ボイス
【ボイス:2015年11月11日】古林将太選手 [1]
どんなに調子がいい時でも100%を感じたことはない。
限界はないと思って、成長していきたい。
2015シーズンも残すところ最終節のみとなった。
その1試合を残して現在、2ndステージ8位、年間順位8位という位置につけている。
2年続けてJ1で戦う権利を勝ち取ることができなかった二度の経験を糧とし、
カテゴリーに関係なく貫き通してきた湘南スタイルを
このシーズンを戦うことによってさらに磨き、成長させて得た結果。
そのスタイルを体現する選手たち一人ひとりがさまざまな状況を抱えながら
自分のため、チームのために成長する努力を惜しまず続けて得たものだ。
昨シーズン、開幕前に負った大きなケガを乗り越えて、
今シーズンに臨んだ古林将太選手もその一人。
J1に生き残るために戦うチームの中で、
トップフォームに戻すための自分自身の戦いにも向き合った時間を経て
シーズン終盤を迎えた今、存在感を増している。
2010年と2013年、過去2回に渡るJ1への挑戦は、1年での降格という結果に終わっている。迎えた今シーズン、3度目の挑戦に向けてクラブが掲げた目標は、「J1に定住する」。その目標を選手たちが自ら勝利をつかみ取って達成した試合が、10月17日に開催された2ndステージ第14節のFC東京戦。くしくも2013年のシーズン終盤にJ2へ降格の引導を渡されたチームとの対戦であり、その無念さを記憶に刻んだホームスタジアムだった。この試合で、ひと際存在感を放っていたのが右サイドのライン。常にひとつのポジションを争ってきた二人の選手がこの試合では縦に並んで絶妙なコンビネーションを見せた。
「ライバルとしてやっている選手だから、あまり合わないだろうとか、フォーメーションが合いづらいんじゃないかとか思われると思うけど、二人とも右のサイドハーフで出ている選手だからここに出たらこう走って欲しいとか、ここにボールを出して欲しいとか、お互いの気持ちがすごくわかる。簡単に出して欲しいところを一個タメちゃうとすごくやりづらくなったりするので、そういうところを考えながらやったし、征也くんもやってくれました」
古林選手がシャドーの位置に入り、藤田征也選手が右のサイドハーフを担った。前への推進力を武器にする二人の選手が縦の関係を築き、右サイドの攻撃をこれまでにない形で活性化させた。この形を最初に試したのはちょうど一週間前にホームで行われた天皇杯第3回戦松本山雅FC戦。この試合では、一列下がる形で古林選手が右のサイドハーフに入り、藤田選手が最終ラインの右にポジションを取った。
「天皇杯は航がケガだったこともあって征也くんが右のセンターバックで俺が右前、サイドハーフをやって。試合の3、4日前からこの形での練習を始めて完全に『行くぞ』と言われたのは試合の前日くらい。二人ともサイドハーフはできるから苦はなかったですけど、その試合はなかなかコンビネーションが出なくて形にならなかった。でも次の週のFC東京戦に向けた練習でも縦の関係でやっていくうちに何か見えてくるというか、数少なかったコンビネーションがどんどん多くなってきたりして、次に向かっていく感じがしましたね」
曺監督のFC東京戦に向けての狙いは「太田(宏介選手)のセットプレーとクロスは完全な武器。後半押しこまれたときに彼がフリーでシュートを打つ、クロスを上げるっていう場面をできるだけ作りたくなかったので、あの2枚で蓋をすることと、あそこにスピードのある選手を置くことでカウンターのチャンスができるだろうと思っていた。押さえるっていうより、どっちかっていうと飛び出していくことを狙った」というもの。守備に重きをおくのではなく攻撃で上回ることによって太田選手の攻撃力を封じることを意図した。
「征也くんと二人同時に使うぞって言われて、航も復帰したし、『どういう形でやるのかな?』って思ったけど、前の形をいろいろ試して最終的に3人を本来の形のまま薫(高山)くんと俺でいく、となった。シャドーはユースのときは結構やっていたポジションでしたけど、サイドハーフとはプレスのかけ方も違って前に追っかけて、後ろに追っかけてだから、最初の5分くらいは結構息が上がっちゃって。それでも10分過ぎからは慣れてやりやすくなりました」
