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【ボイス:2015年5月1日】曺貴裁監督 [3]
J1定着を目指し、湘南スタイルを証明する。今季スタートしたチームは昨年登録されていた選手のうち19人が新天地に旅立ち、新たに13人の選手を迎えて合計28名でスタートした。単純にチームがスリム化されたことが分かりやすく見える。
「新しい選手やパイが増えることによって練習の効率が落ちるとか、そういうことも多少はありますけど、むしろ自分たちがJ1というレベルの高いステージでブレないで1年間やっていくには、多数精鋭じゃなくて、コンパクトな少数精鋭な集団でいきたかった、っていうところですね。多数精鋭もできますけど、試合をする機会だとか含めてチームに穴があくのがイヤだった。ナビスコカップもあるし、天皇杯もあるし、いつでも出られる選手が28人いるというふうにしたかったんです。
35人いたらできないわけじゃないけど、人数が多ければ多いなりの工夫をしなければいけないし、少人数なら少人数なりのオーガナイズ、作り方があるので、どちらでもそれなりの工夫をしてやるだけ。ただ、これくらいの人数だとやりやすい練習はあるので、良いところはありますね」
変わらないのは、「既存の選手が残ったことが最大の補強」という考え方。高い評価とともに届いたオファーを断り、永木亮太選手をはじめ、遠藤航選手など昨季主力として戦った選手が今季も湘南のユニフォームに袖を通している。
「亮太が他のチームに行ったらどうだったかというのはよくわからない。でも行けば行ったで十分に成長していたと思いますよ。
アイツは今まで言葉を多くしゃべって、気を遣ってやるタイプじゃなかったけど、自分のプレーのバロメーターをしっかり持っていて、チームの勝ち負けに関わることであれば厳しく言う、そういうパーソナリティを持った選手。昔から知ってる俺がここにいるってことのやりづらさは当然あると思うけど、最後の『あうんの呼吸』っていうか、亮太をはじめ長く居る選手は多くを説明しなくても俺の言いたいこと、思っていることが分かる。俺に言われて『えっ?』っていう局面は少ないし、そういう意味で長くやっている選手がキャプテンマークを巻いているというのはメリットになることがすごく大きいと思います」
中盤の要のポジションで攻守に渡って運動量多く前への推進力を発揮する永木選手は湘南スタイルを体現する選手のひとり。曺監督とともに歩んだ4年間、ピッチの中で日々輝きを増している。その永木選手と不思議な縁で結ばれている高山薫選手が帰ってきたのも心強い。とはいえ、完全移籍という形で柏レイソルに加入した高山選手に、1年というタイミングで戻るオファーを行った理由は気になるところではある。
「薫は、レイソルのスタイルにも合うし、どこのチームでもやれると思いますよ。どこでもやれる選手になったから、もしアイツにその気があるんだったらベルマーレでやってもらいたいっていう気持ちに、クラブもなったし、俺もなった。
一度、レイソルっていう本当に強いチームを経験したことで、その間のプレーも観てましたけど、それが我々に良い影響を与えるなっていう確信はあった。もちろん俺が昔から知っているというのもありましたけど、必要だから戻ってきてもらったということです」
2014シーズンの高山選手は、J1リーグで4位のクラブでリーグ戦34試合のうち32試合に出場、決勝トーナメントまで進んだナビスコカップも敗退した準決勝まで全試合に出場、天皇杯も戦った2試合とも出場している。J1の強豪クラブで主力としてのポジションを掴み続けてきた。その力を必要とした結果のオファーだ。
「まだまだできると思いますけど、アイツのこう、試合で出すエネルギーは、見えないところでの貢献度がすごいですよね。鹿島戦(3月14日開催第2節)もリーグの中で一番走って。
昔は、『走ったから良いだろう』みたいになっていたのが1つずつクオリティが上がって、シュートを打つならやはり決めないとダメだとわかっている。そういうふうになって戻ってきて欲しいなとずっと思っていて、それが1年で実現した。その点はすごく変わった思います。
逆に言えば、どのチームでも言われることはいっしょだなと思ったと思うんですよ。サッカーで大事なことはそんなにたくさんない。自分が考え方をどう変えるかとか、どう関わっていくかが大事なんだなということを彼は学んだと思うんです。そういう意味ではすごく大人になった感じはしますね」
ピッチに立って、意外な反応を見せたのは菊地俊介選手だった。鹿島戦のピッチでJ1のステージを自覚した。鹿島戦後に曺監督も試合後の会見でコメントしていたが、特に経験の少ない選手にはプレッシャーのかかる大一番だったようだ。
「俊も人の子だなと思いましたね。去年最後の数試合をケガで休んでいて、初めて立つJ1のアウェイのグラウンド、鹿島が相手、誰でも感じますよ、やっぱり。
それに、うちがまず守備から入ろうっていうやり方をしていたら、そうでもないんですよ。でも俺、攻撃しようとしてるんで、いつも。だからボールをもらわなきゃいけない。ミスしたら落ち込んでくる。でもそうしないとJ1でやっている意味がないから。J1のプレッシャーが怖くてボールは全部蹴りましょう、じゃまったく成長しないし。
アイツは聞いたら、ハーフタイムで代えられると思っていたみたいなんだけど、俺は全然代えるつもりはなかった。そういう意味では『そんなもんだろ、俊介』みたいな。よく持ち直したと思いますよ」
いつもは飄々とプレーをする菊地選手なのに、この日はシンプルで前向きなプレーがなかなか出せず、ダブルボランチのパートナーである永木選手が攻撃が展開できずに困ったように再構築のためにボールを戻すシーンが目についた。ハーフタイム前には、見かねたのか、ボールが切れた瞬間に声をかけるために駆け寄ったシーンが印象に残る。ピッチの中で感じている重圧は、観ている側が推し量る以上に選手たちには強くのしかかるようだ。
「それがJ1だよね。でも、ここまでの試合を経験できたのは非常に大きいと思いますね。言葉をいくつ並べるよりも、浦和(レッズ)とやった実感、鹿島とやった実感を彼らが持っているのがすごく大事なこと」
1試合の経験が選手にもたらすものは大きい。この経験がどんな成長に繋がるのか、どんな試合も目が離せないということだ。