ボイス
【ボイス:8月17日】亀川諒史の声
夏の移籍市場がオープンとなり
各チーム、前半の戦いを踏まえて補強に乗り出している。
ベルマーレにもまた新しい力が加わり、今までとは違った風をもたらしている。
こういったメンバー間の競い合いが湘南スタイルの深化の力になる。
日々、切磋琢磨しながら自分自身と向き合う選手たち。
そんな中、後半の戦いに向けて徐々に存在感を増してきたのが亀川諒史選手だ。
100%の力で練習して成長する
それがチームのためになる
32人の選手が在籍している今シーズン、リーグ戦を折り返したここまでに24人の選手がピッチに立っている。その中には、コンスタントに出場を重ねるルーキーもいれば、スタメン争いの熾烈さを映し出して、試合ごとに選手が入れ替わるポジションもある。曺監督が指揮を執って3シーズン目を迎えたが、目立ったメンバー変更はなくても、出場した試合での活躍ではなく、日々の練習を100%で取り組む姿勢を何よりも大切にしているのが、変わらない選手起用の方針だ。
こうした厳しいポジション争いの中、改めて自分を見つめ直している亀川諒史選手。26節を戦い終えて、10試合に出場している。昨年、J1の舞台でリーグ戦だけでも34試合中20試合に出場したことを思うと、物足りないというのが正直なところだ。
「1年目はチームとしてはJ1に昇格したんですけど、自分は怪我で何も貢献できなかったという思いがある。去年は、J1という舞台で、結構試合に出してもらったのに結果として降格という形になってしまって、やっぱり何もできなかったという思いがある。今シーズンは、始まる前からチームに貢献して昇格したいという強い気持ちを持って入ったんですけど、ここまで試合に出て貢献することがなかなかできていないってことを自分でも感じています」
今シーズンは、U-21代表から始まった。昨年11月に初めて招集されて、ミャンマーに遠征。その後、年が明けてすぐに行われた「AFC U-22選手権 Oman 2013」には、U-21日本代表の一員として参加した。
「去年のシーズンはタイキャンプから始まって、自分の中で手応えがあって、『何かできそうだな』っていう気持ちを強く持って入れたんですけど、今年はU-21代表の中で自分らしさをまったく出せなかった。そういうスタートを切って、こっちに帰ってきてもなかなかうまく行かないことが多かった。
代表では、4試合あったんですけど1試合しか出られない状況で、その1試合の中でも何もできなかった。年代別の代表は昔から選ばれ続けている選手が大半で、そういう選手のプレーを観たときに自分のプレーはまだまだだなって実感しました。それで帰ってきたときに、何か『ミスをしてはいけない』という変な考えを持ってしまったというか。今思えば、去年まで出せていた自分の思いきりの良さや、『これだ!』と決めたことをそのまま迷いなく突き進んでやれたことが、もしミスったら…みたいな、マイナスに考えちゃって、出せなくなっていたと思います」
年代別とはいえ、代表への招集を誰よりも喜んだのは亀川選手自身だった。その経験をここまで引きずることになるとは思ってもいなかったことだろう。
「自分はまだまだできるっていう気持ちがあるから悔しさが大きいけど、でも、シーズンの最初の入り、そういう出来からしたら妥当かなと思う。
今年初めてスタメンで出た横浜FC戦(4月26日開催第9節)は何もできなかったという内容で前半で代えられたんですけど、自分でも『代えられるだろうな』という覚悟があったし、自分はまだまだ下手くそなんだなと実感できた。
その前の練習でもうまくいかないことも多くて、下手くそなら練習するしかないって思っていた。それは、チームとして練習することはもちろん、それだけではうまい人には追いつけない。どれだけのものをサッカーに注げるかっていうのを考えたりしました。
そういうこともあってか曺さんもすごく声をかけてくれる。『これがダメやからなんだろうな』って自分が思っていたことをホントに見抜いたようにズバッと言われたりして。そういうアドバイスの中で『去年みたいに試合にたくさん出られる状況じゃないけど、試合に出ることがすべてではないし、出られないときでも自分の考え方によっては大きく成長できることもある』っていわれたのが心にすごく残った」
その言葉を真摯に受けとめて前を向いた。
「練習で100%やること。いろんな選手が入ってきて競争も増えたし、競争に勝つためには練習しないといけないと思っている。それがまたチームの底上げにもなっているのかなってすごく思う」
