ボイス
【ボイス:7月5日】丸山祐市の声
攻撃にも守備にも人数をかけて、敵陣でプレーする。
3シーズン変わらぬコンセプトが貫かれている、それが湘南スタイル。
ただし、「勝ちきるための深化」によってもたらされた変化も見逃せない。
サッカーは得点を取り合うゲーム、攻撃があってこそ。
すべてのポジションの選手が90分に渡って攻撃に加わる。
中でも注目は、三者三様の攻撃スタイルを見せる3バックの選手たち。
守備ラインを統率する丸山祐市選手は、フリーキックで2得点を挙げている。
湘南スタイル2014年Ver.は
いっそう攻撃的に深化中
湘南スタイルの継続と深化をテーマに戦う今シーズンのベルマーレ。ところが、ここまでの試合のスターティングイレブンに注目すると、今季新加入した選手の多さが目立つ。特に3バックを構成する3人は、遠藤航選手がラインを統率する中央から右サイドに主戦場を移したことを含めて、新鮮だ。
今季、ここまでの全試合で3バックを統率するのは、FC東京から期限付き移籍で加入した丸山選手。新戦力ながら湘南スタイルの『継続と深化』に力を発揮している。
「始めはパスの出しどころがあり過ぎて、どこに出していいのか判断の部分で遅れてしまったところがありました。でも、トルコキャンプの実践形式で、2週間で7試合ぐらいやりましたけど、そこでどこにパスを出せば良いのかだったり、他の選手の特徴が掴めてなかったので試行錯誤しながらやった結果、今はうまくやれていると思います」
どこのポジションでも攻守両面に関わる湘南スタイル。当然、3バックも攻撃に参加する。特に今シーズンのメンバーは三者三様、それぞれに持ち味があり、その持ち味を余すところなく発揮している印象だ。
「ロングフィードを蹴って、それが味方に通ってそのままゴールに直結する試合だったり、後ろからビルドアップするので、自分がここにポンと蹴って、その選手があそこに蹴れば良いな、あ、蹴ってくれた、あそこに蹴ったら良いな…というふうにパスのルートが自分の思った通りになったりすると、『ああ、おもしろいな』って思います」
184cmと高さがありながら、ボールを持つ足元のうまさも特徴。試合の攻守をパス1本で入れ替える、左足から繰り出される正確なフィードや、ディフェンスラインからのビルドアップを担い、攻撃の幅を広げる。
「僕の両脇の二人がガンガン行っちゃうので、そういう部分ではホント、『自分が自分が』というのはあんまり出さないようにしてますけど、インターセプト、自分が前がかりでボールを奪えたときには、そのままドリブルとかパスをして中に入っていこうとは思います。でも、自分が顔を出しすぎると逆にリスクっていう部分では、失点する可能性が大きくなっちゃうので、あんまり顔を出さないようにしている状態です」
攻撃の武器は、もうひとつ。今季丸山選手が決めた2ゴールは2つとも直接フリーキックで得たものだ。
「小さい頃から大学までずっと蹴らせてもらっていたけど、FC東京ではそういう機会があまりなかったので練習もそこまでしていなかった。洋平(大竹)もいたし。でも、湘南に来て2点決めて、これは自分の武器だと思ってますし、負けないっていう思いはあります。でも、洋平が帰ってきたら洋平に譲ります。俺の中では、左利きでは洋平が一番うまいと思っているので。得点の確率が上がるんだったら、洋平が蹴ったほうが良いと思うし。
とりあえず今は、フリーキックになったら走っていきます、すぐ。場所にもよるし、キックの感覚は毎日毎日違うので、『今日はボールがフィットしてるな』って、試合の中でフィーリングが良い時は、『蹴らせてもらって良いですか?』って聞きます。そうすると、征也さん(藤田)だったり、亮太さん(永木)が譲ってくれる。フリーキックは、本当に自信がある選手が蹴るっていう感じです」
湘南スタイルを語るとき、攻撃についての印象から話が始まったことが“らしさ”かもしれない。小学生時代はトップ下のポジションで攻撃を得意としてきた。そこから徐々に後ろのポジションに下がっていったという。
