ボイス
【ボイス:8月30日】三竿雄斗の声
どこのポジションの選手であろうと、
攻撃も守備も、さほど変わらぬ比重で担う湘南スタイル。
中でも最終ラインを形成する3バックを務める3選手、
それぞれの持ち味が今季の深化をよりおもしろい方向に導いている。
最終ラインから最前線まで、一瞬の躊躇なく何度も行き来する三竿雄斗選手は、左が定位置。
走力とテクニックあふれる左足を武器に、左サイドのプレーをマルチに展開する。
最終ラインから左サイドを自在に
自由度が高いからこそ攻撃が楽しい
湘南スタイルのフォーメーションを数字で表すと、3-4-3。これは、ディフェンスが3人、ミッドフィルダーが4人、フォワードが3人ということを示すもの。試合によってはその狙いや流れに対応するために変わることもあるが、大半はこの形からスタートしている。
さて、この最初の「3」である。3人のディフェンダーで最終ラインを構成していることが示されているが、3バックの左を務める三竿選手は現在リーグトップタイ(※)のアシストを記録し、右サイドを主戦場とする遠藤選手はここまでに6得点を挙げ、チーム内でもフォワードの2人に次ぐ得点数を記録している。3バックを構成する2人が、である。
「このチームは3バックでも前の選手を追い越して攻撃に絡んでいい。やっていて楽しいと思います」
3バックの左サイドを担う三竿選手は、今季新加入した大卒ルーキー。開幕からスターティングイレブンを射止め、ここまでの全試合に出場している。早稲田大学時代は、4バックのフォーメーションが採用されたチームで主に左サイドバックを務め、攻撃に比重をおいたプレーを得意としていた。
「3バックの方が真ん中に近いポジションなのでサイドバックより守備の割合は大きいですし、ヘディングで競るところだったり、最後ゴール前で身体を張らなきゃいけない部分というのがたくさんある。攻撃の部分でもただ外を回るんじゃなくてインサイドプレーで受けたりっていうのもあって、攻撃への関わり方のパターンも多いのかなと思います」
フォーメーションが同じでも戦術によってポジションごとの役割は異なるもの。3バックの選手の攻撃力がクローズアップされるのも、攻撃的な姿勢そのものを大切にした湘南スタイルに限ってのことと言えるかもしれない。実際に、同じフォーメーションを採用するチームとの、いわゆるミラーゲームでも、相手の3バックはほとんど上がってこなかったことも経験している。
「監督によって違うと思うんですけど、曺さんはすごく自由度が高い。もちろん基本的なコンセプトだったり、やらなきゃいけない約束事はありますけど、攻撃に関しては本当に自由度が高いと思います」
実は、サイドバックでプレーするようになったのは高校生の頃。小学生の頃はトップ下、中学高校ではボランチを担っていた。そんな中、当時在籍していた東京ヴェルディユースの監督からコンバートをもちかけられた。
「高校のときはレベルの高い選手が多くて、ボランチにも良い選手がたくさんいてポジション争いが激しかった。高3当時の監督に『サイドバックはすごく重要なポジションで、サイドバックが機能しないとチームがうまく回らない』と話をされた。ボランチをやりたい気持ちもあったけど、やっぱり試合に出たかったし、チームのことを考えたらサイドバックでやるのもアリかなと思った。
大学へ入ってからもボランチで試合に出たいなという気持ちはあったけど、自分がプロになることやさらにその先のことを考えたらサイドバックというポジションでやった方が良いのかなと思ったんです」
今や左サイドのマルチプレーヤーという趣だが、ボランチでのプレーが好きだったこともあって、サイドバックを自分のポジションだとすっきりと受け入れられたのは大学2年生も終わる頃と振り返る。とはいえ、サイドを担う重要性はその頃からよく理解していた。
「今のサッカーは本当にスペースがなくて。結局、時間とスペースがあるのはサイドなんです」
守備ブロックをコンパクトにして人数をかけて守るサッカーが全盛の今、中央はゴールキーパーを含めセンターバックやボランチ、さらにサイドの選手も加わって固められている。そこには単純にパスを通すスペースも時間もない。そこで、サイドのスペースで人とボールを動かして時間を作り、中央を固めるディフェンスの陣形を崩して最終的にゴールを陥れることを狙う。サイドの選手には、タイミングよく上下動する走力や判断力に加え、攻撃の起点となりゲームを作る能力も要求される。曺監督は「今はサイドバックは上下動するだけではなく、フィニッシュする力が必要」と語っている。