成長を求めて得た考え方は、『チームのために』。それがまた自分に返ってくる。考え方を変えて手に入れたのは、前向きに練習に取り組む心の好循環だ。
「今年が悪くてもサッカーが終わるわけではないと思うし、今、活躍している選手を見ても、人間だから悪いときはあると思う。試合に出られなくて、焦れて焦れて腐っていく選手も中にはいるし。そこを腐らず乗り越えられるかっていうのがひとつの鍵なると思う。
最初の年、約1年間ずっとリハビリをしていて、やりたくてもサッカーができなかったことを考えて、去年みたいに試合には絡めていないけどサッカーはできているじゃないかって自分に問いかけた。うまくいかないときはマイナス・マイナスに考えちゃって『つまんないな』って思うこともあったけど、今はサッカーができているし、まずその喜びを感じないといけない。そう思ったのが自分の中では一番大きいです」
サッカーができる喜びに再び気づいた頃、スタッフから昨年の良かったプレーを集めた映像を渡された。
「映像を観て、『自分って、これやな』っていうのを再確認できた。ボールをもらう前から次のプレーを迷いなく決めているっていうふうに思えた。それをまず讃岐戦(6月14日開催第18節)で実行しようとして、うまくいかないところもあったんですけど、でも自分の良さを前向きに出せたと思えた。次の週の磐田戦(6月21日開催第19節)、緊迫した雰囲気の中で90分通してああいう相手に対してチームとして勝ちきれたというのも良かったと思うし、自分としてはもっとやらないといけないところもあるけど、自分らしさは出せたかなっていう実感があった。勝てたこともあわせて自分の中で自信になって、ちょっと吹っ切れたというのはありました」
練習のときから自分の良さを出すことが公式戦のピッチに立つ、最善のアピール。次節、ピッチに立つ11人は誰か? 勝ちを呼び込む采配に備えてベンチに控えるのは誰になるのか? 客席からピッチを見下ろすバックアップメンバーまで、全員がさまざまな思いを抱えて自分自身と戦いながら、100%の力で切磋琢磨の1週間を競い抜いていることは、間違いない。
どこのポジションでも100%の力で
特長を磨いて試合出場を掴みたい
今シーズンは、遠藤航選手が3バックの右へ、菊地大介選手が左のサイドハーフへと主戦場を移し、今まで得意としていたプレーに加えて新しい可能性を見せている。亀川選手もまた、3バックの両サイドや左右のサイドハーフなどのポジションをフレキシブルにこなすことが求められている。
「練習では左のサイドハーフをやることが多いんですけど、今は後ろをやることもある。やっぱり選択肢は2つ3つあった方が絶対良いっていうのは高校のときから思っていて、それで左足の練習をしたっていうのもあったんです。それが今、曺さんに左も右も後ろも前もって考えてもらえる自分の武器だし、これからも磨かないといけない。それと、どこのポジションで出ても100%を出せるようにしないといけない。1つより2つ、2つより3つというのを意識してます」
複数のポジションができるのは使う側のメリットも大きいが、選手本人にとっても可能性が広がると同時にメリットも大きい。なぜならどのポジションも連動した関係であるため、2つ以上のポジションを担うことで改めてそのポジションを多角的に捉えられ、理解も深まるからだ。そういった狙いもあってか曺監督は、意図的に複数のポジションを経験させることも多い。
「例えば、前に入ったときは自分が後ろにいたときに前の選手がどう動いてくれたら助かると思っていたかを考えて動くし、後ろに入ったときもやっぱり前の選手がボールを持ったときに後ろの選手がどこでフォローしてくれたら助かると思ったかを考えながらやる。両方やってわかることがすごく多くある」
今シーズン前半は、「らしさ」をやや欠いていたところもあるが、攻撃面での思いきりの良さも戻ってきた。どこにポジションをとってもゴール前まで攻め上がり、得点シーンに絡むことを目指している。
「高校のときはしっかりとした守備から前の選手を追い越してボールをもらうっていうプレーが得意だったので、3バックにいた方が良いのかなと思っていましたけど、湘南ではまずボールの受け手になるっていうサイドハーフのポジションを多くやって、そこでボールをもらって出してまた出て行くっていう動きも身についたし、どっちのポジションにしても前の選手を追い越すプレーっていうのは出てくる。どっちも走らないといけないポジションだし、運動量も自分の武器にしたいなというのがある。サイドならずっと上下動して、後ろならスイッチが入ったときにひとつスプリントで抜けていくっていう役割が加わるだけなので、どっちでも良いかなと思ってます」
