ボイス
【ボイス:2015年8月6日】アンドレ バイア選手 [1]
常に勝利を追求し、攻める姿勢を貫く湘南スタイル、
シーズンを通して完成を目指す。
シーズンは折り返し、2ndステージへ突入した。
1stステージの成績は、6勝4分7敗で10位、2ndステージは5節を終わって2勝2分1敗で現在7位、年間順位は8位となっている。
ここまでの戦いぶりを振り返ると、
序盤はJ1での経験の少なさから拙い試合運びをする試合もあったが、
それでも自分たちのスタイルを貫く姿勢に陰りはなく
試合ごとに積んだ経験を糧に深化の速度を増している。
そのチームの深化に新しい方向性をもたらしているのが、
今季加わった新戦力たち。
最終ラインも攻撃に積極的に参加する湘南スタイルの守備陣を牽引し、
いぶし銀の存在感を放つアンドレ バイア選手に注目した。
J1に「定住」することを目標に掲げたシーズンも、早くも折り返して2ndステージに突入した。思いを込めて臨んだ1stステージは、6勝4分7敗で10位の成績。曺貴裁監督が指揮を執って初めてJ1に挑戦した2013年シーズンに1年を通して挙げた勝ち星が6つだったことを思うと、チームとして積み上げてきた経験と思いを糧にした深化が感じられる。それに加えて、今季加入した選手の力が新しい期待をふくらませている。その一人が3バックの中央に構えるアンドレ バイア選手。開幕戦からスターティングイレブンに名を連ね、すでに湘南スタイルの守備陣を牽引するリーダーとして、守備ラインに今までにない安定感をもたらしている。
「湘南スタイルと言ったらモダンなトータルフットボール。観る人たちは,つまらない試合を観ることはない。なぜかと言うと,チームは常に勝利を追求し,勝利をするために相手を攻める姿勢を貫こうとしている。また攻めるチームというのは、守備を疎かにすることがありがちですが、我々は果敢に攻めると同時に守備的なバランスを整えようとしている。1stステージは、そのあたりについて上手く安定する形を探っていたという面もありましたが。
私にとって日本のサッカーが初めての経験ということもあって、すべてがフレッシュな感じ。ただ、半年やってきてだいぶ手応えがあって、こういうスタイルのサッカーで、さまざまな選手と対戦できるということは、自分にとって成長のひとつだと思う。守備の連携も含めて、シーズンを通して完成できれば自分にとって大きな経験となるんじゃないかなと思っています」
ブラジル出身のバイア選手は、母国の他、小野伸二選手(現・コンサドーレ札幌)や宮市亮選手(現・FCザンクトパウリ)が在籍していたオランダのフェイエノールトで長くキャリアを積み、トルコなどでもプレーした経歴を持つベテラン。サッカーが国民に根付いた国のリーグでさまざまなスタイルのサッカーを経験してきた。そういった豊富な経験を活かしてディフェンスリーダーとしての役目を担うだけあって、新加入とはいえすでに湘南スタイルの本質は掴んでいる。それでも日本のサッカーが持つ特徴は、新しい経験となっている。
「一緒にプレーした日本人選手の特徴や、ブラジルにいた頃にJリーグや日本代表の試合をテレビで観る機会があって、そこで日本のサッカーはスピードがあって、テクニックが高いというイメージを持ちました。実際に日本に来た今は、そのイメージは間違いなかったと確信できました。
その日本のサッカーのイメージがそのまま湘南のサッカーのイメージに繋がっていると思います。こんなにもガンガン行くサッカーは、ブラジル、オランダ、トルコでもなかった。湘南のサッカーは、ハイインテンシティ(high intensity)、運動量やリズムなどさまざまな要素の強度が高い。試合開始から試合終了まで、もう,みんながずーっと一生懸命やっているので最後まで何が起きるかわからない。これは、観ている人にはすごく楽しいけど、我々プレーしている側にはときに『幸せ』で、ときに『不幸』という場面が出てくる。例えば、川崎戦は逆転されたけど、松本戦は逆転できた。90分間、ずっと高い強度で試合が進むため、リードされているときに流れを変えたいと思っても、意図してテンポを変えるのがなかなか難しいのです。他の国のサッカーは、たまにリズムを落として少し考えたり、相手の様子を観察しながらテンポを変えたりする時間があって、90分のなかでもっと抑揚がある」