「センターバックはセンターバックでおもしろいポジション。J2ですけど、代表を経験した選手だったり、自分がテレビで見ていた選手がいるし、そういう選手とマッチアップしてきましたけど、『この人を止めたら自分は成長したんじゃないか』『代表になれるんじゃないか』という気持ちになれる。相手のエースをしっかり自分が抑えて得点させなかったら、チームの勝率は確実に上がると思うので、そういう部分はしっかり意識してますし、楽しんでます。よく、フォワードは10分の1決めればOKだけど、ディフェンスは10分の1決められたらダメ、そういう部分ではリスク管理も楽しみながらやっています」
今季は特に複数得点の試合が多いこともあって、得点力、攻撃力に注目が集まるが、12試合を完封している。攻撃に比重を置く中でも、相手の攻撃に対しては細心の注意が払われている。
「曺さんは『リスクを冒せ』と言いますけど、それは後ろのリスク管理があってのこと。そういう部分では、自分はしっかり真ん中にいますし、声かけして次にカウンターが来そうな部分をしっかり穴埋めして、なるべく失点しないようにしなくちゃいけないと思ってます」
アグレッシブな守備と守備ラインのリスクマネジメントがあってこその攻撃であり、湘南スタイルだ。
試合に出てこそのサッカー選手
もっと強く、もっとうまく
大学卒業後にFC東京に加入し、今シーズンでプロ生活3年目を迎えた。
「サッカー選手である以上、やっぱり試合に出てなんぼだから。大卒と高卒、両方とも同じ3年目かもしれないですけど、サッカー選手の寿命は短いもので、僕も25歳だし、そう考えるとやっぱりちょっとでも試合に出て活躍したいなと思うようになって。
今、ワールドカップをやってますけど、世界を見たら年下の選手が、20歳だったり、ましてや10代の選手が頑張ってやってるし、全然もっとやらなきゃいけない。かといって自分より年上の人が成長しないわけじゃなくて、さらに成長してると思ってるので、僕もまだまだ上手くなれると思ってやってます」
FC東京では出場機会になかなか恵まれなかった。ルーキーイヤーにリーグ戦3試合、ナビスコカップ2試合、天皇杯1試合に出場したが、昨年はリーグ戦は出場なし、ナビスコカップ1試合、天皇杯3試合という記録に留まった。
「1年目に関しては、どこかでやっぱり『試合に出られるだろう』って思いがあって、練習は普通に試合に出ている選手と同じメニューをこなすだけだったのかなと思いますし、2年目に関してはしっかり努力したつもりだったけど、それでは足りなかった。試合に出る選手は監督が決めることですし、やっぱり監督の信頼を得ないと試合には出られない。努力したけど、まだまだ努力しなければいけなかったんだ、そう思いました」
Jリーガーの平均引退年齢は26歳と言われる。高卒、大卒あわせて毎年100人以上のJリーガーが誕生するが、3年を境に道は分かれていく。20代後半、あるいは30歳を超えてサッカー選手を続けられるのは本当の実力を身に着けた一握りの選手だ。そのことを意識している丸山選手は、3年目を迎えるにあたって環境を変えることを選択した。
「本当に覚悟を決めて。FC東京に戻るためにここに来たわけじゃない。期限付き移籍は、即結果が求められるし、自分が入ることが湘南にとってメリットにならないといけないとは思いますけど、やっぱり自分がうまくならなければいけない。その上で3年目でしっかり結果を残さなくちゃいけないという思いがある」
移籍先を選ぶにあたっては、J1クラブからのオファーもあったが、結局FC東京での立場と変わらないであろうと考え、J2のクラブを優先して、その中からベルマーレを選んだ。
「FC東京に残っても良かったかなと思いましたけど、それはそれで同じ空気の中でダラダラ過ごしちゃう自分の弱さがあるかもしれない。だけど、J2だから、湘南だから出られると思ったわけじゃなく、J2で自分がどこまでやれるか試したいと思っていました。そういう覚悟をしっかり持ってきた結果が今、試合に出られている理由であるかもしれないと思う。でも試合に出てるから満足しているわけじゃなくて、もっともっとうまくなりたいと思ってますし、もっともっと強くなりたい」
ベルマーレへの移籍によって周りにいる選手たちの年齢層も変わり、そういった面でも新鮮な体験をしている。
「湘南は若い選手ばっかりで、自分もFC東京だとまだまだ若手だったのにいきなり中堅の立場になって、責任感を持たなきゃいけないなという気持ちになりました。年下の選手からあいさつされたり、アドバイスを求めてきたり、というのが僕にとって新鮮で」
25歳は、頼られる立場だった。求められるアドバイスは、もちろんサッカーのこと。