「今は3バックですけど、ずっとやっていた4バックでもビルドアップして攻撃の起点を作るのはディフェンスラインからだし、そこが機能しなかったらボールを持ってさらに次の局面へ繋げられない。今は、自分がパスを出した次のところで受けた選手がいかに良い状況だったり、体勢でボールを持てるかが大事だと思って、そこを意識してやっています」
特に同サイドのサイドハーフや前線のシャドーの選手とはコンビネーションも含め、次への展開のためにお互いがよりよい状況でボールに関わり、攻撃の形を作ることを意識している。
「大介(菊池)だったり、カメ(亀川)だったり、絡む相手によりますけど、大介だったら元々シャドーの選手なのでインサイドプレーも得意だし、ビルドアップの段階で自分がワイドの高い位置を取ったときには大介が中に入って受けたり、逆に大介がワイドに張ってるときは自分が中で関わったりというのがお互いにできている。それに、俺と大介の関係に限らず、後ろの局面でも一番良いポジショニング、相手にとって一番イヤなところだったり、一番ゴールに向かいやすい関わりができていると思う。守備の部分でも、マルくん(丸山)と航が同時に上がっても、僕と例えばボランチのふたりがカバーに入ればリスク管理の面も問題ない。誰がどのポジションにいてもお互いをカバーできる臨機応変さっていうのはこのチームの良いところ。曺さんが常に求めていることだと思うし、お互いがすごく良い関係で試合ができているなと思います」
サイドのポジションの重要性を常に考えながら、攻撃の感性を磨いてきた三竿選手。湘南スタイルの3バックは、その感性にハマるポジションだったようだ。
種類も増やして質も上げて
クロスからのアシストにこだわる
最終ラインから駆け上がり得点シーンに関わっていくには、特に同サイドの選手とのコンビネーションが欠かせない。左サイドハーフを担うことが多い菊池選手とは試合ごとに理解を深めている様子。菊池選手が自分で得点を狙う意識が高い分、ふたりの関わりからバリエーションに富んだ攻撃の仕掛けが観られる。
「相手が対策として僕が回るスペースを消してきたときには、逆に大介の内側に行くスペースが空くってこと。だから、自分がクロスを上げて点を取るのもひとつですけど、自分が囮になって大介がミドルを打ったり、大介が誰かとワンツーしてもっとえぐったり、他のパターンも生まれてくると思う」
コンビネーションからの仕掛けのほか、さらに最前線へ駆け上がる回数を増やすことやクロスの種類など、自分自身でできる工夫も意識している。
「まだまだ行けると思いますね。最近は相手も自分たちのやり方を研究してきてスペースがなかったり、あまり高い位置でボールを奪えなかったり、相手がセットした状態だったりというのが多い中で、なかなか自分が上がるスペースがないときに大介の外を回ってクロス上げるだけじゃなく、例えば自分が普通に1対1の相手をかわしてクロスを上げたり、逆に外からじゃなくてちょっと内側でボールを受けてそこから早めにボールを上げたり、クロスを上げるときのパターンも増やしていきたいと思ってます」
3バックの一角から飛び出して、菊池選手と冴えたコンビネーションを展開し、敵陣深くまで走り込んでクロスを上げるシーンは三竿選手ならではの“らしさ”あふれるプレーのひとつ。さらに、ゲームの流れを素早く読んだアーリークロスや中央へカットインしてフィニッシュに絡むなど、試合を重ねるごとに幅の広がるプレーからは、意識して新しい対応や工夫に取り組んでいることがわかる。
「真ん中で崩してきれいに点を取るのもあるんですけど、それって結構難しい。それよりサイドからクロスを上げるのは、キッカーがいて合わせる人がいてピンポイントだけど良いボールを蹴ればディフェンスは両方を見なきゃいけないので、本当につきにくい。最高のクロッサーと最高のフォワードがいれば何点でも入ると思う。そういう意味では、自分はもっとやらなきゃいけない」
現在、8つのアシストを数えるが、その話には意外にも消極的だ。
「あんまり自分の中ではアシストしている印象がなくって。クロスを上げる回数や、ゴール前で自分が良い状態でボールを持っている回数から考えたら、8という数字は少ないのかなと思うし、そのうちの4~5本はフリーキックやコーナーキックのセットプレーからのアシストなので。流れの中からあまりアシストできていないっていうのがある。逆に、あそこでもっと良いクロスを上げていれば勝てたシーンとか、チームがもっとラクになったという印象の方が強いから。
自分では、もっと良いボールを上げられるはずっていう気持ちが大きいです」
プレースキックの際も自分で直接ゴールを狙うことはなく、人に合わせる。チームとしての狙いもあるだろうが、ほとんどの場合がそうだということは本人の得意とするところでもあるのだろうと察しがつく。
