ボイス
【ボイス:2016年3月11日】曺貴裁監督
選手の意識は高く、気持ちの面で準備はできていても、湘南スタイルをプレーで表現するために今できることの差は個々にある。
「時間は必要ですね、去年も一昨年もそうだったけれど。選手って徐々に伸びるというより、いろんなものを繰り返しているとあるところでガンって伸びるから。そのガンって伸びるポイントを選手がどこで掴むか。公式戦を繰り返しながらの練習の中なのか、試合の中なのか、それは選手個々のタイミングがあるから。みんなが今すぐできて完成していたらそれこそおかしいですし。だけど完成に近づく努力は惜しんじゃいけないと思っています」
チームに湘南スタイルの土台が浸透してきたように、リーグの中にも湘南スタイルは浸透しつつある。その成果として新しく加入した選手たちは、ベルマーレというチームと湘南スタイルを理解し、その中で自分がいかに成長するかを心に描きながらこのチームを選択している。湘南スタイルを体現するうえでやるべきことをやる覚悟をもっている。
「俺の中では、新加入選手も今までいた選手とほぼ同じです。もう土台がある程度ある選手たちだと思っているし、その土台を変えるために呼んだわけじゃないですし。チームが勝つために必要だから声をかけて来てもらっただけ。だから、『俺、新加入なんでわかんないです』という選手は、ゲームになれば『with youの精神』が欠落して周りに迷惑をかけると思う。そういう選手はもちろん、そういうことを学んでいかなきゃいけないけれど、そういう選手はいないので。彼らには、ベルマーレに慣れようというより、自分の特徴を出しながらベルマーレの色を作っていくというふうにしてくれという話をずっとしています」
こうしたチームを率いてキャプテンを務めるのは高山薫選手。選んだ理由は、前任の永木亮太選手(鹿島アントラーズ)がキャプテンとなった時に問われた答えと変わらない。曺監督が考えるのは選手が成長するために何ができるか、ということ。
「要は責任を負うべきタイミングだから薫にやらせているだけ。薫にリーダーシップがあるとかないとか、声を出すとか出さないとか、そんなことはどうでもいいんです。副キャプテンをやるのも三竿(雄斗)と大介(菊池)と俊介(菊地)のタイミングだからやらせている。アンバサダーをやる征也(藤田)がそれを伝えなきゃいけないタイミングだから役職を作ってやらせているだけで。
『俺は、今年、お前自身のために、もしくはチームが成長するためにお前にキャプテンを引き受けさせたいと思っているけれど、どうだ?』と言って、『やります』と答えた。キャプテンは、チームの調子が悪かったり、負けたりるすると非難されることもある。でもそれは、薫のせいじゃないんですよ、俺がやらせたんだから。だから薫はそんなことは気にしないで自然体でやってくれればいい。俊や大介や三竿や征也も同じです。彼らが嫌だという権利はあったかもしれないけれど、こちらが指名していることをむげには断れない。引き受けた理由はもしかしたらそういうネガティブなものかもしれないし、ポジティブなものかもしれない。ただキャプテンという役割を背負うことが薫の成長に繋がるなと、俺は100%思っている。だからやらせているだけ」
チームが始動した当初の高山選手の様子を曺監督は「キャプテンとしての自分に緊張している。でもそれを経験してシーズンに入って欲しい」と語っていた。キャプテンという役割がどう人を成長させるかは、ベルマーレを見続けている誰もが毎年その目で確認してきたこと。高山選手の今後の変化も楽しみだ。
藤田征也選手が指名されたアンバサダーは、今シーズン初めて登場した役割。「伝えなきゃいけないタイミング」というその理由が気になる。
「征也は年齢的に中堅よりは上という時期を迎えるし、このチームでも3年目だし、若手とベテランの間に入ってうまくチームの調整をする役割を受け持つ時期。名前はなんだっていいんだけど、アンバサダーというのは、要はチームコンセプトを伝える大使。チームスピリットを周りに伝えていきなさいということ。それと同時に、征也自身のことも言っていけよということです」
藤田征也選手は、コンサドーレ札幌のアカデミー出身。中学生の頃から将来を嘱望され、2007年にカナダで開催された「FIFA U-20ワールドカップ」に出場した経験を持つ。この時のチームメイトには、浦和レッズの柏木陽介選手や槙野智章選手をはじめ、内田篤人選手(シャルケ04)や太田宏介選手(フィテッセ)など、海外で活躍する選手もいる。
「若いときに一番上に立って、その後、あいつが努力をしてなかったわけじゃないけれど、試合に出られない時期や怪我とかでなかなか芽が出ない経験をして、うちに来た。でも今彼は、自分の若い時をちょっと後悔していると思うんです。もっとやっときゃ良かったな、と。そういうのを彼の言葉で周りに伝えて欲しいと思ってやらせているところはある。で、今からでも変われるんだよ、ということを彼が示して欲しい。
小さい頃から見ている洋平(大竹)や直輝(山田)もそうだし、仁(端戸)とか。彼らはいつもチームの中でも日本の中でも一番だった。でもプロになって試合に出られないとか怪我をしたとか悔しい思いをしている。そこでどんなふうに変わってこれからどうしていくのか、その背中を見せることが世の中の人に対する一番のモデルだと思うんです。努力をしなくてもエリートでいられる人が話す言葉より、頑張って再び輝いた選手の方が100倍勇気がわく。そういう人になって欲しいと僕は思っている」
日本のサッカー選手の頂点であるJ1リーグ。そこでプレーができるのは、Jリーガーになったほんの一握りの選手たち。とはいえ、頂点に登りつめてもそこでの活躍が約束されたわけではない。例えば、チームのスタイルと選手のプレースタイルとの相性や予期せぬ怪我など、本人の努力だけではどうにもならないこともある。そういう経験を越えて輝くことで、伝えられるものがあると曺監督は考えている。
今シーズンが終わる頃、それぞれに託された役割がどんな成果をもたらすのか、5人の選手の成長もまたチームを応援する醍醐味の一つとして楽しみにしたい。