、やりたいものを、その近くから形作っていく。どんどんどんどんこう……、下からじゃなくて上から積み上げていく。
上からというのは、理想というか、近づいていかなければいけないものを常に自分たちの目線のちょっと上に置くということ。そこに近づくためにやらなければならないことを全部やる。上に見えているものがあるので、そこに対して必要なものを下に付けていくというか。上から空中に一つ置いて、もう一つ空中に置いて、それを繰り返したら家になった、というふうなサッカーをしたいと思っている。
世界のフットボールがどういうことを目指していて、どういうふうにやれば日本のサッカーが強くなるか、代表のサッカーも同じですけど、J1の中で何をやらなければならないのか、良い意味で常にそこを意識してやらせていきたいと思っています」
開幕して2節を戦い勝点3はまだつかめていないが、目の上より少し高い位置に置いた理想が垣間見える戦いぶりを披露した。アグレッシブにより攻撃的に。次節へ向けて、結果も同時に求めながら成長は加速度を増していく。