ボイス
【ボイス:2020年10月30日】石原直樹選手
ベルマーレの力に
「広島に行って1年くらいは悩んだというか。それまでは自分の身体能力だったり、感覚的なところで勝負していたんです。広島では練習中にタッチ制限を加えたりするんですけど、そうすると自分の良さを出せなくなって、ミスも増えた。技術プラス頭の回転を求められたら、周りの選手はできるのに、自分だけができないという、プロになったとき以来の壁にぶち当たりました」
石原選手がサンフレッチェ広島に在籍していたのは2012〜2014シーズンの3年間。強豪チームの礎を築いたペトロヴィッチ監督から現日本代表監督の森保一監督に指揮権が移り、チャンピオンチームとして歩みはじめた頃だった。そんなチームにあって石原選手は、これまで経験したことがないレベルの高い要求を含んだ練習に戸惑った。
「それまではミスをしても目立つことはなかったんですけど、みんながミスをしないと、ミスをする人って目立つんですよ。同じ条件でやって周りの選手はミスをしない。それで『なんでだろう?』と常に考えるようになった。それからは、うまい人を見たり、同じポジションの人を見たりして参考にしました」
そうした経験を経て石原選手が導き出したミスを防ぐ答えの一つは、選択肢を多く持つということ。
「技術はもちろんなんですけど、選択肢を持つことで余裕が生まれる。『この答え以外に、こういう答えもあるよ』『この答えもあるよ』って」
プレーの選択肢を増やすには、技術があるのは前提条件。加えて経験がものをいう。経験値が足りない若手であれば、考えることが大切だ。石原選手は、チームを移ることでいろいろな監督の元で経験を積み、足りないものを考えては補い、選択肢を増やした。こうした過程を経ることで得た知識と経験は、その後のチームでも活きたうえに、新たな積み上げにも役立った。結果として、昨年まで過ごした仙台での3年間も、積み上げたものがあったがゆえに大きな糧とすることができた。
石原選手が仙台で過ごした3年間は、渡邉晋前監督が指揮を執った後半の時期。3バックが採用され、新しいスタイルに取り組んだ。
「『こうやっていくんだ』というのが明確だったし、広島とか浦和でやってきた経験が活かせるなと思いました。でも、チームとしては新しいことにチャレンジしたのでやっぱり始めの頃は大変で。経験がある選手が多ければ多いほどスムーズなんですけど、3バックについて知っているメンバーが少なかったので、チームが同じ方向を向くのに時間がかかったと思います」
なかなか同じ方向を向けないチームのなかで理解を促す役割を果たしたのが石原選手。経験から得た知識を伝えた。その結果、メディアやサポーターに「先生」と呼ばれることになった。
「そうですね、活躍できたかはわからないですけど、自分のため、チームのために力を出しました」
こうした経験を通して石原選手が今、感じていることがある。
「ベルマーレがJ1にいることには感慨深い思いがあるけど、クラブとしてはJ1の歴史が浅いと思うし、実際にチームに入ってみると若さだったり、J1を知っている選手が少ないことを感じます。僕が年齢が上の方ということもあるからよけいに若い選手の存在を感じるというのもあるとは思いますけど」
確かに、J1復帰は果たしたが永住権の獲得には至っていない。また、降格しても1年で復帰するしぶとさは身につけたが、それをJ1のステージで活かしているとは言い難い。長くJ1に留まるチームを見れば、若い選手でも強かにプレーする選手が数多く在籍している。それは、チームで積み重ねられた経験を所属する選手が受け取り、糧とし、またチームの力として還元した結果、生まれたもの。長くそのステージに留まってこそ得られる力と言えそうだ。
「強いチームは、時間の使い方だったり、プレーの一つひとつ、すべてにおいて考えられているなっていうのはすごく感じます。ファウルひとつ、ゴールキック、スローインにしても強いチームはずる賢いというか。勝つためにやっているなというのは感じます。例えば鹿島アントラーズは伝統といったらそれまでですけど、スタッフなのか選手なのか、練習から軽いプレーをしたときにはしっかりいう人がいると思います。ベルマーレは、やっぱりその辺りは若いかなって思います」
選手の年齢的な若さと、クラブとしてのJ1での積み上げの浅さが選手のプレーに表れていると指摘する。
「どれだけ考えているのかなとは思いますね。ミスをしたとき、これはチャレンジしたミスなのか、逃げてミスったのかっていうのを。ミス一つでも違うと思うんですよね、僕は。もしかしたらまだ、自分が選択したプレーが良かったのか、悪かったのか、その判断ができていないのかなというふうにも思います。間違いではないけど、もっと良い選択肢があることが多いから」
実際に気づいたときには、より良い選択肢まで伝えるようにしている。ベルマーレで積み重ねる日々のなかで自分自身の体験を振り返る。
「広島で優勝したときは、言葉として発しなくてもみんなが同じ絵を描けていたので。やっぱりそういうチームは強いなと思いますね」
ベルマーレでは、同じ絵を描けていることを感じられる機会はまだ少ない。
「やっぱり練習で積み重ねるしかないし、今は質より量なのかなと思います。ミスが多い分、たくさん練習をするとか。
例えば今、カウンターだったり遅攻だったりをやっていますけど、やっぱりカウンターだったら全部前に行っちゃうし、逆に遅くっていったら全部遅攻になっちゃうし。遅攻のなかでもカウンターする場面はあるし、逆にカウンターから遅攻になる場面もある。特に若い選手は、裏に走れって言ったらボールが出ないタイミングでも走るのかってなってくる。パスが出せないのに裏に走るのは、もちろんそれは違うので」
経験に差があり、見えているものが多い分、歯痒い思いも深い。
「僕はいろんな指導者の方に巡り会ったり、いろんなサッカーを見てきたり、対戦してきたので、経験値は上がっていると思うんですけど、だから経験したことがない選手に教える難しさはわかります」
それでも9月以降は、勝点を拾う試合も増え、徐々に手応えも感じている。
「チームとしては、ちょっと整理されてきてるかなとは思います。難しいけど、上位にいるチームはみんながそれをできていると思うし、敏さん(浮嶋監督)はいろいろ変化を加えていこうとしているのかなと思います」
本当の強さを身につけるためには、まだ道半ばというところ。ピッチ内外で石原選手に託される期待の大きさがわかる。