遠藤選手や菊池選手のポジション変更に加え、それぞれ違った個性で攻撃をバリエーション豊かに演出する藤田征也選手や三竿雄斗選手など新加入選手のレベルも高い。
「それが自分を強くしてくれるってすごく思ってます。みんなうまい選手ばかりですし、良いプレーはどんどん盗んでいきたい。その中でも、負けているところを補うっていうのも大切だけど、自分にしかない特長を磨いて競争してスタメンで出られたときっていうのは、本当に気持ちも強くなるんです。そういう競争が毎日あって、曺さんもそれを観ていてくれからメンバーが固定されることはない。1日1日をきちんと観てもらいながらチームで競争を重ねていることが今、この順位にいる理由かなと思います」
世界を引っぱる若い力を実感したワールドカップ
まず目指すべきはリオ五輪
亀川選手の今シーズンのスタートに大きな影響を与えたU-21代表招集。全国高校サッカー選手権も3年間地区予選で敗退していた亀川選手は、高校時代はまったくの無名だったため、この招集が初めての経験だった。
「日の丸を背負ったのも、日の丸を背負って海外の選手と試合をするというのも、すべてが初めての経験でした。やっぱり年代別といってもあのユニフォームを着る以上、その重みがあるなと感じました。
年明けに行ったときは、ほとんど全員が小さい頃から年代別に呼ばれている選手でした。自分でも中学や高校時代に『どういう人が入っているんだろう?』とチェックしていたんですけど、そうやって見ていた選手ばかりだった。みんな自分を持っていて、ボールを持ったら自分がなんとかするんだっていう気持ちを強く見せていた。
でも自分は、初めてで迷うことが多かったです。違うチームに所属する選手が集まったところで生き残っていくには、自分をもっともっと主張したり、遠慮せずにやらないといけないというのはすごく感じました」
自分と同世代の選手だけで構成されているチームで、馴染みの薄い戦術に従って戦う。理解力やスキルももちろん大切だが、物怖じしない図太さも必要だ。
「優れた選手っていうのは、どんな戦術にも柔軟に対応できる。できないといけないと思うし、実際に対応できなければ生き残ってはいけない。監督がどういうサッカーをしたいのかをすぐに把握して、それを頭だけじゃなくてプレーで表現しないといけない。
湘南だったらここは行っても良いけど、代表では行ったらいけないっていうのもあって、いつもと違う戦術にはそういう難しさもあるけど、それにどれだけ対応できるかというのは、今後大切になってくると思う」
プロである以上、目指すのはフル代表。若い世代は、まず同世代の中の競争を勝ち抜いていくことを目標にするのもステップアップのひとつの指標となる。
「今まで代表は縁がなくて、どんなものなのかまったくわからなかった。それが手倉森さんが監督になって、『このチームで五輪を目指す』という状況になってからも続けて呼ばれたときには、自分の中で大きな目標になった。やっぱりサッカーをやっている以上はA代表というのはもちろん目指しますが、まずその前にそういう年代に生まれることができた、年代的に出られない選手もいるだろうし、そういうところで恵まれたことを感謝しつつ、チャンスがあるなら絶対に狙っていかないといけないというのは強く思った。
この前のロンドン五輪を観ても、山口(蛍)選手とかはそういう経験をして大きく成長していると思うし、そういう選手はたくさんいるので、自分の中で身近で大きな目標であるかなと思います」
サッカーに年齢は関係ないとはいえ、若い世代はスキルとフィジカルのバランスが追いつかない選手がいるのも事実。国際大会となればなおさらフィジカルが大切な要素となりその世代の最年長の選手が有利になることは否めない。2016年に行われる夏季オリンピックリオデジャネイロ大会の参加資格は、「1993年1月1日以降に生まれた選手」。1993年生まれの亀川選手がここで譲るわけにはいかない。
「目標を立ててそこから逆算して、そのために何をしなきゃいけないかということを考えるようになった。今のままじゃダメだということは自分で実感してますし、でもやっぱりそれを目指すんだという強い思いがあるから、それなら練習でこうしなきゃいけないって考えるようになりました」
遠藤選手はU-21代表チームでも、仲間でありライバルでもある。