「セットプレーは自分のタイミングで蹴れるし、自分のボールが良いことも大切だけど、ウェリントンや航っていう、良いところに蹴れば絶対に当ててくれる選手がいるんで。今はまだウェリントンの能力で入れてもらっているというときもある。それよりも流れの中で本当に当てるだけみたいな、そういうクロスで点が決まる、そういうボールを上げたい。
プレースキッカーはやらせてもらってますけど、J1のキッカーと比べたらまだまだだし、プレースキックももっともっとうまくならなきゃいけない。でも自分としては、もっと流れの中から攻撃の起点になりたい。得点に直接関わる選手になりたいと思っています」
もっとできるはずという思いからか、クロスの質にも納得はしていない。
「上がる回数はできていると思うし、クロスの練習でもフィーリングは悪くない。ただ、長い距離を走ったときの、乳酸が溜まっていて息が上がった状態でのクロスの精度は足りないかなと思います。
今は質が伴ってないですけど、上下動する回数とクロスをもっと増やして、その中で少しずつ質を上げていければ良いなと思う。試合が一番成長できる場だと思うんですけど、今まで28試合やってまだまだ納得のいくクロスは数本しか上げられていないので、残りの試合で成長したい。まずは量を増やして、質を求めていきたいと思っています」
今、一番記憶に残っているのは第13節アウェイでのロアッソ熊本戦の3点目、長い距離を走って上げたクロスをウェリントン選手がヘディングし、クロスバーに当たって跳ね返ったところを再度押し込んで決めたゴール。結局アシストにはならなかったが、このクロスは及第点というところ。
「チームとして良い流れでボールをまわせて、自分も長い距離を走って、来たボールをダイレクトで上げてピンポイントで合わせられた。あのようなクロスをもっともっと出していきたいと思います」
こういった攻撃のスタイルのほかに、交代選手の投入によってポジションを一列上げて、さらに違った形で攻撃に参加することもある。試合の終盤に、より運動量が求められるポジションへの変更は、体力的にも相当きついはずだが、
「全然良い、問題ないです。相手もすごく疲れている時間帯なので、あそこで走り勝てれば自分がクロスを上げられるシーンを作れると思っています。元々4バックの左だし、ああやってサイドでボールを受けてクロスやワンツーで相手を剥がしたり、攻撃の起点になったりするのは好きなんです。キツいですけど、90分間、あのポジションをやる方がキツいと思うので、途中からやる分には負荷的には少ないです。
割り切って攻撃できるっていうのもあります。3バックからだと上がっている分、取られたときの怖さがあるのでリスキーな仕掛けはなかなかできないんですけど、サイドハーフだと、仕掛けて取られたとしても切り替えれば良いので、割り切ってプレーできるっていうのはありますね」
最終ラインからの上下動を繰り返した後、より運動量の多いポジションへ移動し、さらに攻撃へ比重をかけていく力もある。それでも、ここまで全試合に出場しながら、口から出てくるのは納得よりも課題の言葉ばかり。追いかける理想もまた、日々難度を上げて成長している。
J1仕様を目指すシーズン
リスク管理も含めて守備もレベルアップを
アシスト数に注目が集まっていることもあって攻撃に目がいきがちだが、3バックの一角を担う選手。リーグ最少失点への貢献も大きい。
とはいえ、身長175cmは、サイドバックであればまだしも3バックを守るディフェンダーとしては身体的に恵まれているとは言い難い。これもまた、体格も含めて選手一人ひとりがその個性を活かしたプレーを表現することを求める曺監督らしい起用だろう。
「ヘディングとかはまだまだダメ。もっとやらなきゃいけない部分だし、“身長が低いからヘディングが勝てない”ではダメで、180cmでも185cmの相手でも競り勝てなきゃいけないと思ってるし、改善していきたい。それに、相手のやろうとしていることを読んで先にスペースのカバーに入ったり、裏のケアをしたりっていうのは集中してやろうと思っている。特に相手のやろうとしていることを読むのは好きだし、苦手じゃないと思うので。一番危ないところを消すことだったり、最後、ゴール前で身体を張るっていうところは意識してやってます」
前線からの守備があってこそ、とも言えるが最終ラインで決定的なピンチの場面を観ることはそうそうない。クレバーなポジショニングと対応が光る。
「例えば、クロスの対応のときとか、大きい選手についた場合、もちろん普通に競ったら勝てないわけで、嫌なスペースに走られないように先に身体をぶつけたり、相手に身体を寄せて良い状態でヘディングさせないようにだったり、そのときできる最善のことはやろうと思ってます。
