ボイス

【ボイス:2015年5月1日】曺貴裁監督 [1]

ボイス・曺貴裁監督
湘南スタイルを貫いてこそ成長する選手たちとともに
良い内容の良い試合をして勝つことを目指す!

1stステージを第8節まで消化し、3勝1分4敗。
昨年からこのステージで戦うことを見据えて準備をしてきたものの、
現在のところは黒星が先行する状況だ。
しかし、曺貴裁監督は試合の結果にかかわらず、
自分たちのスタイルを貫くことを強調している。
1年で降格した2013年の教訓を踏まえ、
強くなることを誓って戦い抜いて積み上げたものを証明するために。
今シーズンに懸ける思いを、開幕戦からの戦いの振り返りを交えて紹介する。

負けた相手にも「強い」と言わせる、そのプロセスが必要だった。

 曺貴裁監督が指揮を執る4度目のシーズンが開幕した。積み上げてきた3シーズンを踏まえ、今季に懸ける思いは深い。
 初采配を振るったのは2012年。11年ぶりにJ1に返り咲いたものの1年で降格し、再昇格を目指して戦った2年目のシーズンだった。チームを引き受けたその年に昇格という結果を出し、翌年は監督として初めてJ1のステージに立った。しかし、またしても1年で降格。3シーズン目は、悔しいというひと言では表しきれない思いを胸に戦い、再び、昇格を手にした。その結果は、現実に勝ち取った選手たちが褒められるべきものであるけれど、たくさんの記録を伴ったこの昇格は曺監督の深い洞察に基づいた指導があってこそ、ということも忘れてはいけないだろう。

「僕の中では、1年で昇格しようみたいな切迫感は、怒られるんだけど、ある意味全然なくて。J1に上がって、また降格してしまったというところから、1年で戻らなきゃいけないっていうことよりも『強くならないといけない』という気持ちがすごく強かった。そもそも選手に言ったのは、例え結果が負けだったとしても、『このチーム、強いな』『湘南、強かったな』っていう気持ちを相手に抱かせること。それが本当に強いチームになるプロセスに必要だと思った。単純に試合に勝っても相手に『湘南に負けたけど、全然大したことなかったな』って思われるのがイヤだなっていうのもあったので、そういうアプローチは、例年以上にしました」

 昨年を振り返る曺監督の言葉から思い出されるのは、開幕から破竹の勢いで白星を重ねた連勝を14で止めた愛媛FCの河原和寿選手が試合後のインタビューで語ったひと言だ。決勝ゴールを決めた気持ちを尋ねられた河原選手の口からは「湘南、強いっす」と、ゴールを奪った喜びよりも先に、90分の戦いがどんなものだったのか想像がつく率直な感想が苦笑いとともにこぼれ落ちた。曺監督が強くなるために必要と感じていたプロセスをきちんと歩んでいることを、相手チームの選手が教えてくれたシーンだった。

「それは驕った気持ちじゃなくて、相手にもうちの選手にもそういう思いを抱かせることができないと、J1に上がれたときに、その自信や思いを土台にして戦えないなと思ったので。だから、練習の中で相手チームの戦術について話はしますけど、対策の練習量は前の年やその前の年より確実に少なくなった。それよりも、『自分たちがどうやって力を出すか』というところに練習の8割から9割くらいの時間向き合ってきたんで、選手たちがそういうところで成長してくれたのはうれしかった。そういう意味では結局、今年が一番大事だっていう話になりますけどね」

 相手の良さを出させないための対策は、ある意味受け身だとも言える。それよりもいかにして自分たちのスタイルを貫き力を発揮するかという、自分たちありきの戦い方を選択し続けて手にした優勝だった。加えて勝ち点を101まで積み上げるなど、記録にも残る昇格となった。

「確かに成績としてはすごくいい成績でフィニッシュできましたけど、やりたいことをやれたのかっていったら全然やれてないこともまだあるし、逆にこれくらいだろうと思うことを選手が思った以上にしっかりやってくれた面もある。
 できなかったのは攻撃のバリエーションをさらに増やしたり、守備の奪いどころを増やしたり、ゴール前で跳ね返すところを強固にしたり、ラインをもう少し上げられるようになったりと、もう全部です。
 できる限りやったとも、ある意味思ってないです。相手のシュートミスで助かった場面や、ここは良くなかったっていうところもたくさんあったし、そういうところはJ1だったら絶対にやられている。逆にこの攻撃で点が取れなければ、J1に行っても苦しむだろうという場面もたくさんあった。ただその数は2年前や3年前より減ったとは思いますけど、パーフェクトには全然近づいてない。まぁ、パーフェクトが何かっていう話にもなりますけど」

 新たな記録まで作って昇格を果たしたとなれば誰もが当たり前のように次のシーズンも指揮を執ると思っていたが、曺監督は一度じっくりと考える時間をとってから継続することを選択した。

「昇格したらそのままやるだろうって思われる人がいると思うけど、それって監督にしたらすごく後ろ向きなモチベーションですよね。選手なら例えば降格したけど他のチームからオファーがあれば考えるだろうし、昇格してもこのチームでやるかやらないかを自動的に決める選手はいないと思う。と、同じことをやっただけです。このチームで何ができるかどうかをさらにもう一度考えたということです」

 フロントからのオファーに曺監督は、

「クラブとしてどういう方向に行くのか、と。例えば、内容を度外視して何が何でも勝ち点3を取るやり方もたぶんあるはずだし、そういうふうにすることが良いのか悪いのか。俺は今までクラブと相談してやってきたけど、俺のなかで『こういうサッカーのこのスタイルでこの選手たちはこう伸びる』っていうのはあるけど、それがバツだったら他の人にした方が良いですよと言いました。俺はもちろん全力を尽くしてやるけど、そこの土台は変えられない。どうしてもJ1に残留したいということであれば、経験のある方はたくさんいらっしゃるし。
 でもフロントの人も『そうは言っても曺さんは勝つためにやるだろう』と思ってくれていたと思うんですよ。形だけ継続するわけじゃなく勝つために継続するんだろうと」

 今シーズン、クラブが掲げているテーマは「証明」。曺監督は、このテーマにも正面から向き合っている。再び立ったJ1のステージでも、貫き通してきた湘南スタイルで走り続けることを決めている。