「航くんは、飛び級で上の年代の代表にも行ったりしていて、今の代表を先頭で引っぱると言われてますし、言われてもっともな選手だと自分も思う。学年は1個しか違わないんですけど落ち着いていてベテランに見える。ああいう良さは見習わないといけないし、心強くもある(笑)。
『一緒に行きたいね』って言ってくれるし、ふたりで行ければ一番良い。でも、今のままでは自分は絶対に無理だと自覚しているし、航くんだけ行くことになれば、すごく悔しい思いをすると思う。だからこそ、時間は少ないけどふたりで行けるように頑張る」
自身がサッカーを始めるきっかけとなった日韓共催のワールドカップから3大会目となったブラジルワールドカップは、U-21代表を経験した上で観たこともあって、これまで以上に刺激になった。
「コロンビアのハメス・ロドリゲス選手にしても22歳とか、1~2歳しか違わないのに、世界ではああいう若い選手が先頭を引っぱっている。自分の中ですごく印象に残りました。それがまた日本が遅れているところなのかなと感じたところでもある。やっぱりあのピッチに立ったら年齢はまったく関係ないと思いました。
本当にサッカーをやっている以上、誰もが目指すところだし、国を背負って戦うというのは特別なことだと思う。それができたら自分の一生の財産になると思う。よりいっそう、ああいう舞台に立ちたいという思いが強くなりました」
先日、第26節ファジアーノ岡山戦(8月10日開催)のあとに行われるU-21日本代表候補のトレーニングキャンプのメンバーに選出されたことが発表された。リーグ戦も佳境を迎えつつあるタイミングだが、2016年まで時間はたくさんあるようで短い。一つひとつのチャンスを大切にレベルの高い競争に挑む。
個人が成長しチーム力を上げる
それがJ1の舞台で戦う武器となる
ハイプレッシャーと縦へ速く人数をかけた攻撃が特徴の湘南スタイルは、特に前半は複数得点の試合が多かったこともあってか、試合を重ねるごとに対戦相手がさまざまな対策を講じ、難しい試合が多くなっている。特に2度目の対戦となるリーグ後半戦に入ってからは、その難しさが勝ち点にも表れるようになった。
「去年戦ったJ1のチームは、今年のようにディフェンスはディフェンスでしっかりブロックを作ってくるチームはほとんどなくて、湘南のスタイルと相手のスタイルの真っ向勝負だった。相手に攻められることも多かったけど、良い守備をしてボールを奪えば出て行くスペースがあって、自分の中ではすごくうまくできる部分も多くあったんです。だけど今シーズンは、いろんな分析をして引いてくるチームが多くなった。引かれたときに何ができるかというゴール前のアイデアがひとつ自分の中で大きな壁というか、課題となってます」
守備ラインを自陣低めの位置に設定し、人数をかけてブロックを作り、攻撃を仕掛けるスペースを消す。対湘南スタイルの対策として、守りを重視した戦術を選択するチームが多くなっている。しかし、例えば6月21日第19節で対戦したジュビロ磐田は、J1でも十分に戦える力を持ったチーム。長年培ったスタイルを貫き、お互いのスタイルの真っ向勝負となった。
「ジュビロが湘南に対して何かしてきたか? って言ったらなかったし、ジュビロはジュビロのスタイルでチームでパスを繋いできて、その中で自分もいろんな良いプレーを出せる部分が多くあった。でも、その次の北九州(6月28日ギラヴァンツ北九州戦)は引いてきて、そういうときにまだまだ何もできてないなと感じた。リーグ後半戦はそれが大きな課題になるなと思っているし、そこをできるようになれば、ひとつ自分の武器が増えてくると思っています」
カウンターを仕掛ける間もなく守備ブロックを作られ、スペースを消されたとき、湘南スタイルでどう攻めるか? 相手ブロックを崩しきる仕掛けはチームとしても課題となっている。
「うちみたいにボールを奪った瞬間に縦に速い攻撃を仕掛けるスタイルだと、何チームかはボールを取ったら前線へ蹴って、前のフォワードだけに追いかけさせて、うちがボールを奪ったら8人くらいでブロックを敷いてくるということがあった。カウンターで攻めきれなかったあと、どう崩していくか?そういうところでボールを動かしながら、どうゴール前でアイデアを持って崩していくかっていうのは個人としても、チームとしてもひとつの課題だと思います」
J1で戦えるチームを目指してきた今シーズン。この課題は、選手としてもチームとしてもステップアップするためにもクリアしなければならない。亀川選手の成長とともに、チームの成長にも期待がかかる、リーグ後半戦だ。
取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行