チーム全体でアグレッシブな姿勢を貫き、その中で古林選手もボールによく絡んでリズムをつかんだこともあって、セットプレーの流れからゴールも決めた。
「こぼれ球を狙えればいいかなくらいのポジションを取って、そうしたらFC東京の選手が結構ボールウォッチャーになって向こう側に寄っていたから真ん中に残ったら案の定こぼれてきた(笑)。薫くんのアシストはシュートですね、言ってましたもん(笑)。でもシュートを打ってくれてよかった。映像だとコンパクトに振ってるように見えるけど、試合中に見たときは思いっきり振ってたから、変にパスとかにしていたらズレていたかもしれないし」
自分自身も得点という結果を喜んではいたがプレーの出来については満足できなかったため、周りからの高い評価に驚いた試合でもあった。
「自分ではただ走り回っていた感があって、あんまり活躍したっていう感じじゃなかったですけど、周りからはよかったって言われるんです。自分ではもっと貪欲に行きたかったなっていうのはありますね、ゴールももっと決められたし。
ずっと出ていたサイドハーフだったら右で作ってクロスを上げて終わったりとか、シュートもそんな感じで、真ん中の方でターンしてドリブルってなかなかなかったから、もっとターンしてドリブルで運んでパスコースを選択したり、シュートにいけたなっていう感じはありました。今考えればドリブルで前に運んでシュート打てるのにパス出しちゃったりとか。もっと違う選択をしないとあそこのポジションで生き残れないですね」
与えられたポジションで結果を出すことにこだわる古林選手は、シャドーで生き残るためのプレーを模索することに余念がない。とはいえ、これからはシャドーのポジションでの出場が多くなるとクロスよりも他のプレーをする機会が多くなるのかと思うと、どうやらそうでもないらしい。やはりサイドハーフを本来のポジションに持つ選手らしいプレーも求められている。
「曺さんにこの間も、『流れてもらっていいぞ』と言われました。征也くんとのコンビネーションで、征也くんをサイドに出して、俺が中に仕掛けてクロス上げたりだとか、試合の中でも俺が外に流れてもらう場面があったし、そういう面ではクロスを上げる場面は多い。
そうは言ってもシャドーの位置だと自分が一番最初に動き出してボールをもらっているわけだから自分がボールを持ってもまだ中にあんまり人がいないんですよね。サイドハーフの時は自分が上がっていく時間があって、そこで中に人がいる状況ができてクロスを上げていたから。あとで試合の映像を見て、一個落としてやったりだとか、そういうことを考えながらやらないとダメだなと思いました。」
古林選手がシャドーで出場することになって藤田選手と縦の関係を築くという新しい可能性が生まれたが、もともと藤田選手の移籍は古林選手のケガがきっかけだったもの。ケガが治ればライバルとなるのは当然の理屈だ。実際、二人が一緒に起用されるまでは公式戦のピッチに同時に立つことはほとんどなかった。
「サッカーをやっている上では、それは絶対にあることだから。5年目になったけど、それでずっと戦ってきたし。草津(ザスパ草津:現ザスパクサツ群馬/’11シーズンに在籍)の時も絶対的なサイドバックがいて、最初は練習試合でも使ってもらえなくて。それでも少しずつプレーを見せていって、使ってもらった最初の試合、途中から出てたんですけど自分のプレーを出してそのポジションを奪った感じでした。それはサッカー選手には絶対にあることだから、承知の上でやってます」
古林選手と藤田選手の関係について曺監督は「二人で右サイドを支えてきたからこそ、二人並ぶと当たり前だけど心理的に協力してやろうという気持ちになれる。そういうところも活かしたかった」と語る。切磋琢磨するライバル同士は、チームに新しい可能性をもたらす力も持っている。