「簡単なことだけど、『どこにパスを出した方が良いですか?』だったり、『どうやったらボールを取れますか?』だったり、単純なポジショニングの確認とかが多い。でもこうやってみんながコミュニケーションを取ってきてくれたので、それで早く馴染めたのかなと。馴染みやすさは周りの人たちのおかげかなと思ってます」
いろいろな意味で自分が今いる位置を再確認している。
「湘南に来て、本当に良かった。若手からいきなり中堅の立ち場に立って責任感を持たなきゃいけないっていう気持ちにもなれたし、何より、試合に出ている以上はチームのために責任感を持たなければいけないというのは、ここ2年間では学べなかったこと。自分にとって、サッカー人生にとってプラスになっています」
観ている人に楽しんでもらいたい
自分ももっと楽しみたい
現在20試合を消化して19勝1敗、勝ち点57得点48失点9得失点差+39で首位を走る。
「Jリーグであまり試合に出てなかったので基準みたいのがよくわからなくて。どれだけ勝てば『優勝できる』だったり、『昇格できる』だったり。
19勝1敗というのはすごい記録なんだろうなと思いますけど、それに流されることなく選手たちは1試合1試合、先のことは考えず目の前の1試合に対して練習に取り組んでいる。それはバックアップメンバーとなる選手もそうだし、そういう部分が良い。まじめさっていうのが湘南の売りだと思う。雰囲気がちょっと緩かったりすると、曺さんから注意を促すような声かけがあって、しっかりチームがまとまっている。チーム全員の練習や試合に取り組むまじめさと、曺さんのチームをまとめる声かけが今の勝ち点や順位に繋がっていると思う」
リーグ戦も折り返しを迎えるほどシーズンも深まってきた。開幕当初は勢いに乗った勝利もあったが、試合を重ねるにつれ、相手チームから研究され、1点を争う難しいゲームも増えている。
「湘南だけじゃなく、世界をみればドイツだってスペインだって強いと思いますけど、研究されても自分たちの攻撃スタイルっていうのは変わらないですし、自分たちのスタイルを90分間貫けるっていうのが強いチームだと思います。かつ、研究されてきたらやっぱり最後の決定力っていう部分が重要になるとは思います。最近は複数得点っていうのがなかなかなくて苦しんだりしてましたけど、1対0でも勝ちきる強さというのが、強いチームには必要だと思います。14連勝は、愛媛戦で、15試合目で負けちゃいましたけど、そこから連敗しないチームが強いと思った結果、今また連勝している。一人ひとりが一喜一憂しないで目の前の試合に対してまじめに取り組んでいるというプロセスが今の結果に繋がっていると思うし、研究されてもそういうチームは勝っていくのかなと思います」
現在まで全試合フル出場。こうしてリーグ戦に出場し続けるシーズンは、プロになって初めてのことだ。
「生活のリズム、1週間をどんな感じで過ごすかっていうのは自分の中で決まってます。その中で、公式戦は本当に真剣勝負だし、観に来る人もお金を払っているので、お金を払ってくれた人たちに対して、負けたとしても『楽しかったね』『良い試合だったね』と言ってもらえるようなサッカーを目指さなきゃいけない。それに、やってる自分たち、みんなそうだと思いますけど、僕はここ2年間全然試合に出られなかったので、しっかり楽しもうという気持ちでいつもやってます。その中で真剣勝負がある。楽しさと真剣さっていうのをうまく両立させたいと思ってます」
今シーズン、掲げた目標は“全試合出場”だという。
「今まで怪我なく出場してきて自分の足りない部分だったり、やれてる部分というのが毎試合毎試合見つかってますけど、今全試合出ているからすごいということではない。監督やスタッフの信頼をしっかり勝ち得るというのは重要だと思いますけど、年間を通してフル出場しないと、自分の中で満足することはない。試合に出たからうまくなったというのは、…自分では全然思ってなくて。42試合終わった段階で、客観的に他の人から『うまくなったね』『強くなったね』と言われたら、そうかと思えるかもしれないですけど、まだまだ発展途上で、まだまだ成長しないといけないので」
曺監督は、ディフェンスの選手にもゴールとアシストの目標を持たせている。