でもまだまだ航やマルくん(丸山)に頼っている部分もあるので、もっとトレーニングして、当たりのところや競り合いのところで勝ってチームをラクにしたい」
守備については個人の対応に加え、攻撃に人数をかける分、チームとしてのリスク管理もまた必要だ。
「例えば相手フォワードが2枚だったら、僕が上がったときは残っているのが2人になって、2対2の同数の状況はあんまり良くないことなので、僕がいない穴をボランチの片方の選手が埋めてくれたり、サイドハーフの選手がカバーしてくれる。そうやって人数をかけている分、取られるときのリスクはあるので、そういう管理はすごく大事」
リスク管理への意識は高く持っているようだが、タイムアップの笛が鳴るまで攻撃的な姿勢を貫く分、チーム全体がかなり前掛かりになるシーンも時折見かける。
「カウンターとかで人数をかけられるときはそういう状況もありますけど、でもやりきれているから。シュートのところまでいけてるほうが多いし、取られたとしても、切り替えも早いので、カウンターでピンチになることは今までのところないと思います。でも、J1に上がったら質が高いので、数的優位を作られたら簡単に点を取られるところもでてくると思う。まず人数をかけている分、ゴール前の精度を上げてしっかり得点まで繋げていくことが必要だと思う」
リーグ戦は23勝4分1敗で28節までに勝ち点を73まで積み上げた。勝つ体験を積み重ねる、負け知らずのプロ生活を送っている。
「正直、ここまで勝てるとは思っていなかったです。14連勝して、勝たなきゃだめ、勝って当たり前っていうことはないけどそういう雰囲気もあって、この先も勝たなきゃいけないんだという気持ちになった。それは今でもそうですけど良い意味でのプレッシャーになってる。勝つ難しさは、毎試合毎試合感じています」
負けの体験が少なくても、勝つことの難しさを感じるという。
「楽に勝てた試合は1回もない。点差がついてもそう。内容でも圧倒して、結果でも圧倒したゲームは多分ない。楽して勝てた印象はないですし、勝ってもチーム全体に危機感がある。もっとやらなきゃいけない、もっと成長しなきゃいけない、そういう空気が。良い意味で自信になってるとは思いますけど、誰も変におごることもないですし」
昨年は特別指定選手としてナビスコカップの清水エスパルス戦(5月15日開催予選リーグ第6節)と川崎フロンターレ戦(5月27日開催予選リーグ第7節)に出場している。2試合とはいえ、J1を肌で感じたのも良い経験になっている。
「特にフロンターレは、相手のグループリーグ突破がかかっている試合で、すごく質が高くて一瞬も気を抜けない試合だった。常に頭をフル回転させて、一瞬でも隙を見せたらやられるような試合だったので、すごく疲れた印象があります。
でも、これがまたリーグ戦だったらもっと緊張感があったと思う。そういう意味では、より高いレベルや緊張感は味わってないので、まだ未知数の部分はありますけど、ある程度のものさしにはなってるかなって思います」
わずかな経験ながらも、現在自分が戦っているJ2のステージのことを客観的に捉えるための指標となっている。
「質がぜんぜん違う。J2だったらちょっとプレッシャーかけたら勝手にパスミスしてくれたり、ゴール前に行かれてもシュートが枠に行かなくて助かった場面もあるけど、J1だったら簡単にミスはしてくれないし、ゴール前まで行かれたら絶対に点を決めてくる。運動量とかは全然変わらないと思うんですけど、質の違いは感じます」
J2に居ながらJ1のレベルを目指すのがチームが共有してきた目標。ルーキーにとっては、なかなか難しい志に思えるが、そこは曺監督のマネージメントが行き届いている。
「曺さんも日頃からJ1に上がるだけじゃ2年前と同じで、J1基準を全員が意識してやらなきゃいけないという話をされてますし、J1の試合もなるべく観るようにしている中で、自分が出たら、ベルマーレとそのチームが試合をしたらどうなるか考えています。直接戦ってみなきゃわからないですけど、意識づけっていう意味では常に考えています」
目の前の勝ち点3にこだわりながらも湘南スタイルの継続と深化を図り、J1仕様の力を培おうと努力を重ねてきた今シーズン。来シーズンへ向け、ここからの終盤をどう戦うか、選手一人ひとりの意識が成長指数上昇の鍵を握っている。
※8月24日開催第28節終了時/アシスト数は公式記録より算出しています。
取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行