それでも湘南のサッカーに触れて半年が過ぎた今、リーグ戦は全試合に出場するなど、なくてはならない存在となっている。また、高いスキルとクリーンなファイトを証明するように、いまだに1枚の警告がないのも注目すべき点だ。
「短い間ですけど、だいぶ順応することができたと私は思ってます。それに、試合開始からしっかりついていけないと私もぶっ飛ばされたり、ぶち抜かれたりすることがあるので(笑)。
ただ、試合はそういう感じですが、試合に至るまでの1週間の練習は、やっぱりこれだけやっているから試合でもこれだけできるという内容。ハードな練習をしているので高い強度の試合もできるのだと思います」
さまざまな国での経験を持つバイア選手が充実感を得られる練習が日々行われている。その指導を行う曺監督へ寄せる信頼も厚い。
「サッカーについては、来日前に持っていたイメージそのままでしたが、監督についてはまったく違いました。日本や韓国、中国といったアジア人の監督は、『固い』というイメージがあって、頑固であいさつも交わしてくれないのでは? と思っていたんですね。ただ一方的に言われるだけで、こちらから言葉を返すことはできないだろうとか。ところが、曺監督に会ってそのイメージは完全に覆されました。曺監督は、すごく明るくてオープンに話してくれるし、積極的にコミュニケーションをとって歩み寄ろうとしてくれる。また、監督として24時間、サッカーを生きているような、空気がサッカーのような感じで、考え方も斬新で向上心があります。年下の私が言うのもなんですが、世界のサッカーを研究して、それをチームに取り入れようという考えのもとで指導してくれていると日々感じています。
まだ短い期間ですが、私に寄せられる信頼があって、それが私が日本人選手たちといっしょに日本のサッカーで活躍できるという安心感を与えてくれていると思う。頭のいい、足の速い選手に自分がうまく対応できているのは、曺監督の指示があったうえで、自分がチャレンジできているから。それがチームへの貢献に繋がっていると思います」
湘南スタイルを体現するうえで特徴的なのは、運動量とポジションにこだわらない攻守の一体感。ディフェンダーでも運動量は少なくない。
「シーズンを通して3バックでやったことはなかったし、湘南ではディフェンダーとはいえ走らないといけないので、毎試合終わるとくたびれていますね。
例えば3バックはサイドの方が運動量は求められるイメージだと思うんですけど、守備の局面で4バックは一人が余ってカバーリングしてくれることが多いのに対して、3バックの場合はサイドとの間が離れてしまうと1対1の局面が出てくるんです。そういう対戦と駆け引きをやっているとかなりエネルギーを消耗するし、運動量も多いんですね」
3バックの両サイドに位置する遠藤航選手や三竿雄斗選手は、攻撃参加する時間も多い。空いたスペースはボランチやサイドハーフの選手が埋めることも多いが、バイア選手の読みの良さや対応のうまさがあってこそ、というのも事実だろう。
「ディフェンダーだから必ず後ろに固定されるということはなく、攻撃参加も求められる。選手の特徴でもあるし、チームとしての役割を果たして欲しいという監督の要望もある。そうは言っても、90分間、ディフェンダーが上がり続けるということは無理があります。だから今,私たちは自分たちでバランスのとれた理想の形をお互いに考えながらやっている。他に3バックのチームはたくさんあるけど、うちのようにサイドのディフェンダーがこんなに上がるチームはないと思います。
そういうチームのなかでセンターバックとゴールキーパーは最後の砦なので、ちょっとしたミスが失点に繋がる。だから自分たちの場合、ミスは最少限に抑えないといけない。例えば、サイドのディフェンダーは他のディフェンダーがカバーできる機会があるので失点を防げる可能性があるんですけど、私やキーパーは最終ラインの最後の人間として、ミスをしてしまうと致命的になってしまう。そこをしっかりやらかないといけないと思っています」
チームとして、J1というカテゴリーでのプレーにも慣れてきて、さらなる飛躍が期待される2ndステージ。最終ラインを支えるバイア選手の活躍からも目が離せない。