「5ゴール3アシストが今年の目標。ディフェンスだったら、やっぱりコーナーキックからヘディングで決めたい。チームのストロングにもなるし、自分のストロングポイントにもひとつ加えられると思うので。今はまだ、結果がついてきてないですけど、このあと20何試合の間にはヘディングで決めたいです」
自分の成長がチームの成長に繋がる、それを知っているからこその向上心だ。
ロシア開催のワールドカップ出場は目標のひとつ
カウントダウンは始まっている
現在、4年に一度行われるサッカーの最高峰の大会、FIFAワールドカップがブラジルで開催されている。テレビを通して観ているだけでも、サッカーが世界共通語であることを改めて教えてくれる大会だ。
「2カ月前くらいかな、曺さんが『4年後のワールドカップにこの湘南の選手が何人入るか、しっかり目指さなきゃいけない』っていう話をしました。自分も真剣に受けとめましたし、だからこそ、録画しながら全部の試合を観ています。ちょっとでもプレーやアイデアを盗むために。
4年後のロシアで行われるワールドカップに向けて、自分が代表選手になるためのカウントダウンは始まっていると思うし、J2とかJ1とかじゃなく、Jリーグの選手で終わりたくない。今25歳だから、次のワールドカップが最後のチャンスだろうと思うし」
曺監督は選手たちに、年齢や今いるリーグのカテゴリーを問わず、代表を目指すことを当たり前のように説いている。例えば、第18節カマタマーレ讃岐戦の試合を総括した中にあった、『今、ワールドカップをやっていて、サッカーに世間の目が向くだろう時間のなかで、そこにいない悔しさがまず選手としてなければいけない、それは僕も含めてかもしれません』という言葉は、そのひとつの表れだろう。高みを目指すことに、今いる位置は関係ない。
「日本代表の選手がワールドカップを戦ってフィジカルの部分もそうですし、戦術的な部分も技術的な部分も劣っていたと思う。その代表の候補にすらかすってない自分って考えたらすべてが課題。
4年後を目標に、筋トレだったり練習だったりをしっかり取り組むという状態。強さも、俊敏性や、ましてや攻撃…足元の技術っていうのはもうなかなか伸ばせるものじゃないと思いますけど、ボールを置く位置だったりっていうのは、意識で変えられると思うので、すべてを伸ばさないと。それに、今は19勝1敗できてますけど、もしかしたら何連敗かしちゃうときもあるかもしれないですし、そういうときに自分がこう、精神的な支柱だったり、チームの軸になる選手にならなくちゃいけないと常日頃から思ってます」
プレーは瞬間瞬間でも、そのプレーの一つひとつに意図を込めることがサッカーだ。どこにボールを置くのが最善なのか、ボールの受け手のどちらの足にパスを送るのか、速さは、強さは…丸山選手は、一つひとつを意識することによって向上させようとしている。ワールドカップの試合は、そんな向上心を多いに刺激する。試合を観るとき、攻守どちらが気になるかというと
「両方です。攻撃だったら崩し方。でもやっぱりディフェンスのボールの置き方だったり、パスを出すタイミングだったり、相手が来ているときの首の振り方だったり、ポジショニングだったり。全部言っちゃった(笑)。
攻撃だったらビルドアップの部分だけど、守備の気持ちからしたら、この間合いだったら世界だとやられちゃうのかとか。実際に体験しないわからないことも多いと思うけど、目線がボールの方に行っただけでスッと離れられてドンとゴールを決められるとかあるし。得点シーンは、『良いシュートだったな』と思いつつも、ディフェンスの立場で『そのポジショニングで良かったのかな?』『あともう1mこっちに寄っておけば防げたんじゃないかな?』とか。しっかり選手名鑑も買って、いろいろ勉強させてもらってます」
FC東京時代に共に切磋琢磨した森重真人選手は、身近な目標であり、憧れでもあった。常に前を歩き続ける森重真人選手が代表に選出されたことも気持ちをかき立てる。
「とりあえず、森重さんレベルを超えないといけない。森重さんの人の良さやピッチ内外での努力もわかっているから、それ以上の努力をしないといけない。
まぁ、俺は意識してますけど、向こうは意識はしないと思うんで。でも、いつかやってやろうっていう気持ちなんですけど」
その“いつか”を4年後に必ず実現するために。今は、シーズンの目標である全試合出場をかなえるために全力で走る。
取材・文 小西尚美
協力 森朝美、藤井聡行